四十四・はぐれ陰陽師グループ発足
健治の急速な成長を見て、鵺退治も終わってから三日が過ぎた。
鵺退治の噂もすぐに広まり、はぐれ陰陽師は無敗の陰陽師とか今世紀最強の陰陽師などと言われ、鵺退治では京都中の陰陽師百人以上が集まっても勝てなかった鵺を一撃で倒したと噂されている。
まあそういう噂なら広まった方が、玉藻前退治の協力者が増え出して来たので問題はないが、弟子入りの申し出が多く断るのに時間がかかった。
健治の噂も全国に広まり、はぐれ陰陽師の唯一の弟子とか、はぐれ陰陽師の修行で一気に強くなったとか、はぐれ陰陽師のサポートの出来る唯一の陰陽師だ、と言われているみたいだ。
当の本人の健治は気にしてる様子はないみたいだ。今日もやって来た。
「優斗さん、化け物を破裂させるのに式札を使わないで鉄扇一つで破裂させるのはどうするんですか?」
「この前出した課題のように心の中で爆ぜろと念じればいい」
「じゃあ練習しておきます」
「で、この前の相談って何だ?」
「この前うちの集団以外に七つの集団がいたのは覚えてますか?」
「覚えている、名刺交換もしたからな」
「その集団が優斗さんの傘下に入りたいと言っています、もちろんうちの会もですが」
「面倒くさいのは嫌だぞ、私は仕事もあるんだからな」
「それでもいいそうです」
「少し考えるから時間をくれ」
「はいそう言うだろうと思って全集団には待つように言っておきました」
「そうか」
俺は目を閉じ、鉄扇で手を打ちながら考えた、この先何かある事を考えると配下に置いていてもデメリットはないが、俺達三人は宿命の三人としても役割もあるしどうすればいいんだろうか? 宝具に問いかける。
『今の話どう思う?』
『別にいいんじゃない?』
『簡単に言うなよ、私達三人の使命もあるんだぞ』
『それも考えて言ってるのよ』
『だが面倒な事は嫌だぞ』
『じゃあ神野グループのように名前だけ貸してあげればいいんじゃないの?』
『そうかそれなら煩わしくないな』
『でしょ?』
『わかったありがとう』
目を開けた。
「何か思いついた顔ですね」
「ああ私は仕事で神野グループと言うところの副会長をしている、神野グループと言っても実体はないグループだ、名前を貸しているだけのグループだ」
「優斗さんは仕事でも力があるんですね」
「まあな、でそれと同じようなグループなら作ってもいいがどうだ? もちろん各々が今まで通り自由に動いてもいいし私に金を渡したりしなくていい」
「それでいいと思います」
「はぐれ陰陽師グループでみんなが納得するならいいが、聞いておいてくれ」
「わかりました」
「後はお前に任せる、言っておくが副会長はお前だぞそれが条件だ、後グループに金儲けや名誉のため入ろうとする奴は切ってくれ」
「はいわかりました、ではそれで進めさせてもらいます」
「千尋と優香も意義はないか?」
「私は意義はないわ」
「私もその条件なら反対はしません」
「健治そういう事だ」
優香がシュークリームとプリンを並べた。
「俺も食べていいんですか?」
「いいぞ、美味いぞ」
健治がすぐに食べ終え。
「両方共凄く美味かったです」
「優香の手作りだからな」
「そうなんですかありがとうございます、では帰って話を通して来ます」
ゲートを開き健治が消えて行った。少し仮眠を取った、起きるとメールチェックをして夕飯を食べる、また俺の好きなステーキだった切らずにかぶりつく、満足して食事を終えた、ここからが俺の好きな時間帯だ、コーヒーを飲みなが三人で話をする。
「優香の作ってくれた装束は本当に軽くて丈夫だが、部屋でくつろぐには少し派手だな」
「そう言うと思ってました、着物を作りましょうか?」
「悪いな頼むよ」
「もう作ろうと思って用意はしています、ちょっと待ってて下さい」
