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レッド・クイーンズ ~天織灯のあくまな怪盗生活~  作者: 麻莉
2章 6月 涙の暴雨、天舞う朱は侵界を祓う
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56話 明無心掴手 XX 心に絡みついた哀しき鎖

「お願いします。私し達に協力してください」


 頭を下げて目の前にいるミドリに座礼した。ミドリは先程までの愉快な女性がきちんとした口調でお辞儀しているのに驚き、自然と口をハニワの様に開きながら唖然としていたが、暫くしてミドリは青奈に対して喋り出した。


「あたしを倒したいんではおまへんのどすか?」


 その言葉を聞いた私しはあまりにもおかしな事を言う悪魔だと少し笑い始める。

「おかしなこと言うのね。私しは一度も貴方を倒すなんて言ってないわ。ただ一言言いたいだけのためにここに来たのよ」


 どうやらミドリに勘違いさせられたらしい。実に不思議だ。『倒すなんて』一言も言った覚えがないんだけど、ただいい加減意地を張っている悪魔の目を覚まさせて上げないと感じたから行動に移した。うわぁ、今も凄い顔している? 

 私しは後ろの木製の柱を背をもたれ掛かっている筈の黄華を見ると、四つんばえになって頭がおかしいくなったのか畳を激しく叩いていた。


「あはははっははあ!!! そこの悪魔がそう思うの分かるよ、青奈。君がやった事を見て『倒す』以外の感情が出る方がおかしいよ。 これは傑作だ! 全部終わったら灯に教えよう! 頭がおかしくなりそう! あはははっははあ!!!」


 コイツの身体の至る所に風穴開けても私しは多方面から許されそう。取り敢えず1発と。


「危なっ! 何するんだ。もう少しで僕の眉間に銃弾が当たるところだったろう」


「ちっ。避けたか。運の良いやつ」


「この世界じゃお前は僕には勝てないぜ」


「何寝惚けてるのよ。どんな時でも勝つのは私し。永遠に貴方は最下位」


 私しと黄華はおでこをくっつけ、お互いに笑っていた。

 すぐさま、私し達の間にわって入って来たクロにより剥がされた。


「時間ないんだから、無駄なことしないでよ」


 呆れながらクロは腕時計に表示されているこの世界に滞在できる時間を教えてくれた。

 残り6分……


「そうね。無駄な事をしてる余裕はなさそうね。では、ミドリ。もう一度言います。私し達に協力してください」


 少しの間があり、漸く話すミドリ。


「どうして、そこまであたしに協力を仰ぎたいのかしら。先輩が一緒なら問題なく解決するはずよ。なのにあの人間……いや、灯もそうそやけども貴方達もあたしに執着しすぎよ。それにあたしなんて碌に力なんてへんただの役立たず。守りたい人も守れへん出来損ないの悪魔。……ちゃうわね、正式な天使でも悪魔でもない半端者。そないなあたしは貴方達の役不足よ」


 さっきまでどつきあいしていた青奈と黄華はしばしば顔を見合わせ、ミドリに対して怒るでもなくただ普通に……

「「貴方は馬鹿ですか」」


 その言葉はミドリを侮辱する訳でもましてや本当に馬鹿にしているものでもなかった。ただコイツ何知ってるんだって顔をしてそこから自然に出た言葉を漏らす。


「いつまで過去にこだわってるんだ?」


 黄華がそう言ったがミドリはその言葉にイラってきていた。

「貴方に何が分かるのよ!! 過去にこだわって何がいけへんのよ。過去の失敗からもう2度とやれへんって思って何がいけへんのよ」


「だからそれがお前が馬鹿な証拠だよ。あのな。僕らは昔、君達7体の悪魔が連れ去ったある学校の生徒と知り合いでな。彼らのその後どうなったか詳しく知ってる?」


 ミドリは自分が頭の奥に仕舞い込んだある出来事が記憶として蘇った。

 そうだ、10年前、あの赤に言われて人間界に来て早々に皆である31人の子どもを誘拐した。当時のあたしは何のやる気がなく自暴自棄になっとったから言われるまんま手助けをした。とある真っ白な研究所に子ども達を置いてから、各々散った。そやしその後あの子達がどうなったか知らなくあたしも次第に記憶から消しとった。ただ10年、好きな物に囲まれて過ごしとった。いつも間にか、身体がいうことが効かない人形になっとった。


