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八・存在するはずのないがしゃどくろ

 長い夏休みに入った、俺と千尋は何して過ごすか話し合った。とりあえず海と夜景を見には行きたいと千尋が言うので海と夜景を見に行くのは決定した。


 この街は海と山が近い、六甲山があり車で行けば海から山まで三十分程で行ける。最も山裾から山頂までは結構な上り道で危険なコースもあるのでそんなに飛ばせないが、山頂からはこの街だけではなく両隣の街も海の向こうの隣の県まで見渡せる日本でも有名な夜景スポットになっている。


 親父から毎日のように夏休みに入ったら竜之助さんに会わせてくれと連絡が来るので、それを先に片付けたい。

 千尋にそれを話すと、いつでもいいんじゃない? と答えが帰ってくるだけだ。


 前回千尋を俺の親父とお袋に会わせた時におじいさんの電話番号は俺も教えて貰っていたので、たまに電話で話したりする間柄にはなっていた。温厚な人で大金持ちなのに鼻にかけたりするような人ではないから話しやすかった。唯一禁止されているのはこの番号は直通なので他人に絶対に教えない事だけだ。


「千尋、お前からおじいさんの予定を聞いてくれよ」


 と言うと千尋は驚いた顔で俺を見て、急にガバっと抱きついてきた。

 俺は意味がわからず、何だ急にと聞いた。


「今始めて私の事を『お前』って言ってくれた、俺の女みたいで嬉しい、好き大好き」


 と言ってキスの嵐が降ってきた。


「今度は『おい』って呼んで欲しい」

「わかったよ、苦しいからそんなに力一杯抱きつかないでくれ」


 初めて会った時に『おい、お前』って言ったのは千尋の方だろ逆転してるじゃないかと思った。

 ようやく解放されると。


「おじいちゃんには優斗から連絡してね」


 と言い洗濯をし始めた。仕方がないので俺が連絡することにした。

 数コールでおじいさんが出た。


「優斗かね、どうした?」

「今少しお時間いいですか?」

「構わんよ、君はわしの息子のようじゃて」

「ありがとうございます、父がおじいさんに会わせろと何度も言ってきているのですが、ご都合のいい日はありますか?」

「いつでも構わない、盆休み前にしてくれ」

「では明日の昼頃はいかがですか」

「構わんよ」

「ありがとうございます、暑くなって来ましたのでお体の方ご自愛ください」

「気を使ってくれてるのかね、やはり君はよくできた青年じゃ」

「いえ、とんでもないです、では明日お伺いします」


 電話を終えると千尋が側で聞いていた。


「あなた、礼儀というのをちゃんとわきまえてるわね、惚れ直したわ」

「今初めて『あなた』って言ったな」

「言いたかったの、駄目?」

「いや、嬉しいよ」


 親父にも連絡し明日の正午におじいさんと会う約束をしたと伝えた。


「おい、明日の昼におじいさんのところへ行くぞ」

「早速『おい』って言ってくれたのね、嬉しい、もうめちゃくちゃにして」


 めちゃくちゃに? 最後までしてもいいんだろうか? そうとしか思えない発言だ。


「そういうセリフは夜に言ってくれ」

「わかったわ、あなた」


 指輪に話しかける。


『さっきのセリフ、抱いてもいいって思っていいのか』

『そうよ、千尋の性欲が高まっているわ』

『わかった』

『もうお喋りは終わり?』

『ああ、また時間のある時にな』


 指輪は残念そうに黙り込んだ。


 千尋のスマホが鳴る、街の中にあるあの寺の住職のようだ、すぐに通話が終わる。


「優斗ちょっと出掛けるから一緒に来て」


 俺は渋々付いて行った。運転は千尋だ。

 寺の駐車場に車を停めると本堂に向かう。

 本堂に入ると棺桶があった、住職が俺に言う。


「君は確か物の怪に詳しかったろう」

「はあ、幽霊よりも興味はありますね」

「先日ある家で老人が亡くなって、葬儀の支度で家の者が出払って帰って来ると棺桶が開いていたのじゃ、不思議に思って御遺体を見ると脇腹を何かに食われた跡があった、この地域には熊もおらんし不気味に思った家の者がここへ御遺体を預けにきた、そこにあるのがそうじゃ、ちと見てくれんかのう?」