優香は自室から下ごしらえした着物を持ってきて縫い始めた、一時間もかからず四着の和服を作った、茶色と紺色二着と派手過ぎない龍ガラの着物が二着だ、袴も三着ある。
「出来ました、茶色のは寝巻き用です」
「ありがとう、これもこの前の生地で作ったのか?」
「そうです霊力の篭った着物です、軽くて多少の事では破れないですし、刀も拳銃の弾丸も弾きますし、シワも付きません」
早速、龍ガラの着物を着てみた。
「これはいい物だ更に動きやすい、気に入ったありがとう」
「羽織も作ってますのでお渡しします」
「ありがとう、洋服より着心地がいいぞ」
「喜んで貰えて良かったです、とても似合ってます」
「本当に似合ってるわ」
「そうか、これで出歩くのも楽になった、陰陽師の装束は派手だからな、私くらいの若者に着物姿は珍しいだろうが普段着にするよ」
「用意しててよかったです」
「足袋と草履は消耗品だから普通に買うよ」
「わかりました」
その夜は優香を抱いた。
朝起きて食事を済ませると、ネットで和服の専門店を探し三人で出掛けた、足にピッタリで頑丈そうなな足袋と草履を二つずつ購入した、宝具が話しかけてくる。
『足袋と草履も霊酒に浸すといいわ、頑丈で霊力の宿った物になるわよ』
二人にそれを言うと。
「早速試しましょ」
「宝具が言うのでしたら間違いないですね」
俺はバケツに足袋と草履を入れ、霊酒を注いだ、一時間漬けてから乾かす。
待ってる間に健治が来た。
「優斗さんその着物はどうしたんです?」
「優香の手作りだ」
「そう言えば陰陽師の装束も変わってましたけど優香さんの手作りですか?」
「そうだ、特殊な生地と糸で作って貰った」
「優香さんは器用なんですね」
「そうだなすぐに出来上がった、で今日はどうした?」
「昨日の件ですが各グループがそれでいいと言ってくれました」
「そうか、手間をかけさせたな」
「副会長ですからね、何でもやりますよ。続きなんですが、名刺にはぐれ陰陽師の名を入れてもいいか聞いてくれと言われましたが、いいですか?」
「構わんぞなんて入れるんだ?」
「意見が分かれまして、はぐれ陰陽師傘下か公認かグループどれがいいか聞いてくれとの事です」
「公認は少し違うな傘下かグループのどちらかだな」
「傘下の方がいいんじゃない?」
「私もそれがいいと思います」
「わかったでははぐれ陰陽師傘下にしよう」
「わかりました、それと炸裂の術ですが印も呪文も心の中で唱え、手を使わずに出来るようになりました、まだ炸裂の術だけですが」
「相変わらず飲み込みが早いな、じゃあ少しずつでいいから他の術も全部出来るように頑張れ、出来たら正式な唯一の弟子と認める」
「わかりました、ありがとうございます」
「私が今まで教えた事は全部お前のところだけじゃなく、傘下の連中にも教えていいぞ全部出来るようになる奴はいないと思うがな」
「わかりました、では早速各グループに報告しに行って来ます」
「わかった」
「あの子お昼くらい食べて行ったらいいのに忙しそうね」
「もうそんな時間だったのか」
優香がハヤシライスを出してくれた、久しぶりのハヤシライスは美味かった。
「作り過ぎたので今夜もハヤシライスです」
「私は構わんぞ、おかわりをくれ」
「はい」
二杯目も平らげると腹がいっぱいだった。
「デザートはどうします?」
「食べる」
「あなたまだ食べるの? 凄い食欲ね」
「甘いものは別腹っていうだろう」
「まあね」
シュークリームとプリンを食べ満足した。
「あなた優香と話してたんだけど、毎晩どっちかを抱いてるでしょ? でなんで私達が気を失うまで続くけられるの?」
「お前らの弱いところは把握してるからな、二人共気を失うだけじゃなく白目を剥いてよだれを垂らして痙攣してるぞ」
「えっ、そこまで? そんな姿を見られるのは恥ずかしいわ」
