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きっかけの二歩目(ロイン編)

 お店を開けた早朝、ルストが満面の笑みでお弁当に問題は無かったと報告してくれたので本格的に準備を始める事にした。

 まあ、基本的に作る物は食堂で提供する物と同じなので作る量が増えるだけなのだが。

 お弁当箱も使い捨ての物を用意したし、叔父に採算が取れるか聞いたらオーケーが出たので問題なく始められるだろう。


 お弁当の計画を立てながら接客を続け、ようやく夜が来た。

 今日は叔父も一緒にロインと三人で夕飯を食べる。

 本日のメニューはチキン南蛮。

 カラッと揚がった鶏肉に甘酸っぱいタレが絡み、肉の上から零れんばかりのタルタルソースをかけた自信作だ。

 今日のお店での評判もすごくよかった

 ザクっとした触感と口いっぱいに広がる甘酢とタルタルソースのコラボにご飯が進む。

 やっぱりこういうのは揚げたてが一番だよね。

 おまけにジェーンとサーラから貰ったジャガイモでコロッケも作ったので本日の夕飯は完全なるカロリーオーバーである。

 お客さんに出す程の量があった訳では無いので、夕飯を一緒に食べているロインにのみ特別サービスだ。


「え、このコロッケめっちゃ美味くね?」

「美味しいよね、食材が良いからすごくいい味になってる」

「これは森で採れたものか?」

「そうそう、この間友達が持ってきてくれたんだよね」


 ホクホクと揚がったコロッケは叔父にもロインにも好評のようだ。


「ああジェーンちゃんとサーラちゃんか。お前いつの間にか友達作ってたよなあ。休みの日に誰か来るって聞くと基本的にあの二人だし。大体ここで美味そうなもん食いながら盛り上がってるよな」

「あの二人も町を歩くの苦手らしいから。そういえば昨日初めて気が付いたんだけど私今人間の友達がいないや」

「ん? そういやそうだな。まあここで缶詰め状態で働いてりゃあ人間より魔物との関わりの方が多いか」

「まあ友達は友達だから魔物でも人間でも関係ないし、あの二人と話してると楽しいから別に人間の友達が居なくても問題は無いけどね」

「お前は魔物に対する差別意識が低いからなあ、だから客連中もこの店の居心地が良いって言うんだろうけど」


 ひたすらご飯を掻き込みながら叔父が話す。

 この後また出かける予定らしく、その前に満腹になって行きたいらしい。

 ジェーンの名前が出たので、結婚式の事を思い出しロインに話題を振る。


「そう言えばロインもジェーンの結婚式行くんだよね。ダークエルフの長の息子さんの式」

「ああ、君も来るのか?」

「うん、花嫁と友達だから招待してもらったんだ」

「……注目を浴びそうだな」

「え、なんで?」


 少し呆れたような顔でロインが言う。


「この店にいると麻痺してくるのかもしれないがいまだに人間と魔物との間には壁がある。今回の式は大規模だから地位のある人間も来るが……友人枠で来る人間は君一人だと思うぞ」

「え? そっか、そうかも……あ、でも叔父さんも来るよ」

「魔物達の間でこいつは人間扱いされてない。ああなんだこいつか、なら仕方ないな。人間かどうか疑わしいし。そんな扱いだ」

「それはちょっと酷くねえか?!」

「ああ……」

「おい彩音、何だその納得顔は!」


 魔物に人間かどうか存在を疑われている事を知った叔父だが、残ったご飯を掻き込みご馳走様と言いながら立ち上がる。

 この切り替えの速さ的に言葉とは裏腹にまったく気にしていないらしい。


「まあいいや、俺の商売的に警戒されちゃ成り立たねえし」

「それはそうだけど」

「そんな訳で俺はまた旅に出る。後よろしく」

「何がそんな訳でなのかはわからないけどいってらっしゃい」

「その辺の人間をトラブルに巻き込むなよ」

「お前の中で俺の評価はどうなってるんだ?」


 ブツブツと言いながら荷物を掴み店を出て行こうとする叔父に慌てて声を掛ける。

 結婚式まで時間はあるがいつ帰って来るかはわからないし今の内に伝えておかねば。


「あ、待って待って。昨日ヴァイスさんに聞いたんだけど森のエルフの結婚式だから参加者は暗黙の了解で花を一輪どこかに着けて行くんだって」

「お、マジか。じゃあ準備しておく、助かったぜ。そういえば俺は礼服持ってるがお前はどうするんだ?俺は女性物の礼服売ってる店は知らねえから誰かに聞いておいた方が良いぞ」

