二十九・ヤクザの落とし方
妖狐を懲らしめて人形の怪異が収まり、千尋も夏休みが終わった。
「私がいないからといって私のベッドで優香を抱かないでよ、するなら優香のベッドでしなさい」
と言い千尋は学校へ行った。優香と二人で笑い、俺は仕事を開始した、月末と月初めは金がよく振り込まれる、入金のメールが立て続けに鳴る、報告書もよく入るのでチェックし要らないものは捨てる。
昼になり優香と二人で食事をする。
「こういうのも新鮮でいいな」
「そうですね、嬉しいです」
「しかし三人で一緒にいる時間が多かったせいか物足りないな」
「私もそう思ってたところです」
と話してると、千尋が怒りながら帰って来た。
「どうしたんだ? 早いじゃないか」
「ちょっと聞いてよ、大学の警備員に学生証を見せろと言われて見せたら退学されたのじゃなかったのですか、って言われて確認しに行ったらおじいちゃんがこの前勝手に退学届を出してたのよ、確認したら優斗がこの前チンピラに襲われたみたいになると危ないから退学させたんだ、って言われたのよ」
「まあ、普通ならそうさせるだろうな」
「そうですわ、いいじゃありませんか」
「後半年で卒業だったのよ、勿体無いわ」
「就職するわけじゃないしいいじゃないか、諦めろ」
「そうだけど、でも納得いかないわ」
「もう済んだ事だ早く諦める事だな」
「里香と美香に言ってなかったわ」
スマホを触り始めた。俺は優香に思念を飛ばした。
『落ち着くまで放っておけ』
『わかりました』
暫くすると千尋が。
「里香と美香がお別れ会をしてあげるって言ってくれたんだけど、呼んでもいい?」
「構わないが夜にしてくれ、後能力は見せるなよ」
「わかったわ」
またスマホを操作している。
「今夜になったわ」
「わかった」
「私はどうしましょう?」
「優香はいてちょうだい」
「わかりました」
ファックスが入ったので見てみる、親父に託した物件がいい値段で売れたみたいだ。携帯が鳴る、親父からだ。
『今、送ったファックスは見たか』
「見たよ、結構いい値段で売れたんだな」
『そこの近所の老人が屋敷を建てたいからって買ってくれた』
「そうかよかった」
『今からお前の口座に金を振り込む』
「わかった、ありがとう」
電話を切って数分後にメールが届いた、確認してスマホを閉じた。
じいさんの家に行き報告する。
「じいさん、例の空き地結構いい値段で売れたよ」
俺は値段を言った。
「あんな場所がよくそんな高値で売れたな、誰が何のために買ったんだ?」
「あの近所の老人が屋敷を建てるからって買ったそうだ」
「そうか運がよかったな」
「話は変わるけど千尋を退学させたんだな」
「ああお前が山下組のチンピラをやっつけただろう、そんなに心配はしてないが念の為に退学させたんじゃ」
「山下組のチンピラ? 情報が早いな」
「うちのグループの社員が見てたそうだ、一瞬で五人を倒したと聞いたわい」
「こっちは化け物退治で鍛えてるからヤクザなんて相手にならないよ」
「わかっておる、お前なら組ごと潰すのも簡単じゃろう」
「ああ邪魔なら潰してくるけどどうする?」
「放っておけ、どこにでもヤクザはいるもんじゃ、潰してもまた新しいのが入ってくる」
「そうか、わかった。とりあえず報告は終わりだから帰るよ」
「わかった、千尋をなだめてやってくれ」
「了解」
マンションに戻った。
出されたコーヒーを飲みながら仕事が入るのを待ったが入金の報告書がファックスで送られて来るだけだ。ネットで口座を確認したが、かなりの金額が振り込まれている。
「仕事専用のノートパソコンが欲しいな」
「買いに行くなら付き合うわ」
「私も行きます」
三人で大きな家電製品専用の店に行った。パソコンを物色する、高機能で軽いのを選んだ、ついでに無線のマウスも買う。
