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十六・もう一人のはぐれ陰陽師

 夏真っ盛りのある日、朝からじいさんから連絡が入った。


 千尋と二人でじいさんの家に行くと、お前達の家が見たいと言うので、招待することになった。ゲートを開き俺達のマンションに連れて行く。

 部屋を見て回ったじいさんが言う。


「お前達、酒呑童子達もここに集まるんじゃろ?」

「そうですが」

「それにしてはリビングが狭い、引っ越さないか?」

「しかし、俺達はここに引っ越して来て間もないし家賃も安いので気に入ってます」

「わしの持ってるマンションに引っ越せば家賃はいらない、ここよりリビングも広いからそこに移りなさい」


 かなり強引な誘い方だが家賃がいらないというのは魅力的だった。


「千尋どうする?」

「とりあえず部屋を見せてもらいましょう」

「そうと決まれば早く見に行こう」


 じいさんはもう引っ越しが決まったというように言った。俺はゲートを開き街を上空から見る。


「じいさん、どこですか?」

「ここじゃ、角部屋がいいじゃろ日当たりもいいぞ、防音もちゃんとしてあるしセキュリティもしっかりしておる二百一号室だ、ゲートで連れて行ってくれ」


 俺はゲートを開き二百一号室に三人で入った。確かに広いリビングも十分な広さがあるのでみんなが集まってもまだ余裕がある、じいさんの言っていたように日当たりもいい、立地条件もかなり良さそうだ。部屋を見て回った、3LDKだ俺達には広すぎるがいいマンションだ、寝室も広いし風呂も広い二人で入っても十分な広さだ。


「じいさん、部屋が広すぎますし家賃を負担してもらうのは申し訳ない」

「わしが負担するわけではない、わしのマンションだから家賃免除と思ったらいい。細々した手続きはわしがしてやろう」

「私は気に入ったわ特に間取りがいいわ、使い勝手が良さそうだし永く住むにはいいところだと思うわ」

「じゃあ決まりだな早速引っ越すといい、駐車場と駐輪場は地下にある」


 本当に強引だ。


「千尋が決めてくれ」

「ここがいいわ」


 決まってしまった。


「引っ越しは酒呑童子達に手伝ってもらうがいい、もうあいつらには話は通しておる」


 もう決まっていたような言い方だ。


「ありがとうございます」

「では、わしを送り届けてくれ」


ゲートを開き広間に入ると、酒呑童子達は集まっていた。


「主よ待っていた、早速引っ越しをしようではないか」

「兄貴、力仕事は任せて下さい」

「兄さん力なら俺も自信があります」

「みんな済まないな」

「主が気にする必要なない」

「兄貴早速取り掛かりましょう、ゲートを使えばすぐに終わりますよ」

「じゃあ頼んだ」


 ゲートを開き部屋に戻る。


「主よ、一時間もかからないであろう」


 全員がゲートを開き次々と荷物を運び出し始めた。俺と酒呑童子は念動力で物を運ぶ、茨木童子と鬼童丸は手でを軽々と家具を運んでいる、千尋は新しい部屋で待機し置く場所を指示している。本当に一時間もかからなかった、車と自転車もこっちへ移した。


「みんな、助かった」

「主、気にしなくても良い、普段いろいろと食べさせて貰っているからな」

「じゃあ、お昼は何か食べさせてあげるわ」

「では遠慮なくいただこう」


 暫く待っているとチャーハンと餃子がテーブルに並ぶ。


「姉貴、これは飯を炒めた物ですか?」

「そうよチャーハンっていうの、もう一つは餃子っていうのよ、中国の料理よ」


 みんなが美味いと言いながら食べ、食後のコーヒーを飲んでいる。


「リビングと言うここの広間が広くなったではないか」

「そうよ、これでみんな窮屈しないでくつろげるわ」

「ところで兄貴、先日東京にはぐれ陰陽師が現れたと噂を聞きまして、兄貴かなと思って見てみたのですが別人でした。で様子を見ていたら化け物退治に法外な金額を要求する奴でした」

