十三・鬼童丸の誘い方
おじいちゃんの家に来ていた。
蔵から蹴鞠が見つかったと連絡があったので見に来たのだ。
俺とおじいちゃんは二人で縁側に座って見ていた、千尋は蹴鞠に参加している。
おじいちゃんにも座敷童子の姿は見えている、何故かと言うと茨木童子とおじいちゃんが仲良くなり、化け物もいいものだ、やっぱり見えるようにして欲しい、と頼まれたから術をかけたからだ。
初めて座敷童子を見た時に、めんこいのうと言って可愛がっていた。座敷童子も嬉しそうだった。
「童子よ、何度言えばわかる、足のここで蹴り上げるんだ」
「わかっているけど上手く出来ないの」
茨木童子が座敷童子に蹴鞠の蹴り方を教えている、千尋はすぐに上達した。
「じいさん、化け物に囲まれての生活はどうです?」
「楽しいもんじゃ」
俺も先日からおじいちゃんではなくじいさんと呼ぶようになった。茨木童子がじいさんと呼んでいるので、話しかけた時にじいさんと言ってしまったのだ、じいさんは一瞬驚いていたが、それで良いと言われたのでじいさんが定着してしまった。
茨木童子たちが蹴鞠を止めて広間に入ってきた、口々に疲れたと言っている。
汗をかいているのは千尋だけだ、妖怪の類はあまり暑さや寒さは感じないらしい。
ばあさんがアイスコーヒーとオレンジジュースを運んでくる、ばあちゃんも術をかけたので座敷童子が見えている、ばあさんも孫みたいで嬉しいと可愛がっていた。
みんなでコーヒーを飲みながらくつろいでいる、座敷童子はオレンジジュースを飲みながら蹴鞠を手放さない、気に入っているようだ。
俺は茨木童子にまだ見張られているがどうする? と聞くがまだ放っておきましょうと答えるだけだ。
数日前から以前の茨木童子のように尾行してくる奴に気が付いていた、尾行が下手なのでじいさんばあさん以外全員気付いている。
正体はわかっている、鬼童丸だ。前に新しい仲間が欲しいと茨木童子に相談した時に一番に鬼童丸の名前が出ていたので、こちらとしては嬉しいことだがなかなか姿を見せてこない。
文献によると鬼童丸はボサボサの髪に口ひげの恐ろしい表情の姿で、ずる賢く悪戯好きとなっているがまだ被害はない、だが俺はなかなか姿を見せない鬼童丸にじれったく思い始めていた。
じいさんがみんなで昼ご飯を食べようと誘ってくれたのでいただく事にした。
「じいさん、俺この前のステーキってのが食べたい」
「茨木童子、あまりわがままは言うな」
「優斗、大丈夫じゃ食事くらい好きなものを食べさせてやろう」
「すいません」
「ばあさん肉はまだ残ってるか」
「ありますよみんなステーキでいいかい?」
みんな頷く。ばあさんが出ていった。家政婦を雇っているのに食事は毎回ばあさんが作っているみたいだ。
待ってる間、座敷童子がじいさんに聞く。
「おじいちゃん、どうしたら蹴鞠が上手になるの? 茨木童子の教え方ではわからない」
「幸子足を見せてごらん、膝をこう曲げて足のここで上に蹴り上げてごらん」
座敷童子が言われたように練習する、三回目で蹴鞠が上手く蹴れたみたいだ。
「それでいい、コツはわかったのか?」
「おじいちゃんありがとう」
「童子、我の教え方が下手と言っているのと同じだぞ」
「だって下手なんだもん」
「もう遊んでやらんぞ」
「それは駄目みんなと遊ぶの」
「わかったわかった、また遊んでやるから機嫌を直せ」
俺が口を挟む。
「なんか、家族団らんみたいでいいですね」
「わしが生きてる間こういうのが続けば嬉しいがな、いつ死んでもおかしくない歳だ」
「じいさん、昨日我と飲んだ酒はただの酒ではない、特別な霊酒だから長寿の効果も入っている、まだまだ死なないであろう」