「ブサイクじゃないですか?」
「恥ずかしがる事はない、それにブサイクじゃないぞ、初めて見た時は驚いたが」
「私達が気付いた時に足腰が立たない理由がわかったわ、性欲が強いのね」
「私よりお前らの性欲の方が強いぞ、何度も誘ってくるからそれに答えてたら勝手に気を失ってるんだ」
俺はスマホの二人の写真を見せてやった。
「やだ、こんな表情なの?」
「私恥ずかしいです、だらしないです」
「優香は八百年の間に何人かの夫がいたんだろ? 慣れてるんじゃないのか?」
「気持ちいいと思ったのは八百年の間で優斗ただ一人だけです」
「それは光栄だな」
「優香逆襲する方法を考えましょ、私達だけそんな姿を見られるのは恥ずかしいわ」
「そうですね、考えましょう」
「そういう話は私に聞こえないとこでやってくれ、健治がもうすぐ来る」
「わかったわ」
「飲み物の用意をしておきます」
五分程で健治が来た。
「会長、通達終わりました」
「お前は会長と呼ばくていい、これまで通りで構わん」
「では優斗さん、各グループの代表が改めて顔合わせしたいそうですが」
「いつでもいいぞ」
「今日はどうですか?」
「いいぞ」
「じゃあ報告に行って来ます」
「ちょっと待て、お前は特定の人に絞って思念を送れないのか?」
「難しいです、優斗さんのように全国の霊能者だけに送るようには出来ません」
「出来る筈だ、いちいち駆け回る必要はないぞ、とりあえずその八人の顔を思い浮かべて思念を送ってみろ」
「はい」
健治が集中している、俺は額の目で様子を見るが出来たみたいだ。
「何とか出来たようですが、凄く疲れます」
「慣れれば簡単だ、でどうだった?」
「十五時にうちの広間に集まるようにしておきました」
「わかった、思念の練習は私達三人に送って練習するといい」
「はい」
「まだ少し時間があるようだな、着替えておこう」
俺は陰陽師の装束に着替えた、健治はプリンとシュークリーム食べている、俺は二つ持っている名刺入れのはぐれ陰陽師用の名刺入れを用意し、健治を連れて名刺を作りに行った、健治の分も作ってやった。
俺のははぐれ陰陽師会長坂井優斗、健治にははぐれ陰陽師副会長佐藤健治だ、健治は喜んでいた。マンションに戻る。
「千尋と優香も一緒に来るか?」
「いいの? 行くわ」
「私も同席します」
十四時半だったが早めに行くことにした、ゲートを抜け四人で広間に出るともう全員が集まってお互い名刺交換をしていた。四十代半ばから老人まで様々だ。
「待たせてしまったかな」
「会長我々も今来たとこです」
「みんなも座ってくれ、足は崩してもいい」
「「はい」」
と言って全員が座った、健治は俺の横に座り千尋と優香は反対側に並んで座った。
「まず始めに言っておくが私は口が悪い、歳は関係なく話すがいいか?」
「会長、私達の世界では力の強い方が上なんです、年功序列ではないので気にしないで下さい」
「わかった、そうさせて貰おう」
全員が順番に新しく『はぐれ陰陽師傘下』の名刺を渡して来たので、俺と健治も作りたての名刺を配った。全員の名刺交換を終えると第三の目を開いて全員の様子を見る。
「神の目を持ってらっしゃる」
「第三の目だ」
とみんな驚いていた。
「悪いが今みなの心を読ませて貰った、邪な考えは持ってはいないようだ、安心したが私の傘下だ、法外な報酬を受け取ったり能力を悪用すれば切っていく」
全員が頷いた。
「すでに健治から聞いていると思うが、各グループは今まで通りに自由に行動してもらっていいが、何かがあった場合は手伝ってもらうがいいのか?」
「構いません」
「わかった、平沢のじいさんここでは健治と立場が変わってしまうが構わないのか?」
「ええ実力は健治の方がありますし、会長と副会長に従います」」
