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襲撃2【ヴァイスの選択と答え】

 ルスト達が敵を薙ぎ倒しながらダンジョンへ走りこんで行き、一瞬ダンジョンから流れ込んで来る魔物の群れが途切れる。

 その瞬間、前方に突き出されたロインの手の平から吹雪が巻き起こりダンジョンの入り口になっていた扉を分厚い氷が覆った。

 かなり分厚い氷だが、向こうから魔物の群れが体当たりをしているので長くは持たなそうだ。


「ともかく今のうちに避難しましょう、戦えない方々を町まで逃がせば私達もルスト殿たちのところに援軍を送れます」

「城の部下にも声を掛けるか……」


 ため息を吐きながらそう言ったロインに行くぞ、と声を掛けられる。

 私達が最深部にいた為か、入り口近くにいた人たちはもうほとんど移動魔法陣を潜ったようだ。

 最後の集団が魔法陣を潜っていくのが見えて、私達もそこへ向かう。

 ヴァイスとロインに挟まれるように店の入り口を出て、魔法陣まで続く小道を抜けようとした時だった。

 魔法陣が輝き、慌てた様子のミリティがこちらへ駈け込んで来る。

 私の顔を見てホッとしたように笑った彼女だが、すぐに真面目な顔になって叫ぶように声を出した。


「副団長、大変です! 町の方にも敵対する魔物があふれ出しています!」

「えっ?」

「なんだと?」

「町の下水道や廃墟等、ここと同じように結界で封印していたダンジョンからの襲撃です! ここよりずっと弱い魔物達ですが戦えない人達が逃げまどっています。自警団やここから町へ行った魔物の方々が対応して下さっていますが、早くお戻りを!」