「そうか、もう一人のはぐれ陰陽師か」

「主、潰しに行くつもりなのか?」

「いや、こっちに被害がないなら放っておこう」

「しかし高額な依頼料を取るとは主の顔に泥を塗るようなものではないか」

「構わん俺は俺のやり方を続けるだけだ」

「承知した」

「どんな奴かは興味がある、見てみよう」


 千里眼でゲートを開いた、気配を探り後を追うとすぐに見つけた、今は神奈川にいるようだちょうど鬼と戦っていた、なかなかやるようだすぐに鬼を退治し依頼人から百万円を要求していた、男の頭の中を読んでみる。荒木冬馬二十四歳、俺が見ているのに気が付かないようだゲートを閉じた。


「兄貴どうです?」

「名前は荒木冬馬、つまらん男だがなかなかやるようだ、もし術を悪用するようなら懲らしめないといけない、太郎丸たまに監視しておいてくれ」

「わかりました」

「あなた、本当にいいの? 酒呑童子が言ってるようにあなたの面汚しをするかもしれないわよ」

「構わん、悪事さえ働かなければいい。それより今日は引っ越し記念日だ楽しく行こうじゃないか」

「そうねわかったわ、記念にケーキでも食べたいわ」

「それもいいな、後出前で寿司でも食べないか」

「両方食べましょう」

「主、ケーキとは何なのだ?」

「洋菓子だ、外国の茶菓子みたいなものだ」

「それは美味そうだ我らもいてよいのか?」

「ああみんなで食べよう」

「あなた、一階は管理人室だけみたい挨拶に行きましょう」

「そうだな、お前達は夕方まで自由行動だ好きなようにしててくれ」

「では我は少し席を外す」

「兄貴、俺はここでくつろいでいます」

「わかった」


 鬼童丸は相変わらず無口だ、話すのが苦手なのかもしれない。

 エレベーターを使い一階に降りる、ロビーのような一角に管理人室があるだけだ。

 千尋が小窓をノックする、老人が小窓を開ける。


「今日二百一号室に引っ越してきた神野千尋です、こっちは同棲中の坂井優斗です」


 俺ももう一度名前を言い挨拶した。


「神野さん、ここのオーナーのお孫さんでしたね何かあればいつでもどうぞ」

「じゃあ早速ですが出前を頼みたいのでこの近辺で出前の取れるところを教えて下さい」


 老人はラミネート加工された出前の一覧表を渡してきた。


「ありがとうございます」


 俺達はそのまま外に出て近所をぶらつく、近所にいろんな店がある、コンビニも近くに二軒、大型スーパーも近くにあった。

 ケーキ屋もあった。


「先にケーキを買って帰ろう」

「そうね」


 店に入りケーキをたくさん買い込んだ。オートロックのマンションに帰ると千尋はケーキを冷蔵庫に入れ、出前の一覧表を見始めたので任せる事にした、早速電話をし十七時に寿司を持ってくるよう注文した。

