十四・七人ミサキと酒呑童子の復活
新しく鬼童丸が仲間になって暫くした頃。
「ねぇあなた、最近お化け退治の依頼がピタリと止まったけどどうしてかしら? お寺や神社にもそういった問題は最近ないそうよ」
「そう言えばそうだな、ちょっと調べてみよう」
俺はゲートを開き街を見て回った、霊は少なくなったがまだ結構いるみたいだ、最近消えた霊の居場所を見つけ残留思念を探ってみる。
「千尋、どうやら俺達と茨木童子の力のせいみたいだ、溢れた力に恐れをなして霊が逃げていっている、と言ってもまだ霊は半分くらい留まっているが俺達を恐れて動けないといったところだ」
「そう、平和でいいけど少し物足りないわ、どうやって調べたの?」
「霊が去った後の残留思念を読み取っただけだ、千尋にも出来る筈だ」
「あなたは能力の使い方に慣れるのが早いわね、臨機応変に使う事にも優れているわ」
「姉貴、兄貴が特殊なだけだと思いますよ」
「そうみたいね、生まれ持った才能の違いだわ」
「だが千尋には俺にも真似の出来ない能力がある、気付いてないみたいだが」
「何の力なの?」
「自分で探ってみろ」
「教えてくれてもいいじゃない」
「ところで茨木童子、酒呑童子が蘇ったらどうするつもりだ? また酒呑童子に付いていくのか?」
「いいえ、今の俺の主は兄貴だけです。酒呑の頭、いや酒呑童子が蘇ったらまた一緒に酒を飲みたいですがそれだけです」
「そうか、わかったこれからも頼むぞ」
「はい、兄貴は俺の心を読んだりしないんですか?」
「俺はお前を信頼している、いちいち心を覗いたりはしないよ」
「ありがとうございます、光栄です」
「俺も早く酒呑童子に会ってみたいものだ」
「会ったらどうするつもりなんですか? 戦いますか?」
「いや出来れば穏便に済ませたい、日本中で名を馳せた極悪最強の鬼だ、どんな力を持ってるのか確認したいだけだ」
「兄貴の方が力は格段に上ですよ、戦っても圧勝するでしょうね」
「それでも興味はある」
「しかし、ここ一週間程で酒呑童子の妖力が消えました、消滅したんでしょうか?」
「どれ、探ってみよう」
平等院の宝蔵に収められた首を探る、妖力が全くない、付近一帯を探ってもおかしな点は見つからない。
「茨木童子、確かに妖力は消えていた、お前の言っていたように消滅したとは思えない、別の形で復活したのかもしれないが、復活したのならそろそろお前の元へ来るかもしれない」
「そうですか、ありがとうございます」
「兄さん、さっきの神通力のやり方を教えて下さい」
「鬼童丸の能力を読み取ったがお前にはまだ使えない」
「やはりそうですか、修行します」
「茨木童子くらいの能力を持ったらコツを教えてやろう」
「兄貴、太郎丸でいいですよ」
「そんなに気に入ってるのか?」
「はい、姉貴もじいさんもそう呼んでくれてますし」
「わかった、覚えておこう」
「兄さん俺にも名前を付けて下さい」
「難しいな、千尋なにか名前を付けてやってくれ」
「鬼童丸でしょ、うーん流石に難しいわ、考えておくわ」
「お願いします」
「あなた、それより海でのデート忘れてるでしょ、もう海開きはとっくに過ぎてるわよ」
「覚えてるさ」
「兄貴達海に行くんですか? 俺達も連れて行って下さいよ」
「構わないがデートだから邪魔するなよ、海では別行動だ」
「それでいいです、海にも化け物はたくさんいますよ」
「知っているがそうそう現れないだろう」
茨木童子の顔付きが変わった。
「太郎丸どうした?」
「閻魔の使いが来ます」
「わかった」
眼の前が暗くなりぐにゃりと歪む。
『とうふ小僧か? 何の用だ』
『よくわかったね、今海に行く話をしてたでしょ? そこで閻王からの伝言だよ』
『話してみろ』
『お前達が向かおうとしている海に七人ミサキが最近現れている、デートのついでに片付けてくれ、だって』