「……急ごう。ロイン殿、魔法陣を潜ったらアヤネをお願いいたします」

「ああ、ここよりは向こうの方が魔物のレベルも低い。同じ魔物が出る状況でも町へ行った方が良いだろう」

「よろしくお願いします、私は先に戻っております! アヤネ、気を付けて」

「うん、ミリティも!」


 笑顔で返してくれたミリティが魔法陣の向こうへ消える。

 私達も続こうと一歩踏み出したと同時に氷が破られダンジョンから魔物が再度飛び出してくた。

 翼を持った魔物が一気に私達との間を詰めて、その口から大きな光の玉が吐き出された。

 大きな揺れと同時に土煙が舞い上がり、視界を奪われる。

 煙が晴れた時、移動魔法陣の小屋は綺麗に潰されていた。


「……うそ」

「孤立しているのが裏目に出たか」


 このダンジョンは危険性故に町からは遠い。

 移動魔法陣が無ければどこにも行けない立地なのだ。

 舌打ちをしたヴァイスが何かに気づいたように胸元のポケットに手を突っ込むのを見つめる。

 そんな場合では無いのに彼も舌打ちなんてするんだなあなんて呑気な言葉が頭をよぎった。

 胸元を探りながらも上空に向けて突き出されたヴァイスの手から複数の光の矢が発せられ、上空を飛んでいた魔物を打ち抜く。

 その横でロインがもう一度氷を作り出し、店の入り口を塞いだ。

 ただダンジョンの扉周りの壁と違って、店の入り口の壁は脆い。

 氷でなく壁の方を壊されてしまえばあっという間にこちらへ魔物が流れ込んでくるだろう。

 店の中には大量の魔物、ここからの唯一の移動手段は壊れ、たとえ町へ行けたとしても町は魔物で溢れている。

 周囲は崖に囲まれて深い渓谷がずっと続いているし、歩いて移動は出来ない。


「家の方に行かない? あっちの結界の方が強いって叔父さんが言ってた」

「そうか、そっちの方が町よりも安全かもしれませんね、っと」


 目当ての物を見つけたのかポケットから透明のクリスタルを取り出したヴァイス。

 少し悩むようなそぶりを見せた後、一先ず家の方へ移動しようと言われたので三人で家へと向かう。

 家の方はまだ壊れておらず、結界の強さをしみじみと感じた。

 扉を開けて中へ入ると中は静まり返っており振動や騒音も無い。

 ずっと気になっていたモモは朝と同じようにリビングで眠っている。


「モモ、良かった」

「……俺が隠しておいてやる。眠っている内は見えないだろう」


 ロインが手から闇の霧を出し、その霧に包まれてモモの姿が隠れる。

 これならここに敵が入って来ても気付かれないはずだ。

 とりあえずモモの安全は確保されたが、これからどうするか。

 体力を維持するために、三人でリビングの床に座り込んでから考える。

 ロインに霧で全員隠してもらえば何とかならないだろうかと思ったが、血の匂いでバレるらしい。

 ロインは怪我をしているし、そのロインの血が私にもついている。

 ヴァイスも魔物の返り血を浴びているし霧で隠れるのは難しそうだ。


「ここの結界はどの程度持つと思いますか?」

「予測が出来んな、攻撃を受ければそれだけ早く壊れる」

「ロイン殿、その翼でアヤネだけ抱えて飛んで逃げられますか?」

「長距離は無理だがある程度は可能だ」


 何かを考えこんだヴァイスに嫌な予感がして慌てて口を開く。


「流石にヴァイスだけ置いていくのは嫌だからね!」

「……初めはそれも考えましたが、これがありますので」


 ヴァイスが見せて来たのはさっき彼が取り出したクリスタルだった。


「これは自警団のみ使用可能のアイテムです。どんなに遠くにいても自警団の本部に移動できます。一人限定ですが」

「アヤネだけ町に戻すか?」

「そう思ったのですが、本部のそばには封印していたダンジョンがあります。おそらくそちらの封印も解けているはず。向こうの状況が読めない以上、アヤネを一人で戻せば飛んだ先で魔物に襲われる可能性があるかと」

「本部に人間がいるかもわからないしな」


 私の存在が足を引っ張っている事が苦しい。

 私がさっさと避難していれば彼らだってここまで悩まなかったはずだ。

 見捨てていけと言っても彼らは断るだろうし、死ぬとわかっていてその言葉を吐けるほど強くない自分に更に嫌気がさす。


「ロイン殿、アヤネの事をお願いします」

「お前が戻るのか?」

「はい。本部には簡易的な移動魔法陣を張れる装置もありますし。ただし魔物がいたら張り直しに時間がかかります。私はおそらく町の防衛に当たらなければなりませんが、魔法陣自体は自警団の人間ならば作成可能ですのでなるべく早くこちらへの道を張ります」

「その程度の時間、守り抜いて見せるさ」


 ロインの返事を聞いたヴァイスが私に向き直る。

 そしていつもの様に優しい笑みを浮かべて私の手を取った。


「大丈夫です。私か他の人間かはわかりませんがすぐにこちらへ迎えに来ます」

「……うん、町の人達をよろしくね」

「はい」


 しっかりと返事をしてくれたヴァイスが、少し目を細めた。


「自警団に入った時も、勇者殿と共に旅立った時も……どこか周りの空気を読んで行動していたように思います。もちろんそれが間違っていたとは思いませんが。けれど今動くのは紛れもなく私の意思、私だけの思い。以前の戦争の時は人間か魔物か、片方しか選べませんでした。ですが今度はどちらも選んで見せます。あなたも、町の人々も、協力してくれている魔物たちも……必ず守って見せましょう」


 そう言ったヴァイスの口が以前と同じように私の手の甲に押し当てられる。

 一瞬で沸騰する頭、答えを返せずに口をパクパクと動かす私を見てヴァイスが笑う。


「……さっさと行ったらどうだ?」


 額に青筋を浮かべたロインが吐き捨てる様にそう言い放ち、ヴァイスが私の手を放す。


「ええ、すぐに行きますよ。ロイン殿こそアヤネを託していくのですから羽が取れようともちゃんと守りきってくださいね」

「当然だ」


 クリスタルを握ったヴァイスが私を見て笑う。


「アヤネ、私の事もいつもの様に見送ってください」

「……いってらっしゃい、気を付けて」

「はい。まだあなたを案内したい場所がたくさんあるんです。落ち着いたらまた出かけましょう」


 そう言っていつもの優しい笑みのままクリスタルの光に包まれてヴァイスの姿が消える。

 これで後は籠城戦をするしかなくなってしまった。

 ルストがダンジョンの前線を止めてくれるのが先か、ヴァイスの迎えが先かはわからないが現状ではそれを待つしかない。


「大丈夫だ、ちゃんとお前を抱えて逃げるくらいの力は残っている」

「うん、ありがとう」


 ロインの今の翼では私と一緒にモモを抱いて飛ぶのは不可能だろう。

 最近の様子を見るに起きはしないと思うし、霧があれば大丈夫だとは思うけれど。

 せめてもと、モモの上にテーブルを移動し更にテーブルクロスをかけてモモの体を隠しておく。

 家が大きく揺れたのはその一瞬後だった。

 地震が来たかのように揺れた家に、背筋にぞわりとした感覚が走る。


「……結界が一枚破れたか」


 私のそばまで歩いて来たロインがそう呟いたのを聞いて、ついに始まったかと両手を握り締めた。


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