元勇者のおじいさんと元聖女のおばあさんが秒で全てを解決する昔話
昔々あるところに、元勇者のおじいさんと元聖女のおばあさんがおりました。
ある日、いつものようにおじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に出掛けました。
おばあさんが川で洗濯をしていると上流から大きな桃がどんぶらこ、どんぶらこと流れてきました。元聖女として授かった透視能力で中に異形の力を秘めた赤ん坊が入っていることを察したおばあさんは、桃を拾ったあとその足で鬼ヶ島に出向き、最近村で悪さをしている鬼達を爆裂魔法を用いて一匹残らずサクッと懲らしめました。
あまりにも大きな轟音が響き渡り、地面が揺れる衝撃が伝わったのか、大きな桃はパカンと割れて、中から元気な赤ん坊が現れました。おばあさんは鬼達に心を入れ替えて、その赤ん坊を育てるよう命じました。
おばあさんの鬼神のような強さと、赤ん坊の可愛らしさに打ちのめされた鬼達は命令通り、赤ん坊を大切に育てて可愛がることにしました。更に後日、村人達に今まで盗み集めてきた金銀財宝を全て返し、心を込めて謝罪しました。
おばあさんのパワーに惚れこんだ鬼達は、どうか弟子として仲間にしてほしいと懇願しましたが「おじいさんがヤキモチを妬いたらいけないから」とそっけなく断りました。
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一方、山で柴刈りをしていたおじいさんは、竹藪の中に根元から眩く光る一本の竹を見つけました。すぐさま手刀で竹を真っ二つに切断し、中で縮こまって震えている小さな姫から事情を詳しく聞くことにしたおじいさん。月の住人である彼女がある罪を犯して、罰として地球へ送られたと聞くや否や、すぐさま転移魔法を使って姫と共に月へと瞬間移動しました。
突然の侵入者に驚き、襲い掛かってくる月の住人達をおじいさんは片っ端から無力化します。身動きできなくなった彼らに対し、地球を流刑地に使うことがいかに失礼かを懇々と説教しました。その後、婚約者に無理難題をふっかけ、身勝手な婚約破棄をして流刑になったお姫様のことも叱りました。
彼らは二度と地球を収容所扱いしないと約束し、お詫びの品として月のうさぎが臼と杵でついたお餅を、喉に詰まらないように小さくちぎってこねて、お団子にして渡しました。
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その頃、鬼ヶ島から行きと同様に海面を凍らせて歩きながら帰路についていたおばあさんは、浜辺にウミガメがぽつんと佇んでいるのを見つけました。何をしているのか尋ねると「言葉を喋る珍しい亀がいると大抵悪ガキから虐められるので、彼らから助けてくれた親切な人物を竜宮城に招待しています」などと訳の分からない返答をするので、不審に思ったおばあさんは竜宮城へと向かうことにしました。
ウミガメを人質にとって現れたおばあさんに対して、海底の生き物たちは総攻撃を仕掛けましたが、返り討ちに遭い完膚なきまでに叩きのめされました。意気消沈した乙姫を尋問したところ、海を汚し、同胞を乱獲する人間達に復讐するため、玉手箱による毒ガステロを計画していたと白状しました。
手段はともかく、人間が海の生き物達に迷惑を掛けていたのは事実ですし、おばあさん自身も川で洗濯をしたあとの排水をそのまま流しておりましたので、素直に謝りました。竜宮城の近海に自動浄化機能付き大規模結界を張ったあと、人間達も一丸となって海の環境と生態系を守る取り組みをしていくことを約束しました。
乙姫は今回のお詫びとして大チョウザメから採れたフレッシュキャビア・ベルーガを玉手箱一杯に詰めて贈りました。
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月から再び地球に戻ってきたおじいさんは、帰り道に子供が悪戯で仕掛けた罠に掛かっている鶴を助けました。元勇者ならではの直感で、その鶴が後々人間に化けて恩返しにやってきそうな気がしたおじいさんは「おばあさんが勘違いして嫉妬するといけないから止めてくれ」と前もって丁重に断りました。
さらにしばらく歩いていくと雨ざらしになっている六体のお地蔵さまを見つけました。おじいさんは、そのまま小脇にお地蔵さまを抱えて近くの東屋まで運びました。長年の経験から、お地蔵さまが食料や財宝を持ってお礼にやってくる予感がしたおじいさんは「おばあさんはホラーが苦手なので結構です」と丁寧に辞退しました。
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無事に我が家へと帰りついたおじいさんとおばあさんは、一緒にお団子とキャビアを頬張りながら、互いに今日の出来事を報告して、相手の見事な働きを称えて褒め合いました。それからも二人は毎日仲良く様々な問題を秒で解決しながら幸せに暮らしましたとさ。
めでたし、めでたし。