 俺は棺桶の蓋を外し遺体を見た、確かに脇腹が食いちぎられていた。歯型はよくわからないが熊の口よりも大きい、蓋を戻す。


「どうじゃ? 何かの妖怪ではないかね?」


 俺は天井を見上げ死体を食べる妖怪を何匹か思い出していくが、あんなに口の大きい妖怪はいない思いつくのは鵺くらいだ。

 それらの事を住職に告げる。


「そうか、君にもわからないのか、困った」

「とりあえず、野犬の仕業って事でご家族に納得してもらって下さい、次の被害が出たらすぐに連絡を、徹底的に調べてみます」

「わかった、君にしか頼れんからのう、無駄足を踏ませてしまったの」


 寺を出て歩いてからハッとして振り返る。


「何か心当たりを思い出したの?」

「いや、気のせいだ帰ろう」


 夜になり、二人でベッドに入ると俺は覚悟を決め千尋を抱いた。

 千尋が涙を流した。


「嫌だったのか?」

「違うのこれは嬉し涙よ、だって初めて一つになれたんだもん、すごく愛された感じよ」


指輪が話し出す。


『優斗はAVの見すぎよ』

『そうか?』

『まあ千尋は友人に教わってたし、これが普通と思い込んでるからいいんじゃない? それより体の芯が熱くなってるでしょ?』

『確かに力が湧いてきてる感じだ』

『運命の者同士が体を重ねた事で、更に能力が開花した証拠よ、千尋も同じよ、今千尋の指輪が同じことを伝えてるわ』

『また抱いたらもっと力が上がるのか?』

『そうよ』

『ありがとう、俺は眠いから寝る』


 そのまま眠りについた。

 起きるとと千尋は俺の顔を見ていた。


「昨夜終わってからゆっぴーにいろいろ教えてもらったわ、あなたもでしょ?」

「ああ、聞いた」

「どれくらい能力が開花したのか想像も出来ないわ、最終的にはどうなるのかしら」

「そのために抱かれたいとは思うなよ」

「思ってないわ、私はただ愛のあるエッチがしたいだけよ」

「俺もお前を性のはけ口にするつもりはないからな」

「わかってるわ」

「それでいい、今何時だ?」

「九時半よ」

「おじいさんの家に親父達が来るまでに行かなければいけないから、少し余裕を持って出掛けるぞ」

「わかったわ」


 数時間後、おじいさんの家の前に車を停めた、早すぎたかなとスマホで時間を見る。時間にはうるさい親父だ、車が近づいて来た。親父のポルシェだった。車から親父達が降りてくる。