「そうなのか太郎丸、今度ばあさんにも飲ませてやってくれないか」
「よいぞ、また戦争の話を聞かせて欲しい」
「ああ、話してやるとも」
順番にステーキが並べられる、座敷童子のだけは最初から小さく切ってある、ばあさんが気を聞かせたのだろう。
いただきますと言って食べ始める、かなりいい肉みたいだ、柔らかいし口の中で溶けるようになくなる、分厚いステーキなので肉だけで腹が膨れた。
背後でぐぅと腹の鳴る音が聞こえた。
「鬼童丸、いつまで隠れているつもりだ? 先日からずっと尾行してるのはわかっているのだぞ」
鬼童丸が姿を表した、文献の挿絵のように禍々しくない、茨木童子ほどハンサムではないが整った顔立ちをしている。
「バレていたのか、しょうがない。あんたの噂を聞いて確かめてやろうと思っていたがなかなか化け物退治をしないから退屈に思っていた」
声は普通だ、やや低いが茨木童子程の気迫もない。
「鬼童丸よ、久しぶりだな遠くからわざわざやって来たのか」
「茨木童子様お久しぶりでございます、はぐれ陰陽師の噂を聞いてやって来ましたが、何故あなたのような方がこんなやさ男に従っているのか理解出来ません」
「鬼童丸、貴様我が主を侮辱するとは何事だ我が地獄へ叩き落とすぞ」
「すいません、茨木の兄さんにはどう足掻いても勝てないので許して下さい」
「我が何故この方を主としているのかわからないと言ったな、簡単なことだ我よりも遥かに強く優れた能力を持っているからだ、それに気付かぬとは貴様の力も落ちぶれたな」
「そんなにこの陰陽師は強いのですか? 実際見てみないとわかりません。酒呑童子の頭とどちらが強いのですか?」
「酒呑童子の頭が全力を出しても瞬殺出来る程の力を持っている」
「この陰陽師はそんなに力があるのですか? それが本当なら最強じゃないですか」
「本当だ疑うなら閻魔に確かめるがよい」
「閻魔も認める程なんですか?」
「そうだ、話していてもらちがあかん、暫く我と共に行動するがいい」
「わかりました、そうさせてもらいます
「兄貴こんな事言ってしまいましたがいいでしょうか」
「構わん、好きにさせておけ」
「ありがとうございます」
みんな唖然とした顔で俺達を見ていた。俺は慌ててみんなごめんと誤った。
「鬼童丸よ、そんなに俺の力が知りたいなら一度手合わせしてやろうか?」
「受けて立とう」
「じいさん裏庭借りてもいいですか? 荒らしたりはしませんから」
「構わんよ、そのかわりわしらも見ていいかね?」
「ええどうぞ」
全員で裏庭に行き俺と鬼童丸が対峙する。
「俺は一割の力で戦ってやろう、お前は本気で殺しにかかってくるといい」
「いいのか」
「ああかかって来い」
鬼童丸が走って来て掴もうとする、瞬間移動で背後に回る。
「どこを見ているこっちだ」
振り向きざまに拳が飛んでくる人差し指一本で拳を止める。
「それだけか?」
俺が鬼童丸の足を凍らせたら慌てている、分身の術を使い近づきデコピンをすると吹き飛び白目を向いた、頬を叩き起こしてやる。鬼の式神を使役し襲わせるその間に茨木童子のところに行き、あれがあいつの全力なのか聞いた、そうですと返ってくる。式神の攻撃をやめさせると口から炎を吐いてきた炎を凍らせ割る、俺も炎を出して鬼童丸を包む。
「暑い、死ぬ、ごめんなさい消して下さい」
炎を消してやる。
「遊びにもならなかったな鬼童丸よ」
「あれで本当に一割の力なんですか?」
「一割も使っていない」
「そんな、あなたの方が化け物だ。ボロボロになったので一旦失礼します」
と言い飛んでいった。
みんなで広間に戻るとじいさんが言う。
「実際に戦っているのは初めて見たが凄いとしか言えない、あれで一割の力なのかね?」
