十一・閻王の尻拭い
道光との戦いに圧勝してから二日間ほとんど寝て過ごした、いろんな能力を一気に使ったせいで精神的な疲れが襲い気力も霊力もなくなっていたのだ、今日ようやく元通りに生活が出来るようになった。
千尋が甲斐甲斐しく看病してくれ、茨木童子も様子を見に来て言った。
「俺の持って来た酒を一口飲んで下さい」
と言うので一口飲んでみると霊力がたちまち治ったのだ。
閻魔様の使いを追い払ったのを思い出し、ソファーで千尋と並び目を閉じとうふ小僧を呼んだ、頭の中がくらっとしとうふ小僧が現れた。
『とうふ小僧、この前は追い払ってすまん』
『大丈夫だよ相当疲れてたみたいだったね』
『そうなんだ、でこの前はまた閻魔様からの伝言だったのか』
『そうだよ』
『聞かせてくれ』
とうふ小僧はノートをめくる。
『決闘は圧勝だったな、とりあえずゆっくり休むがいい、能力を上手く扱えるようになったのは驚いたやはり運命の二人だ、だって』
『他には?』
『あの茨木童子を配下にするとは見事だ、酒呑童子と並ぶ強大凶悪な茨木童子を使える者はお前くらいだろう、あいつは人に仕えるのは初めてだろう、更に仲間を増やすがよいお前なら出来る、だって』
ノートをめくる、黙って見ていた。
『生まれ持った才能だ修行をしろとは言わんが精神力を鍛えろ、そこだけがお前達の弱いところだ、質問はあるか? だって』
『決闘の時俺の口を操ったのは誰だ?』
ノートをめくる。
『やはり気付いておったか、特別に教えてやろう地蔵菩薩だ、だって』
『それで終わりだろう?』
『よくわかったね、これだけだよ』
『伝言を聞くのが遅くなってすいません、と伝えておいてくれ』
『わかった、じゃあ帰るね』
フッと消えた、目を開ける。
「眠らずに聞けるようになったな」
「ええ、精神力を鍛えるにはやっぱり瞑想かしら?」
「そうだな、それくらいしか俺もわからん」
『姉貴、入ってもいいですか』
俺にも聞こえた。
『いいわよ』
ゲートから茨木童子が入ってくる。
「兄貴、起きてたんですか? もう大丈夫なんですか?」
「お前に貰った霊酒のおかげでな礼を言う」
「礼なんていいですよ」
「さっき閻魔様の使いが来て言ってたが、お前は人に仕えるのは初めてらしいな」
「閻魔のおっさんですか、はいそうですよ」
「どういった心境の変化だ?」
「今まで兄貴程の霊力を持った人間がいなかったからですよ」
「そうかわかった」
「姉貴」
「わかってるわアイスコーヒーでしょ」
「そうです、心が読めるんですか」
「読めるわ、でも今のは読まなくてもわかったわ」
千里眼で道光を見てみる、相当リンチを受けたのか大怪我をしていた。屋敷のようだったので他を見て回る、各部屋に祭壇があったが一つ禍々しい祭壇がある、俺に呪いをかけているみたいだ、数人が何かをしている。
俺はすぐに呪い返しの結界を張った。
「兄貴どうしたんです?」
「この前の陰陽師が身内に暴力を受け大怪我をしている、そしてその中の誰かが俺に呪いをかけてるみたいだから呪い返しの結界を張った」
「そんなまどろっこしい事しなくても俺達が乗り込んで思い知らせてやりましょう」
「優斗、その方がいいわ」
「じゃあ乗り込むか」
俺がゲートを開き陰陽師たちの前に姿を現す、全員が驚いている。
「誰だ、どこから現れた?」
「坂井優斗だ」
「ひぃ」
と怯えている。
「呪いで俺が殺せるとでも思ったのか?」
俺は祭壇の日本酒の瓶を念動力で奴らの頭上に移動させ、爆ぜろと唱えた。
瓶が破裂し酒が飛び散る、逃げれないように足を凍らせ、全員の髪の毛を燃やした。
「も、もうしません、許して下さい」
「お前達は道光から話は聞いてるな?」
全員が頷く。
「それでも懲りてないと言うことだな、全員ここで死ぬがいい、生き残れたら閻魔様に俺の事を聞いて見るがいい」