「待たせたな、お前たちが先導してくれ」


 親父は高級そうな日本酒を抱えている。

 チャイムを鳴らすとおばあさんが出迎えてくれた。


「待ってたわ、さぁ上がってちょうだい」


 客間にはおじいさんが待っていた。


「お久しぶりです、お会いするのは久しぶりですが元気でしたか?」

「ああ気力だけは若いつもりだからのう」


 おばあさんが飲み物を運んでくる。


「さあ、座りなさい疲れるじゃろ」


 親父達も緊張した顔で後ろを付いてきて、立ったままお辞儀をし、丁寧に挨拶をしかけたが、おじいさんが言う。


「堅苦しい挨拶はいらん、座りなさい」


 優しげな口調だが、頑固そうだ。

 俺と親父が同時に話し出して止める。


「正、先に優斗と話している、待っていなさい」

「はい、失礼しました」

「優斗、昨夜千尋とまぐわっただろう」

「はい、その通りです」

「優斗は素直でよい、正からわしの事を聞いてるようじゃがもっと普通に話しなさい」

「いいのですか?」

「長年敬語ばかり聞いててうんざりしてるんじゃよ、もうおじいちゃんでいいぞ」

「わかりました」

「しかし、男嫌いの千尋の心を掴んだのもまぐわったのも、お前に余程魅力があったに違いない。礼を言うぞ」

「おじいちゃん、礼なんていらないです」

「お前も千尋と同じような力を持っているようじゃな」

「千尋の力を知ってるんですか?」

「知っておる、わしには千尋の一パーセントくらいしか力はないがな」

「おじいちゃんも能力があったんですね、血筋なのですか?」

「そうじゃ、ところでお前はどんな術を使えるのか聞かせてくれ」

「一番は陰陽道、次に仏教と神道です」

「陰陽道じゃと? どこでそんな力を得たんだ?」

「ほぼ独学です、後は死んだじいさんから」

「独学でか、千尋の力とどっちが上かな?」

「互角です」

「そうか、今度知識と力を見せてくれ」

「わかりました」

「結婚した際にはわしの財産の半分を分けてやろう」

「いらないです、お金目当てに千尋と付き合ってるわけじゃありません」

「ふははは、ますます気に入った。お前がいらんと言っても無理やり押し付けるからな、なにわしの会社に就職するとでも思っておきなさい、また今度教えてやろう」

「頑固さに負けましたよ」

「千尋もそれでいいな?」

「はい」

「では、正お主の番じゃ」

「はい、とりあえずこちらを」

「酒か、遠慮なく頂いておこう」

「ところで力とか能力って何ですか?」

「質問を質問で返すが先祖に霊能力を持った者はいるのか?」

「ええ、近いところだと私の父がかなりの霊能者でした、私は受け継いでないですが」

「そうか、やはり血筋か」

「はあ」

「わからなければそれでいい、お主は若い頃のやる気がまだあるな、安心したわい」

「私も恩人である竜之助さんにまたこうしてお会いできて光栄です」

「今日はこの二人の婚約の席と思いなさい」

「本当に私の息子でいいんですか?」

「よい、わしの目にかかった奴の両親がたまたま昔の顔馴染みだったって事じゃ」

「わかりました」


 おじいちゃんは分厚い封筒を出した。


「優斗、これで婚約指輪を買いなさい」

「おじいちゃん、それは絶対に受け取りません、婚約指輪は自分で稼いで買います、わがままを言いますがそれはいりません」

「お主も頑固じゃな、わかった。本当に欲のない奴じゃな。これからはこの家にも勝手に上がり込んでも良いぞ」

「わかりました」

「みんな疲れたじゃろ、今日はお開きじゃ」


 親父が立ち上がったのでそれに習う。


「優斗、近々術を見せに来なさい」

「わかったよ、おじいちゃん」

「その言葉遣いでよいからな」

「わかった、じゃあ帰るね」


 千尋は何も言わなかった。


「おい、お前も挨拶しろ」


 千尋に言うと後ろから親父に叩かれた。


「お嬢さんになんて口を聞いてるんだ」


 おじいちゃんが割って入る。


「正、呼び方や口調は本人達の問題じゃ、口を挟むでない」

「わかりました」


 家を出た途端、親父がうなだれて。


「なんで俺だけ怒られるんだ」


 千尋が笑いながら。


「お父様気にしなくていいですよ」

「千尋ありがとう、これからはお父さんでいいから」


 と言って車に乗り込む。


「千尋ちゃん今日はありがとう」


 と言いお袋も車に乗った。


「俺達も帰るぞ」


 車に乗り込み山道を下る。


「千尋、どうして今日は口数が少なかったんだ?」

「おじいちゃんの目が黙っていろと言ってたからよ」

「気付かなかったよ」


 マンションに帰り、一つ用事が片付いたのでアイスコーヒーを飲みくつろいだ。


「私達婚約したのね」

「あれは形式上の事だ、指輪を買うのにはバイトでもしようかな?」

「依頼の報酬があるじゃない」

「あれは俺達の共同貯金だ」

「だって前回もその前もほとんど優斗が片付けたのよ、優斗が好きに使っていいお金よ」

「本当にいいのか」

「うん」

「わかった」


 俺のスマホが鳴る。熊野寺からだった。

 電話に出ると、また被害が出たと言う。今日は対策を練るので明日行くと約束をした。


「また被害が出たのね」

「ああ、明日片付けに行くぞ、千尋はサポートを頼む」

「やっぱり心当たりがあるのね」

「あるが、確信したわけじゃない」

「私では太刀打ちできない出来ないの?」

「ああ、多分無理だな」

「わかったわ、終わったら説明してね」

「わかった」


 ソファーに寝転びある仮説を考えた、俺の考えが当ったとすればどう動くのかも考えたがいい案は浮かばない。

 ダンボールの中の道具もほとんど効果は期待できない。最終的に歯が立たなければ指輪に助けてもらうしかないがそれでは駄目な気がする、俺がやらなければいけない。全力を出さないといけないのか? 全力で戦えば寺を壊してしまう恐れもある。仕方がない事なのかもしれない。


