番外編1(本編最終話のネタバレを含みます、番外編の内容は最終話のあとがきに記載しております)
※本編で選ばなかった二人とのもしものお話です。
その為、最終話のネタバレを盛大に含みますのでご注意ください。
______
朝日が差し込む森の中、窓から差してきた光で目を覚まし軽く伸びをする。
隣で眠っていたはずの彼は日課のモモとの散歩に行ったようだ。
ルストに自分も好きだと返事を返してからしばらく。
今、私は彼の家に住んでいる。
この家の外は森で、モモにとっても良い環境の場所だ。
家には流石に入れなかったので専用の家をこの家の隣に作ってもらい、モモはそこで寝起きしている。
早起きの二人は私が起きる前に散歩と称して森の中を歩き回り、狩りをしたり果物を取ったりして朝食時に帰ってくるのだ。
「ただいま、戻ったぜ!」
「おかえりルスト、おはよう」
「……おう」
噛み締める様に笑うルストはここに私が住み始めてしばらく経った頃、その心の内を明かしてくれた。
この家はルストにとって孤独だったころの嫌な思い出が詰まった場所だ。
けれど今は家に帰れば私が出迎えるし、温かい食事と笑顔がある。
嫌な思い出が幸せな今に塗り替えられていく感覚が、たまらなく嬉しいのだと言われた。
「クルミがあったから集めてきたぜ」
「わ、ありがとう。これでカツでも作ろうかな」
「カツ! よし、明日は休みだし夕飯はそれで決まりな」
「はいはい、とりあえず朝ごはん食べちゃったら?」
「おお、今日も美味そうだな!」
相変わらず料理をべた褒めしてくれるので、彼相手だとすごく作りがいがある。
こうして彼と朝食を取った後にモモの背に乗って店へ行き、彼はダンジョンへ、私はお店で勤務というのが最近の一日の始まりだ。
そして夜になって仕事が終わった私に時間を合わせる様にルストがダンジョンから戻ってきて、また一緒に家まで帰る事になる。
……何故か意気投合した勇者さんとシュテルさんが、また交流するようになったルストと飲み会をするべく家に遊びに来る事があるのが不思議で仕方ないのだが。
この二人殺し合ったんだよね?
まあ、ルストは嬉しそうなので私は全然良いのだが。
次の日、休日という事もあってルストと二人で家を出て森の小道を散歩する。
彼とは身長差があるので歩幅も違うし、お互いの顔を見て話そうとすればどちらかの首が痛くなってしまう。
それでもこの散歩の時間は私達にとって大切な日常の一部分だ。
木漏れ日が暖かく差し込む心地良い道をゆっくりと歩く。
ここで暮らすようになってから見つけた森の中の広場のような所で持ってきたお弁当を広げた。
まだ恋人でなく友人だった時と同じ、ルストの好きな物を詰め込んだお弁当。
蓋を開ければ中を覗き込んだ彼の目がきらめくのも前と変わらない。
「よっしゃ、いただきます!」
胸の前で勢い良く手を合わせ、唐揚げを一つ頬張ったルストの顔が嬉しそうに綻ぶ。
いつだって彼は私の作るご飯を本当においしそうに食べてくれる。
……彼に思いを告げようと決めた日、ありったけの彼の好物を詰めたお弁当を持ってルストの家まで来た事を思い出した。
家の前まで来てから居なかったらどうしようなんて思い立って、自分が焦っていた事に気が付いたんだっけ。
実際は扉をノックした時点で彼が出て来てくれたのでそんな心配はいらなかったのだが。
私が持っていたお弁当を見て今と同じ様に満面の笑みを浮かべた彼に勢いに任せて告白したのは今思い出すとちょっと恥ずかしい。
けれど私の言葉を聞いて泣きそうな顔で笑ったルストを思い出せばあれで良かったんだとも思える。
そのルストは何故か食べるのを中断してお弁当をじっと見つめていた。
「ルスト?」
「いや、この飯に胃袋を掴まれたんだよなと思ってな」
ルストの視線の先には彼と初めて出会った日に出したチキンサンドがある。
彼からリクエストされる事が多いメニューだ。
しみじみとそう言った彼は私の返事を待たずに食事を再開する。
何となく私もチキンサンドを一つ取って齧りつきながら、彼との日々を思い返した。
彼が私の作る食事に惚れたというのなら、私は私の作った食事を本当においしそうに食べる彼の笑顔に惚れたのだと思う。
見た目はちょっと怖い感じの彼が満面の笑みでご飯を食べてくれる、その顔がいつも見られるならばそれはすごく幸せな事じゃないかと思ったのだ。
食べ終わったルストが満足そうにお腹を撫でているのを見て、私の心も満たされる。
しばらく森林浴の様な事をしてから家へと帰る事にした。
「ほら、帰ろうぜ」
「うん」
空になったお弁当箱を持った方とは別の手を差し出してくるルスト。
その手に自分の手をそっと重ねる。
私の倍くらいはありそうな大きな手は、彼がその気になれば簡単に私の手を握り潰してしまうだろう。
けれど、彼は告白の時に言ってくれたように付き合いだしてから一度だって私に痛い思いをさせなかった。
それはきっとこれからも変わらないだろう。
彼の大きな手や体は私に恐怖では無く安心感をくれるものだ。
「……夕飯は昨日言ってた通り胡桃使ってカツにするね」
「おう、楽しみにしてるぜ」
夕日に染まる森の小道をゆっくりと歩いて、家へと帰る。
今日も明日も……これからもずっと私は彼にご飯を作り、彼はそれに満面の笑みを浮かべてくれるだろう。
それはとても幸せな事だと思う。
生まれた世界とは違うこの世界で、この人とずっと穏やかな日々を過ごしていく。
明日は何を作ろうか、そんな事を考えながらそっと彼に寄り添った。




