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十七・八百比丘尼の頼み事

 もう一人のはぐれ陰陽師、荒木冬馬を倒してから数日後、千尋とじいさんの裏山で二人で能力の特訓をしていた。

 じいさんの許可は取っている。


「あそこなら誰も来ないじゃろ、好きに使いなさい」


 と言われたのだ、千尋は飲み込みが早くコツを教えるとすぐにマスターしたが、俺よりは少し力が劣っている。しかし十分な能力は付いている。疲れると霊酒を飲みまた特訓をする、これを繰り返していた。


 これでほぼ能力は自在に扱えるようになった。その頃には俺は空を飛ぶ能力も扱えるようになっていた。もちろん千尋も飛ぶ能力は出来るようになった。

 空を飛ぶのは憧れていたが実際出来るようになるとゲートで十分じゃないかと思い始めていた。


 俺は気を飛ばす訓練をしている、漫画に出てくるようなのを目指していたがそこまで強力な気功波は出ない、せいぜい山を三分の一を吹き飛ばす事が限界だった。完璧に出来れば十分使える能力だが気をかなり使うので霊力の減りが早い。


 じいさんや酒呑童子達もちょくちょく見学に来ていた。じいさんが言う。


「山を全部削り取ったら更地にする手間が省けて助かるのう」


 と漏らしていた、酒呑童子達は溜め息を付いた。


「主達はどこまで力を伸ばすつもりなんだ、これでは我々の活躍が出来ぬではないか」


 と笑っていた。指輪が言う。


『もう特訓する必要はないわ、後はイメージトレーニングするだけで十分よ』


 と言ったので、三日間の特訓は終わりにする事にした。


 今年は記録的な猛暑らしい、エアコンの設定温度を下げても窓から差し込む日差しで暑かった。

 酒呑童子達も毎日うちに来て涼んでいる。


「お前達は暑いのや寒いのは平気じゃなかったのか?」

「主、確かにそうだがこんなにも暑いと我々でも堪えるのだ」

「アイスクリームでも食べる? いっぱいあるわよ」

「千尋殿アイスクリームとはなんなのだ?」


 酒呑童子は俺と千尋の能力を目の当たりにしてから『主の嫁』から『千尋殿』と呼ぶようになった。


「冷たいお菓子のようなものよ」

「では、食べてみよう」


 千尋は冷凍庫から全員分のアイスを出し、「好きなのを選んでいいわよ」

 酒呑童子達はそれぞれアイスを取った、一口食べると。


「これは冷たくて良い、味も美味い」


 と言い一気に食べた。


「頭が凍ったようになり頭が痛い」

「一気に食べるからよ、少しずつ食べないとそうなるわ」

「千尋殿先に言っておいて欲しかった」

「だって言う前に食べちゃうんですもの」

「治ってきたようだ」

「次からは気を付けなさい」

「わかった」

「兄貴先日の荒木冬馬ですが、病院で三匹の鬼を連れたはぐれ陰陽師にやられたと言ってるみたいですよ、病院ではまだ錯乱状態と判断してるみたいですが」

「お前は情報が早いな」

「毎日テレビを見てますからね」

「そういや、じいさんから貰ってたな」

「はい」

「まあ現代じゃ殆ど誰も信じないだろうな」

「そうなんですか?」

「ああ、信じるのは寺や神社と霊能力者くらいだろう」

「主、遠方から何かがこっちへ向かって来ている」

「化け物か?」

「化け物じゃないが霊能力を持った人間みたいだ」

「俺を襲いに来るのか?」

「いや敵意は全くないが以前このオーラを持った人間に会った気がする」

「敵意を持っていないのであれば気にする必要はないんじゃないか?」

「そうだが、確実にこの家を目指している」

「来たら迎い入れてやろうじゃないか、まあ放っておけ」

「承知した」

「千尋、今日はよく晴れているし空気も綺麗だ、約束の夜景を見に行こう」

「デートの約束覚えてたのね、行きましょ」

「兄貴、俺も夜景を見たいです」

「構わないがデートだから現地に行ったら別行動だぞ」

「わかってますよ、邪魔はしませんよ」

「夜景か、我も見に行こう」

「それにしても暑いですね」

「主、扇はないか?」

「扇? ああ扇子の事か」

「そうだ扇子だ」

「一つあるが、俺のじいさんの扇子だ。霊力が宿っているからお前らが触ると危ない」

「ほう、どんな扇子か見せてはくれぬか?」


 俺はじいさんの形見や式札の入ったダンボールから扇子を取り出した。


「これだ」

「鉄扇ではないか、しかもかなり霊力の篭った鉄扇だ我々には触れぬ。主これは戦いでも使えるぞ、持ち歩いたらどうだ」

「そうだな役に立つだろう、持っておこう。お前らも近所で探したらどうだ? 普通の扇子なら安いぞ」


 酒呑童子がゲートを開き探し始める。


「見つけた、お前らも一緒に買いに行こう」


 五分程で戻ってきた。


「主が言っていたように安かった。千尋殿にも買って来たぞ受け取ってくれ」

