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村づくりゲームのNPCが生身の人間としか思えない  作者: 昼熊
三章

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運命の電話と緊張する俺

 着信の相手が《運営》って、おいおいおいおい!


「このタイミングで運営って、あの運営だよな」


 スマホの電話帳に《運営》の電話番号なんて入れてない。だというのに画面に表示されている。

 コール音が何度も鳴り響く中、未だに通話に踏み切る勇気が出ない。

 このままなかったことにしたいぐらいだが、自分から質問をしておいてそれはないよな。

 大きく二度深呼吸をしてから電話に出た。


「もしもし」

『あっ、どもー。命運の村の運営やってる者でーす』


 ……軽い。ノリが軽すぎる!

 友達の家に電話したような気軽さで話をする女性の声。

 声の響きは若く感じるが、声だけで正確な女性の年齢を判断できるほどの人生経験は積んでない。


「運営さんですか」

『そそ。メールにしようかとも思ったんだけど邪神の連中が見張ってるからさ。文字に残すのって危険なんだよ。だから電話』

「な、るほど」

『これも長い時間は危険だから簡潔に伝えるね。僕のところまで来たらキャロルちゃん元の世界に返せると思うよ。僕たちは訳あってこの場から動けないんだよ』

「帰せる! よかった……。ありがとうございます!」

『いやいや。そもそもこっちのミスだからね。この展開はちょーっと考えてなかったからさ。まあ、こういう仕様漏れや、バグがないか洗い出しするためのテストプレイなんだけど』


 そういや、このゲームαテスト中だったな。今の今まですっかり忘れていた。


「あなたのいる場所というのは」

『それは、わかっているよね? これ以上は色々ヤバいから切るよー。楽しみにしてるから頑張って。あと、この通話内容は禁則事項だから掲示板に書いてもみんな読めないよー』

「ちょっ、もう少し詳し……切られた」


 またも突っ込みどころ満載の内容だった。

 運営の人が女性で一人称が僕なのにも驚かされたが、何よりもあの口調。

 神からの電話かと身構えて、威厳あふれる声をイメージしていたので脱力感がすさまじい。

 あと女性の声なのに一人称が僕だったのが地味に気になった。


「でも、俺の予想は当たっていたのか」


 机の引き出しの中に置いてあった小包の住所が記載されたラベル。


「つまり、ここに行けばいいってことだよな」


 怒濤の展開に翻弄されてばかりだったが、ようやく受け身ではなく自ら動くことができる。

 PC横の小物入れから貯金通帳を取り出し、残高を確認してからネットで北海道までのルートと交通費を調べた。


「新幹線か飛行機になるよな」


 どっちも利用したことがあるが、それは家族旅行か修学旅行の経験で一から手配したことは一度もない。

 ……これも経験。普通の大人はやってきたこと。そう自分に言い聞かせる。

 この程度のことですら緊張してしまう自分の情けなさを改めて実感しながら、北海道まで行く方法をずっと調べていた。

 

 

 

 

 一月二日。

 朝起きてからカレンダーを見て驚愕する。


「まだ二日目……なんて濃い新年だ」


 年末から今日まで濃密な時間を経験して、もう一ヶ月ぐらい経過したような気分だ。

 二ヶ月前から比べたら、俺はもう別人と言ってもいいような変化だと思う。


 ――命の危機に二度。

 ――不可思議な経験を何度も。


 そりゃ、一皮どころか何皮も剥けるよ。

 だからといって何年も掛けて作り上げたダメな部分が、そう簡単に改善されるわけじゃない。剥けたところで新たに未熟な俺が現れるだけだ。

 ……改善したい、とは思っているけど。

 今なんて北海道まで行く手続きにすら戸惑っている。


「新幹線より飛行機の方が安い時代なのか。イメージが違うな」


 俺の中では飛行機は高級なイメージだったのだが、最近は格安航空会社というのがあるようで、想定の半額以下の値段で販売されていた。

 ただ、正月は利用客が多いらしく他の日と比べてかなり割高な設定。それでも安いと思ってしまうぐらいだけど。


「ええと、三日から帰宅ラッシュに巻き込まれるから航空券も品薄で高額になっていると。新幹線も……空席ないな」


 こんなに混むものなのか。世の中を知ろうともしないで生きてきた俺の世間とのずれを見せつけられた気分だ。

 四日以降から空席もちらほら出てくるのか。三日か五日まで休みって会社が多いみたいだから、そりゃそうか。精華も四日から仕事だって言ってたな。

 なので四日に出発するのが妥当か。家族は四日に帰ってくるから、キャロルを見られずに旅立てる計算だ。

 紹介したい気持ちはあるが、絶対にややこしい事態に陥るよな!