「お前らもいるものがあるんだったらついでに買ってやるぞ」
「今はいいわ」
「私もいいです」
俺は店員を呼び選んだパソコンとこのマウスを買うと言うと、すぐに商品を持ってきたのでレジで支払いを済ませ自宅に帰った。
セットアップに時間がかかるので終わるまで放置した。今まで使ってたパソコンは千尋に渡した。
「これで昼間もネットが楽しめるわ、優香も一緒に使いましょう」
「はい」
結局十七時まで入金の報告ばかりで今日の仕事を終えた。千尋と優香はネットばかりしていた。食事の用意をしてないと言う事は里香さんと美香さんが何か持ってきてくれるんだろう。
十八時になるとチャイムが鳴った。千尋が出てオートロックを解除した、暫くし玄関のチャイムも鳴る。里香さんと美香さんがたくさんの荷物を持って入って来た。
「凄い豪邸じゃない」
「億ションらしいわよ」
と言いながらリビングに入ってきた。
「久しぶりですね」
と声をかける。
「優斗君だっけ里香よ、覚えてる? 噂は聞いてるわ神野グループの副会長ってね」
「覚えてますよ里香さんと美香さん」
「私の事も覚えてくれてたんだ、久しぶり敬語は使わなくていいわよ」
「わかったよ、美香さん」
美味しそうな匂いがしている。
「里香、美香これ全部食べていいの?」
「ちょっと買いすぎたかも、全部食べよう」
ピザとフライドチキンとケーキがテーブルに並ぶ。
里香さんと美香さんが言う。
「優斗君少し見ない間に凄く人が変わったみたいに見えるわ」
「私もそう思う、小学生がいきなり大学生になったくらい違うわ」
「仕事を始めたからそう感じるのかもしれない、俺はあまり変わった気はしないが」
「ここも君の物件って聞いたわ、大出世ね」
「ところでこっちの女性を紹介してよ」
俺がどう言おうか悩んでると千尋が言う。
「優斗の愛人よ」
「初めまして、立花優香です。優斗さんの妾です」
「嘘、信じられないわ、私は里香よ」
「私が美香よ、初めまして」
「優斗君金でもちらつかせたの?」
「いえ私から優斗さんにお願いしたのです」
「まあ、食べながら話しましょう」
千尋の一言でみんなが食べだした。
「優斗君も優香さんも遠慮なく食べて」
「ありがとう」
チキンに手を出した、優香もチキンを取った、美味い久しぶりに食った気がする。
「優香さん私達を覚えておいて、千尋の友人よまた来るからよろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
里香さんと美香さんは千尋と話し込んでいる、俺は黙々と食事を楽しんだ。かなり食べたのでコーヒーを飲んで見ていたが、いつの間にか優香も会話の中に入って楽しそうにお喋りをしている。千尋がケーキを取り出したので俺も手を伸ばし食べた。女同士の会話は長い、優香がコーヒーを持ってきて俺の隣に座った。
「もういいのか?」
「はい、今日は千尋さんが主役ですので」
俺と優香で話を始めた。それから二時間程話して、里香さんと美香さんは帰る準備を始めた。
「千尋が退学してもこれからも友達よ」
「ありがとう」
「優香さんももう私達の友達よ」
「ありがとうございます」
「夜だし俺が送ろうか?」
「大丈夫よそんなに遠くないし」
「またお邪魔するわ」
「わかった、気を付けて」
二人が帰っていった。
俺は会話を聞いてるだけで疲れた。千尋と優香が後片付けをしている。
「悪いが先に休ませてもらうよ」
「いいわよ」
「優斗さんおやすみなさい」
寝室に入り浄化の術で身を清める、そのままベッドに横になった。
