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五十四・収まった怒りと目競とうわん

 私の怒りが落ち着き、数日が過ぎていったが、あれから二人とは寝ていない、みんなは私の顔色を伺うだけで会話も少なかったが、千尋は千尋なりに家事をするようになった。


「全員私の顔色ばかり気にするんじゃない、これでは誰も楽しくないだろう」

「はい」


 優香だけが徐々に普通になっていった、私は優香のベッドで寝る事が増えた。

 私はある日の食後全員に言った。


「このままみんなが話そうともしないのなら私はせっかく許したのに意味がない、今週中に元に戻らなければ私は優香と二人で出ていく、千尋とも離婚、弟子も破門にする」


 と言って離婚届と破門の絶縁状をテーブルに叩きつけた、結婚指輪も千尋に投げつけ、そのまま優香の部屋に入って一人でコーヒーとデザートを食べた。

 ドアがノックされ開けると、健治と千佳が。


「明日から普通に接します、破門は絶対に嫌です、よろしくお願いします」


 と言って帰って行った、入れ替わりに優香が入ってきた。


「優斗、離婚届を突き出すのは流石にやりすぎではないですか? このままでは千尋の心が病んでしまいます」

「わかってる、しかしこのままでは私は帰って来た意味がない、千尋自身が殻を破かないと駄目だ」

「わかりました、私は千尋と少し話をしてきます」

「わかった」


 優香は夜中の二時になっても戻って来なかった。

 翌朝、起きても優香の姿はなかった、リビングに行くと、千尋が土下座をして待っていた、隣に優香が正座している。


「おはよう、頭を上げろ」


 千尋はゆっくりと頭をあげると、真剣な顔で話しかけてきた。


「あなた私に対してまだ愛はありますか?」

「なかったら戻っては来ていない」

「優香と同じくらいに愛されてますか?」

「もちろんだ、お前を愛してる」


 千尋は手に持った離婚届をその場で破り捨てた。


「私の愛は以前より大きいです、これで元通りの生活に戻して貰っていいですか?」

「わかった、これからも運命の二人として共に歩もうじゃないか」


 千尋はフラフラと立ち上がり、抱きついてキスをしてきた、そして私の結婚指輪も私の指に戻した。


「ありがとう、今日から心を入れ替えるわ、愛しています」

「私もだ」


 離れると久しぶりの笑顔を見せたが、急に座り倒れ込んだ。


「どうした?」

「緊張の糸が切れて力が入らないの」


 私は千尋を抱えてベッドに運んだ。


「少し寝ておけ、起きたら何事もなかったように普通に接してくれ」

「わかったわ、愛してます」


 そのまま眠ったようだ、寝室を出た。


「優香が相談に乗ってくれたおかげだ、ありがとう」

「私は少しアドバイスをしただけです、千尋は頑張りました」

「そうだな、お前も少し休め」

「私は平気です、朝ご飯の用意をします」

「フレンチトーストを食わせてくれ」

「わかりました」


 優香と二人で朝食を取り、コーヒーとデザートを食べた。


「優斗、怒ってた時の言動は本気だったのですか?」

「全部本気だ、お前を連れて二人で暮らそうと思っていた」

「やっぱり優斗の怒った時は怖いですね」

「少しずつ積もった怒りを爆発させるタイプだからな」

「私に不満はありますか?」

「全くない、感謝してるくらいだ」

「ありがとう、でも誰に対しても怒りが積もる前に注意してあげて下さい」

「なるべくそうするよ」

「でも、私と二人で暮らそうと思ってくれたのは凄く幸せです」

「愛してるからな」

「私も愛してます」

「しかし優香、よくやり直しの能力を使わなかったな」

「見守ろうと思っただけです、もし優斗がなかった事にする能力を使えば、それを戻せるのは私だけですから」

「よく私の言ったことを覚えてたな」

「私にとって優斗の言葉は絶対ですから」

「ありがとう、お前のそういうところも好きなんだ」


 健治と千佳が現れた。


「お早うございます、俺にとっても師匠の言葉は絶対です」

「私もです」

「お前ら聞いていたのか?」

「部屋に入ろうとした時に少し聞こえただけです」

「そうか、わかった」


 二人が絶縁状を目の前で破いた。


「今日からまたよろしくお願いします」

「ああよろしく頼むよ」

「千尋さんは?」

「今朝話をして仲直りした、徹夜の疲れと緊張の糸が切れて今は寝ている」

「よかったです、これで元通りですね」

「そうだ」

「師匠を怒らせると凄く怖い事がわかりました、どんな化け物より怖かったです」

「よく言われるよ」

「師匠怒りは溜め込まず、その場で言って下さい」

「私にもです」

「さっき優香にも言われた、出来るだけそうする」