「今度ヴァイスさんが連れて行ってくれるって言うから大丈夫。休みの日に一緒に行ってくる」

「…………え、マジで言ってる?」


 引きつった顔の叔父が私を見るので、不思議に思いながら続ける。


「うん。お店は分かり辛い所にあるしちょうど自分も新調しようと思ってたから連れて行ってくれるって。他に行きたかった店も案内してくれるって言うからお願いしたけど」

「お前……それは世間一般の言葉ではデートと言うんだぞ」

「いや、一緒に出掛けるだけでデートになったら男友達と出かけたり出来ないじゃない」

「ああ、まあそうだが」


 何だか納得していない顔の叔父さんが顔を動かさずに視線だけ私とロインの間を行き来させる。

 不思議に思ってロインの方を見ると少し驚いたような顔をしていた。

 切れ長の赤い瞳が丸くなっている。

 ロインの顔を見て少し引きつっていた叔父の顔が何かを思いついたのかいたずらっ子のような笑顔に変わる。

 嫌な予感がして口を開こうとしたが、それよりも先に叔父の口が開いた。


「最近お前モテ期が来てるんじゃないか。この間もルストにイヤリング貰ってただろう。そういやあれも結婚式に着けて行けるデザインだな」

「ルストはお弁当のお礼にくれただけでしょう。まあ着けて行こうとは思ってるけど」

「そうかそうか、まあいいや。俺はまた出かけてくるから店頼むわ」

「はいはい。行ってらっしゃい、気を付けてね」

「お前もうそれ見送りの口癖になってるだろ」


 今から向かう場所が楽しみなのか満面の笑みで店を出て行った叔父を見送りロインと向き直るように座り直す。

 食後のお茶を注いでロインの方に差し出せば、何かを考えこんでいるようだった。


「どうかした?」

「いや、少し……その、ルストやヴァイスとは親しいのか?」


 あ、そういえば複雑な関係だって叔父さんが言ってたっけと思い出す。

 まあ普通に話しても大丈夫だとは言っていたが、叔父に花について伝えなくてはと焦ってつい彼の前で話題にしてしまった。

 ここで話を逸らすのもおかしいし普通に答える事にする。


「そうだね、あの二人が食べに来る時間って他のお客さんの食事時間とは外れてるから食堂で二人になるんだよね。だから他のお客さんより話す時間は多いし、最近は叔父さんも出かけてばっかりだから基本それぞれと二人きりで話してる事が多いかな」

