十五・老人と酒呑童子
七人ミサキを倒し、酒呑童子を仲間にして数日が過ぎた。
三人の鬼達は毎日のようにやって来ては話をし帰っていく、小屋は出来たのかを聞くと見た方が早いと言って見に行く事になった。ゲートを開き行ってみると茨木童子の家よりも立派な二階建ての家があった。
「これどうしたんだ?」
「街で人が住んでない空き家を運んできた、二階は鬼童丸が住む事になった」
「じゃあじいさんに伝えておかないといけないな」
「じいさんとは誰のじいさんなのだ?」
「ここは千尋のじいさんの土地なんだ」
「そうかでは挨拶をせねばならんな」
「今から行くぞ」
全員でじいさんの家に行った。
「凄い屋敷ではないか、じいさんは大富豪なんだな」
「そうだ、脅かすなよ」
「わかっている」
家に入り広間に行くと、ちょうど二人でコーヒーを飲んでいた。
「お邪魔します」
「そろそろ来るんじゃないかと思っておったところだ、そっちの青年は初めて見る顔じゃが紹介してくれ」
「我は酒呑童子、新たに主に仕える事になった」
じいさんは怯えている。
「酒呑童子じゃと、日本一の最強の悪鬼ではないか」
「さよう最強の鬼だが悪鬼ではない」
「優斗、本当かね」
「大丈夫ですよ安心して下さい」
ばあさんがアイスコーヒーを運んで来る。
「まあ、みんな座りなさいコーヒーでも飲みながら話をしよじゃないか」
じいさんもばあさんも化け物に慣れたようだ、すぐに緊張が解けたのがわかる。
「じいさんたちは我を見ても驚かないようだな」
「驚いてはいるが、太郎丸を見てきたおかげで慣れておるんじゃ、本来の鬼の姿を見せてはくれんか?」
「わかった」
酒呑童子が鬼の姿に戻る。
「迫力が凄いのう、鬼の長というのが納得出来るわい、優斗と戦ったのかね?」
「その通り、呆気なく負けてしまったがな」
「優斗、君は本当に凄いのう」
「そんな事ありませんよ」
「じいさん、今日は挨拶に来た」
「挨拶なら済ませたじゃろ」
「別件だ、聞くとこの辺り一帯はじいさんの物だと聞いたんだが、茨木童子の家の横に勝手に家を建ててしまった申し訳ない」
「構わんぞ、どんな家か見せておくれ」
俺達はじいさんを連れまた引き換えした。
「こんな立派な家をどうしたんじゃ?」
「街にある空き家を運んで来たのだ」
「そうか、中を見せておくれ」
じいさんは中を見回り。
「家具などは揃っているが、水道ガス電気が来てないようじゃな」
「雨風さえ凌げれば問題ない」
「しかしそれでは不便じゃ、わしが何とかしてやろう数日待つといい、その間太郎丸の家にいなさい」
「わかった」
「では屋敷に戻ろう」
再び広間に戻った、じいさんはどこかに連絡している。
「主、じいさんは何で独り言を言っているのだ?」
「独り言じゃない電話ではなしているだ」
「電話とは何なのだ」
「手に物を持っているだろう、それで遠くの人と話すことが出来るんだ」
「なんと、人間にもそんな事が出来るのか」
電話が終わったようだ。
「手配は済ませた、後は待っていればいい」
「済まないな」
「気にせんでいい」
「何か礼をしなければいけないな」
「礼なんぞいい、そのかわりたまにわしに昔話を聞かせておくれ」
「それなら、いつでもして差し上げよう」
「太郎丸、お前も一緒に来るといい」
「わかりました、ところで童子はどこに隠れておる」
座敷童子はまた千尋の後ろに隠れていた。
「茨木童子よ、座敷童子がいるのか?」
「そうです」
「童子よ怖がらなくとも良い出てこい」
千尋の後ろから出てきた。