 いつの間にか眠っていた。目覚めたのは朝の四時だった。千尋は側でテーブルに突っ伏して寝ていた。

 指輪に問いかける。


『俺が今日退治する奴の正体はわかるか?』

『見たことも聞いたこともない化け物は私でもわからないわ』

『俺が昨日立てた仮設はありえるか?』

『それは間違ってないと思うわ』

『勝てる確率は?』

『予想不可能よ、未来が見える私にも今回は見えないわ、私の力で吹き飛ばせばいいのにあなたはそれを望んでいない』

『やれるとこまでやるさ、俺が瀕死になったら助けてくれ』

『わかったわ、もう少し寝て体力をつけて』

『ああそうする』


 千尋に起こされた、八時だった。


「死んだように眠ってたから起こしたわ」

「ありがとう、準備をしてくる」


 死んだじいさんが大切に保管してた木刀を持った、御神木から作られた木刀で化け物に対しては本物の刀より切れ味がいいらしい。


 二人で車に乗り寺まで走った。住職は強張った顔で迎えてくれた。

 俺は棺桶の正面と本堂の角に五芒星を描きそこに住職と千尋を入れて化け物から見えないように術をかけた。


「俺がやられたらとにかく逃げろ」


 と言い俺は棺桶の前で自分に見えなくする術をかけた。胡座をかき木刀を足の上に置いた。時間だけが過ぎていく。


 二時間が経過した頃頭だけの髑髏が集まりだした。それが数百程集まると合体し始め、巨大な一体の骸骨に形を変えた、四メートルはありそうだ、俺の仮設が当った。

 ちらりと千尋の方を見る、千尋は印を結び何か唱えている、住職は腰が抜けている。


 化け物が棺桶に手をかける。


「そこまでだ」


 化け物があたりを見回す。


「誰だ、姿を見せろ」


 キョロキョロ見ている。木刀を構え姿を見せた。


「貴様、姿を消して見ていたのか。だが俺が何者かわからんだろ」

「黙れがしゃどくろ」

「何故知っている、名前がわかったとしても俺には仏教や神道の術は効かないぞ、お前から喰ってやる」


 巨大な手が伸びてくる、手だけで二メートルはありそうだ。木刀で薙ぎ払うが形どっていた髑髏が崩れただけだ、再び髑髏が手を修復に集まって来る。だが切った場所はくっつかないようだ。


「むう、その剣は何だお前は何の術士だ?」

「陰陽師だ」

「なんだそれは」


 もう片方の腕が伸びてくる、サッと避け手首を切り落とす。


「貴様、これならどうだ」


 くっつかなくなった手首の先が無数の髑髏に分裂しこっちへ飛んでくる、髑髏が腕に噛み付き腕の肉を喰い千切った、血が飛び散るがすぐに血は止まり傷口が塞がっていく。何が起きたかわからなかった。

 指輪に質問する。


『お前が傷を治したのか?』

『違うわ、私が体内に混ざったことで自然治癒力が高まっているの、これくらいの傷ならすぐに戻るわ』


 俺は五芒星を描き式札を数枚投げる。


「餓鬼よ骨を喰らえ、急急如律令」


 式札が餓鬼四匹に変化し、飛び回っている髑髏を喰い始める。効いている、更に式札を飛ばし鬼を使役する。


「鬼よ骨を粉砕せよ、急急如律令」


 鬼が四体出て来て骨を叩き潰し始める。


「わしが殺られるはずはない」


 俺は跳躍し首を切り落としたが再び巨大な髑髏を形成する。しかし確実に効いている。

 更に式札を飛ばし、同じがしゃどくろを作り上げた。

 俺の作ったがしゃどくろが奴を襲う。


「何故俺がいるんだ? 貴様殺す」


 いきがっているがこちらが完全に有利になった、いける。

 再び跳躍し頭を真っ二つに切った。

 二つに割れた頭の中から黒い思念が浮かび上がる。五芒星を空中に描き黒い思念体に飛ばし貼り付ける。


「爆ぜろ」


 ボンと破裂した、思念体が消えていく。


「ギャー」


 がしゃどくろが悲鳴をあげ崩れ去る。式神が式札に戻り俺のところへ帰ってくる。がしゃどくろは塵になり消えた。

 終わった、俺は片膝をつき肩で大きく息をする。千尋が泣きながら駆け寄って来る。


「勝ったのね、すぐに手当をするわ傷口を見せて。あれ? 傷がない」

「大丈夫だ、後で説明する」


 がしゃどくろのいなくなった本堂で、住職と向き合って座る、俺の隣に千尋がすわる。


「坂井君、説明してもらってもいいかね?」

「あの化け物はがしゃどくろです」

「がしゃどくろ? 聞いたこともないしどこの文献にもそんな化け物は載っていないが」

「当然です、がしゃどくろは存在するはずのない化け物です」

「どういう事かね」

「がしゃどくろは二十世紀に入ってから誰か忘れましたが一人の人間が想像で書いた化け物です、それが各地に広まり人々が畏怖し、その思念が集まり具現化したのでしょう、がしゃどくろは埋葬されなかった者たちの怨念の集合体で人間を襲うとされてます。だからお経も御札も効果がないんです、俺の使う陰陽道がたまたま効いたので何とか勝てましたが」