「い、命だけは助けて下さい、もう関わりません」
「茨木童子よ、この屋敷をぶち壊せ」
「御意」
茨木童子が飛び上がった、各部屋から屋敷が崩れる音がする、俺は祭壇を念動力で壊した。
茨木童子が道光を抱え戻ってきた、道光を投げ捨てる。
「兄貴、残すはこの部屋だけです」
「ご苦労」
「全員殺しますか?」
「今日は止めておこう」
全員震えが止まらないようだ。
「今日はこれで遊びはお終いだ、いつでも監視しているぞ次はないと思え」
ゲートを開き部屋に戻る。
「ふう、すっきりした」
飲みかけのアイスコーヒーを飲む。
「兄貴、あれだけで良かったんですか?」
「十分だ」
千尋も頷いている。
「今日の言葉も操られてたの?」
「いや、俺自身の言葉だ」
「それでいいわ」
「戦闘モードの兄貴は凄いです、俺でさえ逆らったら殺されそうなオーラが出てますよ」
「そうか、ちょっとどうなったか見てみる」
「俺にも門で見せて下さい」
「どうやるんだ」
「門を開くのと千里眼を同時に出すんです」
試してみた。
「これでいいのか」
「はい成功です」
三人で覗き込む、声も聞こえるようだ。
全員足が凍ったままだ、術を解くのを忘れていた。
「本物が出た、恐ろしい」
「屋敷が潰れたもう俺たちは終わりだ」
「もう俺は二度と関わらないからな」
「凍った足を何とかしてくれ」
みんなの声が聞こえた、俺はゲートに向かい話しかけた。
「懲りたようだな、命だけは助けてやろう」
「ひぃ、懲りました」
茨木童子が面白がって言う。
「次はこの茨木童子がお前らを食ってやる」
俺はゲートを閉じた。
茨木童子は何事もなかったようにコーヒーを飲んでいる。俺と千尋もコーヒーを飲みながらくつろいだ。
茨木童子が舌打ちをし渋い顔付きになったので聞いてみた。
「茨木童子どうした?」
「閻魔の親父が来ます」
「いつだ」
「すぐです」
『運命の二人よ聞こえるか』
『はい、はっきりと』
『茨木童子よ久しぶりだな』
『俺は会いたくねぇよ』
『嫌われたものだな』
面識はあるようだ。
『どうしたのですか? 牛頭馬頭様からもう死ぬまで会えないと聞いてますが』
『今日は特別だ』
『慌ててるようなので聞きましょう』
『うむ、お主らが芦屋道満の子孫達をやっつけただろう』
『はい』
『こっちにいる道満に聞いたところ、あいつらは本物の子孫ではなかった、文献などを盗み見し陰陽道の技を盗んだ奴らだった、その力で金儲けしてるみたいだ。わしの勘違いであいつら一族の者は極楽に送っていた』
『そうでしたか、でももう懲らしめたのでいいんじゃないでしょうか?』
『奴らは懲りていない、他にも屋敷を構えておるそこが本部だ。そこで頼みがある、奴らを滅ぼしてくれぬか? 殺しても構わん』
『わかりましたが、殺しはしませんよ』
『では、二度と術を使えないように懲らしめてくれ手足の一・二本引きちぎってもよい』
『わかりました』
『わしの間違いだった、すまない頼んだぞ』
フッと消えた。
「みんな聞いたな?」
二人が頷く。
「兄貴、いつ行きます閻王がああ言ってたので俺は久しぶりに大暴れしたいです」
「大暴れするがいい、だが殺しはするな」
「わかってますよ」
「千尋もサポートを頼むぞ、明日行こう」
「わかったわ」
「兄貴、ウズウズしてきました」
「茨木童子、廃人にしても構わないからな」
「わかりました」
「千尋もわかったか」
「ええ、私も暴れるわ」
「兄貴、宣戦布告してビビらせましょう」
「そうだなだまし討ちは嫌だからな」
俺はゲートを開きさっきの屋敷を覗いた。
まだ凍った足のまま全員がいる。付近を探す上空から見たら近くに本部らしい屋敷を見つけた、陰陽師の格好をした者が集まっている。大きな広間に二十人程集まって、一族の長のような人物が全員に何かを話している。
