52話 明無心掴手 XVI 壊れる学園
今日から数日ぶりの学校生活がスタート。今の私は珍しく。そう、とても珍しく早起きしてしまった。時計を見たら6時になったばかり。自分の部屋から外の風景を見る。雨であった。細い糸の如き雨が、白みがなくなり始めた風景を濡らしているようだった。実は雨の音を聞くのも好きだが匂いも気に入ってる。なので、少し窓を開ける。雨の匂いが自然と入ってくる。
雨は音もなく降り続けていた。家を出て空を見ると霞のようなはっきりしない雲が押し寄せている。そして空を覆い尽くしていた。傘をさした灯は歩き始めた。
黄華:こうも雨が続くと気が滅入るな……
青奈:そうね〜 髪の傷みが心配だわ。あぁ、安心してね、灯ちゃん。一番は灯ちゃんだから
黄華:しっかし雨の音が好きなんて灯も変わってるよな……
灯:2人もすずちゃんと綾ちゃんと同じこと言ってる。なんでこの良さが分からないの??
黄華:雨よりやっぱり晴れかな。外でいっぱい遊べるし
青奈:子どもかっ!! あぁ、ごめん……。子どもだったわ。ごめんなさい
黄華:おい!? 何、2回も謝ってるんだ。訂正しろ! 僕は子どもじゃないっ!!!!!
灯:青奈ちゃんはどうなの?
青奈:そうね〜 どれも同じだから優劣できないかな……
黄華:はい! つまらない回答。最下位はお前だな。おめでとう!!
青奈:そういえば、最近腕が鈍っていてそろそろリハビリしないとね——狩りのリハビリ!
黄華:上等だっ! 逆にこっちがお前をハントしてやるよぉぉお!!!
灯:はぁ〜
2人:「「!?」」
灯:2人ともどうしたの。急に真顔になって……
黄華:いやぁ〜
青奈:灯ちゃんが呆れているのかなって思って
灯:違うよ。今朝、家に出る前にもう1回、ミドリに会いに言ったけど、ダメだったから。ついため息をついちゃった。どうしようかな……
青奈:灯ちゃんを困らせるなんて万死に値するわ。
黄華:そこまで言うか……まぁ、その【ミドリ】は癖のある奴だって分かる。
私達はたわいの無い会話して学園へ向かう。
学園棟に向かうと後ろから話しかけられた。
「天織さん……」
後ろを振り返ると萌香さんが傘もささず立っていた。
「……濡れますよ」
私は自分の傘を差しだり萌香さんを中に入れようとする。
「ありがとう。でも心配ないわ。見て、私の身体」
萌香さんの身体は先ほどまで雨で濡れていたが徐々に乾く。クリーニング仕立ての服のようだった。周りの生徒を見たが幸いにも傘が上手く視覚を遮ったことで誰にも今の現象を見られていない。
「凄いでしょう。私はこんなことができるようになった。それだけじゃないわ。この力で多くの人を倒してきた。でも、不思議よね。……なんで貴方は倒れないのかしら??」
高揚した口調で話したと思いければ段々、低い声になり私を見る萌香さん。
「仰っていることが分かりません……」
「これでも剣道やってた時は、対戦相手の身体的特徴を見て戦略を考えていたこともあってね。癖で貴方をここ最近見ていたの。そしたら、貴方の歩き方や仕草がとある赤色の怪盗が同じだった。先日、戦った黄色の子は違ってから貴方の仲間かしら」
「歩き方や仕草だけで私がその赤い怪盗と同一人物を決めつけるのはどうかと思いますよ」
「それもそうね。だから見せて貰うわよ。天織さん、貴方の行動を……」
そう言って萌香さんは1人、学園棟に入る。
私はただその場に立ち尽くしかできなかった。
以前、すずちゃんの精神攻撃を喰らってから多少は耐性が付いたがあんな風に急にされるのはまだ慣れない。懐に入れているサングラスをかけてバイタルを確認。良かった……。どうやら安定した数値。私も少しは成長したんだね。
青奈:他人の癖でねぇ〜
黄華:僕と青奈はどこかにいる仲間って認識だな。今日にでも仕掛けてくるな。警戒しろよ、灯
灯:了解!