『それだけか?』
『そうだよ』
『わかったと伝えておいてくれ』
『じゃあ帰るね』
視界が元に戻る。
「七人ミサキか厄介だな」
「兄貴知ってるんですか? あいつらは幽霊の類ですが妖怪になりかけの化け物です」
「知っている、だから厄介だと言ったんだ」
「昔会ったことがありますが、俺の業火で焼き尽くしても次々と復活するんですよ。酒呑童子の力でも追い払う事しか出来ませんでした」
「だろうな俺がやる、鬼童丸は待機太郎丸はサポート、千尋は地蔵菩薩の術を頼む。七人ミサキの攻撃は強力な呪いのみだが単純なだけ恐ろしい、奴らの目はあまり見るな。出現時間は夕方から夜だと思っていい、昼間は純粋に海を楽しもう、体力は温存しておけ下手すると終わりのない戦いになる、早速明日行くぞ、いいな」
みんなが頷く。
「兄貴、対策は考えているのですか?」
「いや何も思い浮かばない、俺のじいさんが書き残した書物にも倒し方は書かれてない、出たとこ勝負だ」
「わかりました」
「話は終わりかしら?」
「ああ、終わりだ」
「じゃあちょっと水着をおじいちゃんの家から持ってくるわ」
「俺達も行こうか?」
「今日は一人でいいわ」
千尋はゲートを開き中へ消えて行き、五分程で戻ってきた。
「どんな水着なんだ?」
「それは見てからのお楽しみよ、それよりみんなご飯食べて帰るでしょ?」
「姉貴お願いします」
「姉さんいただきます」
テーブルにビーフシチューが並ぶ。
「姉貴、これはカレーですか?」
「違うわビーフシチューよ、美味しいわよ」
二人が恐る恐る一口食べた。
「これは美味い、こんなのは初めてです」
「俺もです」
俺が味わって食べてる間に茨木童子と鬼童丸はぺろりと平らげた。食後のコーヒーを飲むと帰っていった。
翌朝、海パンを引っ張り出し用意していると茨木童子たちがやって来た。一瞬茨木童子の背後に何かいた気配がしたがすぐに消えたので気にしないようにした。
「少し早いが行こうか」
「はい」
みんな嬉しそうだ。
ゲートを開き海岸に出る、砂浜を歩いて海の近くにブルーシートを敷いた。
「お前達は少し離れた場所で遊べよ」
「わかってますよ、デートの邪魔はしませんから楽しんで下さい」
茨木童子達は十メートル程離れた場所を陣取った。
千尋が水着を見せてくる、花柄のビキニだスタイルの良さがはっきりわかる。
「どう? 初めて着る水着よ」
「凄く似合ってる、お前やっぱりスタイルいいな」
「ありがとう」
千尋は日焼け止めを丁寧に塗り始めた。海水を触りに行ったがいい感じの水温だ。
「きゃあ」
と声が聞こえたので見ると、茨木童子達はふんどし姿で海辺に立っていた。俺と千尋は二人で笑った。
俺達はそれぞれ海を楽しんだ、暫く遊ぶと俺は一人でかなり沖まで泳いで、声を出す。
「海座頭よ、姿を現せ」
いつの間にか三人が近くまで来ていた。
「わしを呼んだのは誰だ」
大きな老人が杖をつき海の上に立っていた盲目らしい、目は閉じている。
「俺ははぐれ陰陽師、坂井優斗だ」
「お前が噂のはぐれ陰陽師か、茨木童子を従えてわしを滅ぼしにきたのか?」
「いや違う安心してくれ、お前に聞きたい事がある。七人ミサキが出るそうだがどの辺りかわかるか?」
「七人ミサキを倒しにきたのか、難しいぞ、出たら案内してやろう」
「わかった頼むぞ、奴らの弱点は?」
「それはわしにもわからぬ」
「そうかでは案内だけ頼んだぞ、呼び出して済まなかったな」
「岸まで送ってやろう」
大きな波が起きて俺達を浜辺まで運んでくれた。
まだ日が暮れるまで時間がある、俺は浜辺で寝転んだ。しばらくうとうとしていると海座頭の声が聞こえた。
『はぐれ陰陽師坂井優斗よ、七人ミサキが現れた』
俺は起き上がり辺りを見渡す、一筋の光が見える。
『太郎丸、鬼童丸七人ミサキが現れた』