屋敷に向かって声を掛ける。
「坂井優斗だ」
全員がビクリとする。
「お前ら金儲けのため芦屋道満の子孫と嘘を付いているようだな、明日お前達を滅ぼしに行く全員覚悟しておけ」
「坂井優斗、支部の屋敷を潰したはぐれ陰陽師だな、返り討ちにしてやる」
長らしい男が強気な発言をする。
「我は茨木童子、貴様らの悪事を終わりにしてやる怯えて眠れ、フハハハ」
ゲートを閉じる。
「茨木童子よ、屋敷ごと潰してもいいから暴れまくっていいぞ、今回はお前の力を頼りにしている」
「わかりました、楽しみです」
「私は不動明王の力を借りるわ」
「俺は二人が精神的に疲れが出ないようにパワーを送りながら戦う」
「助かるわ」
「兄貴凄いです、本当に人間なのですか?」
「そうだ、少し霊力が強いだけの人間だ」
「少しどこじゃないですよ、何百年も生きてますが兄貴のような人間は初めてです」
「おだててもコーヒーしか出してやれんぞ」
「おだてではないです、姉貴お願いします」
「わかったわ」
千尋が珍しくカフェオレを淹れた。
「姉貴、色が薄いですが?」
「カフェオレって言うのよ、コーヒーよ」
茨木童子は一口飲むと、これも美味いと一気に飲んだ。
「茨木童子よ、時計は読めるか?」
「はい、読めますよ」
「では、明日は九時から十時に来てくれ」
「わかりました」
俺は茨木童子に貰った霊酒を出してきてみんなで一口ずつ飲んだ、力が漲る。
「茨木童子、この霊酒貰って良かったのか」
「ええ三本ありますから、一本は酒呑の頭が持ってます。ちなみにこれはいくら飲んでも次々湧き出る減らない霊酒です」
「そうなのか、貴重な酒だな」
「兄貴は自分から陰陽師と名乗らないですが何故です?俺から見れば誰も敵わない立派な陰陽師ですが」
「俺は陰陽師の子孫でもないし、陰陽道の師匠もいないただの術士だからな」
「そういうもんですか」
「そうだ、さっき奴らが言ってたようにはぐれ陰陽師だしな」
「はぐれ陰陽師もいい響きじゃないですか、これからそう言いましょうよ」
「そうだなわかった」
そして、次の日三人が集まるとゲートを抜け昨日潰した支部に行き全員に聞く。
「昨日本部から話は聞いてるな?」
と聞く、全員衰弱しているが頷いた。道光もいた可哀想だが見逃すわけにはいかない。
「ではお前らが二度と術が使えないようにする。氷が砕ければどうなるかわかるな?」
全員の腕を凍らせ木刀を一振りする、凍った手足が氷と共にバラバラになる。全員が悲鳴を上げる。
「これで一生術は使えない、生活も困難になるだろう。恨むなら悪の道に走った自分を恨め早く病院に行かないと出血多量で死ぬぞ」
次に本部をゲートで見てみる、人の気配はあるが誰も姿を表さない、各部屋を見ると弓矢を手にした者が二十人程いた。
俺は二人に言った。
「バリアを張れ、自分で出来るな?」
二人がバリアを張る。
「奴らの中心に出るぞ」
ゲートを潜り中庭に姿を現す。
「はぐれ陰陽師坂井優斗だ全員潰しに来た」
と叫ぶ。
「坂井優斗が現れた全員出て殺せ」
誰かがそう叫ぶと各部屋が一斉に開き、矢を放つ、バリアに弾かれ矢が折れて落ちる。
「バリアだ次の矢を放て」
術のかかった矢を構えた。
「次のが来たら二人共伏せろ」
矢が飛んでくる二人が伏せる、俺は木刀を横に一振りした、矢が空中に静止する、矢に術をかけ。
「矢よ、射抜け」
と叫ぶと矢は逆に向きを変え飛んで行き全員の腕を貫く。
「手足よ凍れ」
肘からつま先、膝からつま先が凍った。
「爆ぜろ」
手足が砕け散った。
「二人共ここから別行動だ」
「わかったわ」
「御意」
俺は二人にパワーを送りながら歩く。
新しい敵が湧いて出る、俺たち三人が散らばる、横目で見ると千尋は独鈷杵、茨木童子は素手で敵に襲いかかっていた。
俺は目の前に現れる敵の手足を次々と木刀で切り落とす。あっけなく全員を倒した。