「そんなところに隠れておったのか、何百年ぶりかはわからんが久しぶりだな」
「もう暴れたりしない?」
「暴れたりするつもりはない」
「じゃあ茨木童子みたいに遊んでくれる?」
「茨木童子よ、童子と戯れているのか?」
「はい、最近は蹴鞠で遊んでいます」
「蹴鞠か、懐かしい。童子よ我も戯れに付き合ってやる」
三人と千尋が庭で蹴鞠をやりだした。
「じいさん、すみません」
「何がだ?」
「酒呑童子達のためにいろいろ迷惑をかけてしまった事です」
「気にするな、わしは酒呑童子も気に入ったんじゃ」
「でも相当お金を出していただいてます」
「何大した金額ではない、それにあの者達は君の家来じゃ」
「ありがとうございます」
暫くするとみんな戻ってきた。
「久しぶりに蹴鞠をして疲れた」
酒呑童子が足を揉んでいる。
「酒呑童子は蹴鞠が下手」
「童子よ、久方ぶりなんだやり方を忘れているだけだ」
「シャワーを浴びて着替えたいわ」
千尋は汗まみれだ。
「じゃあ、そろそろ帰ろう。じいさんまた来ます」
「ああまた来なさい、酒呑童子達よ今日の夕方にでも来なさい」
「わかったでは失礼する」
ゲートを開き部屋に戻る。
千尋はアイスコーヒーを持ってくると、シャワーを浴びてすぐに戻ってきた。
「ところで主と主の嫁よ、その体の中の宝具はどこで手に入れたのだ?」
「閻王から貰った物だ」
「閻魔が自分の宝を人間に送るのは珍しい、もしかして元は指輪ではないのか?」
「詳しいな、そうだ俺と千尋に渡して来た」
「そんな貴重なあの指輪を送るとは主と嫁はただの人間ではないな」
「指輪の事をよく知っているのか?」
「知っている仏の分身だ、指輪が主と認めなければ指輪ははめられない、他の者がはめると死んでしまう。認められた者は世界の王になることも可能なのだ」
「そうなのか、閻王と指輪が言っていた運命の二人についても知っているのか?」
「運命の二人か、噂しか知らないが千年に一組現れるらしい、二人は仏をも凌駕すると聞いている、指輪に問わなかったのか?」
「聞いたが曖昧な事しか教えてくれなかったんだ」
「そうか、時が早いのかもしれぬ運命の二人がどういった者か見届けよう」
「酒呑童子の兄貴は詳しいですね、俺は全然知りませんでした」
「茨木童子よ、酒呑童子でいいと言った筈だ主も平等な扱いをすると言ったではないか」
「わかりました」
「鬼童丸お前もだ」
「わかりました」
「酒呑童子よ、もう一つ聞くが古い文献では鬼童丸は酒呑童子の子供と書いてあるが本当なのか?」
「わからぬが、我に子供はいた覚えはない」
「そうかわかった」
「酒呑童子、そろそろ夕方ですよじいさんのところへ行きましょう」
「もうそんな時間か、わかった。では主今日は失礼する」
「兄貴また来ます」
ゲートを開き三人が消えて行った。
「急に静になったわね、私達もご飯にしましょう」
「そうだな、腹が減った」
それから二日が経ち、全員で話をしているとじいさんから家の工事が終わったと連絡が入った。
「酒呑童子、家の工事が終わったそうだ」
「では、見に行こうではないか」
ゲートを開きじいさんの家に行った。
「待っていたぞ、みんなで見に行こう」
ゲートを開き家の前に立った。
「じいさんよ、変わってはおらぬでないか」
「家を工事したわけではない、入ろう」
全員で家に入る。
「まず、トイレと風呂じゃ」
じいさんが説明する。
「なんと、これは厠であったか。家の中にあるのは珍しい、風呂も湯が出るのか」
「わからければ太郎丸かわしを呼べばいい、次は台所じゃ」