「わかった、私からは以上だが何かあれば聞いてくれ」
「会長はいつもそこのお嬢さんと三人で動いているようですが、何故なのですか」
「こっちの千尋は嫁で、もう一人の優香は妾だ、二人は日本でも一位二位を争う霊能者だからサポートをしてもらっている、副会長の健治の数十倍以上に強い」
千尋と優香が挨拶をした。
「わかりました、失礼しました」
「会長の強さは以前から噂で聞いてますが、噂は本当なんでしょうか?」
「本当だ、だがまだ百パーセントの力は出した事がない、鵺退治でも一割しか力を出していない」
みながざわめいた。
「まあそのうちわかると思う、噂だけでは伝わらないと思うからな」
「わかりました」
「何かあれば副会長なり私に思念を送ってもらっていい」
「時間を止める能力を持ってると聞きましたが本当なんでしょうか?」
「本当だ、何分止めれるかは試した事はないが今の処五分程は止められるみたいだ」
「では第三の目では何が出来るのですか?」
「この世のありとあらゆる物が見通せるし、未来予知もできるが未来とは脆いものだから予知が外れる事もある、別の能力で過去を改変させる事も出来る、これらの事は信じられないだろうがいずれわかる時が来るだろう」
健治が話し出す。
「みなさん質問攻めでは優斗さんが疲れるので今日はこの辺りにしましょう」
みながわかりましたと言ったので、俺も立ち上がった。
「では顔合わせも終わった事だし、私は帰る事にする」
「ありがとうございました」
全員の言葉を聞いてゲートを抜けマンションに戻った。
「疲れた、優香甘いものを頼む」
「はい」
シュークリームとチーズケーキがテーブルに置かれた、コーヒーも置かれた。
「チーズケーキも手作りなのか?」
「そうです」
「それにしても今日のあなたはかっこよかったわ、年上相手にあそこまで言えるなんて凄いわ」
「私も感心しました、これでグループの結束力も強まると思います」
「そうだったらいいな」
俺は着物に着替えチーズケーキに手を伸ばした。
「あなたみんなの力は計れたの?」
「ああみんな化け物はあまり相手にしたことは少なそうだ、主に悪霊退治をしているみたいだった」
「そんなので大丈夫なの?」
「健治が指導して多少は強くなるだろう、しかしこのチーズケーキ美味いな、千尋も食った事あるのか?」
「出来たてを試食したわ、美味しかったわ」
健治が思念を送って来た。
『優斗さん達三人に送ってますが、聞こえますか』
『ああ聞こえている』
『私もよ』
『私にも聞こえています』
『良かった、今さっきまで全員が話してましたが皆さんが噂は本当だったって驚いていました、それと傘下に入れて喜んでました』
『そうか、だったらよかった』
『第三の目を見せた事が良かったみたいですよ、あれで皆さんが信じたみたいです』
『そうか』
『皆さんが会長は普段どんな仕事をしてるのかと聞かれたので、正直に大地主で豪華な家に住んでいるって答えましたが、よかったですか?』
『大丈夫だ、いずれわかる事だ』
『そうですね、これではぐれ陰陽師グループが正式に発足出来ましたね』
『そうだな、お前の指導で全員が少しでも力を付けてくれれば問題ない』
『わかりました、要件はこれだけです』
『わかった』
「健治はよく働くわね」
「そうだな、労ってやらないといけないな」
「健治君は以前よりいきいきとしています、彼なりに嬉しいのだと思います」
「そうか、では正式に弟子と認めてやるか」
「それがいいわ、健治なら私はいいわ」
「私も同じ意見です」
「わかった、今度伝えてやろう」
この日はこれ以上何もなく過ぎて行った。俺が誰かとつるむなんて予想もしていなかった事だ、これで良かったのだろうか? こんど宝具に聞いてみよう。今夜は千尋を抱く事にしてベッドに誘った。