「あの子達はどうなったんですか?」


 私しは手からマガジンを出現させミドリに渡した。

「これがあの子達の今よ。バカな科学者達によって人体実験させられた。化け物になって魂は人形に封じ込まれた。その人形は外で生きている人々に取り憑き、欲望のまま力を奮っている」


「……じゃあ、あの灯も」

 あたしの周りにいた3人はなんも話さなかった。


「そないなら、尚更あたしは敵なものよ。ほんまなら殺したいほど憎んでいるでしょう。なのに協力をお願いするん?」


「えっ! 皆、憎んでいるわ。殺したいほどね。でも、灯ちゃんはそんな殺したいほどの悪魔であるミドリと仲良くしたいから何度もこの世界に足を囲んでいる。前に進む事を選んだ。ミドリの力で大切な人を2度と失わせないために尽力している」


「『大切な人を2度と失わせないため』。強いのね。灯は」


「えっ! 私しの自慢の灯ちゃんよ!!!」


 自分の心に空いたモノが埋まっていく感覚を味わう。この気持ちが具体的に表現できない。

 身体な中が暖かく包まれていく。こんなに長く生きてきてこの気持ちを感じたのはあの娘の時だけ。その気持ちをもう一度感じたい。確かめたい。


「もう一度、灯に合わせてください。お願いします」



 私、クロはベットで目を覚ました。精神世界に侵入する時間が過ぎたためだ。青奈と黄華は灯の身体がないと戻ってくることができない。そこはミドリの協力で精神世界に留まることができた。身体を起こし、軽くストレッチをして頭上に置いてある翠の陰包徳(リ・エミナァーデ)を持ち灯と武者型がいるとされる場所に向かう。


「さてと……【スパイダー】あるかな?」


 私はポケットに手を突っ込み移動手段に使うための【スパイダー】を出そうとする。


「あれ? もしかして、灯が今使ってるか……なら、【アイヴィー】」


 面倒いけど蔦で移動しますかと【アイヴィー】を探しても出でこなかった。それどころか他の保有しているマガジンが全て出てこなかった。


 おかしい。戦闘が激化していて高速でマガジンを要所要所に使い分けていても、どのマガジンを使っても必ずどれか残っているはず。マガジンの能力によっては効果範囲を気にしなくちゃいけない物もある。だから1個でも使用しないマガジンがあっても問題ない。なのに1個も共有空間にない。そう、1個も。


「急がないと」


 私は走り出す。運の悪いことに周りは学園内。武者型の攻撃で半倒壊状態。屋根伝いに移動したいけど足場となる建物がないため。徒歩で住宅街かビルが密集している場所に向かわないといけない。

(待ってて、灯)



 そこはいつもなら人があらゆる所に向かうために利用しているスクランブル交差点。

 この国の中心部にある広い交差点よりかは狭いがそれでも昼夜問わず人々が行き来している場所。


 その中に歩行者専用信号機の白いポールを背に座っている……倒れ掛かり今にも意識が失いそうな女性がいた。彼女は自分の赤い服に身体中に受けた切り傷から出てきた血で付着していくのが微かに分かる。意識がどんどん薄れていく。右目は今にも閉じそうな感覚に陥り、左目は頭から流れる自分の血でクリアな景色が見えず背景が赤で統一していた。


 足元には自分が持っている7つのマガジンが散らばっていた。私に向かってくる武者型の攻撃から身を守るためクイーンズブラスターに装填したいが利き手を伸ばしても届かない。



 降り荒れる豪雨、壊れた自動車の数々。そこから垂れる灰色の煙。

 そして1人の女性と鎧武者しかいなかった。


「この勝負、私の勝ちのようね。灯さん……」

 重い足音が灯に近づく。


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