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レッド・クイーンズ ~天織灯のあくまな怪盗生活~  作者: 麻莉
2章 6月 涙の暴雨、天舞う朱は侵界を祓う
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58話 明無心掴手 XXII 相生灯緑

 緑川さんが着ているのはメカメカしい姿で、素の拳と言ってもちゃんと保護されている。半転必義(ディスチャージ)の影響で人間の拳では実現出来ないような殴りが確認できる音が出ていた。当然、パンチの威力が上がっており武者型にダメージが与えられている。


「グハァ」


 横腹に蹴りを入れられた緑川さんが近くの車に直撃した。

 同時に武者型は私の背後へ移動する。背後から刀で襲われる。咄嗟に転がるように横へ移動した私はクイーンズブラスターに【太義の蛮輪】(ブロ・ウォーガー)を取り付けた。


 【義心の大剣】(ヘルズ・ギドリ)を両手で持ち武者型の横を攻める。

 後少しで当たるはずだったが流石に上手く行かず武者型は集めた雲が集結し雨のカーテンが出来上がる。それでも迷わず突き刺したが手応えがなかった。【義心の大剣】(ヘルズ・ギドリ)を地面に刺し、盾がわりにして【捕食者の影爪】(シャク・ロドエ)に切り替え構える。

 雨のカーテンは消え、武者型もその場からいなくなる。


 気配を探るが雨の音で気が散る。私が奴ならどうする……

(......しまった)


 方向を変え、軽く地面を蹴る。【義心の大剣】(ヘルズ・ギドリ)を緑川さんに対して投擲した。

 車にぶつかったことで怯んでいる緑川さんに躊躇なく大剣を投げたのだ。側から見たら裏切りではないのかと考える者もいるかもしれないが、これで正解だ。


 空から水滴を辿って緑川さんの頭上に現れた武者型はそのまま刀を下ろした。

 【義心の大剣】(ヘルズ・ギドリ)の剣身の面部分と刀が触れ合い金属音が響き合う。


 威力がなくなった【義心の大剣】(ヘルズ・ギドリ)はその場に落ちる。

 再び刀を振り下ろす武者型。【捕食者の影爪】(シャク・ロドエ)で刀の刀身をがっしり掴む。一瞬、私を睨み付けたがそんなのお構いなし。自身の腕を使い掴んでいる刀を活用して思いっきしぶん回した。今度は武者型がトラックのコンテナに激突した。コンテナの中心がクレーターのように大きな穴が出来上がった。後ろの建物に当たってないことから貫通はしていない。


 程なくしてコンテナから出てきた武者型。

「ここまでやるとは驚きだが……」


 そう言ったのも束の間、【捕食者の影爪】(シャク・ロドエ)が私の元から離れた。

 綺麗に真っ二つ、切断面がくっきり見えた。


「これでまず1つ……お前の攻撃を減らした。次はどうする?」



「大丈夫ですか?」

 私は緑川さんの安否を確認した。


「あぁ、問題ない。さっきは助かったよ」


「お礼は後でいいです。あいつが来ます」


「あの瞬間移動はなんだ?」


「あれは……簡単に言えば武者型が作り出した雨を使って移動してるんです。水滴の中に入って水から水へ」


「確認方法あるか……」


「今のこの天気では判断がつきません。例え、雨が降ってなくてもアイツの能力で自分の周囲は確定でセルフ雨を降らせます」


「それだけ聞くと君が成分を早めに取れていない理由が分かったよ」


「実は成分を拭くことはできたんですが人間に戻らず、採取した成分も無になりました。今の武者型はこの雨に支配されています。この雨を晴らさないと成分は取れません」


「晴らすって、どうするんだよ。これ」


「来ます!!」



 私達は後ろへジャンプし横からの刀の攻撃を回避。

 武者型は緑川さんが寝ていた車を踏み台にし前へ跳んだ。私達に近づく。

 刀を水平に構え私達の胴体を斬らんと体勢を取っていく。すぐさま私は【鉄藍の刀】(アイルタ)を身体が斬られないために身代わりに使う。緑川さんは自身の左腕にある盾で防ごうとしている。刀身が雨で落ちてくる細い線となっている水を斬りながら私達を吹っ飛ばした。

