【Session10:縄文時代⑤~破局噴火~】
いつまでも続くと思われた平和で豊かな縄文時代。
ですが、そんな縄文時代に最大級の危機が訪れます。
最大級の危機が起こるということで、皆さんの中には、卑弥呼が活躍した倭国大乱の“弥生時代”を思い浮かべる方も居るかもしれません。
でも、違います。
最大級の危機が起こったのは、卑弥呼が活躍するより遥か以前・・・およそ7300年前の縄文時代の前期に、文明崩壊レベルの最大級の災害がこの日本で起こっていたのです。
7300年前と言えば、世界最古の文明とされるシュメール文明(6000年前)が発生するより前の時代。
敢えて言うならば、シュメール文明の地でシュメール文明の先史とされるウバイド文化が黎明を迎える時期にあたります。
皆さんは、“破局噴火”と言う言葉を聞いたことがあるでしょうか。
破局噴火とは、大量絶滅や文明崩壊を引き起こすとされる大噴火のことを指します。
大量絶滅や文明崩壊・・・まるで世界の終焉を彷彿とさせますね。
文明の発達した私たちの暮らしからは想像もつかないことですが、昔々の縄文時代・・・この大量絶滅や文明崩壊を引き起こすとされる破局噴火が、実際に日本で起こっていたのです。
時は、およそ7300年前の縄文時代。
場所は、九州の最南端。
鹿児島県の薩摩半島から南に約50kmの沖合・・・鬼界カルデラと呼ばれる場所で、この破局噴火は起こりました。
“鬼界アカホヤ火山灰”という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
もしかすると、小学校や中学校の地層の授業で先生が教えてくれているかもしれません。
鬼界アカホヤ火山灰とは、この破局噴火で出来た“火山灰の地層”です。
火山灰の地層・・・そう、かつてこの日本には、火山灰に覆われていた時期があったのです。
少し話は変わりますが、江戸時代の中期に富士山が噴火したという話を知っているでしょうか。
静岡県や山梨県のような富士山に接して暮らしている県民ならば、地域の民話として知っているかもしれませんね。
この時の富士山の噴火で、富士山の近隣で約50cm、東京で約10cmもの火山灰が降り積もりました。
辺りは一面の火山灰。
農作物は火山灰の遥か下。
火山灰の降り積もった地域の人たちは、何よりも食べ物に困ったそうです。
そこそこ文明の発達していた江戸時代ですら大災害だった富士山の噴火。
しかし、未だ世界最古の文明と言われるシュメール文明すら発生していない7300年前の縄文時代の前期。
この富士山の噴火の何倍もの規模の大噴火が、九州の鬼界カルデラで起こりました。
火山灰の飛散した地域は、九州、中国、四国地方はもとより、朝鮮半島の南部や東北地方の南部にまで及びます。
豊かで平和だったはずの縄文時代・・・しかして、日本の国土の殆どは、深い火山灰に覆われてしまったのです。
特に酷かったのは、鬼界カルデラに近かった九州地方でしょう。
降り積もった火山灰は、約1mに及びます。
九州に栄えていた縄文文化は、壊滅的なダメージを受けました。
縄文土器に刻まれている縄目の文様には地域によって独特の違いが出るのですが、九州の鬼界アカホヤ火山灰よりも上の地層からは出土しなくなった文様もあるそうです。
大量絶滅や文明崩壊を引き起こす大噴火・・・縄文時代を襲った破局噴火とは、本当に凄まじい災害だったんですね。
しかし、この大噴火があったからでしょう。
縄文文化は、更なる発展を遂げます。
【備考】
破局噴火とは、主に地震を題材とした小説を執筆している石黒耀氏の『死都日本』に出てくる用語です。
学術用語では無いのですが、最近では専門家やマスコミの間でも使われるようになってきています。
正式な学術用語としては、ウルトラプリニー式噴火と言うのですが・・・破局噴火の方がどういう噴火なのかをパッと想像できていいですよね。