「いいの? ありがとう」

「この二人のも我が買い与えた。千尋殿のは桃色の扇子だがよいか?」

「うん、ありがとう気に入ったわ」

「気に入ってもらえたなら良い、我の妖力を入れてあるから主の鉄扇よりは劣るが霊を倒すくらいならたやすいぞ」

「そうなの? じゃあ壊さないように大切にするわ」

「妖力が入ってるから多少の事では壊れぬ」

「わかったわ」


 俺は鉄扇に自分の霊力も注入してみた。扇ぐとひんやりした風に霊力が混ざっている。

 俺達の家に訪れると言う霊能者は何者だろう、敵意がないのはいいが見てみたい。


「そろそろ夕飯よ、手抜きだけどいい」

「姉貴何でもいいです」


 すぐにざるそばが運ばれてくる。


「暑い季節にはピッタリではないか、ではいただこう」


 コーヒーを飲みながら、茨木童子が聞いてくる。


「兄貴何時くらいに行くのですか?」

「そうだな二十一時くらいに行こう」

「茨木童子よ時計が読めるのか」

「読めますよ」

「我にも教えてくれないか?」

「いいですよ」


 三人が時計に向き、茨木童子と鬼童丸に説明を始めた。


「太郎丸は現代によく馴染んでるわね」

「そうだな、あいつは普通の暮らしも苦じゃないだろう」

「兄貴そろそろ時間ですよ」

「もうそんな時間か、では行こうか」


 全員でゲートをに入り山頂の展望台に行った。


「ここからは別行動だ、帰る時に声を掛けるからな」

「わかりました」


 俺達は手をつなぎ夜景を楽しんだ。やはり今夜は空気が澄んでいて夜景が綺麗だった。


「山頂は空気が冷たいわね、そろそろ帰りましょう?」

「わかった」


『太郎丸、帰るぞ』

『わかりました』


 展望台の下に降りてゲートを開き部屋に戻った。

 三人共綺麗だったとはしゃいでいる、まるで子供のようだ。


「つい長居をしてしまったな、我らも帰ろうではないか」

「あまり気にしなくてもいいわよ」

「では失礼する」


 三人は帰って行った。


「俺達も風呂に入って早めに休もう」

「私も眠いわ」


 軽くシャワーを浴び、ベッドに入った。

 夢にとうふ小僧が現れた、千尋はいない。


『閻王様は何の用だ?』

『近々ある女性が訪ねてくる、殺してやってくれ、だって』

『無益な殺生は好まないと伝えてくれ』

『わかった』


 朝起きて千尋に昨夜とうふ小僧が現れたか聞くと見てないと言う、ただの夢かと思い夢の内容を話した。


「閻王様が殺人を頼むはずはないわ」

「そうだなただの夢だな、お前もいなかったしな」


 朝食のトースト食べていると、酒呑童子の声が聞こえた。


「主よ、入ってもよいか?」

「いいぞ」


 三人が入ってくる。


「こんな早い時間から来るのは珍しいな」

「うむ、昨日言っていた霊能者がこの街に入ったので報告にきた」

「そうか」

「我らも待機する、ところでその四角い食べもは何なのだ?」

「パンを焼いたトーストと言うんだ」

「そうか」

「あなた達も食べる? パンならあるわよ」

「千尋殿、良いのか?」

「いいわよ、ちょっと待ってね」


 酒呑童子達にトーストと目玉焼きがテーブルに並ぶ。


「これは美味い、異国の食事は美味いな」


 食事が終わりアイスコーヒーが並ぶ。


「主、霊能者が目の前まで来ている」


 酒呑童子がゲートを開き霊能者を見る、俺達も覗き込んだが知らない若い女だ、女がこちらを向き手をかざすと酒呑童子のゲートが閉じられた。


「我の術を消されてしまった、やはり只者ではないようだ」

「さっきの場所からだと後数分で来るな、酒呑童子達は姿を消していろ」

「承知した」


 チャイムが鳴ったので俺と千尋で玄関まで行きドアを開ける。


「もし、こちらにはぐれ陰陽師の坂井優斗様はおられますか」


 見た目と同じく丁寧な口調だ、声は透き通るような高さで髪は長い、それに引き込まそうな美人だった、着物がよく似合っている。


「俺だ、とりあえず中に入れ、話を聞いてやろう」


 リビングに入りコーヒーを千尋が用意してテーブルに置く。


「名はなんという?」

「八百比丘尼と申します、酒呑童子達も姿を見せなさい」


 三人が姿を現す。みんなが何か言いたげだったので手で制す。


「八百比丘尼、お前は若狭の空印字で入定したはずではないのか?」

「その通りでございます、ご存知だったのですね」

「そのお前がここにいるのはどうしてなのか聞かせてもらおう」

「はい、入定した後も百年くらいは老いもせず死ぬ事はなかったのですが、だんだんとやせ細り意識もなくなって行きました、これが死なのだと思い願いが叶ったと喜び無の中にいましたが、先月誰かが私の入定した扉をあけました、そうするとみるみると意識が戻り骨と僅かに残った皮膚も元通りになってしまい今に至ります」