千尋を連れ光の方へ向かった、二人も付いてくる。
七人ミサキが波打ち際に立っていた。
「茨木童子よ焼き尽くせ」
「御意、地獄の業火に焼かれて死ぬがいい」
巨大な炎が七人ミサキを包み込む、悲鳴を挙げ七人ミサキが燃え尽きたがすぐに復活する。
千尋は独鈷杵を持ち印を組んで呪文を唱えている。俺は七人に分身する。
「爆ぜろ」
と叫ぶ、七人ミサキが爆発する、しかしまた復活する、俺は奴らのの動きを封じた。
「千尋、地蔵菩薩の念を込めて奴らの頭を居抜け」
「どうするの? 弓なんか持ってないわ」
「イメージを具現化するんだ」
すぐに理解したのか矢が七人ミサキ全員の頭に刺さる。頭がボロボロ崩れていく。
俺はふと七人ミサキの足元に海へ通じる糸のような物を見つけた。
七人ミサキにかけた術を解く、徐々に頭が復活しはじめる。つい目が合ってしまった、強力な呪いにクラっとした。
「千尋、茨木童子同じ攻撃を続けろ、時間稼ぎをしてくれ」
「わかったわ」
「御意」
俺は海に飛び込んだ、糸を追い数メートル程進むと糸の先にたどり着いた。
どくろが七つ輪になってくっついている、こいつが本体だろう、爆ぜろと心の中で叫ぶとどくろが破裂し砕け散った。海面に上がり大きく深呼吸し浜辺に戻った。
「兄貴、七人ミサキが消えましたが」
「ああ本体を倒してきた、もう現れないだろう」
「兄貴流石です、俺も酒呑童子も倒せなかった七人ミサキを簡単に倒しましたね」
「ああどうなるか不安だったが無事に倒せてよかった」
海座頭が現れた。
「七人ミサキをあっさり倒すとは、凄い力じゃった礼を言う」
と言い消えていった。
「俺達も帰るとしよう」
荷物をまとめゲートを開きリビングに戻るとまた目の前が真っ黒になりぐにゃりと歪んだ。
『とうふ小僧か?』
『そうだよ』
『閻王からの伝言だろう、言ってみろ』
『誰も倒せなかった七人ミサキをあっさり片付けたのには驚いた、流石ははぐれ陰陽師、礼を言う、だって』
『たまたまですよと伝えてくれ』
『わかった』
視界が戻る、茨木童子の後ろにまた影が隠れる。
「酒呑童子、いるのはわかっている姿を見せろ」
ただの感だった、みんなが驚いている。
「ちっ、気付いていたのか」
茨木童子のように低い声だが透明感のある低い声だった。。
目の前に酒呑童子が現れた。こいつも茨木童子同様整った顔付きだった。
「最近噂になっているはぐれ陰陽師か、さっきの戦い見せて貰ったが見事だった」
「いつ蘇った?」
「一週間くらい前だ」
「やはりそうか、で何でここに現れた?」
「また鬼の軍団を復活させようと思ってな」
「悪事はさせん」
「別に暴れたりしねぇよ話は終わりだ。茨木童子、鬼童丸行くぞ」
「頭、いや酒呑童子の兄貴俺は行きません」
「俺もです」
「何でだ」
「俺の主はここにいる優斗の兄貴ですから」
「お前裏切るのか?」
「そういうつもりではないです、酒呑の兄貴も仲間に入りませんか?」
「断ると言ったらどうする?」
「別々の道を歩むまでです」
「酒呑童子よ、俺の仲間になってはくれないか?」
「では勝負をしよう、俺が勝ったら二人は連れて帰る、負けたらお前に従おう」
「わかった、お前復活して本来の力が出ないだろう、俺が力を満タンにしてやろう」
酒呑童子にパワーを送った。
「ほぅ、本気の俺の力を見たいようだな」
「ああ、場所を変えるぞ」
俺はゲートを開き夜の公園に出た、幸い人はいないようだ。みんなも付いてくる。
「俺の力を元に戻した事を後悔するがいい」
五メートル程離れて対峙する。茨木童子の三倍いや、四倍くらいの力だ。
酒呑童子は鬼の姿に戻った、流石に迫力が半端ない。
にらみ合いが始まった、俺はあらゆる攻撃の対処を思い描き殺気を飛ばした、心の中で戦う。酒呑童子も殺気を飛ばしてくる、にらみ合いが続く。
