神との交渉とプレイヤーな俺
少し宣伝させてください。
『村づくりゲームのNPCが生身の人間としか思えない』明日、10月4日発売となります!
300ページを超えるボリュームに加え、100ページ以上が新規書き下ろしですよ。細かい修正もかなりあります。特に村人たちのパートが激増していますのでお楽しみに!
こだわり抜いた表紙もそうですが口絵もご覧頂きたい。担当編集さん、デザイナーさん、イラスト担当の海鼠さんには感謝するばかりです!
巻末には貢物の設定や運命ポイントの仕組みなどが、わかりやすくイラスト付きで説明されています。肉と丸太の秘密が明らかに……。
興味を持たれた方は是非ご購入をお願いします!
長々と失礼しました。では、本編の続きをお楽しみください。
「もう一度、運営……運命の女神に連絡を取るってのもありだけど、うーん」
スマホの電話帳には《運営(運命の神)》で登録している番号がある。
最後に話したのは《命運の村》に滞在中で、あれからは一度も連絡を取っていない。
もう繋がらない可能性もあるが試してみるのもありだ。
気軽に連絡しても許される相手なのだろうか。異世界の本物の神。それは間違いない。神様と気軽に電話。……どうかしてるよな。
「非常事態でもないのに電話してもいいのか……。ああもう、うだうだ言って持ち越さずに即実行!」
明日に先送りするのはもうやめたんだ。悩むぐらいなら掛ける!
通話にして相手が出るのを待つ。
どうせ出ないだろうと半ば諦めていたのだが、あっさり繋がった。
『もしもーし、おひさー。元気してた?』
相変わらず軽いノリだ。緊張していたのがバカらしくなる。
……前も同じような感想を抱いたような。
「はい、おかげさまで元気にやってます。あのー、神様に直接こんな質問をしていいかどうかもわかりませんが」
『質問? やれやれ。久々に電話をくれたというのに、もう少し色っぽい話は出来ないのかい? 愛の告白なんじゃないかって期待していたのにぃ』
何言ってんだ、この神様は。
「そんなラブコメ主人公みたいな展開はあり得ないですよ」
『それもそうか。異世界転移主人公のチャンスを、潔く投げ捨てたんだもんね』
潔いかどうかは疑問だけど、そんな夢のような未来の可能性を蹴ったのは事実だ。
まあ……少しも……ほんの少ししか後悔していない。
「話を戻してもいいですか?」
『ごめんごめん。こうやって気楽に話せる人間って少ないからさ、ついからかっちゃったよ。反省、反省。質問をどうぞ』
笑いながら謝っているので説得力が微塵もない。
「あのですね、主神側のプレイヤー同士が連絡を取るのも、自分の場所を教えるのもルール違反じゃないですか」
『うんうん、そうだね。そういうことになっているね』
そういうこと? なんだそのハッキリしない物言いは。まるで、本当は問題ないとでも言いたげな……。
「もしかして、主神側も連絡を取っていいのですか? でも、掲示板に書いてあった運営のルールに違反行為だと書いていたような」
『ああ、うん。書いてたんだけど、今は書いてないんだなこれが。ほら、キミの一件で邪神側が組んでいることがハッキリしたからね。こっちだけ律儀に守るのもバカらしいし、あいつらにやめろ、と言っても聞きやしないからさ。だったら、こっちもありにしちゃうかってルールから消しておいたんだよ』
驚きの告白に慌ててPCを操作して、掲示板を開く。
……マジだ。ルールの項目にあの注意事項が見当たらない。
見間違いじゃない。念のためにルール内容をプリントアウトして、机の引き出しに確保していたので取り出して確認してみると、その項目だけ綺麗さっぱり消えていた。
「本当ですね。でもなんで主神側のプレイヤーにそれを教えないんですか?」
『えっとね……ほら、一つ大きな仕事を終えると安心しちゃうでしょ?』
「つまり、伝えるのを忘れていたと」
『ごめーんね』
相手の顔は見えないというのに片目を閉じて舌を出し、茶目っ気のある顔で詫びている姿が頭に浮かんだ。
『ちょっと真面目に話すと、前から初心者プレイヤーを陰からフォローしたり、手を貸しているプレイヤーはいたんだ。直接連絡は取ってないけど、接点があるプレイヤーを黙認してきたって事実があるの。だから今更OKというのも変だから、気づいた人だけ対応してもらおうかと思ってね』
「そうだったのですか」
『ゲームの隠し要素みたいな感じよ。ちなみに掲示板で協力プレイが可能になったと公表したり、掲示板で仲間を集めたりするのは禁止事項として表示されないから。気づいた人はどうにかして、直接ゲーム内でプレイヤーと連絡を取るしかないの。これに関しては邪神側も同じルールだから。それはちゃんと確認したよ』
つまりゲーム内で連絡を取って組むのは何の問題もないってことか。
憂いの一つは消えた。となると、残りの疑問はあと一つだ。
「もう一つ質問いいですか?」
『スリーサイズは秘密よ?』
返しが昭和っぽいとか思ったが口にはしない。
「それは興味が無いので」
『えーー』
なんで残念そうなんだ。
『あっ、その前にこっちも一つ訊いていいかな?』
「はい、答えられることなら」
急に声が真面目なトーンになった。
神様からの質問か。なんか、緊張するな。
『運ってどう思う?』
「運ですか。どう思うも何も、どうしようもないものでは? 幸運不運とかって自分でどうこうできるものじゃないですよね」
『そうだね。じゃあ、運がよかったらうれしい?』
「そりゃ、うれしいですよ」
急に変なことを言ってきた。神様の質問には何か深い意味があるのだろうか。
自分はどっちかと言えば運がない方……いや、この《命運の村》に出会えて、アルバイト先にも恵まれている。よくよく考えると、最近は運がいいのか?