「陰陽師八人衆かかれ」
声と共に八人の陰陽師が現れた、俺は庭の中心に瞬間移動した。驚いた八人が式神を使役しながら追いかけて来る、俺も分身の術で八人にわかれ全員の手足を切り落とした。
同時に門の外から十人が入って来て拳銃を取り出す、バリアを張った。パンパンと拳銃で打って来るがバリアに弾かれる、拳銃の玉は空になったようだ。
「茨木童子よ、こいつらの手足をもげ」
「御意」
茨木童子は一人ずつ両手足を引きちぎる。俺はそれを見届けると長を探した、奥の広間に隠れているのが透視で見えた。
瞬間移動し、長の後ろに立った。肩に手を置く。
「こっちだ」
と言うと振り向いて術をかけようとしたので、また手足を切り落とした。まるでだるまのようだ。
茨木童子と千尋が集まって来る。
「た、助けてくれ。金ならいくらでも出す」
「金には興味ない、お前の手下も全員お前と同じように手足を切り落とした、悪事を働いたバチだ、恨むなら自分を恨め、悔いながら残りの人生をおくれ」
「誰に頼まれた?」
「閻魔様直々に命じられた」
「そんな馬鹿な……」
「茨木童子よ最後だ家をなぎはらえ」
「御意」
茨木童子は天井を突き破り飛び上がった。俺は千尋を連れ門の外に瞬間移動した。茨木童子が腕を一振りすると屋敷は音を立て崩れ去った。
すぐに戻って来て俺の前で片膝を付いた。
「終わりました」
「よくやってくれた」
遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
「では帰ろう」
ゲートを開き部屋に戻った。
「思ってたより人が多かったな」
「優斗がパワーを送ってくれてたから楽だったわ」
「俺もです」
俺は霊酒を一口飲み霊力を元に戻した。
「様子を見てみるか」
ゲートを開く、屋敷を上空から眺めた。救急車もかなり集まっている、次々と手足のないだるまになった男たちが運ばれて行く。
弓矢や拳銃も警察が押収している。
「これで一件落着だな」
「私、人を相手にあんなことするの初めて」
「千尋の独鈷杵が刀に変化していたがどんな術を使ったんだ?」
「不動明王の術で変化させたのよ」
「姉貴も凄いですね」
「太郎丸には敵わないわ、コーヒー淹れてあげるわ、いつものアイスコーヒーとカフェオレどっちがいい?」
「アイスコーヒーがいいです」
三人でアイスコーヒーを飲んでると、茨木童子が言う。
「閻魔の使いが来ますよ」
「そろそろだと思ってたよ」
眼の前が真っ暗になり目が回り、とうふ小僧が現れた。
『来るのが遅いじゃないか、閻魔様かと思ってたよ』
『閻王が閻魔じゃなく閻王と呼べって言ってたよ』
『わかった、で閻王からの伝言だな』
『そうだよ』
『話してみろ』
『あれだけの人数相手によくやってくれた感謝する、わしの尻拭いをよくやってくれた。だって』
『人間相手にあそこまでして俺たちは死んだら地獄行きなのか?』
『罪人相手だから大丈夫だ、それに運命の二人だしな、だって』
『そうか』
『茨木童子もよくやってくれた、だって』
『帰ったら閻魔の親父にお前のためじゃない我が主のためだって言っておけ』
『は、はい。二人は伝言あるの?』
『ない』
『わかった、じゃあ帰るね』
視界が元に戻る、茨木童子が怒って。
「なんであいつの尻拭いをしたのに本人じゃなく使い魔が来るんだ」
「まあいいじゃないか」
「太郎丸、またご飯作るから機嫌直して」
「また異国のが食べたいです」
「わかったわ」
千尋がオムライスを作った。
「この赤いのは血ですか?」
「トマトのソースよ」
三人で食事をし終えると。
「異国の料理は美味いものばかりですね」
と言いゲートから帰って行った。
ニュースで今日の事が事件になっていたので千尋と二人で見て過ごした。しばらくはのんびりできそうだ。