じいさんがコンロの使い方を教えている。
照明の使い方を教える。
「茨木童子の家と同じだな」
「これで説明は終わりじゃ」
「じいさんありがとう恩に着る」
「よいよい、では戻ろうか」
「じいさん達は先に行っててくれ、俺もすぐに行く」
「わかった」
ゲートを抜け広間に戻る。
五分程で猪とキノコ類の野菜を担いだ酒呑童子が戻ってきた。
「じいさんお礼だ、血抜きはしてある」
「猪か、美味そうだがばあさんはさばけないぞ」
「俺がさばくので待っててくれ、ばあさん台所を借りたいのだが」
「こっちよ」
三十分程するときれいに切り分けられた肉と野菜と鍋が運ばれて来る。
「ぼたん鍋か久しぶりだ」
「ここの山の猪は脂がのっていて美味いぞ」
「夕飯には少し早いがいただこう」
カセットコンロで鍋で出来るのを待つ、すぐに沸騰してきた、さっきから酒呑童子が仕切っている。
鍋に肉が入る、すぐに酒呑童子がみんなの皿に肉を分けて入れていく。
「塩で下味は付けているそのまま食ってみてくれ」
言われた通りにする、美味い。俺が幼い頃食べたぼたん鍋より肉が柔らかい。
「こいつは美味い、わしも昔よくぼたん鍋を食べたがこれほど美味いのは初めてじゃ、作り方にコツでもあるのかね?」
「コツなんかねぇよ、長年の経験がものを言うんだ」
「そうかいつもの霊酒はあるのかね?」
「持って来てるぜ」
「では飲みながら食べようじゃないか、お前さん達の霊酒を飲むようになってわしもばあさんもしわが少なくなってきておる」
「そりゃ特別な酒だからな、病気や怪我も治るし長寿の力もある、じいさん達も長生きするぞ」
「病気や怪我も治るのか」
「ああ実際じいさんの胃に出来てた腫瘍が無くなっている」
「見えるのかい?」
「初めて会った時に見たんだ、さっき見たら消えてた」
「そうかありがたい酒じゃ、この酒はなかなか減らないが継ぎ足しているのかね?」
「いや、茨木童子に聞いてないのか? この酒はいくら飲んでも減りはしないんだ」
「ほう、凄いのう」
「それより肉はたくさんある、じゃんじゃん食ってくれ、主もたくさん食ってくれ」
みんな黙々と食べだした。
「わしはもう腹がいっぱいじゃ」
ばあさんも千尋も箸を置いている。俺も腹がいっぱいだ。
「茨木童子と鬼童丸よ残りは我らで食い尽くすぞ」
「わかりました」
「はい」
三人はすぐに食べ尽くした。
「茨木童子よ、お前家を建ててもらって礼をしてないだろう」
「はい」
「たわけが、相手が化け物でも人間でも、礼をする事は忘れてはならん」
「すみません以後気を付けます」
「酒呑童子、構わんよわしが勝手に建てたんじゃ」
「しかし、こいつは礼儀というものをわかっておらぬ後で説教をしておく」
「酒呑童子はしっかりしてるのう」
「こういう事は当然の事だ、じいさん欲しい物はあるか?」
「これといってない」
「茨木童子、何か和菓子でも買って渡すがいい、金がなければ俺が出してやる」
「わかりました」
「酒呑童子は金を持っておるのか?」
酒呑童子が懐から巾着袋を出してテーブルに金を出した、昔の金だ。
「酒呑童子、これは今の金ではない使えん金じゃよ」
「なんと使えぬのか」
「今の金はこういったものじゃ」
じいさんが財布から紙幣や小銭を取り出し見せる。
「これが今の金なのか、ということは俺は無一文なのだな」
酒呑童子が肩を落とす。
「これを持って行きなさい」
じいさんが三万円を渡す。
「ありがたいがただでは貰えぬ」
「太郎丸にもやったんだ、今日のぼたん鍋の礼と思って受け取っておくれ」