『だよね。じゃあ、運が悪かったらどう思う』
「どうもなにも、運が悪かったなーと思いますね」
『その不運を誰かのせいにしたりはしない?』
「あー、どうでしょうか。そういうのは……いや、ありますね。就活時代は落とされるたびに、恨み言を口にしていた気がします」
自分の努力が足りないのを認められず「運が悪かっただけだ。相手の見る目がなかった」と愚痴をこぼしていたな。
今思い返すと、情けない男だったと反省するばかりだ。
『そっか、そうだよね。うん、参考になったよ』
優しい声だ。
今の質問はどういう意味があったのだろう。俺の頭では問いかけの意味が理解できなかった。
まだ何か続きがあるのかと待っていたのだが、沈黙が続くだけ。
「えっと、じゃあ話を戻していいですか?」
『ごめん、ごめん。どうぞ』
「その、こっちの方が重要なのですが――と連絡を取るのはセーフですか?」
『…………すまない、もう一度言ってくれないかい?』
あれっ? 聞こえなかったのか。
同じ言葉をさっきよりも気持ち大きめで繰り返す。
「ええと、もう一度言いましょうか」
『大丈夫聞こえてるから。まさか、良夫君がそんなことを言い出すなんて、思いもしなかったから驚いただけ』
感情を押し殺した冷たい声を聞いて、自分のミスに気づかされた。
「えええっ⁉ そういう意味じゃないですよ! 誤解しないでください。違うんですって!」
『じゃあどういう意味なの?』
「今、うちの村が結構なピンチでやれることは、すべてやっておきたいんですよ」
『うーん。それなら……えっと、ダメってルールはないけど……』
「じゃあ大丈夫ですね。よかったー。それでゲームオーバーとかになったら洒落になりませんから。ありがとうございました。あっ、もう一つだけ質問がありまして。このゲームのプレイヤー同士は惹かれ合う、とかないですよね?」
『何その某漫画みたいな設定。うーん、ゲーム内ではプレイヤー同士の遭遇は多いけど、リアルで偶然プレイヤーと出会ったなんて聞いたことないわ』
となると俺の考えすぎなのか。
トイレで聞こえてきた社員の会話はただのゲームだった。でいいのか?
「最近身の回りで、普通ではあり得ない偶然や人との繋がりがあったりしたので、ちょっと不安になっていまして。やっぱり、偶然で気にしすぎだったみたいですね」
世の中には奇妙な偶然だってあり得る。
都合のいい展開も都合の悪い展開も、すべて偶然だった。可能性はゼロじゃないからな。
『あっ、でもプレイヤーって演じている神の恩恵を授かるから、神ごとの特性がその身に宿ったりはするわね』
「……どういうことです?」
『えっとね。水の神を演じているプレイヤーは水の被害を回避したり、火の神なら火にまつわる災害を免れたり、火傷をしないとか。良夫君は私こと運命の神のプレイヤーだから……運命に翻弄されたりしたりしちゃったりして?』
おちゃらけた口調だが、声に若干の焦りを感じるのは気のせいだろうか。
「なんか、最近はイベント盛りだくさんの日々を過ごしているのですがそれって」
『運命の導きってやつかもね! 波瀾万丈な人生って素敵じゃん? じゃあ、そういうことで!』
「えっ、ちょっと⁉」
お礼を言う暇も無く通話を切られた。
気になることだけを早口で伝えられてしまった。
「……運命、意味を調べてみるか」
改めて運命という言葉の意味をネットで検索してみる。
「人の意志関係なく、巡ってくる幸運や不幸。あとは将来って意味も含まれている、と」
自分の立ち位置が少しだけ理解できた気がした。
確かに幸運も不幸も目白押しだな、最近は。
この現状もすべて運命の力と考えると納得はいく。
でも……色々あったけど、すべて自分の糧となっていい方向に進んでいる。感謝することはあっても恨むなんてあり得ない。
つまりこれからも色んな出来事に巻き込まれる体質になったということなんだろうか。まるで物語の主人公のような体質だな!
……あんまりうれしくない恩恵だ。
「……よっし、切り替えよう! 考えてもわからないことは悩まない! 警戒を怠らず、最悪を想定して、立ち止まらずに次に進むぞ」
神様と話した勢いのまま、もう一人の人物に電話を繋げた。
あれから十分以上話をしてから通話をやめる。
「ふうぅぅぅぅ。なんとか交渉成立、かな」
ニート時代は電話の音に恐怖を覚えて、家の電話を取ることも誰かに掛けることもなかったが進歩したじゃないか。
人から見たら当たり前のことだろうけど、未だに普通の電話ですら苦手意識がある。
「頑張ったよな、うん。俺は頑張ったよ、うんうん」
誰も褒めてくれる相手がいないので自分を励まし称賛しておく。
交渉前にそういった関連の漫画を読み直して、ネットでも交渉術を調べておいて正解だったな。それっぽく振る舞えた……と思いたい。
ふと右肩に重さを感じたので顔を向けると、ディスティニーが肩に登って「俺だけはわかっているよ」と言わんばかりに目を閉じて頷いていた。
「ありがとうよ」
一匹でも理解者がいてくれるだけで報われる。
《命運の村》のみんなは家族同然だ。救うためならなんだって……は言い過ぎだとしても、全力を尽くしたい。




