51話 明無心掴手 XV 届かなくて良い正夢
なんでこうなったの……
私、天織灯はベットの上で両腕を上げた状態で拘束されている。不規則な動きをして取り外そうとしたが金属音が聞こえるだけで一向に外れる気配がない。数分こうしたが無駄だと分かり諦めた。この状況は危機的状況で敵に捕まったと考えられるが、ここは私の部屋で自分のベット。
璃子さんの家は強固なセキュリティーがあるため、璃子さんが決めた者だけ入室が可能なので犯人はこの家の者。今日ここに来たすずちゃん達は犯人候補から外れる。なぜなら、私がちゃんと駅まで送ったので戻ってくることはなく、暫く携帯端末でビデオ通話していた。みんなの後ろの背景は自分の特徴が反映されている己の部屋が見られた。なので、候補から外れている。残る容疑者は1人。金属音がしていても実物は見えない。なぜなら、私を拘束している物は透明で見えない。実は前にもこれで拘束経験がある。璃子さんが作ったのは明白。勿論、璃子さんがこんなことしない。さっき翠の陰包徳を研究室に持って行った所、目とディスプレイがくっつくのではないかと疑問に思う位、齧り付いていた。研究に没頭しているとあのように周りが見えない位に集中している。あの状態に声かけても反応しない。璃子さんも除外される。最後に残った人物。こんなことをする人物は……やっぱり、来ましたか。
私の部屋に入ってきたのはクロ。妙に官能的な寝衣姿でこちらに歩いてくる。
ベットに侵入され、私の腰辺りに乗り、馬乗り状態になっている。
クロは私の頬をなぞる様に指を動かしていく。全身の毛が先立つのが感覚的に巡る。
「あの……クロさん。何してくれるのよ。これ外して」
「そんなことどうでも良いわ」
「どうでも良くない。何怒ってるの、怖いんだけど」
「思い当たる節、あるでしょう」
「思い当たる節……??? 分からないけど」
「じゃあ、分からせてあげる」
そう言ってクロは私から乗っかるのを辞め、隣に来て私と同じような体勢になる。
クロは私の耳元に自分の口を接近させ……
「やめてぇぇえええええええ!!! あれ?」
私は勢いよく身体を起こした。
私は現状確認する。手首に透明手錠はない。クロはいない。自分の身体を触っても何もされていない……。
もしかして、夢?
私は手で顔を隠し項垂れる。
「なんちゃううう夢、見たのよ私は!?!?!!」
顔を真っ赤にしながら自分の罪を悔いていた。
てか、妙にリアルな夢だったな。まさか、正夢にならないよね。安全策取らないと。
「まぁ、それは明日考えよう……」
私は再び、眠りについた。
一方、璃子の研究室では……
私、天織璃子は研究室を端から端まで何度も歩いているクロをずっと見ている。というのも10分くらい前にクロが突然、クロに言われたことを実行している私の背中を何度も叩くものだから集中力が切れた。クロは凄いあたふたした顔で現れたから緊急事態だと思い手を止めた。私はクロから何か話ものとばかり待っていたが一向に話が開始しなく、10分無駄な光景を見せられている。
「ねぇ、10分前にここに来て話があると言って、それから黙り込んでしまって歩き始めるし……。それで、私と話すつもりあるかしら」
「灯が可愛い!!!」
「は……はぁあああああ!!! そんなこと」
「そんなことって言うけど、私にとっては一大事なの。ねぇ、璃子。どうしましょう。自分が抑えきれない」
「知らないしどうでも良い。私、作業に戻るね」
私はまた作業に戻るために椅子に座ろうとした瞬間、私の足に縋っているクロがいた。
「離れなさい。貴方の心が奮闘していても私は分からないし今はこれを完成させないといけないの。誰かさんのせいでね。だから、1秒でも時間が惜しい」
「お願い……話を聞いて、どうすればいいか分からない」
「貴方、伊達に長生きしているんだから、誰かと付き合うことあるでしょう」
「そりゃあ、数えきれない恋をしたよ。異性でも同性でも……。貴方と違ってモノにしてきた数が違うわ」
「地味にイラってくる単語があったけど、今は水に流すわ。多くの経験してきたなら、わかるんじゃないん」
「今までとは何かが違うの、私のこの状況、分からない?」
「全く分からないし、分かりたくもない……。はぁ〜、じゃあ、灯の何が可愛かったんですか」
私は自分の手を握り、マイクのようにクロの顔に向けた。
「もう、全てが可愛いのよ」
「はい、終了。解散!!」
「待って、いかないでよぉぉおお」
「やっと具体的な話が聞けると思ったのに『全てが可愛いのよ』って何なの?!?!」
「ちょっと、その椅子どうするつもり。まさか、私の後頭部を殴ろうとしてない」
私はこんな面倒臭い茶番をさっさと終わりにしたく椅子を持ち上げクロを撲殺するつもりだったが、クロが漸くちゃんとした事を言おうとしたので椅子を下ろした。