「一割も出してませんよ、準備運動にもなりませんでした」
「じいさん、主の力は我が百人いたとして一斉に攻撃しても、三分もかからず全滅させられる程の力があるのだぞ」
「優斗、本当かね」
「まあ本当です」
「もういいじゃない、優斗帰りましょ」
俺もステーキの礼をいいゲートを抜けてリビングに戻った。珍しく茨木童子が付いて来なかったので二人でコーヒーを飲みながら話をした。
夕方。
『兄貴入ってもいいですか?』
『いいぞ』
茨木童子の後ろから鬼童丸も入ってきた。
「茨木童子よ、俺はがっかりしたぞ」
千尋も加わる。
「太郎丸、なんであんな弱い鬼を仲間にしようとしたのよ、私もがっかりだわ」
茨木童子が苦笑いをしながら話す。
「こいつが弱いんじゃなくて兄貴が強すぎるんですよ。これでも鬼童丸は人々に恐れられた鬼の一人なんですよ」
「茨木童子、仲間探しは暫く中止だ」
「わかりました」
鬼童丸が横で泣いている。
「鬼童丸元の住処でおとなしく暮らせ」
すると鬼童丸はいきなり土下座をした。
「仲間に入れて下さい、なんでもします」
「さっきも茨木童子に言ったが仲間探しは中止だ、今は募集していない」
「そこをなんとかお願いします」
「しつこいぞ」
「仲間にしてもらえるまで動きません、兄さんの元で修行させて下さい」
「兄貴こいつこう言い出すとてこでも動きませんよ、困りましたねどうします?」
「暫く放っておこう」
「太郎丸、夕飯食べて帰る?」
「洋食と言うやつですか?」
「そうよ、カレーよインドの料理よ」
「姉貴いただきます」
カレーを見た茨木童子が言う。
「これは白米と混ぜて食べるんですか」
「そうよ、辛いわよ」
いただきますと言い一口食べる。
「美味しいです、やみつきになりそうな味ですね」
食後のコーヒーを飲み終えると。
「今日はじいさんと飲む約束があるので失礼します」
と言って帰って行った。
鬼童丸は動かない。
放っておいたが、俺達が寝る前もうごかなかった。
『指輪、鬼童丸が動いたら教えてくれ』
『久しぶりに話せたと思ったらそれだけ?』
『すまないが頼む』
『わかったわ監視しておくわ』
俺たちはベッドに入り朝まで熟睡した。
起きて指輪に結果を聞く。
『一ミリも動かなかったわ』
『そうかありがとう』
『仲間にしてあげたらどう?』
『役に立ちそうもない』
『だけど忠誠心だけは凄いわよ』
『そうか、考えてみる』
リビングに行くと本当に昨日の土下座ののままだった。心の中を読んでみる。
『お願いします、お願いします』
ずっと同じ言葉を繰り返しいている。
朝食後、心配だったのか茨木童子もいつもより早くやってきた、鬼童丸を見て呆れた顔をしている。
「兄貴、どうします」
「まだ様子をみる」
「邪魔なら俺が何とかしますが」
「いや、まだ待て」
千尋は朝から鬼童丸の事には一切触れないチラッと見ただけだ。
「太郎丸も飲むでしょ?」
アイスコーヒーを三人分持ってくる。
「姉貴ありがとうございます」
「新しい家には慣れたの」
「はい、快適に過ごしています」
「だったらいいわ、おじいちゃんにかなり好かれたみたいね」
「そうなんですか?」
「そうよ、でないとあんなことしないわ」
「ですよね、ところで兄貴今日の予定は?」
「何もないがどうした?」
「買い物に付き合ってもらえませんか」
「何を買うんだ」
「服です」
「金持ってるのか」
「じいさんがくれました」
「なんでいきなり貰ったんだ」
「昨夜霊酒をばあさんにも飲ませたら、何かわかりませんが目の病気が治ったと言って喜びまして、じいさんがこれで新しい服でも買いなさいと言ってお金を貰ったんです」
「いくらもらったんだ」
「三万円ですが、でも俺は今の価値がわからないです」