私の正体を知っている人に直ぐに今のことを話して警戒してもらう。
萌香さんは普段通り学園生活を送っていた。不気味なくらいに自然に。
そして……
黄華:今の所、何もなし。もう放課後か
青奈:油断は禁物よ。こっちの注意力の低下を狙ってくるかもしれない
「灯ちゃん……」
綾ちゃんが私に近づく。廊下にはすずちゃんと月音ちゃんが教室に入ってきた。当然だが月音ちゃんは私が怪盗でお姉さんが武者型のソドールとは知らない。普通に私達と帰るために来てくれた。
そんな時に教室にした誰かが窓から見える学園のグラウンドに向かって笑い出す。
「おい、あれなんだよ。コスプレか」
その言葉で近くにいた生徒達が徐々に窓の方に集まる。
私達も何かを確かめるために見る。雨はずっと振り荒れ、止む気配がない。そのせいで視界が極端に悪く歩くのが困難な状態。グラウンドの周りに立てられている照明器具が光り出していることで辛うじてグラウンド部分が見える。そこには……
「お前らを断罪する」
私は刀を抜き、己の頭の上へ振り上げる。そして、そのままゆっくり下ろした。
刀に纏っている【水】が斬撃となり学園棟へ向かう。
学園棟が真っ二つになる……
初めは何ともない刀から放たれた斬撃。それが周りの雫や水滴、学園棟にこべりついている雨達の線が全て吸収され、破壊力が倍増するエネルギーが学園棟のコンクリートを最も容易く切断された。教室の床に浮き出る斬撃の線。学園棟は左右に別れ雨風を凌げるには不適切で哀れな形となる。左右に分かれたが斬られた中心部分はゴッソリ削られる。身体が危険を察知し中心部分には誰1人、人はいなかった。今にも崩れそうな状態になっているが何とか持ち越している。それも長く保つのか不安。倒壊寸前の学園棟を目の当たりした生徒は自分の置かれた状況を徐々に理解し始める。
我先にと逃げ惑う人々で廊下は一杯一杯の状態。
「私達も早く逃げないと……」
月音ちゃんも他の生徒と同じように密集した中に飛び込むように走り出す。
割れ目に足を掬われないように慎重に早歩きを見せる月音ちゃんを追いかけるように私達も走り出す。
割れ目には空から降ってきた雨が付着しており教室だった瓦礫の中に侵入する。
「嘘でしょう……」
私の身体全体を駆使しその場に止まる。すずちゃんと綾ちゃんは走り続けている。私が留まったのは後ろに悍ましい気配がしたからだ。このまま走り出せばまだ廊下に残っている人にも被害に遭う。かといって今の制服姿の私も攻撃を受ければ死んでしまう。この状況で私が出来ることは、クイーンズブラスターに【レッド】を差し込むことだけだった。
背中に強烈な一撃……刀の攻撃ではない。武者型による蹴りだった。
教室のドア、廊下に備えられている窓にぶつかり外へ飛び出し迎えにある部活棟の校舎に直撃する。砕けた窓ガラスが身体中に刺さるが怪盗服はそこそこの守りがある。それでも多少の傷を負ってしまう。飛ばされた影響で自分の身体が自由が効かず回り続けてしまった。
辛うじて【裁紅の短剣】を出すことが出来た。【裁紅の短剣】の先を床に差し込み威力を殺した。
(止まりなさい……)
無事に止まることに成功したが直ぐに【スパイダー】を装填し学園棟に向かって糸を噴射した。
再び学園棟に入ることが出来、【裁紅の短剣】と武者型の刀がぶつかり合う。
前戦った時はこんなに力がなかったのに。ここまで押し負けるなんて……
私は少し遠い位置にいた。武者型はこっちの都合なんてお構いなしに駆けてくる。
左腕が震える。クイーンズブラスターを撃ち銃弾を放つ。右足を軸に身を捻りながら後ろへ斜めに跳んだ。私がいた所の床は水色の線が切って過ぎた。
左足で着地し右足も床をとらえた。
クロが先日、ルージュから取り返した【アイヴィー】を装填しさらに後ろに大きく跳ぶ。学園棟が真っ二つに分かれたことで天井に当たることもなく上の階のどこかの教室の床に着地できた。
武者型は遅れてジャンプし私に迫る。
1発の銃声が轟く。放たれた銃弾は武者型が斬り2つに分かれた。
2つに分かれた銃弾を通過した1発の弾丸。弾丸は武者型の胸部分に当たりそこを中心に急速に蔦が出現。蔦に捕まった武者型は落ちる。
久しぶりだけど腕は覚えているみたいで安心した。
先に1発撃ち、間髪入れずもう1発を放ち、直線上に2つの銃弾が同じスピードで敵に向かう。例え、最初の弾が斬られても次は直ぐに来る。斬った後の構えならまず対処は不可能。ちゃんと銃弾は武者型の当たり4本の蔦の餌食になっていく。
背筋が凍る。
私は直ぐに前に斜めに跳び、上体を捻り私がいた所に向かって【アイヴィー】弾を放つ。
背中が凍るほどの気配は消え、瞬く間に私の背後に辿り着いていた。
「……終わりだ」
私の命を断つ、一太刀が放たれる。
灯達が使えるソドール能力
No.16 フォックス 煉瓦茶色
No.35 スパイダー 赤紫色
No.47 シャーク 青水色
No.48 ボーン 茶橙色
No.50 ボム 黒橙色
No.52 ダイヤモンド 水白色
No.59 アイヴィー 緑黄緑色