「さっきね。灯の部屋に入って襲うつもりでした」
「もしもし、警察ですか。ここに……」
「お願い、それだけは勘弁して」
「そういえば、貴方にセキュリティーなんて無駄だったわね。それで……」
「襲うと思ったきっかけが昼間、すず達が来てて……」
「そういえば、来てたわね。顔を見せなかったのは安齋月音がいたから避けたのが濃厚かしら」
「部屋に飲み物を持って行ったら寝てたの——灯のベットで4人仲良く」
「へぇ〜」
私の返事も淡白になり始めた。何故ならどうでも良かったため空返事している。
「それを見た瞬間、頭ん中が渦に飲まれた感覚に陥ったのよ」
「へぇ〜」
「私と寝るのは否定した癖に他の女とは寝るなんてって。これは灯にわからせないと思い襲う計画を立てて。初めに寝たのを確認し例の透明手錠で動きを封じ、そこからは……」
「未成年を襲う変質者、完成ね。おめでとうございます」
「灯がその時なんて言ったか分かる?」
「皆目見当つかない」
「耳から攻めようと思ったんだけど『今回の事件が終わったらこういうことしましょう』って恥ずかしがりながら私に言ったのよ。その言葉を目と鼻の先で言われて抑えが効かなくなる所だったけど、何とか踏み留まることにできたわ。あの顔は忘れることはできない。写真に収めなかった数十分前の私を呪うわ」
「灯が寝ぼけて言ったに1票!」
「そんなことないわ。絶対にあれは告白で準備できてるの合図。そういう訳で早く作りなさい、璃子」
「誰かさんのせいで現在、作業は滞っているわ。……全く、緊張感のない人ね。今私達、不味い状況にあるんだよ」
「ずっと気張ってるといざって時の戦闘で疲れたままになるわ。適度にふざけるのが肝心なの。覚えておきなさい」
「流石、年の功。参考になるわ」
「で、進捗は?」
「さっき漸く半分いったわ」
私はクロにディスプレイに映し出されたものを見せた。
表示されているのは2つ。1つは灯も知っている騎士服とゴスロリが融合した翠の陰包徳の基本服——セファト。神速で移動しても戦闘には邪魔にならないように設計してある。それだけではなく耐久力もピカイチ。今までの灯達の戦闘データを抽出し、それらを活かし攻守ともバランスが取れている形態になっている。灯が上手く【ミドリ】なる緑の悪魔と協力関係を結び無駄なエネルギーが放出しないように調節ができればこのフォームは現存しているどのソドールを上回るかもしれない。
翠の陰包徳と爆橙の想争は箱の中に悪魔を内包させ、入っている悪魔の力をフルに使用が可能になっている。しかし、無駄なエネルギーが常に垂れ流されている状態で、エネルギーをモロに使用者が注ぐと急速に体内の悪魔因子が活性化して1回の戦闘で人間ではなくなる。そうならないように力を制御できる調整剤でどうにか対策をしようと考えていたが予想以上に大量のエネルギーが常時、漏れている状態だったことがわかった。その全てを薄めるために常に調整剤が活動中になる。変身後、1分後には調整剤が空になってしまい真面に扱うことができない。そこで中にいる悪魔が内側の精神世界から制御し漏れるエネルギーを抑える。これが可能になれば品質の良いエネルギーで尚且つ調整剤との作用で高濃度の悪魔因子が完成し時間制限のない形態になりソドールや悪魔との戦闘で十分活躍できる。しかもそこまで人体に影響がないメリット付きで。
だから、灯には何とにしても強力関係になって貰わないと行けない。実はそこまで危惧してない自分がいる。灯ならって思うからだ。科学者でずっと研究してきた生粋の理系の私がそんな曖昧なことを考えるのはどうかと思うが、それでもそう感じてしまった。
(昔の私が見たら鼻で笑っているでしょうね)
クロがディスプレイを凝視していた。まだ半分しかシステムができていない。一応、衣装ができたので写し出してある。セファトは鮮緑・黒・白が3対6対1の割合だったが、もう1つの衣装は4体1対5の割合。緑と白が多めの衣装。鮮やかな緑とシルクの白色が織り込まれている巫女服に僅かばかりの黒色が彩られている。両肩には緑色の羽衣が付属してある。その姿は正に……
「天使の翼でも良かったけど貴方の話を聞いた時にこっちかなって思ったわ」
「中々、良いデザインじゃん。見直したわ!! この形態の名前は?」
「ミラバよ。……これに伴って武器も1から再構成するつもりよ」
「将祇陽の護を改修する?」
「正解。でも武器の形状はそのまま。変えるのは必殺技の方。浄化機能を付ける必要があるから追加しないと……」
「遂に灯に必殺技が与えられるのね。で、もう案あるの?」
「……内緒!」
クロの悪事はいずれバレる。灯は早く事前に予知ができる様にならないと、貞操の危機になる。
徹夜の璃子は普段は絶対摂取しないが今回は砂糖多めのドリンクに手を取り、脳がフルスロットルしていく。