「それだけあればじゅうぶん買えるな」
「千尋、選んでやってくれないか?」
「いいわよ、太郎丸はいつも同じ服だから」
「これしか持ってないんですよ」
「安い服でもいいでしょ?」
「はい、着れればいいです」
一時間後、俺たちは街の大きなショッピングモールに行った。
いろんな店が並んでいるのを見て茨木童子は驚いていた。千尋が大きな服屋の前でここよと言って三人で入った。茨木童子は千尋がいろんな服を持ってきて、試着室で着せ替え人形のように次々着せられた、結局シャツ三枚とズボンを二つに絞り購入した。それでもお金は半分残ったので靴を一つ買った。
残った一万円でラーメンを食べた。ラーメンを初めて食べた茨木童子は美味いと言いながら食べた。
「まだお金残ってますがどうしましょう?」
「それは残しておきなさい」
と千尋に言われ、ズボンにしまった。
部屋に帰ると茨木童子が疲れた顔をした。
「姉貴気持ち悪いです」
とぐったりしている。
「人混みに酔ったんじゃない?」
「そうなんですか?」
「多分ね、しばらくしたら治るわ」
「姉貴今日はありがとうございます」
「気にしなくていいわ」
時計を見るともうすぐ十五時だ。
「茨木童子よ、用事がないならもう少しいてくれ」
「わかりました」
暫く雑談をして過ごした。
十六時になったのを確認すると俺は鬼童丸の方に向き話す。
「鬼童丸よ、頭を上げろ」
「兄貴、どうするんですか?」
「黙って見ていろ」
「はい」
鬼童丸は動かない。
「鬼童丸、頭を上げろ」
動かない。
「お前は丸一日二十四時間動かなかった、心を読んだがお前はずっとお願いしますと言い続けていた、お前の気持ちに揺らぎのない事はわかった、仲間にしてやる」
「兄貴」
「黙っていろ」
俺の気迫に茨木童子は黙り込んだ。
ようやく鬼童丸が頭を上げた。
「本当ですか?」
「男に二言はない、今日から仲間だ。お前は鬼の中ではそこそこ強いみたいだが俺から見れば弱すぎる、茨木童子のように強くなれ」
「わかりました、ありがとうございます」
「お前は俺に実際見ないと強さがわからないと言っていたな、少し見せてやる」
と言い、鬼童丸の額に手を当てがしゃどくろとの戦い以降を見せてやった。
「こんな凄いんですね、足手まといにならないように頑張ります」
「それでいい、これからは強い弱い関係なしに茨木童子と同様に扱う、しっかり付いて来いわかったな?」
「わかりました」
「なんとお呼びすればいいですか?」
「好きなようにしろ」
「わかりました兄さん」
「千尋、茨木童子これでいいな?」
「あなたがそう決めたのなら私は反対はしないわ」
「兄貴、俺もです」
「鬼童丸、そういう事だ。俺を主として仕えるなら条件が一つある。人を殺さない事だ」
「わかりました」
「話は以上だ、お前もこっちへ来い」
鬼童丸がテーブルの側に来た。茨木童子が話しかける。
「お前が我が主を裏切ったり愚弄するような真似をしたら俺がお前を殺す、肝に銘じておけ、わかったな」
「わかりました、茨木の兄貴」
「そこまでだ茨木童子」
「はい」
「千尋、カレーはまだ残っているか?」
「ええいっぱいあるわよ」
「じゃあみんなで食べよう、特に鬼童丸は昨日からずっと腹が鳴りぱなしだ、たくさん食って力を付けろ」
「ありがとうございます」
みんなで飯を食って食事が終わると、茨木童子も鬼童丸も帰って行った。
「私わかってたわ」
「何がだ?」
「鬼童丸を仲間に入れること」
「そうか」
「それとあなたが太郎丸を一喝した時私も怖かった」
「すまんな」
「いいのよ、そんなあなたが大好きだから」
「俺もだ」
こうして俺達は新しい仲間を増やし四人で行動するようになった。