「……そうか」


 そのまま静かにお茶を飲みだしたロインが、何を話しかけても生返事になってしまったのでどうしようか悩む。

 そんなにあの二人の話題は地雷だったのだろうか、でも叔父さんは普通に話しても大丈夫だとは言ってたしなあ。

 結局お茶を飲み終わりダンジョンへと向かうまでずっとそのままだったロイン。

 大丈夫かと声を掛けたが、そのまま向かって行ってしまったので見送るしかなかった。

 戦闘に関しては私は全く分からないし、ロインは戦いに慣れてるので自分が不調の時は引き上げてくるタイプだ。

 心配ではあるがこればっかりは私が口を出せる事ではない。

 大丈夫だよね、と不安を感じながら店を閉めて家の方へ足を進める。


 店の外へと繋がる階段を上がれば今夜は満月だった。

 空に浮かぶ三つの月は大きく、辺りを広範囲に照らし出している。

 この月は形が三つバラバラな事も多く、揃って満月になっているのを見るのは初めてだ。

 流石に三つもあると迫力があるし街灯なんていらない位明るい。

 その恩恵を受けつつ、後でスケッチでもしようかと思いながらライトを付けずに玄関の扉を潜り部屋へと向かう。


 お風呂に入ろうかと思ったが少し早い時間だし絵でも描こうかと部屋のドアを開ければ、ベッドの真ん中でお腹を上に向けて気持ちよさそうに眠るモモ。

 顔をのぞき込むように近くまで行ってみても全く目を覚まさない、小さくいびきまで聞こえてくる。

 その内鼻提灯くらい出てくるかもしれないなあ、この子最近性格が図太くなってきた気がする。いや元からだっけ?

 軽く突いても全く起きないモモに若干呆れていると背後の窓の方からコンコンとノックのような音が聞こえた。


 ビクリと肩が跳ねる。

 ここは二階だ、窓からノックの音が響いてくるわけがない。

 気のせいかと思ったが、もう一度コンコンという音がモモのいびきしか聞こえない部屋に反響する。

 まさかの心霊現象だろうか、窓の方を見てもカーテンが引いてあるので外は見えない。

 今この家に私以外誰もいない、叔父もいない、熟睡してるモモはいるが。

 しかし確認しないと余計に怖い、ビクビクとしながら窓に近寄りそっとカーテンを開ける。

 カーテンが開いた瞬間、部屋の床に大きな影が映りこむ。

 三つの満月の光を遮って、空中に浮かぶ影。

 驚きに目を見開いて、慌てて窓を開ける。


「ロイン?! え、ダンジョンに行ったんじゃ?」

「アイテムで戻って来た。」


 しれっとした顔で言うロインの背から大きな翼が生えている。

 コウモリを思わせる大きな羽、揺れる銀色の長い髪、月明かりを反射して輝く真っ赤な瞳と口の隙間から覗く尖った歯。

 頭の中のイメージがそのまま出て来た様な吸血鬼の姿だ。

 窓の外でふよふよと浮かぶロインを見て思わず口から言葉が零れた。


「羽、あったんだ」

「ああ、普段は仕舞っている。それより今から時間はあるか?」

「え、うん。あるけど……」


 意外な問いに困惑気味に返事を返すとホッとしたような顔になるロイン。


「結婚式に花がいると言っていただろう、今日はこの花が取れる日なんだ。君が良ければ連れて行く」


 そう言ったロインが自分の胸に着けられた薔薇を指さす。

 素直に言おう、すごく欲しい。


「良いの?」

「ああ。気に入っているようだったし、この間血も分けてもらったからな。この花は月明かりにさえ当てていれば枯れないから結婚式まで持つだろう。三つの月がすべて満月の夜に咲くから今日を逃すとかなり待つ事になる」

