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村づくりゲームのNPCが生身の人間としか思えない  作者: 昼熊
二章

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33/120

偏見のない人々とネーミングセンスが皆無な俺

 予想外に大所帯となった一行が拠点へと戻っていく。

 ムルスの村で手に入れた馬車と、森に隠してあったドルドルドの所有する馬車二台が、森の荒れた道を慎重に進んでいる。

 ロディス一家三人。ガムズ兄妹、ムルス、ドルドルド、雇われたハンター四人。合計十一人にもなった。

 焼き尽くされた村には物資がほとんど残っていなかったが、それでも数が足りていなかった食器や保存食に調味料もあったので、これだけでも大満足だ。

 それに加えて野菜の種の入手が何より嬉しかった。冬を越えるまでは農業はお預けだが、それでも春への楽しみができたのは大きい。

 これだけの人数がいれば帰路の安全は確保できたも同然なので、部屋を出て一階に降りる。

 村人たちが帰るまでの間にトイレを済まして、冷蔵庫から昨日の残りの焼き肉と《命運の村》産の果物も持ってきた。

 大皿の上に多めに盛ってきたのは、黄金のトカゲのご飯も兼ねている。


「よーし、お腹空いたか? ご飯だ……よう、もういたのか」


 トカゲが皿の脇にちょこんと座って、果物を囓っている。

 こいつ、当たり前のように抜け出てくるな。ガラスケース端の天板がずれていて、そこから自力で出てきたのはわかる。

 トカゲの頭の良さにも驚かされたが、それよりも……脱出方法だ。ケースに敷いている土や倒木みたいなのを足場にしても届かない。


「なあ、どうやって出てきたんだ?」


 俺の問いかけには答えずに果物を平らげると次に掴んだのは、味の付いていない焼き肉だった。

 それを口に含むともぐもぐと大きく口を動かしている。


「肉も食べるのか。お前って雑食なのか?」


 もちろん、質問には答えずに黙々と食べ続けているだけだ。

 食べたらダメな物とかないのかね。後で沙雪にでも聞いておこう。

 おいしそうに食べるトカゲは順調に育っている。数日で小さなぬいぐるみぐらいの大きさになった。……まさか大蛇みたいに数メートルに成長とかないだろうな。このまま成長が止まってくれることを祈るしかない。


「あっ、そういや名前考えたんだが、どっちがいい? まずは見た目が恐竜っぽいから、トカゲザウルス」


 じっとこっちを見ながら食事をしていたトカゲの手から、ぽとりと肉が落ちる。

 ……なんだ、その驚いたようなリアクション。更に頭を左右に振らなかったか、こいつ。

 偶然だとは思うが不服のようだ。じゃあ、もう一つの方でいくか。


「それじゃあ、こっちはどうだ。ディスティニー。英語で運命って意味だ、ぴったりだろ?」


 落とした肉を拾って食べていたトカゲが大きく頷く。

 意味はわかってないだろうが、これにしておこう。運命の神のペットとして相応しい名だから。

 黄金のトカゲ――ディスティニーと果物を奪い合いながら食べていると、先に腹一杯になったのか食べるのをやめて、じーっとPCの方を見ている。

 釣られてそっちに目をやると、村人たちが拠点の洞窟に着いたところだった。

 おっと、こっちを忘れたら元も子もない。といっても、俺にできるのは見守ることだけだ。商売に関してはロディスに任せる。

 仕事は適材適所。お父さんの格好良いところを娘に見せる場面だから、余計な口出しはしないぞ。


『なるほど、今はこちらに住んでいらっしゃるのですね。守りやすく雨風の心配も無用。弓の名手と腕利きのハンター。それに回復魔法の使い手に薬師までいる。かわいらしくムードメーカーのお子様と美人で癒やし系の奥様。無駄のない人材ですな』