「そうですか、また出てくる可能性は?」

「無いと思います」

「安心しました、それにしても君は凄い能力があるな、少し待っていて下さい」


 住職が席を外した、俺は出されたお茶を一気に飲み干す。


「だから私が動きを封じようとしたのに効かなかったのね」

「そういう事だ、だからお前には無理だと言ったんだ」

「そう、でも優斗がいてくれたおかげで倒せたわね。ところで傷はどうして無くなったのかしら? 指輪に治してもらったの?」

「いや、指輪が体内に入った事によって俺達の自然治癒力が高まっているらしい、あれくらいの傷ならすぐに塞がるそうだ」

「そうなんだ、知らなかったわ」


 住職が戻って来る、封筒を二つ持ってきて渡してくる。俺は素直に受け取った。


「それは被害に会ったご家族からのお祓い料です、坂井君が倒したので全部持って行きなさい。本当に助かったありがとう」

「今回は流石に骨が折れましたよ」

「家でゆっくりと休んでくだされ」

「わかりました、千尋帰ろうか」

「はい」


 俺たちはマンションに帰った、服はボロボロになったので捨てた。シャワーを浴びアイスコーヒーを飲んでようやく落ち着いた。


「あなた、今日は何割程度で戦ったの?」

「五割くらいかな、あの本堂で全力を出すと寺が壊れると思ったから」

「優斗には凄い力があるのね、敵わないわ」

「千尋にしか出来ないこともあるだろう。俺たちは二人で一つだ、助け合っていこう」

「わかったわ」

「でも死んだじいさんにはまだ勝てないな、じいさんは鬼を指一本で倒す力があった。俺はじいさんを抜きたい」


 突然目の前がクラっとした、またかと思い身を委ねた。


『やあ始めまして』


 目が一つ顔の中央に付いている。


『とうふ小僧か』

『よくわかったね、閻王から伝言だよ』

『話してみろ』


 とうふ小僧がノートを見ながら話す。


『がしゃどくろって化け物を倒した事に礼を言う、だって。がしゃどくろには閻王も手を焼いたらしいよ』

『がしゃどくろはどうなった?』


 ノートをめくる。


『六道の最下層の地獄道の無限地獄に落としたみたい。輪廻転生はさせないらしいよ』

『そうかわかった』


 とうふ小僧がまたノートをめくる。


『それよりもインチキ霊能者の木田静の処分はお兄さんが決めてくれって、ちなみに任せると言う選択肢はなしだって』

『欲深い正確だったから餓鬼道に落ちるんじゃないのか? 俺ならそうする』


 またノートをめくる。


『適切な判断だ褒めてつかわす、だって』

『お前ノートばかり読み上げてるが、見ながらしかわからないのか?』

『えへへ、たくさんの事は覚えきれないからね、これで終わりだよ』

『ちょっと待て閻魔様に伝言だ。俺が罪人を裁くのはこれっきりにして下さい、と言っておいてくれ』

 とうふ小僧は筆でメモをした。

『わかった閻王に伝えるね、じゃあ帰るね』


 暗闇が消えた。


「さっきの妖怪一つ目小僧じゃないの?」

「違う、手にとうふを乗せたお盆を持っていただろ? あれがとうふ小僧だ。とうふを持って街を徘徊するだけの無害な妖怪だ」

「そんなのがいるのね」

「姿を見ただけで死ぬ妖怪からとうふ小僧のように全く無害な妖怪まで種類が多い」

「妖怪はよくわからないわ、それと一つ質問があるんだけど最後の方であなたからもがしゃどくろが出てきたけどどうして?」

「式神の一つだが、自分の思い描いたものを自由に作り出せるんだ」

「そんなすごい術が使えるなんて流石だわ」

「今日は肉体的にも精神的にも疲れた、何もやる気が起きない」

「あれだけの壮絶な戦いだったもの、当然だわ、暫く家でゆっくりしましょう」

「ああ、そうさせてもらう」


 それから二日間たっぷり休養し気力も戻っていった。鈍い筋肉痛だけが残った。


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