「もしかしてその為にダンジョン中断して戻ってきてくれたの?」

「あ、ああ、まあな」


 一瞬躊躇したような返事が返ってきたが、この花が手に入るという喜びが強くて気にせずに返事を返す。


「行きたい! お願いして良い?」

「ああ、靴を履いて来ると良い。玄関で待っている」


 そう言って玄関の方へ飛び去ったロインの背を最後まで見送る事無く玄関へ急ぐ。

 それにしてもまだ化粧落としてなくて良かった、流石にロインと出かけるのにスッピンは晒したくない。

 そんなに濃く化粧しているわけではないが、やはり抵抗はある。

 そういえばあの花はどういう所に生えているんだろう、靴を履く足元はロングスカートに包まれている。

 歩き辛い所だったらこれじゃまずいな、聞いてみようかと思いながら玄関のドアを開ければ月明かりの中でたたずむロイン。

 絵になる光景だなあ、なんて思いながら頭の中にその光景を焼き付けておく。

 人物画はそんなに描かないがこっそりスケッチくらいは許してもらおうなんて考えつつ彼に近寄る。


「おまたせ、私スカートだけど足場とか大丈夫?」

「ああ、問題ない。行くか」


 そう言ったロインが転送の魔法陣がある方とは逆の崖の方を見つめる。


「転送の魔法陣使わないの?」

「ん、ああ。人が普通の手段では来れない所に咲いているから近くに魔法陣が無いんだ」


 確かに魔法で行けるなら普通に店で売ってそうだ。

 あまり買い物に行かないとはいえ売っている所は見た事が無い。


「歩いていくの?」

「いや、飛んで行く」


 その言葉に聞き返す暇もなく、グイっと腰を引き寄せられる感覚と浮遊感。

 足元の地面の感覚がなくなり、飛び上がったせいか強い風が顔にかかり目を閉じる。

 風が弱まり目を開けば、至近距離にある端正な顔に一瞬で沸騰する頭の中。


「え、ええ?!」


 足の遥か下にいつもの渓谷が見える。

 渓谷の底の方は闇に包まれており落ちたら戻れないような気がして恐怖心が沸き上った。

 たまに聞こえるバサリという音は彼が翼を動かす音だろうか。

 腰に回ったロインの腕にしっかりと支えられているし、腰から下には闇色の霧のようなものが絡みついているのが見える。

 これも彼の魔法だろうか、空中での支えが彼の腕一本にしては安定感がある。

 しかし近い、こんなに男の人と接近した事があっただろうか。

 密着してる部分に少し低めの体温を感じて妙に恥ずかしい。


「え、あの……」

「少し距離があるが落としたりはしない。君は飛べないだろう、空中散歩とでも思って楽しんでくれ」


 そんな事言われても……そう思ったが彼の顔を至近距離で見つめ続ける勇気など無い。

 視線のやり場がわからずうろうろと彷徨わせた後、彼の肩越しに見える空の方を見る。


 圧巻な光景だった。


 さっき地上で見た時と比べ物にならないくらい大きな月が三つ、目前に迫っている。

 果てなど無いように遠くまで続く満天の星空と、昼に見るのとは違う印象を受ける渓谷。

 ロインと密着しているという照れさえ吹き飛ばすような、そんな風景が視界いっぱいに広がっている。

 肌に直接感じる風と、飛行機等とは違う空の中を直に漂っている感覚。

 どれも逃したくなくて、必死に自分の感覚を研ぎ澄ます。


「気に入ったか?」


 低い、けれど優しい声が空に吸い込まれるように落とされる。

 そちらを見れば思いのほか優しげな顔でこちらを見つめるロインと目が合った。


「……うん、すごく綺麗」


 私の返事を聞いた彼が、笑みを深くする。


「君さえ良ければまた飛んでやろう」


 優しい笑顔を、吸血鬼に相応しい獲物を誘惑するような笑みに変えてロインが言う。

 けれど……恥ずかしさや遠慮で断ってしまうにはとても惜しい誘いで。

 静かに頷いた私を見た彼が満足そうに笑った。


 それからしばらく飛んで、ロインが足の下の暗闇を指さした。

 よく見ると小さな光がポツポツと浮かび上がっている。


「あそこだ」

「あの光が全部そうなの?」

「ああ、下りるぞ」


 そう言ってロインが降下し始めるのと比例して光の数が増えていく。

 高すぎて見えていなかった花も見えて来た様だ。

 広がる暗闇に降りていくようで少し怖かったが、ある程度まで下りれば月明かりと薔薇の花で照らされた空間へと変わる。



「……うわあ」


 崖に囲まれた場所にロインの物と同じ薔薇の花畑が出来ている。