 優香が全員分のコーヒーを運んできた、私が何か甘い物を頼もうとしたら、気付いたのかすぐにシュークリームを持って来た。雑談していると昼過ぎに千尋が起きてきた。


「みんなおはよう、もう大丈夫よ」


 三人が良かったと話している、千尋は私の近くに座り。


「あなた怒らせてしまってごめんなさい、これからはその場で注意して下さい」

「お前はその場で軽く言っても茶化すじゃないか」

「これからはちゃんと聞きます、あなたの言う事は絶対だから」

「わかった、今の言葉を忘れるなよ」

「はい」

「それでいい」

「優香、私から優斗を奪えるチャンスだったのに、どうしてしなかったの?」

「私は今のままで十分幸せです、それに千尋を悲しませたくないわ」

「優香ありがとう、何もかも全て優香に負けてるわ、私も頑張るわ」

「千尋には千尋のいいとこがあるわ」

「あなた、本気で優香と二人で暮らそうと思ったの?」

「ああ本気でそう考えた」

「今もそう思ってるの?」

「いや、私は今のままが一番いい」

「これからは、ちゃんとするから見捨てないで、私なりに頑張るから」

「わかった、この話はもう終わりだ」

「はい、でもあなたを怒らせるととてつもなく怖い事がわかったわ」

「じゃあ、本気で怒らせないようにしろ」

「はい」


 宝具が話しかけてきた。


『優斗を怒らせると本気で怖いわね』

『そうみたいだ』

『あなたが本気で能力を使おうとしたのがわかったわ』

『私に授かった能力だ、全てなかった事にするのも私が決める』

『私の本体の地蔵菩薩も恐れていたわ』

『そうか、もう大丈夫だと伝えてくれ』

『もう伝えたわ、私もあなたを怒らせないようにするわ』

『お前に怒る事はない』

『わかったわ、閻王が来るわ』


 宝具が沈黙した。


「閻王が来るそうだ」


 言った瞬間に目の前が闇に包まれた。


『閻王何かありましたか?』

『何かありましたかではない、お前の能力は我々を消し去る事も出来るのじゃ、流石にわしもビビった』

『閻王もやはりこの力には恐れるのですね』

『当然だ、千尋達よわしも怖かった、以後気を付けろ』

『すいませんでした、私のせいです』

『わかっているなら良い、坂井優斗の力はとてつもなく大きいのだ、みんなも注意するべきだ』

『わかりました』

『用事は済んだ』


 視界が戻る。


「兄貴、閻王様が恐れるなんて凄いです」

「私達もよくわかったわ」

「それだけの力があると言うことだ、私の怖さを知りたいのならお前らの宝具に聞け」

「はい」


 十五時になるとコーヒーとロールケーキを優香が用意した。食べ足りないと思ったら、優香がまた出してくれた。


「優香また宝具に聞いて先回りしたのか?」

「いいえ、見ているだけでわかります、以前優斗に先回りして聞くのは禁止されましたから、それはしていませんわ」

「そうかだったらいい、お前はよく気が利くからありがたい」

「ありがとうございます」

「優香どうやったらわかるの? 教えて」

「これは術でも何でもないので教えるのは難しいです、長年生きてると自然に身についた事ですから」

「そう、残念だわ」

「千佳、お前の気功波は健治に教わりどの程度になった?」

「見ていただけますか?」

「見てやろう、いつもの裏山に行くぞ」

「はい」


 全員付いて来た、私は裏山の麓で手頃な山を見つけた。


「この山を潰してみろ」

「はい」


 千佳が気を練り手に気功波を作り上げる、それを山に投げつける、山が破裂し崩れ落ちた。


「上出来だ、健治と同じレベルまで成長したな、健治の教え方が上手くて千佳にも素質があったと言う事だ」

「ありがとうございます」


 千佳が疲れた顔をしている。


「丹田で気を練るのは苦手か?」

「いえ、そんな事はないです」

「気を練ったら、すぐに気を補充しないから疲れるんだ」

「わかりました」


 千佳が元気になった。


「これで続けて何発も打てるようになる」

「ご指導ありがとうございます」

「千尋と優香はどれくらい出来るんだ」

「私達も同じくらいの威力です」

「そうか、全員気を練って使ったらすぐに気を補充する訓練をしておけ」

「「はい」」

「では帰ろう」


 マンションに戻りコーヒーの残りを飲んでいると、優香と千尋が食事当番の話しをしている、二人で作る事になったようだ。

 二人が作った夕飯を食べ、美味しかったと千尋を褒めてやった。


「うちの夕飯は早くないか? 私は十八時でいいと思うんだが」

「私は構わないですが」


 全員が賛成してくれた。


「無理に私に合わせる必要はないぞ」

「無理はしてないわ」

「俺達もです」

「だったらいい」


 コーヒータイムになった、ロールケーキがテーブルに置かれたので食べていると依頼用のスマホが鳴った、千尋が出ようとしたが私が取った、その方が早いだろうと思ったからだ、電話に出ると老人の声がし少しやり取りして切った。