「そうか、完全な死には至ってなかったと言うことだな、で俺のところに来たわけか?」

「はい、閻王様から運命の二人の坂井優斗様なら何とかして私を殺してくれるだろうと聞き参った所存です」

「話はわかったがお前が不死だというところを見せて貰いたい、疑っているわけではないが、どれくらいの不死なのか見せて貰ってもいいか?」

「はい、どういたしましょうか?」

「場所を変える、みんなも付いて来い」


ゲートを開きじいさんのところに行った。


「また裏山を借ります」

「構わないがそちらの女性は誰かね?」


 俺は事情を説明した。


「八百比丘尼か本当に不老不死だったんじゃな、わしも見せてもらおう」


 じいさんを連れて裏山に行った。


「茨木童子、お前からだ地獄の業火で俺がいいと言うまで燃やし続けろ」

「御意」


 茨木童子が手から炎を出し燃やし始める、すぐに燃え尽きたが暫く待った。


「茨木童子もういい」

「はい」


 目の前には地面が焼けた跡しかないが、塵が集まり八百比丘尼が復活した。


「酒呑童子、頭を潰して心臓をもぎ取れ」

「承知した」


 酒呑童子が頭を砕き心臓を抜き取った。

 八百比丘尼は倒れていたが徐々に頭が復活し心臓がずるずると体に戻っていった。


「これでおわかりいただけましたか?」

「ああ、対策を考えよう。一旦家に帰るぞ」


 じいさんに礼を言いマンションに帰った。


「兄貴、完全な不老不死です、俺達が殺すのは無理ですよ」

「わかっている、少し考えさせてくれ」


 鉄扇を持ちもう片方の手のひらをポンポンと叩きながら暫く考えた、一つの案が思いついた。


「八百比丘尼、そこで横になってくれ」

「わかりました」


 八百比丘尼が仰向けに横たわる。

 俺は八百比丘尼の腹に手を当て集中する、三十分程経ち八百比丘尼が食べたという人魚の肉を見つけた、俺はそれを吐き出させた。


「これがお前を不老不死にした人魚の肉だ」

「やはり凄い術を使われるのですね」

「これでお前の望みが叶うか試してみよう」


 また裏山に行き、俺は八百比丘尼を抱え空高く飛んだ。


「まあ、飛行術まで出来るんですか」

「ああそうだ、これくらいの高さでいいだろう。八百比丘尼手を離すぞ」

「はい」


 俺は遥か上空から八百比丘尼を落とした。すぐに追いかける。

 八百比丘尼は無残な姿で倒れている、体は潰れ肉片や内蔵が飛び散っている。

 暫くすると肉片や内蔵がずるずると戻っていく、八百比丘尼が蘇る。


「失敗したようだ」

「そのようですね」


 マンションに戻り鉄扇で手を叩き考える。

 小一時間程考え一つ案を思いついた、これは最終手段だ。


「千尋、刺し身はあるか?」

「あるわよ」


 と言ってマグロの刺し身を持ってきた。


「八百比丘尼最終手段だ。これで死ななければもう俺にしてやれる事はない」

「わかりました」


 俺はゲートを開き八百比丘尼の過去を探っていった。かなり時間がかかったが八百比丘尼が人魚の肉を食べる直前まで辿り着いた。伝承通り父親が持って帰った肉が人魚の肉のようだ、俺は姿を消し家の中に入り人魚の肉とマグロの刺し身を入れ替え戻った。