朝起きて伸びをするポキポキと骨が鳴る、疲れは取れた新しいベッドは寝心地がいい。時計を見るとまだ六時だ、早起きしてしまったのでリビングへ行き、新しいパソコンを触る、優香に譲ったパソコンから必要な物を移し替えやることがなくなった。
ネットを徘徊して時間を潰した。七時になった親父の起きる時間だ、電話をかけた。
『優斗か、朝早くから仕事してるのか?』
「たまたまだ、聞きたい事がある」
『なんだ?』
「管理会社からの報告書とか他のやり取りはファックスとネットのどっちを使うことが多いんだ?」
『俺はほとんどパソコンだ、管理がしやすいからな、年寄りなどパソコンが使えない人はファックスを使ってるがな』
「そうかありがとう、朝早くに済まんな」
電話を切り、ワードで文章を打つ、印刷して各管理会社と親父ににファックスを送る。
音で目が覚めたのか千尋が起きてきた。
「もう仕事? 精が出るわね」
「簡単な仕事だもう終わった」
「そう、優香はまだなのね」
「俺達に気を使ってるんじゃないか?」
「そんなの気にする必要はないわ」
「お前から言ってやれ」
七時半に優香がやってきた、千尋が何か言っている。
「優香フレンチトーストを頼む」
「わかりました」
優香のフレンチトーストは美味い、食べ終えてコーヒーを飲んでるとじいさんから連絡が入った。
『起きとったか』
「じいさんも早いじゃないか」
『頼みがあるんだがいいか?』
「何でも言ってくれ」
『昨日山下組は放っておけと言ったがちょっと懲らしめてやってくれないか?』
「何があった?」
『うちのグループの会社に手を出してきた。会社に乗り込み事務所を荒らしたり、会長と副会長を出せと怒鳴り込んだりしているみたいだ、仕事にならないらしい』
「俺がチンピラをやっつけたせいか?」
『そうかもしれない、潰さなくてもいいうちの邪魔をしないようにして欲しい、難しいが出来るか?』
「簡単だ、今日中に終わらせる」
『済まんな頼んだ』
電話が切れた。
「じいさんから依頼が入った、ヤクザを懲らしめてくれとな、俺一人で行ってくる」
「私も行くわ」
「私も行きます」
「相手はヤクザだ鬼達を連れて行くから大丈夫だ」
「自分の身は自分で守るわ連れて行って」
「わかった、だが殺すなよ」
「わかったわ」
鬼達を呼んで説明する。
「では我々は何をすればよいのだ?」
「驚かすだけでいい、後は俺がやる」
小さなゲートを開き山下組を見る。朝の話し合いなのか人が多い、話を聞いてみる。
「お前達は神野グループの関連会社を妨害してこい、残りは副会長の坂井優斗を探し出して痛めつけろ腕の一本でも折ってやれ」
俺はゲートを抜け奴らのとこに行った。
「お前ら何者だどこから入った?」
「お前らが今話していた坂井優斗だ」
「ヤクザの事務所に副会長が女二人を連れて来るとはおもしろい、女は俺が貰う」
話しているのが組長だろう、奥の机に足を乗せくつろいでいる。
「お前ら半殺しにしろ」
「酒呑童子達よ姿を見せろ」
鬼達が出てきて脅かす。ヤクザ達が後ずさりをした。
「怯むなやれ」
四人が飛びかかって来る、鉄扇で頭を殴っていく四人が壁まで吹き飛び倒れた。
「刀で切れ、腕を切り落とせ」
刀を持った二人が近づき刀を振り下ろしてくる、動けないように術をかけた二人が固まる、念動力で二人を向かい合わせにして術を解く、お互いが斬りつける、二人共腕を切り落として倒れた。
「おかしな技を使いやがる銃で撃ち殺せ」
五人が拳銃を取り出しこちらに向ける。
「拳銃が俺に通用するとでも思ったのか? 面白い撃ってみろ」
バリアを張った、パンパンと撃って来るがバリアに食い込み止まった、俺が指で弾くと弾は崩れ去った。俺は分身し瞬間移動して男達に近づく。
「さあどれが本体かわかるか?」
男達はそれぞれ撃ってくる、瞬間移動し背後に回る。
「残念、俺はこっちだ」
