五十七・大輔の恋の行方
もう一人の第三の目を生まれつき持っている永井大輔を倒し、仲間にしてから数日が過ぎた。
大輔は東北地方では結構有名な戦闘に特化した能力者らしい、向こうの地方では無敗の三つ目と呼ばれていたようだ、その大輔と私の決闘の噂はすぐに流れたらしく、第三の目を持つ者同士の激戦で、私の圧倒的な勝利で大輔が私の仲間になった、と言う内容を健治から聞いた。
この数日で私は商談を二つ済ませ、マンションの密集している地域と、繁華街の一角を手に入れ仕事は順調だった。じいさんに金はもう使い切れない程あるからもういい、と言ったが。
「まだまだじゃ国取り合戦みたいで面白いじゃろ」
と言われ、確かに地図が塗り潰されていくのは結構楽しいと思った。
健治も京都以外に新しく傘下に入った東京と大阪二つのグループの指導もきっちりこなしていた。東京三強の合併と言われるだけあり、基本はマスターしているらしく、健治も楽しんでいた。
そんなある日、戦いの日から姿を見せなかった大輔がやって来た、馬鹿だが礼儀正しくドアをノックして入って来る。
「どうした?」
「こっちに引っ越したいと思ってる」
「そうか、好きにするといい」
「お前は大地主と聞いたから、探すのを手伝ってくれ」
健治が鉄扇で大輔の頭を叩き。
「お前じゃなく会長と呼べと言っただろ」
「すまん」
「探すのは手伝ってやるが、金は持っているのか」
「金なら一応少し持ってる」
と通帳を見せられた、かなりの金額で遊んで暮らせるくらい持っていたのに驚いた。
「お前この金はどうした?」
「俺のじいさんも地主で、これを貰った」
「これだけあればどこにでも住めるぞ」
「そうなのか? 俺は金の事はわからん」
「お前は一応大金持ちと言う事だ」
「そうなのか」
「で、家は借りるのか買うのかどっちがいいんだ?」
「それで買えるなら買いたい、借りるのは嫌いだ」
「じゃあ、買うといい」
私は持ち物件のチラシを十枚程見せてやった。
「私の物件でよければこの中から選べ、半額にしてやる」
「いいのか?」
「構わん」
大輔がチラシを見始めた。
「大輔君もお昼一緒に食べる?」
「はい、優香さんお願いします」
「あら、覚えてくれてたの?」
「はい、三人共凄い美人なので覚えた」
「大輔見る目があるじゃない」
「千尋さんも千香さんも美人だ」
「ありがとう」
昼食のハンバーグも美味いといい、すぐに完食して、またチラシを見始め、三件で悩んでいるようだ。
「悩んでいるのか」
「はい、どうせ都会に住むなら景色のいいところがいい」
「お前の実家はどこだ?」
「秋田県だ」
「そうか秋田に比べると賑やかかもしれないが、そんな都会って程でもないぞ、都会と都会に挟まれた中規模都市だ」
「そうか」
「お前は仲間や友達、家族はどうなんだ?」
「仲間も友達もいない、親も俺の三つ目を怖がってじいさんに引き取られた」
「そうか、じゃあここにいるみんなを仲間や友達と思うがいい」
「いいのか?」
「私達は構わないわ」
「俺もです」
「ありがとう、初めての友達だ」
「早く住むところを決めろ」
「はい、ここがいいです」
「うちの隣の億ションか、わかった手続きはしてやる、引っ越しも手伝ってやろう、先に物件を下見してこい、健治ここの角部屋を見せてやってくれ」
「はい、大輔付いて来い」
「わかった」
二人がゲートを抜けた。
「あの子可哀相な人生を送って来たのね」
「そうだな、三つ目だから怖いと思われて来たんだろうな」
二人が帰ってきた。
「大輔どうだった?」
「気に入った、ここと同じくらい景色が良かった」
「じゃあ引っ越しだ、荷物は多いのか?」
「少ない、足りないのはこっちで買う」
「わかった、私も手伝ってやろう、じいさんの許可はもらってるんだろうな?」
「もらってる、独り立ちするのを喜んでた」
「それならいい、行くぞ」
ゲートを抜け大輔の実家に行った、健治達が引っ越しを手伝ってる間に私は大輔の祖父母に挨拶に行った。
「初めまして、坂井優斗と言います」
「大輔を倒したそうですね、あの子が負けるなんて初めてです」
「そうですか、大輔がうちの方に引っ越すのは大丈夫なんですか?」
「ええあの子が初めて自分で決めた事です」
「わかりました、私達が大輔の友人として見守ってやります」
「世間知らずな子ですが、よろしくお願いします」
「わかりました、では私は失礼します」
私は先に帰りマンションの手続きをしてやった、健治達も戻ってくる。
「健治にまだ仕事が残っている、役所の手続きや金の振り込みを教えてやってくれ」
「はい任せて下さい半額でいいのですね?」
「ああそうだ、十五時までに終わらせて戻って来い」
「はい、わかりました」
健治が大輔を連れて行った。
「あなたあの子の歓迎会をしてあげたら?」
「そうだな、用意は任せる」