 私の【鉄藍の刀】(アイルタ)が天へ行く。道路を転がりながら【濃藍の矛】(トライブ)のトリガーを引き、【鉄藍の刀】(アイルタ)と合体して薙刀にしたかったが武者型が殺気を放ちながら迫り合体不可になる。【濃藍の矛】(トライブ)を柄部分を前に出していたため武者型の攻撃を刃で防ぐ行動が出来ずにいた。今までのソドールとの戦闘なら多少傷付けられていても問題なく戦闘を続けれる。しかしこいつの刀に当たれば体内にある水分が失われる。ソドール自身が標的の無くす水分量を決めれるため、これまで私は戦闘が終わっても普通に生活ができた。これまでは、だ。今日は武者型は完全に私を殺す勢いをしまいている。間違えなく刀が一回肌にうっすら擦り傷を貰っただけで致死量の水分を失う。今回は完全回避必須戦闘になる。


 当たらないたようにするために逆手で持っている【濃藍の矛】(トライブ)を武者型の顔へゆっくり投げた。早く投げた場合避けるだけになってしまう。ゆっくり投擲すれば敵の目は自然と投げられた物に目が行く。武者型も例外なく投げられた【濃藍の矛】(トライブ)を見ていた。一瞬の隙が出来、クイーンズブラスターに【ボム】を装填し、起動で私の周りに衛星見たく飛んでいる手のひらサイズの爆弾を1つ握り、懐に到着し胴体に貼り付け完了にし武者型の足を持ち手に使い地面を滑る。追加で足にも爆弾を貼り二箇所一気に爆破した。


 胴体は反り、左足は斜めに上がりバランスが取れず倒れる前に刀を振りながら大の字で倒れる武者型。

 私は肩で息をし現状を確認した。クイーンズブラスターは今、【太義の蛮輪】(ブロ・ウォーガー)でライフルモードになっていた。過去形になるのは銃口部分が切り落とされ使い物にならなくなったからだ。【太義の蛮輪】(ブロ・ウォーガー)と外し【レッド】のスライドキーを挿し普段の私の怪盗服になる。【レッド】フォームになったことで突き刺さっている【義心の大剣】(ヘルズ・ギドリ)も消え、各方向にある2人の武器も煙みたく消滅していく。


(大分、武器が無くなってしまった……どうしよう)


 私は不意に意識が擦れていく。数秒後、重くなった目をうっすら開ければ近くの信号機にもたれ掛かっていたのが微かに分かる。




(……な、何が……あ、あったの)





 一瞬の出来事で頭の処理が追いつかないでいた。徐々に自分の置かれている状況が分かってくる。頭から血が流れ左目が赤で染まる。右手は動くが左手は辛うじて動くが戦闘では使い物にならない。出来てもクイーンズブラスターを持つだけ。前に出し敵に向かって銃弾を撃つことができない。肩が上がらない。右足は血で染まっており服にも染み込んでいた。足元には7つのマガジンがあらゆる方向に散らばっていた。今他の悪魔がきてマガジンを持って行っても追いつけない。



「人間って儚いものね」


 前から重い足が近づく。刀の先端から滴る赤い水が落ちていた。その血はおそらく私の血。



「能力を使えば貴方の絶命させることも可能だった。だけでその前に一つ貴方に聞きたいことがあった。だから能力を解除し貴方の動きを封じたわ」





「妹に私の正体教えたのよね」


 口を開き発したいが動けずにした。私の襟元を掴み上げられた。両手で武者型の手を剥がしたかったが右手しかまともに使えない。

「その状態じゃまともに口も開けないか。正体が知られたのなら私は2度と月音ゆみに会えないわね。別に天織さんを憎んでいないわ。月音ゆみはああ見えて感が良いから、私に何かあるって感じていたと思う。長話しちゃったわね。どこかで倒れている変な奴も後で地獄に送ってあげるわ。さっき掠り程度だけど奪ったから動けずにいるはずだから」


 刀を振り上げ私を斬りに掛かる。

(ここまで……いや、まだよ)


 残りの力で右手を拳に変え武者型の顔を殴り続ける。無駄な抵抗だって分かっていてもやらずにはいられない。声が枯れても、身が引き裂かれても、ここで諦めて何もせず死ぬよりかは最後まで抵抗する。

 襟元にあった武者型の左腕が私の右腕を掴み折った。



 鈍い音が身体を伝わり声が出せずにいた。あまりの激痛に耐えることが出来ず気を失いかけていた。刀が斜めに振り下ろされる。


(死ぬんだね……さよ......)





