パーティー・イズ・オーバー
ある女性が大企業の重役の息子で有名な「ちょっとよくない噂」の絶えないプレイボーイが主催するパーティーに招待された。彼女は才色兼備で竹を割ったような性格がすがすがしいと人気の女性だった。その彼女が例のプレイボーイから人づてに誘われたのだ。これは明らかに「目を付けられた」と思って間違いない。
だが彼女、こういうタイプの男性は願い下げで、誘われてもいつもなら即答で断っていた。今回は、女友達が「滅多に無い機会」「行ってみたい」と言い、「あんたが行かないんじゃアタシも行けないから」と言うのでつき合うことにしたのだ。
都心の高層マンション。とても個人のマンションとは思えない。
会場に通された二人は、まず窓からの眺めの良さに圧倒される。こういう会場は、まずこれで「まいらせてしまう」ところがある。彼女の友人もこの時点でワクワク顔でニヤけてしまっている。
「やめなさいよ、そう言う顔。物欲しそうに見えるでしょ」彼女は友人をたしなめる。だが友人は顔から微笑みを消せない。おなかの底からこみ上げてくる微笑みなのだ。
「こんなパーティー、滅多に呼んでもらえないわよぉ。あんたは違うかも知れないけど!」
彼女は確かにパーティーに呼ばれることは珍しくない。きょうも、髪を上げてミニドレスに身を包んだ彼女は、とりわけ目を引く。虎視眈々と見られている仔羊のごとくだ。
友人は声を細めながらも目を爛々と輝かせて周りを見ている。
「だから、そう言う目はやめなさいって」
「大きなお世話よぉ」友人は彼女に舌を出して見せた。そして、急に素に戻ると、
「ねえ、あんた、きょう勝負下着?」
「やめてよ。そういうつもりなの?」彼女は友人の言いように呆れ顔をした。
「ええ!人生最大の大舞台よ、きょう。誰か捕まえたいワ!」
「やめときなさい。こんなところで探すの。場所代が高いだけで程度は低いんじゃ無い。半分は腹を空かせたオオカミって顔よ」
堅苦しいあいさつなど無い、「ただ楽しむため」の豪奢なパーティーも、ゲームやらイベントもあり、アルコールも適当に回って、たけなわになったころ、例のプレイボーイが彼女についにアタックしてきた。
――ついに来た――という感じだったが、彼の話ぶりは彼女に「彼にまつわる悪い噂」と違う、知的で誠実な印象を与えた。それは彼女のこころを惑わせた。
そして、気を許して話が弾むと迂闊にも、いつしか「別室」に誘い込まれていた。
ムードのある照明と音楽。「趣味は悪くないワ」と思わせた。テーブルにはシャンパンも。彼は慣れた手つきでシャンパンの栓を抜き、二つのグラスに注ぐ。
――んん、これ、おいしい!――彼女は思った。思ったどころか、下品にも一杯をグッと飲み干して見せた。
「へぇ。お酒強いんですね」
彼はうれしそうに、穏やかに話す。この程度ではたじろがないし、彼女に幻滅を感じないようだ。
彼は実にロマンティックな話をする。語り口がいい。雰囲気に合っている。彼女も酔いが回ってきて、悪い気分では無い。
彼はソフトに距離を詰めてくる。それは、賢い牧羊犬のよう。彼女はいつの間にか「柵の中に追い込まれる羊」のごとく、ソファの端に追い込まれ、もう後ろに下がれない。彼女のミニドレスはそっと……、彼はアッと声を上げ、半ば彼女に覆い被さっていた上体を引き起こして、驚き嫌悪した表情で彼女を見た。彼女も我に返ったように、
「あ、アブナイところだったァ。これアタシの『拒絶下着』」
と言うと起き上がって彼を押しのけ、ソファから立ち上がるとサッサとドレスを直し「ごめんあそばせ」とおどけるように言い残し、彼に手を振って部屋をあとにした。彼は呆然とソファに膝立ちの姿勢のまま彼女の背中を見送っていた。
タイトル「パーティー・イズ・オーバー」