 口が達者だなドルドルドは。でも、村人と拠点を褒められて悪い気はしない。

 今まで倒したモンスターの素材を渡すと、相場よりも高く買い取ってくれたようだ。ロディスが『もらいすぎでは?』と恐縮している。


『少し色はつけさせてもらいました。運命の神に祝福された皆様方なら、今後の発展が期待できそうですからね。末永くご贔屓に』


 商売人としても人間としてもドルドルドは嫌いじゃない。

 鉱石の方も売れる物がないか見てもらったが、重量の割に儲けが少ないので、また別の機会に買い取りするという話になった。


『今日お渡した現金での購入でもかまいませんが、今後は物々交換でも大丈夫ですので』

『それは助かります。商売とは別に一つ頼み事がありまして。見ての通り我々は人手不足なので、ここに住みたいという移住者がいたら、声を掛けて欲しいのですよ』


 ロディスが移住者募集の件を切り出してくれた。

 最終手段としては神託を発動して、神のご加護あるよ~、と匂わせて手伝わせようかと思っていたが手間が省ける。


『移住者ですか……。最近物騒な出来事が多いですからね。モンスターに滅ぼされた村がここ数年で続出しているそうです。モンスターの凶暴性が増し、異なる種族同士で手を結び統率性もあると聞いています。安住の地を探している方はいると思いますが……』


 やっぱり、このゲームの世界でも最近のモンスターの行動は異常なのか。

 そして、ムルスや俺の村が襲われた一件も珍しいことではない、と。


『ですが、この禁断の森はお世辞にも安全な場所とはいえません。個人的な意見を言わせてもらえば、場所を移すべきでは?』


 もっともな提案だ。でも、このゲームの仕様で禁断の森から出たらゲームオーバーとかならないよな?

 村づくりゲームなのに他人の村に住むとかはルール違反な気がする。

 それでも村人たちが幸せに過ごせるなら、ゲームオーバーではなくゲームクリアーと考えられないか。

 この《命運の村》ができなくなるのは辛いが、かなり辛いが、それでも村人の幸せを最優先に考えたい。ゲームの中とはいえ村が全滅する姿なんて見たくない。

 村人がどういう判断をするにしろ、受け入れよう。神託で無理強いはなしだ。

 腹をくくって彼らの判断を待つ。


『私はここに残りたいと思っています。家族のことを考えると愚かな決断かもしれませんが、運命の神が見守ってくださるこの地で生きる。それが天から与えられた使命のような気がするのですよ』

『旦那の決断に従うってのが良い妻の務めだからね。家族は一緒にいないと』

『うんうん。パパとママとガムズお兄ちゃんとムルスさんがいる、ここがいい!』


 ロディス一家はここに残ることを希望。

 キャロルがチェムの名を口にしなかった件についてはスルーだ。

 背後で口元は笑っているのに目がつり上がっている、なんて器用なことをしている聖職者もスルーだ。


『……運命の神に祝福を与えられたのです。私もここに骨を埋めるつもりです』

『俺は守るだけだ』


 ガムズとチェムの兄妹も残ることを選択。


『私は外の世界を知りませんからね。この森が一番居心地がいい。それに亡くなった仲間がいるこの地を離れたくはないので』


 ムルスはそう言うよな。

 結果、全員がこの地で村づくりを希望してくれている。

 運命の神への過剰な期待に応えるためにも、まずは……村っぽくしたい!