 武者型が脇腹を蹴られ転がっていく。手が離れ私は背中から落ちる。しかし地面に当たる前に誰かに抱え込まれ直撃は免れた。私の顔に影ができ雨が無くなる。微かな目で影の正体を見るとそこには……


「ごめんなさい、遅くなって」


 クロだった。悲しい顔をして私の頬を触れながら遅れたことに謝る。


「こんなになるまで……戦ってくれてありがとう」


 私をゆっくり地面に横向き下ろした。顔の前に翠の陰包徳(リ・エミナァーデ)を置き、立つクロ。

「私がアイツをやるから、灯はミドリに会って……今ならミドリとちゃんと話せるから」



 走り出すクロの武器と武者型の刀がふれ合い甲高い音が雨を切り裂いていた。

 怒りが漏れるクロ。



「人の女に何、やってくれるのかしらね」






 2人が戦っている間、翠の陰包徳(リ・エミナァーデ)に触れようとする私。両手が使えないので顔で触れることにした。

 等々、意識がなくなった私。雨が叩きつけらるがその感触もなくなり、ミドリの精神世界に侵入していく。




 気づけば私の身体はどこにも怪我がない状態で立っていた。

 当然だが、怪我をしているのは私の身体。精神の今の私には怪我が1つもない。

 歩き進めると正座しているミドリと……


「青奈ちゃん、こうちゃん……」

 ミドリの近くにいた私の大事な2人に飛び込む。急に私が飛び込んだもんだから特に準備していない2人が慌てており、それでも私を上手に捕まえてくれた。

 勢い良く跳んだことで段々、2人のバランスが崩れ、倒れ込む。


「いきなり、何するんだ……灯。重いから」


「ちょっと、灯ちゃんは重くないわ。ぐぷっ」


「おい、青奈。腹から何も出すなよ」


「ここは精神の中。実際には出さないわ……」



「やっと会えた。寂しかった!」


 私の髪を撫でる青奈ちゃんとこうちゃん。

「遅くなってごめんね。灯ちゃん」


「こっちは早く終わったんだけど、外の移動手段がなかったらしくて遅れた。ごめん」


「良いよ。またこうして2人に会えたから私は嬉しい!!」


「あの……」


「仕方なく近くにいた警察の緑川さんと一緒に戦闘したの」


「あの……」


「アイツらいるのか!?!?」


「私しが行くわ!!」


「他の人はいなかったから大丈夫。こっちの情報を理解してくれて私のサポートに徹してくれたんだけど、私と同様に倒れて行動不動になったんだ」


「ええ加減にあたしの話を聞きなさい!!!!!」


 3人の世界にいたのですっかり忘れていたのを気づき起き上がる面々。


「えっと……今朝ぶりだね。ミドリ」


「じゃあ、あとは灯に任せて僕らは身体に戻りますか」


「そうね。ここだとミドリに迷惑かかるしね。ちょっと子どもの教育するにはここを破壊しちゃうし」


「ほほ〜ん。誰の教育をするのかね、痴女さん?」


「子ども=黄華と頭がよぎった貴方が悪いわよ」


「て、テメェ!」


「2人とも今、戻るのは止した方が良いよ。身体中、激痛状態になっているから」


「「……はぁ」」


 同タイミングで発した一言が余りにも怒りが混じっており私とミドリは恐怖を覚えた。

「僕らがいないことを良いことにあの野郎は灯を痛みつけたんだな」


「殺すわよ、黄華」


「僕がやるからお前は内で指示な」


「却下。私しがやるわ。生きてきたことを後悔させるわ」


 2人は武者型に対して恨みを込めながらミドリの精神世界を出て行った。

(痛み……大丈夫かな?)


