三十一・結婚
見上げ入道を退治してから数日が経った、平和な日常を送っている。
なんとなく名刺を整理していた時に気が付いた事があった、化け物退治の時に使う名刺が変わっている。超常現象相談所だったのがはぐれ陰陽師になっていて、助手坂井優斗だった箇所は陰陽師坂井優斗に変わっていた。
依頼は神社やお寺で解決できなかった方のみ受け付けますの言葉はそのままだった。
「千尋、名刺いつの間に変えたんだ?」
「今頃気付いたの? もうかなり前に変えたのよ」
「お前の名刺を見せてくれ」
「いいわよ」
一枚渡された、千尋が所長だったのが助手になっていた。
「普段見てなかったから気付かなかったよ」
「あなたでもそういうところがあるのね」
「優香には作ってやらないのか?」
「作ろうと思ったけど優香がいらないって言うから作ってないわ」
「優香いらないのか?」
「ええ、私はいらないですわ」
「それならいいが」
はぐれ陰陽師という名称が広まったのが納得出来た。
「ちなみに昔渡した名刺は新しい名刺と取り替えておいたわ」
「これまでの神社や寺全部にか?」
「そうよ」
「今度から変える時は言ってくれ」
「わかったわ、今の処変える予定はないわ」
「わかった」
名刺をしまいコーヒーを飲んだ、千尋も優香ももう冬物に近い服装になっている、前の休みの日に買い物に付き合わされたのだ。
気を取り直し送られてくるメールに目を通し始めた、もう仕事には慣れたので暇な時間がかなりある。じいさんには暇なのも仕事が順調な証拠だ、空き時間は自由に過ごすといいと言われているので、自然と三人で会話する時間も増えた。
更に時間を有効活用するためにパソコンに送られたメールをスマホで受け取れるように設定した。これで昼間出掛けてもスマホで対応出来るので気兼ねなしに出掛けられる。
それを千尋と優香に伝えた、二人共喜んでくれた。
「早速自由を満喫しよう、パフェかドーナツかクレープでも食べに行こう」
「私はどれでもいいわよ」
「じゃあ優香が決めてくれ」
優香が真剣に考えだしたので提案した。
「じゃあパフェを食べてドーナツは持って帰ろう家でなら好きな時に食べられる」
「それがいいです」
「じゃあ行こうか」
ゲートを抜けパフェを食べに行った、俺は前と同じ生クリームたっぷりなパフェを頼んだ、千尋はバナナパフェ、優香は端から選んだ。全部制覇すると言ったのを実行しているようだ。もう外のテーブルでは少し風が冷たいので店内で食べた。
次にドーナツを買いに行った、優香はドーナツも全部制覇したいらしい、俺と千尋は三つずつ選び優香はまた端から三つ頼んで持ち帰った、早速一つ食べる優香も一つ食べている。
「あなた達パフェの後ですぐにそんなに食べれるわね」
と千尋は呆れている。
「私は甘いものならいくらでも食べられそうです」
優香は機嫌が良かった。俺は食べ終えると虫歯にならないように浄化の術をかけた。
霊酒を飲みじいさんの家に行った。じいさんも暇そうにしている。
「どうしたのかね?」
「俺前に株券を貰ったけど、株主総会とかいつあるの?」
「ないぞ、あれは単に趣味で作ったようなものじゃ」
「そうか安心した」
「わしは神野グループを作ったがグループと言っても名称だけだ、だからわしもお前も会長副会長だがそれもあまり気にせんでいい、わしとお前は単なる個人の地主と同じだ、個人経営者と思っておけばいい」
「そうか煩わしい事がなくてホッとしたよ」
「わしは税金対策のために会社をいくつか作ったがそれも各会社に任せてある」
「そうなんだ、前みたいな集まりがちょこちょこあるのかなと思ってたんだけどそれもほとんど無いと思っててもいいんだな?」
「ああ気にするな、集まりは一応年に二回くらいしてるが大した話もしておらん」
「わかった」
「ところでお前達はいつ結婚するんだ?」
「明日が俺の誕生日だ、だから明日プロポーズしようと考えてる。」
「そうか明日か楽しみじゃのう、いい報告を待ってるぞ」
「ありがとう、聞きたいことも聞けたし帰るよ」
「ああ、また来なさい」
「わかった」
自宅に戻った。明日は俺の誕生日だプロポーズするなら覚えやすい明日にした方がいいだろう、優香にも指輪を買ってやった方がいいのか悩んだ。
ネットで調べても賛否両論で意見が違う。
とりあえず見に行ってみよう、ネットで調べた店に行ってみた端から順に見ていく。
「彼女へのプレゼントですか? 学生様ですか?」