「八百比丘尼体の具合はどうだ?」


 八百比丘尼が答える前に変化が起きた。八百比丘尼の体が徐々に老いていった。


「坂井優斗様ありがとうございます、このご恩は忘れません」


 やがて骨になり骨も崩れ落ち塵になって消えて行った。


「主、大したものだ不老不死の八百比丘尼を殺すとは恐れ入った」


 俺は持ち帰った人魚の肉を消し去った。


「兄貴、閻王が来ます」

「わかった」


 目の前が暗くなり歪む。

 巨大な影が現れる。


『はぐれ陰陽師坂井優斗よ、誰も出来なかった八百比丘尼をよく死に導いてくれた、感謝する。孤独に耐えながら八百年生きた八百比丘尼に人生の喜びを与えるため後六十年の命を与えてやった』

『不老不死ではなく、普通の人間としてですか?』

『そうだ、お前達の力になるだろう、八百比丘尼もそれを望んでいる、以上だ』


 視界が元に戻った。テーブルに札束が置かれていた。

 光が現れ八百比丘尼が現れた。


「先程はありがとうございます、死を味わう事が出来ました」

「せっかく望みが叶ったのに後六十年も生きるのは八百比丘尼も納得したのか?」

「ええ、老いていく楽しみを閻王が与えてくれました」

「そうかわかった」

「優斗さんの仲間に入れて貰います」

「それは構わないがこれからどこに住むつもりだ」

「これから考えます」

「金は持っているのか?」

「閻王から後六十年生活に不自由しないだけのお金はいただきました」

「そうか、ではまず家を探さねばならんな」

「あなた、おじいちゃんに物件を探して貰いましょう」

「そうだな、では早速行くとしよう」


 ゲートを開き、みんなでじいさんの家に行った。

 じいさんにこれまでの経緯を話す。


「そうか、わかった。お前達のマンションの近くにわしの持ち物件がある、早速そこに住むといい」

「ありがとうございます、案内してもらえますか」

「わかった、お前達の部屋まで連れて行ってくれ」


ゲートを開きマンションに帰る。歩いて物件に案内された。俺達のマンションの隣だった。百一号室に入る、中は俺達のマンションより劣るが立派な2LDKだった。


「八百比丘尼よ、ここでいいか?」

「私には勿体無いくらいです、ありがとうございます」

「ではこれが鍵じゃ、本名はなんというのかね?」

「忘れてしまいました」

「では、立花優香と名乗ればいいわしの親類の名前じゃ、諸々の手続きはわしがしておいてやろう今日からここで暮らすといい」

「ありがとうございます」

「荷物はあるのかね」

「何もございません」

「そうかわかった、閻魔様から頂いた金で家具類を揃えなさい、ではわしを送ってくれ」


 じいさんを送り届け、俺達も家に帰った。


「優斗様千尋様、ありがとうございました」

「気にしなくていい」

「そうよ、女同士仲良くしましょう」

「はい、喜んで」

「家具や電化製品はわからないと思うから、買い物に手伝ってあげるわ」

「よろしくお願いします」


 こうして新たに八百比丘尼が仲間に加わり俺達は力を増やしていった。


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