「あの2人はよっぽど貴方を大切にしとるのな。羨ましいわ」


 その言葉を聞いて私はため息をした。

「初めは、2人から避けられていたんです」


 私には当然、過去の記憶がない。空っぽの存在。どうして青奈ちゃんやこうちゃんが初めからいたのか分からない。クロの助けがあっても中々、上手く行かず一緒にいるのに疎外感を味わっていた。一人ぼっちだった。


「なら……貴方は何をしたのかしら」


「根気よく何度も会いに行き、そして、話しかけていった……それだけです。今じゃあ、あんな感じですけど……あれが正しかったのか分かりませんが私は満足しています」


「あたしには無理なことな。あたしが他人と関わるとどなたかが不幸になる。今までも……ほんでこれからも」


 私は半目で息を吐き、ミドリに近寄り抱き締めた。

「ちょ、ちょい!? いきなって何するのかしら」


「『無理』なんて言わないで……。無理なんて言葉使っちゃうのはよそう。自分を卑下すればそこで前に進むことを止めてしまう」


「だけど……」


 私はミドリの手を握り真正面からミドリを見つめた。


「無理という言葉を使う人はあらゆる行動や原因を追求した人がそれでも選択肢がなく追いつまれている人が使う言葉です。ミドリはまだやれる。今も自分を悔やんで塞いでいるより楽しいことしましょう——私と」


「出来ないよ。それにあたしは貴方の生き方を歪めた。そないな奴と貴方は一緒にいれる?」


「過去はもう変えれないけど未来は手に入ります。貴方が私達にしたことは、私は決して忘れません。でも、それでもミドリと一緒に居たいんです。だから、諦める前に最後に私と未来を見ませんか?」




「……未来を見る……」



「はい!! もし、私の未来が気に入らなかったらミドリのしたいことをやってください。私はミドリの前から消えます。自分に正直になっても良いんですよ」



 ミドリは頬を赤く染め、涙が溢れていた。顔をぐちゃぐちゃにして私を見る。


「見せてよ。貴方の……灯の未来をあたしに見せてください!!」


「後悔はさせません。未来永劫、私と過ごした時間が一番と言わせます!!」


 ミドリは私の手を離しその場で立つ。周りの崩壊した景色が無くなりミドリと初めて出会った茶室の中。お互い正座で対面した。


「お茶です」

 私の前にミドリが淹れてくれたお茶がある。陶器を持ちお茶を飲み干す。


「美味しい!!」


「……良かった。灯、あたしと契約してください」



「謹んでお受けします」


 私の前に宙に浮いている和紙が出現した。そこには私とミドリの契約内容が1文字ずつ浮かび上がってきた。


 ①この契約は他の6体の悪魔と全てのソドールを回収するまで

 ②その間、フィーネ(ミドリ)が天織灯の身体の悪魔因子を抑えながら効率よく使用できるように治癒・治療を行う。

 ③天織灯はフィーネ(ミドリ)に楽しい未来を見せる。

 ④対価は美味しい甘味!!!!!



「……対価がこれで良いの?」


「あたしはそこまで人体や骨董品に興味はないわ。美味しいもの食べて飲む。それがあたしの悪魔としての生き様かしら!!」


「分かった。これから、よろしくお願いします。ミドリ!!」

 朱とは木の中心に横線を1本引いた文字。木の切り口の中心が赤いのが語源とされている。

 分厚い木の皮が崩壊し、中にいたのはミドリが待ち焦がれた。自分を掴んでくれる手があった。ミドリの前には……いつの間にか赤い怪盗服を着ている灯がいる。


(これが……運命なんだな。貴方とならあたしは……)


 お互いがお互いの手を握り、決意の眼差しを向ける。



「では、早速、あたしが先輩より有能だということを証明しましょう!!」


「期待しているよ!!」



 ミドリは再び差し出された灯の手を取り、握る。

「貴方がどうゆう道を進むのか見せてもらいよ」


「後悔はさせません!! 行こう! ミドリ!!」







 あたしは後ろを見て半透明の人物を見た。もう会うことが出来ずあたしが治すことが出来なかった娘。

「行ってくるね……ミキ」


 巫女服を着た少女はただ笑顔でミドリを見送り、消えていった。

「いってらっしゃい。ミドリ!」


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