店員が声をかけてくる俺は名刺を見せた。
「神野グループの副会長様でしたか、失礼しました」
俺は聞きたい事を聞き指輪を購入し自宅へ帰った。見つからないよう金庫に隠した。
二人共俺の誕生日の話題は出さない、その方が都合は良かった。何事もなく時間が過ぎていき夕飯を食べ寝る時間まで話をして優香は帰って行った、俺達もベッドに入り会話をしていた。
零時を過ぎたので俺は千尋をリビングに連れ出し指輪の箱を開いた。
「千尋、俺と結婚してくれ」
とシンプルに言った、控えめなダイヤの指輪だが結構高かった。千尋は両手を口に当て泣き出しそうになりながらも頷いた。
「はい、ふつつか者ですがよろしくお願いします」
と答えてくれた。
千尋も箱を取り出し。
「誕生日おめでとう、こんなのしか選べなかったけど受け取って」
箱を開けると高級そうな腕時計が入っていた。
「ありがとう大切にするよ」
二人で抱き合った。暫くして離れる。
「優香にも何か買ってあげて」
「もう買ってある」
「じゃあ渡してきてあげて」
「わかった行ってくる」
と言い優香の部屋に行った。
「まだ起きてたのか」
「はい、優斗さん誕生日おめでとうございます」
と言ってテーブルの上の小さな袋を渡してくれた、開けると俺が以前優香に渡したのと同じネックレスが入っていた。
「ありがとう、俺からもプレゼントがあるんだ」
「私にも?」
俺は指輪の箱を開けた。
「一生俺の側にいてくれ、籍は入れられないけど結婚指輪みたいな物だ」
優香はポロポロ涙を流した。
「一生お側にいます」
と言い受け取ってくれた。
「どの指にはめればいいんでしょうか?」
「結婚指輪のようなものだからここだ」
と言い左手の薬指にはめてやった。シンプルだが小さなダイヤが埋め込まれてあり、キラキラ輝いている。
「式は挙げられないけど今度記念撮影は撮ろう」
「はい、ありがとうございます」
「今夜はこれだけだ、部屋に戻るよ」
「わかりました、優斗さん愛してます」
「俺も優香を愛してる」
と言い部屋に戻った。千尋は泣きながら箱を持ったまま寝ていた、俺もベッドに入り眠った。
朝起きると千尋はもう起きていた。
「あなたせっかくだし今日籍を入れない?」
「別に構わないが式と一緒じゃなくていいのか?」
「式なんていつでもいいじゃない、重要なのは籍の方よ、あなたの誕生日なんだし忘れなくていいと思うの」
「わかった仏滅じゃなければいい」
「今日は大安吉日よ」
「だったら俺は構わないぞ」
リビングに行くと優香がもう朝食の準備をしていた、食事をしながら二人が指輪を見せあってる、嬉しそうで何よりだ。
コーヒーを飲んでると。
「あなた、時間が勿体無いわ朝一で役所に行きましょう」
「わかったよ」
九時になると千尋と二人で役所へ行き婚姻届を出した、受付の人が。
『ご結婚おめでとうございます』
と言ってくれた。
一旦マンションに帰ると。
「おじいちゃんとお父様達にも報告に行きましょう」
「わかったけど急かすな、じいさん達にも都合があるだろう、電話で聞いてからだ」
「わかった」
俺はじいさんにいい報告があると伝えると一時間後に来なさいと言われ電話を切った。
優香にフレンチトーストを作って貰い食べてコーヒーを飲むと約束の時間になった。
「そろそろ行くぞ」
「わかった、優香も一緒に行きましょう」
「お邪魔じゃないのですか?」
「優香も指輪を貰ったんだから報告よ」
「わかりました」
じいさんの家に行くとじいさんとばあさんと親父達もいた。
「親父仕事は?」
「竜之助さんに呼ばれたから飛んできた」
「そんな事よりいい報告を早く聞かせてくれんか?」
「わかった、じいさんと親父、今日千尋にプロポーズしてさっき籍も入れてきた」
「もう籍まで入れたのか、めでたいのう今日からは坂井千尋じゃな」
「そうよ、おじいちゃん」
と言って指輪をみんなに見せた。
「そうか、よかったのう。式はいつ挙げるんだ?」
「まあ近い内に挙げようとは思っている」
「わかった、人を呼んで豪華にするのか身内だけでするのは決めておるのか」
「俺は身内のみでしようと考えてる」
「千尋もそれでいいのか?」
「うん、私は式にはこだわらないわ」
「正、お前らもそれでいいか?」
「はい、構いません」
「お前達もわしの家族になったんじゃもっと砕けた話し方をしなさい、竜之助さんじゃなくお父さんと呼びなさい」
「わかりましたが長年の癖です、そんなにころっと変わりませんよ」