暫くすると入金のメールが届いた、健治がしっかり教えたみたいだ。
十五時に健治と大輔戻って来た、全員でコーヒーをのみケーキを食べる。
「大輔、今夜お前の歓迎会をしてやる」
「そんなのをしてくれるのか?」
「腹を空かしておけ、十八時から始めるからそれまで自由にしていいぞ」
「特に用事はない」
「じゃあお前は髪を切れ、前髪で三つ目を隠してるつもりだろうが、バレバレだ」
「そうなのか、じゃあ切るが散髪屋で怖がられるから自分で切る」
「優香散髪してやってくれないか?」
「はい」
千尋が優香に雑誌を見せて髪型を決めていた、リビングの角でビニールを敷いて髪を短く切っている、十分程で長くも短くもないちょうどいい長さになった。
「優香さん、ありがとう」
「気にしなくてもいいわ」
「あんた結構男前じゃないの」
「千尋さん、恥ずかしいです」
結局大輔はそのまま帰らずうちにいた、鬼達が集まると、大輔が。
「化け物め退治してやる」
と言って身構えた。
「大輔、こいつらも仲間だ敵ではない」
「だが鬼だぞ」
「鬼だが仲間だ、座れ」
「主、この男は誰だ?」
「私達の新しい仲間だ、永井大輔と言う」
「新しい弟子なのか?」
「弟子ではないただの仲間だ」
「そうか、大輔我らは主の家来だ、よろしく頼むぞ」
「はい、よろしく」
歓迎会が始まると大輔はピザもフライドチキンも初めて食べると言う。
「こんな美味い物は食った事がない」
と言って初めて笑顔を見せた。
「大輔、普段からその笑顔でいなさい、じゃないと彼女も出来ないわよ」
「俺に彼女ですか? でも……」
「三つ目だからと言って落ち込んでてもどうにもならないでしょ、偏見を持たないいい子が見つかるわ」
「わかりました、なんか嬉しかったです」
「それでいいのよ」
「はい」
「後は殺気を消しなさい、殺気を振り撒いてるから人が寄り付かないのよ」
「わかりました」
その後、私達の五人の関係などを教えてやった。
「嫁が二人もいるなんて羨ましい」
「お前にもそのうち彼女が出来る」
「そうかなぁ、出来るといいな」
「心配するな」
「俺こんなに女と話したのは初めてだ」
「慣れろ、後お前暇なら暫く健治と一緒に行動するといい、ずっと家にいてもつまらないだろう」
「わかった、健治もそれでいいのか?」
「いいぞ、特にうちのグループの指導の時は大輔の力が必要になるかもしれなしな」
「わかった」
「お前は今までどうやって修行をしてきたんだ?」
「山で練習したり、実戦で鍛えた」
「そうか、健治今度こいつに瞑想とイメージトレーニングを教えてやってくれ」
「わかりました」
「そんなのに意味があるのか?」
「ああ強くなりたければ欠かせない事だ」
「わかった」
「じゃあ歓迎会はこれで終わりにしよう」
「今日は俺のためにありがとう」
大輔が頭を下げて涙をこぼした。
「泣くことはないこれから仲間なんだ」
「そうよ、仲間で友達よ」
「じいさんばあさん以外で優しくしてもらったのも初めてなんだ、会長に出会えて負けてよかったと思ってる、恥ずかしいから先に帰ります、ありがとうございました」
大輔が消えた、鬼達も帰って行った。
女三人がもらい泣きしていた。
「大輔君はずっと辛かったんでしょうね」
「そうだろう、あいつにとって三つ目はコンプレックスなのかもしれないな」
「みんな優しくしてあげましょう」
「そうですね」
「師範、どうすればいいのでしょうか?」
「普通に接してやるといい、それで十分だ」
「わかりました」
「師匠、あいつ初めて会長と呼びましたね」
「そう言えばそうだな」
片付けが終わると健治達も帰って行った。満腹で眠かったのでいつの間にかソファーで寝ていた、起きると千尋と優香が朝食を作っていた。
その日から大輔は言い付け通り、健治と行動するようになって、次第に笑顔を見せる事も増えて行った。健治もグループの指導の時に、大輔がいると教えやすくなったと言っていた、特に対戦形式で教える時に便利だそうだ。
健治が言うには、京都のグループで、一人の中山美香と言う女陰陽師が気のある素振りを見せているらしいが、それ以上は今のところ動きはないらしい、大輔は全く気付いていないみたいだ。
千尋は得意げに言った。
「だから言ったでしょ? 大輔は結構男前だし彼女が出来るのも時間の問題よ、多分女陰陽師の方から動くと思うから、黙って見てあげてちょうだい」
と言っていた、確かに大輔は男前だし筋肉もムキムキでモテる要素はある。私達は黙っていることにした。
大輔はちょくちょくうちに来て、優香に料理の作り方を習っていたが優香は言う。
「大輔君意外と料理上手いのよ、実家で暇だったから自分で作る事が多かったらしいわ、私は隠し味を教えるくらいで楽だわ」
と言っている、大輔の意外な一面だった。