「私が聞くほうが早いと思ったが、やはり次からは千尋が取ってくれ」

「わかったわ、で依頼だったの?」

「ああ簡単な依頼だ、二件あるがお前らに任せる神戸の寺からだ、すぐに行くと言ったから行こうか」

「はい」


 装束に着替え、ゲートを抜け本堂に降り立つ、住職と名刺交換をして座った。


「先ほど伺いましたが髑髏の塊が睨み付けて来るのと大声で脅かす鬼の件ですね?」

「ええその通りです、無数の髑髏が集まり一つの大きな髑髏になり、私を睨み付けて来るのです、もう一件は大声で脅かして来ます、はぐれ陰陽師様に心当たりはありますか?」

「私はわかりましたが今夜は弟子に任せるつもりです、健治達今の話でわかったか?」

「師匠わかりませんでした」

「私達もわからないわ」

「住職と四人に教えよう髑髏は目競だ、鬼の方はうわんと言う、術を使わず倒してみろ」

「術を使わずにですか?」

「そうだ、では住職髑髏のところへ案内をお願いします」

「はい、こちらです」


 全員で付いて行く。


「ここが髑髏が出る場所です」

「わかりました」


 私は何もないところに向かい叫んだ。


「目競よ姿を現せ」


 無数の髑髏が姿を現した、目玉は付いている、それが一つの巨大な髑髏になって行く。


「お前ら順に試せ、千尋、優香、千佳、健治の順番だ」


 千尋と優香はあっさり諦めた、千佳はわかっているのか髑髏を睨みつけるが駄目だったようだ、健治も睨みつけるが髑髏は消えなかった。


「師匠、お願いします」

「わかった、よく見ておけ」


 私は髑髏を睨みつける、髑髏が崩れ消滅していった。


「住職退治しました、鬼のところに行きましょう」

「はい」


 少し寺の裏に回り。


「あそこの塀から現れます」

「うわんよ姿を現せ」


 お歯黒を付けた鬼が出て来た一人ずつ近づく『うわん』と脅かして来るが、どうしていいのかわからないようだ。


「師匠、すいません」


 私がうわんに近づく、うわんと脅かして来る、私はその声より大きく『うわん』と脅かしてやった、うわんが消滅した。

 本堂に戻り住職と話す。


「住職、無事に退治しました、目競というのはにらめっこの事です、にらめっこの語源となった化け物です、眼力が強いと簡単に勝てます。うわんは大声で怯んだ相手を食べるとも言われてますが、こちらが逆に脅かすと消えます」

「そうでしたか、しかし流石にはぐれ陰陽師様は物知りですな、もうあの二体は出て来ませんか?」

「もうここには現れないでしょう、では我々はこれで帰ります」

「これは依頼料です」


 私が受け取らなかったので千尋が受け取った、ゲートを抜けマンションに帰った。


「師匠流石です」

「健治と千佳は目競を知っていたようだが、眼力が弱かったな」

「師範、すいません」

「ちょっと眼力が足りなかっただけだ、うわんについては誰も知らないようだったな、術や能力ばかり鍛えないで化け物の事ももっと勉強しなさい」

「わかりました」


 四人が頭を下げた、私は着替えてソファーに座った、残ったコーヒーを飲みロールケーキに手を伸ばす、アイスコーヒーが置かれたちょうど飲みたかったところだ。


「ありがとう、ちょうど頼もうと思っていたところだ」

「そろそろアイスコーヒーが美味しい季節になりましたから」

「師匠は何で化け物についてやたらと詳しいのですか?」

「私のじいさんから教わったし、幼少期の頃からその手の本を読み漁ったからな、今ならネットでも探せるから見て勉強するといい」

「わかりました」

「私も頑張ります」

「師匠は装束を着ると人格まで変わりますが何故です?」

「私にもわからん、いつの間にかそうなっていた」

「俺もあんな風になりたいです」

「私をよく観察するといい、私自身もわからないから教えようがない」

「わかりました」


 暫くすると健治と千佳は帰って行った。

 風呂に行くと優香が付いて来たので一緒に風呂に入った、風呂から上がるとネットで化け物の検索をして時間を潰した。何回も見てるのでネットの情報は頭に入っているが、たまに新しいページが出るので、それを見て回る、二人共もう部屋に入ったようだ、私もコーヒーを飲み干し部屋に入った。


「あら、毎日来てくださるのですね」

「最近の癖でお前の部屋に来てしまったようだ、ずっとここで寝ていたからな」


 私は優香のベッドに横になった、優香は裸になり私の服を脱がし、抱き合った。


「優香にしか言えないが、私と千尋が出会わなければ私はお前と結婚してたと思う、お前はよく働くし気遣いも完璧だ、それに体の相性も抜群だし、私の言う事は何でも受け入れてくれる」

「ありがとう、その言葉だけで十分幸せですわ、私も愛してなければこんな事はしませんし一緒に住んだりしてません、それに二人で暮らそうと思ってくれたのは、生涯忘れる事はないです、優斗だけを愛し続けます」

「私もお前を心から愛してる」

「ありがとうございます、私もです」


 眠気が襲って来た、目を閉じると優香が明かりを消し、私の横で寝転んだ、私はそのまま深い眠りに付いた。


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