「まあよい優香も何か貰えたんじゃろうな」
「はい、指輪を頂きました」
「それでいい」
じいさんが手をポンポンと叩くと家政婦が寿司をたくさん持って来た。
「昼食の時間だ、みんなで食べようじゃないか」
「じいさんありがとう」
俺達は高級そうな寿司を食べながらいろいろ話した。コーヒーを飲んでるとじいさんが書類を取り出してきた。
「お前らが結婚したら渡そうと思ってたんじゃ、嫌とは言わせんぞ」
と言って書類を並べた。
「この物件を全部お前に譲ろう」
「じいさん、嬉しいけどこんなにたくさんは貰えないよ」
「いずれ、わしの物件は全てお前の物になるんじゃ、これはほんの一部ださっきも言ったが嫌とは言うな」
「わかったよ」
俺は小さなゲートを開き印鑑を取り出し、順番にサインをして判を押していった結構な数だ時間がかかった。
「終わったよ、これで俺はじいさんの物件をどれくらい譲って貰ったんだ?」
「半分じゃ」
「竜之助さんそれは譲り過ぎてませんか?」
「正、さっきも言ったがもう家族なんじゃ、これくらいのプレゼントは当然じゃ」
「しかし……」
「親父はちょっと黙っててくれないか?」
「優斗お前も言うようになったのう、正との関係が逆転してしまったな」
「それよりじいさん、半分も貰ってしまったがいいのか?」
「構わん、お前には才能がある何も心配はしておらん」
「わかったよ」
「ではこれでめでたく結婚の報告も受けた、そろそろ解散にしようではないか、お前らも三人でお祝いしなさい、正も仕事に戻ってよいぞ」
「はい、わかりました」
「じいさん、ありがとう寿司ごちそうさま」
親父達が立ち上がったので、俺らもゲートを抜けマンションに戻った。
「あなたよかったわね」
「そうだな」
抱えた書類に目を通そうとしたが。
「今日は結婚記念なのよ、仕事は休んでちょうだい」
「わかった」
「優斗さん私も正式に妾になったと思ってもいいのですか」
「そうだ、俺とお前の記念日でもある」
「私幸せです」
「私も幸せよ、優香これからもよろしくね」
「はい、お願いします」
「優香ももっとくだけた話し方でいいわよ」
「しかし、ずっと続けてきた話し方を変えるのは難しいです」
「ゆっくり直していけばいいわ」
「はい」
「でこれから何をするんだ?」
「とりあえずパーティーよ」
「誰か呼ぶのか?」
「どっちでもいいわ」
「じゃあ今夜は三人でお祝いしよう、で日を改めて里香さんと美香さん達と鬼達を呼んでパーティーをするのはどうだ?」
「もういっその事今日みんな呼びましょう」
「わかった」
「あなたの友達も呼んでいいわ」
「俺の友達はいい、親友と呼べる奴はいないからな」
「わかったわ、あなたは鬼達を呼んで、私は里香と美香を呼ぶわ」
「わかった」
俺は鬼達に思念を飛ばした。
千尋は二人を誘っているみたいだ。
「後は任せて、私と優香で準備するわ」
千尋は電話をかけはじめた。
じいさんから連絡があった。
「じいさん、今日はありがとう」
『気にするな書類はもう見たのか?』
「それが千尋に今日は仕事を休めと言われたからまだ見てないんだ」
『そうか、書類など明日でもいいわい、今夜はパーティーでもするのかね?』
「ああ、二人が盛り上がっていて友達を呼んでパーティーの準備をしてる」
『そうか、じゃあ今夜はみんなと盛り上がるといい、話はそれだけじゃ』
「わかった」
電話を切ると親父から連絡が入った。
『とりあえず、誕生日と結婚おめでとう』
「ありがとう」
『お前は恵まれているな、羨ましいぞ』
「たまたまだ」
『今日はパーティーでもして誰か呼んでお祝いしなさい』
「もう千尋が準備してるよ」
『そうか、お父さんから半分も物件を貰ったんだ、俺も鼻が高いよ』
「そうかわかった」
電話が切れた。
やがて夕方になり鬼達が指示通りに人間に化けて普通の格好でやってきた、里香さんと美香さんも集まり、たくさんのピザやフライドチキンやケーキが配達され、パーティーが始まった。里香さんに三人で並んで記念写真も撮ってもらい楽しいパーティーは夜遅くまで続いた。夜も遅いので里香さんと美香さんにはタクシー代を渡してやった、二人を見届けると鬼達はどこに持っていたのか猪の肉をプレゼントしてくれ帰って行った。
優香が片付けをして帰って行った。俺は千尋をベッドに連れていき優しく抱いた。千尋が眠ると霊酒を飲み、優香も抱いてやった。自宅のベッドに戻りまだ実感のない結婚を喜びながら眠りに付いた。