暫くすると酒呑童子が汗にまみれ呼吸が荒くなり始めた。十分が過ぎた頃酒呑童子が片膝をつき肩で息をしている。
「参った、俺の負けだ好きにするがいい」
見ていた三人は訳が分からないと言った顔をしている。
「とりあえず全員リビングに戻るぞ、酒呑童子お前もだ」
部屋に戻ると千尋がみんなのアイスコーヒーを淹れた。
「どういうことか説明してちょうだい」
「兄貴俺も聞きたいです」
「いいだろう、俺と酒呑童子は心の中で戦った、結果俺が勝っただけの話だ」
酒呑童子も話し出す。
「今聞いた通りだが勝負にもならねぇ、こいつの圧勝だった。ところでお前は手を抜いただろう、あれはお前の何割の力だ?」
「五割だ、お前もかなり強かったからな」
「そうか、では約束通り俺はお前を主として仕えよう」
「本当にいいんだな?」
「男に二言はねぇ、茨木童子霊酒を持ってこい」
「うちにもある」
千尋が霊酒を持ってくる、空になったコップ二つに霊酒を注ぎ一つ渡してくる。
「本来これは兄弟の契のやり方だが、今回は主従関係の契としてこれをする、俺の真似をしてくれ」
酒呑童子が酒を持った腕をこちらに向けて突き出すので俺も真似をする、腕を交差させ酒を飲む。
「これで終わりだ、これからよろしく頼む」
「わかった、一つだけ条件がある、人を殺すことを禁止する」
「わかった」
「俺はお前らを強い弱い関係なしに平等に扱う、いいな」
「わかった」
「酒呑童子の頭また一緒に酒が飲めますね」
「茨木童子もう頭は止めろ酒呑童子でいい」
「わかりました」
「酒呑童子の力を元に戻したついでに太郎丸の力も元に戻してやろう手を出せ」
「兄貴いいんですか?」
「構わん」
太郎丸の手から力を注入してやった。
「おぉ力が戻った、ありがとうございます」
「ところで主、そっちの女もかなりの霊能者だが主の嫁なのか?」
「まだ嫁ではないがいずれそうなる」
「そうか、では主と同じ扱いをせねばならんな」
「酒呑童子、これからよろしくね」
「うむ、よろしく頼む。ところでさっきの黒い水をもう一杯もらえないか?」
「コーヒーの事ねいいわよ」
千尋が全員分のアイスコーヒーを持ってきた。
「鬼ってみんなコーヒーが好きなのかしら」
「わからぬが我は気に入った」
「そう、いつでも飲ませてあげるわ」
「また今度頼む」
「酒呑童子よ、源義光にはねられた首はちゃんとくっついたのか?」
「我の妖力でくっつけたがまだ馴染まぬ」
「どれちゃんとくっつけてやろう」
俺は首に手を当てしっかりくっつけた。
「元に戻ったありがとう」
「大したことじゃない」
「お前はどこに住むつもりだ?」
「山に小屋でも建てて住むつもりだ」
「そうか、だったら太郎丸の家の近くに小屋を建てるといい」
「さっきから言ってる太郎丸とは茨木童子の事か?」
「そうだ、人間の世界に馴染むのに名前を付けてくれと言ったので付けた茨木太郎丸だ」
「そうかいずれ我にも付けてくれ」
「わかった」
ではこれから小屋を建ててくるのでこれで失礼する、茨木童子お前の家まで案内してくれ」
「わかりました、では兄貴帰ります」
「ああ、酒呑童子と酒でも飲むといい」
ゲートを開き三人が出ていった。
「あなた酒呑童子までも仲間に出来たわね」
「ああ、よかった。これで俺のじいさんを超える事ができた」
「海のデートも楽しかったわ」
「そうだな、楽しかったが長い一日だった」
「疲れたわね、早く寝ましょう」
「そうしよう」
寝ている時に夢を見た、千尋も横にいたので前と同じパターンだと気付いた。
「とうふ小僧、寝ているんだ要件を言え」
「閻王が、酒呑童子を簡単に仲間にするとはさすが運命の二人だ、愉快だ。これからも活躍を見せてもらうぞ、だって」
「わかりました、ありがとうございますと伝えてくれ」
「わかった」
そのまままた眠りに付いた。