 月明りとは違う光が足元に広がり、幻想的な風景を作り出していた。

 そっとロインに地面に降ろされる。

 しばらく空中にいたせいか少しふらついたが、それ以外に痛みも無い。

 足元を風に揺れる花が掠めていく。

 今日何回こんな幻想的な光景を見ただろう、もう一生分位は見た気がする。

 カメラが欲しいと切実に思ったが、持っていたら撮るのに夢中で景色自体を楽しめなかったかもしれないのでこれはこれで良かった気がする。

 私の横で何かを探すようにキョロキョロしていたロインが少し離れた所で膝をついた。


「ロイン?」

「この大きさがちょうどいいんじゃないか」


 ロインの示す薔薇は確かに身に着けるにはちょうどいい大きさだった。

 あまり大きいと派手になってしまうし、ロインがつけているのと同じ位の大きさだ。


「本当だ、でもなんだか取っちゃうのがもったいない気がする」

「取りに来たのにおかしな事を言うんだな」


 少し笑って言うロインが薔薇に触れると彼の腕から黒い霧が現れて薔薇の根元に絡みつく。

 千切ったような仕種は見えなかったのに、彼が茎を掴んで持ち上げれば輝いたままの薔薇が彼の手に収まっていた。

 絡みついた闇色の霧が切れた茎の部分から吸収されるように吸い込まれる。


「何かしたの?」

「この花が輝くのは月の光から闇属性の魔力を吸収しているからだ。俺の魔力は闇属性だから今少し流し込んでおいた。これで雨の日が続いたりして月の光が当たらなくてもしばらく持つようになる」


 そっと手渡された薔薇を両手で受け取る。

 すごく嬉しい、これなら結婚式で着ける以外にも部屋に飾って置ける。


「ロイン、ありがとう!」

「……ああ」


 月明かりの下の薔薇の花畑で笑うロイン。

 この光景を忘れたくなくて、笑顔の下で必死に瞼に焼き付けた。


 ______


 来た時と同じようにロインに抱きかかえられ、見慣れた家の前で降ろされる。

 私の手には取ってもらった薔薇がしっかりと握られていて、脳裏には行き帰りの間に見てきた景色が刻まれている。


「今日は本当にありがとう、薔薇大切にするね」

「ああ、そこまで喜んでくれるなら俺も連れて行った甲斐がある」


 そういえば彼はダンジョン攻略を中断してまで来てくれたんだった。

 ダンジョンに行く前に何か考え込んでいたのはこの事だったのだろうか。


「ダンジョン攻略、中断させちゃってごめんね」

「ん? ああ、いいんだ。俺がしたくてした事だ」

「でもせっかく一度はダンジョンに潜ったのに……」

「…………」


 少し何かを考えたロインが、一度目を伏せてからじっとこちらを見る。


「ロイン?」

「勝手な話だ、君と一番話している男は俺だと思っていた。違うのかと思ったら戸惑って嫌な気分になった。だからすぐに君を誘いに来た、それだけだ。」


 夜の闇の中で静かに落とされた言葉が理解出来なくて一瞬体が固まる。


「……え?」


 私の絞り出すような疑問の声には触れず、少しの笑みを浮かべたロインが以前のように私の手を取った。


「また、時間があった時は空の散歩に連れて行こう。礼がしたいなら血で良いぞ……おやすみ」


 笑顔はそのままに少し冗談交じりでそう言ったロインが私の手を放し、空へと飛び上がりあっという間に小さくなって行く。


「え……?」


 しばらくその場で固まっていた体が、ロインの言葉を理解した瞬間に沸騰したように熱くなる。

 溜まらず家の中に駆け込み、部屋で出発前と同じ体勢で寝ていたモモのお腹に顔をダイブさせた。


「キュキューッ?!」


 眠りを邪魔されたモモが飛び起きてキョロキョロしているようだったが顔が上げられない。

 やばい、なんだこれ、何だあのセリフ、そんな言葉が頭の中をグルグルしている。

 だってあれではまるで……嫉妬しているみたいではないか。

 明確に何か言われた訳ではないし、彼もそういう気持ちで言ったのではないだろうとは思う。

 モモの手が私の頭をペシペシと叩いているが、まだ顔は上げられない。

 別に告白されたわけでも無い、明日からも私とロインの関係は変わらないと思う。


 ただ、何故だろう。

 いつかは私もこの世界で恋をする、どこか遠くの出来事として考えていたそれが一気に近づいてきた気がした。



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