 俺とキャロルの安全を考慮して、四日の朝にこの家を出発することにした。

 今日を含めて二日間。旅の準備もあるがキャロルが目一杯この世界を楽しんでもらえるように、全力でおもてなしをしよう。




 あれから二日が経過して、今日は一月の四日。

 昼には家族が帰ってくるので早朝から出発の準備を整えた。


「キャロル、楽しかったかい?」

『うん! ヨシオとセイカと一緒で楽しかったよ! 神様の国ってすごいね! 物語の世界みたい!』


 満面の笑みで最高の返事をしてくれた。

 俺からしてみれば、キャロルたちの住む世界が物語の世界なんだけどね。

 二日目の昼からおどおどした態度の精華が訪ねてきて、一緒に買い物や食事をして一日が終了。

 三日目は混雑覚悟でテーマパークに行って遊び倒した。

 邪神側の襲撃の心配はあったが、あえて人通りの多い場所を狙って行動した。

 あれから掲示板で教えてもらったのだけど、奇跡を現実世界で行使する場合ゲーム内よりも威力が弱まる、という事実。それも複数同時や広範囲に影響を与えるスキルはレベル2や3程度では無理らしい。

 となると大人数がいる場所の方が安全ではないかと判断した。

 もし高レベルプレイヤーが広範囲の奇跡を使ったとしても、人の多い場所だと俺も巻き込んでしまう。

 それにせっかく日本に異世界から来てくれたんだ。家にこもりっきりはあり得ないだろう。ボディーガードとしてディスティニーも一緒だったしな。

 三日目に精華へ北海道の村までキャロルを送ってくることを伝えると、北海道までの交通手段を手配してくれた。出張で慣れているらしいのですべてお任せする。

 いずれちゃんとお礼しないとな。正月休みを全部俺たちと過ごしたせいで、ろくに休めなかっただろうから。


 この二日のほとんどをキャロルとの遊びに費やしたが、《命運の村》についての情報収集は怠っていない。

 大体は予想通りのシステムらしく、プレイヤーの多くが俺と同じようにゲームの世界は別世界ではないかと疑っていた。

 少し意外だったのが奇跡の内容は神様によって異なるようで、例えば水の神の従神で《清流の神》のプレイヤーなら、奇跡の内容はちょっとした水の操作と汚い水を浄化できるらしい。

 その人はレベル3らしく、アウトドアが趣味なので浄化の能力が便利だと熱く語っていた。

 話を聞いて一つ新たな疑問が浮かんだ。他の人には《ゴーレム召喚》も《天候操作》も存在していないことだ。運命の神のオリジナル奇跡だとは思うが、運命と何か関連があるのだろうか。


 ……もしかして、運命の神って運と命も操れるのでは?

 その場の運を操作して天候を操る。そして神の像に仮初めの命を与えられる。と考えたら辻褄が合うような気がしないでもない。ここら辺は神様に聞いてみるしかないよな。

 神託はどの神でも使えて、やはり聖書を媒体にして伝えるそうだ。

 そうなってくると運命を操れる神って、当たりの部類ではないかと思い始めている。現実世界では使えないようだが、ゲームにおいてはかなり有利な奇跡の内容。 

 恵まれていた方なのに能力を活かせられなかったことを反省するばかりだ。


『ヨシオ、準備できたよ!』


 初詣に行った時と同じ服装のキャロルがくるっと一回転する。

 背負っているリュックサックの口から顔を出していたディスティニーが、迷惑そうな素振りをしている。

 今回の旅にはディスティニーも同行してもらうことにした。

 窮地に陥ったときに何度も救ってもらっている。今回の旅は何があるかわからないので、この二日間と同様にボディーガード兼、キャロルの抱き枕として頑張ってもらう。

 それに……。

 トカゲなのに感情表現が豊富なディスティニーの頭を撫でる。


「お前も異世界生まれだもんな」


 広々とした世界を駆け回りたいと思っているに違いない。

 できることなら、運営にディスティニーも一緒に異世界に戻れるよう頼むつもりだ。


「じゃあ、行こうか。忘れ物ないね」


 もう一度荷物の確認をして玄関を出る。

 昔はこの扉が大きく重い巨大な門のように思えたが、今はただの扉。

 ドアノブを握りしめ勢いよく扉を開く。


「行ってきます!」

 




『うわーっ、見て見て! おっきいね! あははは、なんか変な匂いするー』


 はしゃぐキャロルを見ていると自然に頬が緩む。


「本当だね」


 キャロルが目を輝かせて熱い視線を注いでいるのは、今から乗る予定の……フェリーだ。

 港に停泊する船はかなりの大きさで、間近で見ると迫力あるな。

 本当は飛行機に乗る予定だったのだが、ディスティニーを連れていくとなると荷物検査を乗り越えられるとは思えない。

 新幹線は金額が一番高く、更に予約で取れる席が一つも残っていなかった。

 精華は「お金貸すよ?」と言ってくれたが、これ以上甘えられないと断る。

 その結果、交通手段は船しか残されていなかった。

 フェリーには大部屋と個室があったので、俺とキャロルは二人用の個室を選んだ。

 船内に入り個室に荷物を置いてほっと一息吐く。


『ディスティニー出してあげていい?』

「いいよ。悪かったな、狭かったろ」


 よっこらしょっ、という台詞が似合いそうな緩慢な動きで、リュックサックから出てくる金色のトカゲ。

 辺りを見回してからベッドの下へ潜り込んだ。

 せっかく狭い場所から解放されたのに、自ら窮屈な場所に行くのか……。

 フェリーだと船内で一泊してから、明日の夕方に北海道へ着く予定だ。


「このまま何もなければいいけど」

『ねえ、ねえ! このおっきな湖ってどれぐらいおっきいの』

「これは海って言うんだよ」


 初めて見る海に興味津々のキャロルの相手をしていたら、あっという間に北海道に着きそうだな。

 港から離れていく光景を眺めながら、北海道への思いを巡らせていた。

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