振り返って拳銃を向けて来た。
「爆ぜろ」
と叫ぶ、拳銃が破裂して男達の右手が潰れる。
「こんなもんか、大した事ではないな」
「お前もしかして噂のはぐれ陰陽師か?」
組長が震える声で聞いてくる。
「一部ではそう呼ばれている」
刀が振り下ろされたので指二本で挟み受け止める、組長がガタガタ震えだした。
「刀とはこう使うんだ」
俺は鉄扇から剣をだし組長を斬りつける。組長の体を切らず背後の金庫を切った。金庫から金や書類が落ちてきて組長に当たる、背後を見て驚いた顔をしている。拳銃を取り出してくる。
震える手でこちらに向ける。
「まだわかっていないようだな、拳銃はこう使うんだ」
念動力で拳銃を持った手を動かし組員の方へ向け発泡する一人が肩を打たれたようだ。
「わかった降参だ、何が望みだ? そ、そうだ金をやろう」
金庫から落ちた札束をかき集め机の上に並べる。
「これで許してくれ、命だけは助けてくれ殺さないでくれ」
「殺しに来たわけじゃないし、そんなはした金なんかいらん」
「じゃ、じゃあ何が望みだ」
「今後一切神野グループに手を出すな、昨日も営業妨害したよな? それもやめろ、要件はそれだけだ」
「わかりました、二度と手は出しません」
「お前らが他で覚せい剤をさばこうが暴れようが俺には興味がない好きにしろ、ただし神野グループに今度少しでも手を出したらお前らを皆殺しにするわかったか?」
「はい、わかりました」
「俺はお前らを今後見張っておく、朝の準備運動にもならなかったなつまらん」
ゲートを抜けじいさんに報告に行った。
「もう終わったよ」
「早いな、前に見せてもらったように今日の事も見せてくれないか」
「いいよ」
俺はじいさんの額に指を当て、さっきの事を見せた。
「流石だな誰も殺さずわしの思い通りにしてくれたな、礼の代わりにこの物件をプレゼントしよう受け取ってくれ」
「じいさんの頼みを聞いただけだ、礼なんかいらないよ」
「しかしわしの依頼じゃ受け取ってくれ」
「頑固だな、わかったよ」
俺は小さなゲートを開き印鑑を取り出して譲渡の契約書に判を押し、記入した。
「これでいいだろ? 今後はこういう事も仕事の一つだから礼はいらない」
「わかった、わしよりも頑固だな」
「じゃあ帰るよ」
「手間をかけさせたな」
「大した事ではない」
ゲートを抜け自宅に戻った。
「主今も昔もヤクザというのはいるんだな、相手にもならなかったようだ、では帰る」
「朝から済まんな」
「気にするでない」
鬼達が帰って行った。
「ヤクザって大したことないわね」
「私もそう思いました」
「優香済まないがもう一回フレンチトーストを頼む」
「わかりました」
そういえばどこの物件か見てもいなかったのを思い出し権利書を見て場所を確認する、地図を広げ貰った物件に印を付ける。繁華街の物件だ、かなりの土地を貰ったようだ。
千尋がフレンチトーストを持ってくる。
「優香に教えてもらったの、初めて作ったけど食べてみて」
一口食べて、美味いと褒めてやる。優香がコーヒーを持ってくる。コーヒーを飲みながら、地図を見直す。全部の管理会社からメールが届き以後ネットのメールで報告しますとの返事ばかりが返って来ていた。
携帯が鳴る、じいさんからだ。
「どうかした?」
『野山輸入代理店に山下組の組長自ら詫びの連絡が入ったそうだ』
「野山輸入代理店ってヤクザがちょっかいを出してきた会社?」
『そうだ、お前に感謝していると伝えてくれと今電話があった』
「気にしないでくれ、それよりあんないい物件貰ってもよかったの?」
『構わんよ』
「ありがとう」
電話を切って、名刺を探す野山輸入代理店の名刺を見つけた、前に会った人か顔は覚えていない。名刺を戻し仕事に取り掛かった。