 茨木童子は言いつけをちゃんと守るように荒木冬馬の様子を見ている。


「太郎丸、ずっと監視しなくてもいいぞ」

「今いいとこなんです、もう少し見ておきます」


 真剣な表情だったので、わかったとだけ言った。鬼童丸は横になって熟睡してるようだった。俺もソファーで仮眠を取った。

 仮眠から目覚めると酒呑童子も戻って来ていた。

 茨木童子はもうゲートを閉じていた、何か言いたそうな顔だったので、手で制し明日にしろとだけ言った。


「あなた、鬼童丸ったら全然起きないのよ困った子だわ」


 と呆れていた。

 出前は予定時間ぴったりに寿司を持ってきた。寿司の匂いに釣られたのかやっと鬼童丸が目を覚ます。

 あいかわらず厳しい顔をした太郎丸に今日はお祝いなんだから普通にしておけ、話は明日聞くと言っておいた。


 みんな寿司は久しぶりに食うみたいだ、全員が楽しそうに寿司に手を伸ばす。

 食後のケーキも初めて見るみたいで、特に酒呑童子が興味津々で食べ始める。


「こんな美味な菓子は食べたことがない」


 と喜んでいた。夜も深まりみんなに礼を言うと帰って行った。

 千尋といつものように一緒に風呂に入りベッドに潜り込んだ。

 翌朝朝食を食べていると声が聞こえた。


「兄貴、入ってもいいですか」

「いいぞ」


 三人が集まる。茨木童子は昨日と同じで険しい顔付きをしていた、酒呑童子も何か言いたげだ。


「太郎丸、昨日の事だろ?」

「はい」


 俺は食事を終えた。


「話してみろ」

「昨日兄貴に言われた通り荒木冬馬を観察していましたが、奴はヤクザとつるんでいて、事務所に出入りしていました」

「そうか続きがあるんだろ? 話してみろ」

「はい、奴はヤクザの事務所から何人かの男を連れて他のヤクザの事務所に入り術を使い皆殺しをしました。その後夜になると人通りの少ない場所で女を襲い強姦をすると金を奪い、また別の女を襲っていました」