「わかった、ではいただいておくが価値がわからん」
「今度千尋に聞くといい」
「わかった、主の嫁よ今度教えてくれ」
「いいわよ、それまで大切にしまっておいてちょうだい」
酒呑童子は巾着袋に入れ懐にしまった。
「酒呑童子は本当にしっかりしておる、日本中で暴れまわったとは思えんな」
「人間が勝手に襲って来るのだ、俺も反撃せざるを得なかっただけだ」
「私達は帰るわ」
「では俺も一緒に主の家に行こう、じいさん世話になったまた来る」
「いつでも来るといい」
千尋がゲートを開きみんなでリビングにつくと酒呑童子が茨木童子に説教を始めた。二十分程で終わった。
「それじゃあお茶にしましょう」
千尋がアイスコーヒーを運んで来る。
「じいさんの前では言えぬが、ここで飲むコーヒーの方が美味い」
「使ってるコーヒーの種類が違うのよ」
飲み終えると千尋が酒呑童子達にタバコが一箱いくらとか物に例えてお金の説明を始めた、俺はそれをぼんやり眺めていた。
三人は飲み込みが早いみたいだ、すぐに理解し帰って行った。
「あの三人は飲み込みが早くて助かるわ」
「俺は酒呑童子があんなに礼儀正しいやつだとは思ってもなかったよ」
「私も驚いたわ」
目の前が暗くなりはじめた。
「閻王の使いが来るぞ」
「うん」
暗闇がぐにゃりと歪む。
『とうふ小僧か』
『そうだよ』
『要件を言え』
『忘れていたがお前達は化け物退治の依頼料がいるんだったな、タダ働きをさせてしまったようだ、遅れたが渡しておこう、だって』
『閻王様からの依頼に報酬など受け取れないと言っておけ』
とうふ小僧がページをめくる。
『そういうと思ったが受け取るがいい、少ないが置いておくぞ、偽札でも奪った金でもない金だ安心しろこっちでは使う必要がないのでな、だって』
『そこまで言うなら、受け取っておこう。次からは要らないと伝えておいてくれ』
『わかった、じゃあ置いて帰るね』
視界が戻る。
テーブルの上に金が積んであった。
「こんなに貰えないな、いくらあるんだ?」
「三百万円もあるわ」
「返しに行くか?」
「閻王様がああ言ってるんだし今回は貰っておきましょう」
「わかった、ところでチャクラが頭のてっぺんまで開花したようだが能力がまた増えたのかな?」
「そうみたいだけど何かはわからないわ」
「指輪も答えてくれないしな」
「いずれわかるんじゃない?」
「そうだな」
千尋は後片付けをしに行った。
『指輪よ酒呑童子は本当に俺を主と認めているのか?』
『そうよ、心を読まなかったの』
『読んでいない』
『大丈夫よ、裏切ったりもしないわ』
『わかった』
『もう終わり?』
『能力について聞きたいが、どうせ教えてくれないんだろ?』
『新たに開花した三つ能力の一つは教えてあげるわ、でないとあなたが怒りそうだから』
『じゃあ教えてくれ』
『相手に乗り移る能力よ、憑依と言った方がわかりやすいかしら?』
『わかったありがとう』
千尋が片付けを終え戻ってきたので、今の事を教えてやった。
「凄い能力ね、使い方が思いつかないわ、後二つは何かしら?」
「さあな、俺は空を飛ぶ能力が欲しいがな」
「でも、ゲートが使えるんだしじゅうぶんだと思うわ」
「そうだな、それにしてもじいさんは太っ腹だな、あいつらの家とか用意して貰ったし」
「おじいちゃんは余程気に入ったみたいよ、でないとあんな事する人じゃないもの」
「そうだな、鬼童丸には何もしてないしな」
外を見るともう真っ暗だ、これから何が待ち受けているかわからないが、あいつらが仲間になったんだ何か意味があるんだろう。