 村づくりゲームのはずなのに、今のところ洞窟暮らしゲームだからな。

 建造物は丸太を繋いだだけの物見櫓のみ。あとは柵があるだけだ。木々が豊富なので丸太はまだまだあるから、そろそろ小屋でもいいから建物を建てたい。

 人がこれ以上増えると洞窟の部屋が足りなくなる。


『わかりました。住めば都と申しますからね。こういった場所を好む人材に心当たりがあります。彼らも住んでいた地を追われたそうなので、たぶん大丈夫かと』


 ドルドルドは優れた行商人っぽいから、人を見る目もきっとあるだろう。

 少なくとも、数年他人と面と向かって会話したことのない俺に任せるより確実だ。


『よろしくお願いします』

『お任せください、ロディス様。数週間の内にもう一度ここに来ますので、何かご要望の品があれば今の内にお伝えください。次までに仕入れてきますので』


 生活必需品の大半は手に入れられたが、服や下着といった品を頼んでいるようだ。

 着の身着のままで飛び出してきたから、全員が同じ服をずっと着ている。最近は動物の皮をなめして作った、ワンピースみたいなのを女性陣が寝るときにだけ着ているようだが。

 商談も終わり護衛と共に立ち去るドルドルドの乗った馬車へ、キャロルがいつまでも手を振っている。


「ふうー。これで冬への備えも完璧だな。人員の確保も期待できそうだし」


 頭を悩ませていた多くの案件が一気に片付きそうだ。

 このボーナスイベントを実行してくれた沙雪には感謝しないとな。

 ふと、窓の外を見るともう暗くなっている。冬は日が落ちるのが日に日に早くなっていく。

 集中しすぎていて忘れていたが、一応スマホの方も確認しておくか。

 社長か家族からしか連絡が入らないスマホの電源を入れると妹から何か送られてきていた。タップをして開くと、


『今日は遅くなると思う。もし迷惑じゃなかったら、深夜に連絡するからバス停まで迎えに来て欲しい』


 とあった。

 俺は迷わず『了解』と打って返す。

 もう一度マップの全体図を見て、村の周辺に危険がないことを確認してから神託を発動しておく。

 見守っている感を出すために今日の出来事に触れて、俺もムルスの村の人々の冥福を祈る文章を書いておこう。


『新たに加わりし村人よ、我は歓迎する。そなたの失われし村人の冥福を我も祈ろう。今日の別れも出会いもすべてが汝らの糧になるように願っている』


 あんまり長い文章もどうかと思うので、重要な要件を伝えるとき以外は簡潔に書くように努めている。


「良夫ー、ご飯ー!」


 下から母の呼ぶ声がしたので駆け下りる。

 今日は父も妹も遅いので二人きりでご飯を食べて、入浴して寝ようかと思ったところで……。


「あっ、沙雪を迎えに行く約束だったな」


 危ない。一区切りついた安心感から油断していた。

 まだ連絡はないけどコンビニで買いたい物もあるから、夜の散歩がてら早めに行くか。

 俺はフードのついた分厚いジャンパーと、買いだめの菓子を入れるリュックサックを背負って家を出た。

 最近はほぼ毎日外に出ているが、外気の寒さには慣れそうにもない。

 一瞬で耳が痛くなったのでフードを被って早足にコンビニへ向かう。





 闇夜に煌々と浮かんでいるのはコンビニの明かり。

 夜道にあの明かりは目印として最適だ。スマホに妹からの連絡もないし、まだバスの最終まで時間もあるのでコンビニで時間を潰そうと、考えたその時。

 コンビニから入れ違いで出て行くサラリーマン風の男を見て足が止まる。

 少し猫背気味で歩く姿にニヤついた横顔。


「……っ⁉」


 背中に冷水を浴びさせられたような寒気が全身に広がっていく……。

 ――その顔に見覚えがあった。

 あれから成長して背丈が俺と同じぐらいになって大人びているが、面影はある。


「まさか……あいつは」


 あの顔は忘れもしない。妹の同級生で――俺を刺した男。

 傷害事件で少年院に送られて数年で退院したのは知っている。この町に戻ってきていたのか……。

 ここが生まれ故郷なのだから戻っていても不思議じゃない。

 だけど、妹が利用するバス停の近くにあるコンビニで、帰宅時間に偶然再会したというのはあまりにも出来過ぎた話だ。

 動揺を隠しながらコンビニに入って、窓際に置かれた雑誌を読む振りをして男を見張る。

 どうやら徒歩で来たようで、コンビニから少し離れた駐車場の塀に背中を預けると、寒空の中スマホを見ながら缶コーヒーを飲んでいた。

 ちらりちらりと何度もバス停の方を見ている。


 すれ違った際に刺した相手に気づかなかったのは、スマホに夢中だったのと俺がフードを被っていたからだろう。

 今もこちらの存在には気づいていないはず。

 バス停を気にしている様子からして、ストーカーの犯人は元ストーカーの可能性は高い。この展開も考慮していたが、一番悪い方の予想が的中しやがった。

 どうするべきか。警察には既に相談しているが、何かしらの事件が発生しないと動けないと言われている。「見回りは強化する」と言ってくれたが忙しいらしく、家の周りで警官の姿を見たことは二度しかない。


「兄として、どうにかするべきだよな……」


 危険は承知しているが、バスから降りた妹に危害を加えられるよりマシだ。妹がいない今がチャンスかもしれない。

 妹に電話とメールをしてみたが反応がない。バスが到着するまで時間に余裕は……。

 手にしていた雑誌を購入してコンビニを出る。

 スマホを見てニヤついている男へ、俺はゆっくりと近づいて行く。

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― 新着の感想 ―
[一言] ディスティニー…愛称はティニですね
2022/02/18 07:26 退会済み
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