「そうか、術を悪用していたのか」

「主よ此奴は見逃すべきではないと思うぞ」

「わかっている、その前に昨日の昼からの行動を見てみる」

「兄貴そんな事が出来るんですか?」

「さすが主だ、神通力が凄いのだな」


 昨日発見した新しい能力だ、指輪が話す。


『よく気付いたわね、その術で過去にも戻れるわよ』


 と教わった術だ。ゲートを開き時間を巻き戻す、みんなも覗き込んだ。

 要らない箇所は飛ばし様子を見る。


 他の事務所に乗り込んだとこから見てみると、式神を使い組員に襲いかけている、全員を殺し一緒に連れていたヤクザからかなりの金額を貰い出ていく。

 夜の行動も見てみる、茨木童子が言ったように術を使い女を強姦し財布から金を抜き取っていた。ゲートを閉じる。


「主」

「わかっている、ちょっと待て」


 指輪に話しかける。


『今のを見たか』

『見たわ、これは片付けないといけないわ』

『術を使えない様に懲らしめてもいいか?』

『いいわ、閻王には私が話しておくわ』

『わかった』


「よしみんな、潰しに行くぞ」

「承知した」

「まずは俺と鬼童丸が少し相手をする、二番手は太郎丸、三番手は酒呑童子だ。術が二度と使えないように荒っぽいやり方をする」

「承知した」

「御意」

「わかりました」

「私は何をすればいいの?」

「千尋は待機だ」

「わかったわ」


 早速奴の居場所を探ると仙台にいる、どうやら各地をまわり仕事を探してるようだ。人通りの少ない路地を歩いている。


「いくぞ」


 ゲートを開き、やつの前にでた。


「なんだお前空間から突然現れて」

「荒木冬馬、お前は術を悪用した、一部始終見せてもらった、悪いが術を使えないようにしに来た」

「俺に勝てるとでも思っているのか?」


 術を使いかけた、瞬間移動し腕を折る。


「遅い」

「お前が有名な本物のはぐれ陰陽師か?」


 腕を抱えながら言う。


「そうだ」


 式神を呼ぼうと式札を数枚投げたので分身し破り捨てる。


「お前今分身の術を使ったな、どこで覚えたんだ?」

「答える必要はない」


 俺が式神を使役する。


「お前、手も使わずどうやって式神をつかった?」

「答える必要はないと言った筈だ。鬼童丸よこいつが泣きを入れるまで痛めつけろ」

「はい」


隠れていた鬼童丸が姿を現し殴る蹴るの暴行をし始めた。五分程待ったが泣きは入れない。


「鬼童丸下がっていい」

「はい」


 鬼童丸が俺の後ろに下がった。

荒木冬馬が逃げようとしたので、瞬間移動し回り込み足を凍らせた。


「お前どうしてこんな技まで使えるんだ?」


 それには答えず。


「茨木童子よ、奴の足を焼き尽くせ」

「御意」


 茨木童子が現れる。


「茨木童子だと、なぜそんな強い鬼が召喚出来るんだ?」


 俺は答えなかった。茨木童子が近寄る。


「我が主に出来ぬ事などないわ、地獄の業火で消え去るがいい」


 茨木童子の手の上で炎が膨れ上がり、投げつける。

 一瞬で両足が燃え尽きた、失禁している。


「これ以上は止めてくれ、俺が悪かったもう術は悪用しない。そ、そうだ金をやるいくら払えば助けてくれるんだ?」

「金などいらん、今更悔いても過去の悪行は許さん、茨木童子よ下がれ」

「御意」


 術を使おうとしている、まだ懲りてないようだ。


「酒呑童子よ、腕を引きちぎれ」

「承知した」

「酒呑童子までも従えているのか?」

「我が主を怒らせてしまった己自身を恨むんだな」


 酒呑童子が荒木冬馬の両腕を引きちぎる。


「ああ、俺の、俺の腕が腕が」


 泣きながら怯えている。

 俺は近づき荒木冬馬の額に指をつける。荒木冬馬の能力を消した。

 荒木冬馬が失神した、頬を叩いて起こす。


「い、命だけは助けてくれ」

「殺すつもりはない、お前の能力は消せさせてもらった。両手足のない姿でお前のやってきた事を一生悔やむがいい。本物のはぐれ陰陽師は俺一人で十分だ」


 遠くから人が歩いてくる気配があった。ゲートを開きマンションに戻った。


「主、殺した方がよかったのではないか?」

「むやみな殺生は好きではない、お前達もよくやってくれた」

「主に仕えているのだ、言われたことをしたまでだ」

「そうですよ兄貴」

「しかし主は戦っている時は別人のようだ」

「そうか?」

「凄いオーラが出ているのがわかった」

「そうか」

「みんなお疲れ様コーヒーを淹れたわ、ゆっくり休んでちょうだい」


 テレビを付けた、ニュースが流れるかもしれない。暫くボーッと見ていると臨時ニュースが流れた。


『仙台で指名手配中の荒木冬馬が見つかり、両手は引き千切られた跡があり両足は燃えた跡があるので人の仕業とは思えず捜査は難航しています、なお本人は正気を失って錯乱状態なので落ち着いたら事情聴取が始まる模様です。荒木冬馬は複数の殺人や強姦などで警察が捜していたそうです』


 テレビを消した。


「指名手配中だったのか」

「主、指名手配とは何なのだ?」

「全国の警察が名指しで逮捕しようと捜している事を指名手配と言うんだ」

「そうか、では我々は良い事をしたのだな」

「まあそうだなそれよりさっきの戦い中に気付いたんだがこれを見てくれ」


 俺は立ち上がり、宙に浮かんだ。


「あなた、新しい能力じゃない。空を飛ぶ願いが叶ったわね」

「しかしまだそんなに高く飛べるわけではない、せいぜい二メートルが限界だ、千尋も出来る筈だ」

「後で試してみるわ」

「主はどこまで進化するんだ、益々強くなっていっているではないか」

「どこまで出来るかは俺自身もわからんよ」

「主、新しい能力を伸ばしたいのであれば霊酒をたくさん飲むといい」

「わかった、ありがとう。俺は今から特訓するよ」

「では特訓の邪魔をしてはいけないから我々は失礼する」

「すまんな」


 三人共帰って行った。


「あなた、昼間は見つかると厄介だわ」

「そうだな、夜にしよう」


 指輪に問いかける。


『指輪、今日のこと本当にあれでよかったのか?』

『いいわ、閻王も喜んでいたわ」

『そうか、だったらいい』

『それとはぐれ陰陽師の噂が全国で広まって来ているわ』

『俺の噂かまあ構わない、それよりもっと空を高く飛ぶにはどうすればいいんだ』

『馴れるしかないわ、酒呑童子が言ったように霊酒を飲むといいわ、能力の成長を早めてくれるわ』

『わかった』

『千尋もせっかく能力があるのに使わないと勿体無いわ、優斗からも特訓するように言ってちょうだい、私達からも言っておくわ』

『ああ言っておくよ、それと他にはぐれ陰陽師はもういないのか?』

『もういないわ』

『わかった安心したよ』


 千尋にその事を言うと。


「全部聞いたわ、一緒に訓練しましょう。コツを教えてちょうだい」

「ああ、俺と同じくらい出来るようになってくれ、運命の二人なんだ出来る筈だ」

「そうね、わかったわ。おじいちゃんの裏山で訓練しましょう、あそこなら人に見られる危険もないわ」

「そうだな、俺は少し仮眠する」

「いいわよ」


 俺は今日の事を思い出しながら、眠りに付いた。


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