一度大輔を連れて簡単な悪霊退治に行き、大輔がどうするのかをみんなで見ていたら、叩きつけて力でぶち壊すと言う荒業を見せられ、私達は笑いながら帰った事もある、流石戦闘特化方の能力者だ。
健治とも何度か対戦させたが、健治の方がいつも一枚上手だった、お互い良いライバルとして、仲良くしている。
「お前はこの街に来て明るくなったが、好きな子は出来たのか?」
「はい、一応います」
全員が食いついた。
「誰だ? この街の子か?」
「いえ、違います京都です」
「もしかして女陰陽師か?」
「はい、色白で目がくりっとした可愛い子なんです」
「名前はわかるのか?」
「中山美香って子です、いつも特訓の後で個別指導を頼まれているうちに好きになりました」
名前を聞いて私達はニヤッとした、健治が言っていた子で間違いない。
「デートにでも誘ったらどうだ?」
「恥ずかしくて出来ません」
「健治、連れて来い」
「はい」
「駄目ですこっ恥ずかしいです」
健治は黙って消えた。
「俺、帰ります」
「逃さん」
私は大輔を押さえつけた。
「会長離して下さい、話しなんか出来ないです、お願いします」
健治が女を連れて戻って来た、二人共真っ赤になっている。可愛い子だった。
「会長、お話があると聞いて来ましたが?」
「私じゃなく大輔だ」
暫く沈黙が続き駄目かなと思ったら、女が手紙を出してきて大輔に渡した。
「大輔さん、よかったら読んで下さい」
大輔は震える手で受け取ると、中身を出して読み始めた、読み終わると。
「美香さん俺もです、好きです」
「本当ですか?」
「はい、こんな三つ目でよければ」
「そんな事大した問題じゃありません」
みんなニヤニヤしながら聞いていた。
「ここじゃ話しにくいので、美香さんちょっと来て下さい」
と言い、二人が消えた。
千尋達が興奮して話している。
「まだ付き合うか決まったわけじゃない、大輔の報告があるまでおとなしくしておけ、あいつらにはあいつらのペースがある」
「わかったわ」
一時間程で二人が戻って来た。二人は真剣な表情で。
「会長、俺達付き合う事に決めました」
皆が拍手した。
「そうか、それはめでたい事だ、美香も本気なのか?」
「はい会長、私は本気でお付き合いしたいと決めました」
私は第三の目で見たが本気みたいだ、大輔の金目当てでもない。
「おめでとう、一緒に住むのか?」
「俺達はまだ交際を始めたばかりなので、まだそこまでは話していません」
「そうか、お前らのペースで付き合え」
「ありがとうございます」
「会長、陰陽師として失格でしょうか?」
「いや、愛があれば問題ない、愛は人間を強くする、胸を張って付き合うといい」
「ありがとうございます」
「美香は付き合った経験はあるのか?」
「いえ、初めてです」
「じゃあ初めて同士で徐々に慣れていくといい」
「はい、でも初めて同士でどうすればいいのかわかりません」
「私達が教えてあげるわ」
「確か千尋さんと優香さんでしたかしら?」
「そうよ、こっちは元紅葉の会の千香よ」
「はい、存じております」
「美香は思念はちゃんと飛ばせる?」
「はい、出来ます」
「じゃあ困ったらいつでも相談に乗るわ、友達になりましょう」
「友達なんていいのでしょうか? 会長の奥さんと妾さんなのに」
「そんなのは気にしなくていいわ」
「そうですわ、女同士仲良くしましょう」
「ありがとうございます」
「男は男同士で盛り上げてやろう、とりあえず仲良く付き合うといい」
「会長、俺こっ恥ずかしいです」
「恥ずかしがる事はない、後はお前ら同士でどうしたいのか決めろ、私からは以上だ」
「じゃあ俺は美香さんを送ってきます」
「ああ行って来い、そのままデートしてくればいい」
「とりあえず、いろいろ話し合って決めて行きます」
「それでいい」
ゲートを抜け二人が消えた。
「健治、美香はどこのグループだ?」
「五光です、山本のところです」
「そうか、上手く行けばいいな」
「未来予知はしないんですか?」
「もう見た、いつかはわからんが一緒に住んでいたが、未来は脆いもんだ当たるかはわからん、唯一確かなのは美香が金目当てでもなく本気で大輔の事を好きだって事だ」
「心を読んだのですね、それはよかった」
「健治も自分の事のように喜んでるな」
「そりゃ、ずっと一緒に行動して、師弟の絆が深まるように、大輔とも友情が芽生えますからね」
「そうか、わかった」
大輔が戻って来た。
「五光の山本にも報告して来ました」
「そうか、どうするんだ」
「美香さんはもう暫く五光にとどまるみたいです」
「お前らはどうするんだ?」
「とりあえず毎日合ってみる事にしました」
「せっかく掴んだ幸せなんだ、逃すなよ」
「はい、会長のおかげです」
大輔は恥ずかしいと言わなくなった、少し照れながら今夜は晩飯を一緒に食べます、と言いどこかに消えて行った。
出来れば幸せになって欲しいと考え、予知が当たる事を望んだ。