攻略ポイント攻略と準備を整える俺
剣を振るうたびに蛇型モンスターの首がくるくると宙を舞う。
血煙の向こうに見えるのは両手の剣を自由自在に操り、次々と死を生み出していく神の像。
周囲には無数の蛇の屍が転がり、大地が血で染まっている。
「うおおおおっ! 我は神と共にあり!」
雄叫びのような大声を張り上げ、感涙にむせびながらメイスを振り回している元神官長も含め、共に戦う村人たちの活躍も目が離せない。
「前に出すぎるな! やれることやればいい!」
二つ頭の蛇を両断した剣を振って血糊と肉片を飛ばすと、今度は仲間に檄を飛ばす。
神の像の活躍を前にすると霞んでしまっているが、初めて会った頃よりも確実に腕を上げているガムズ。両手で二振りの剣を操り、力と技でモンスターをねじ伏せている。
その隣で猛威を振るっているのは技よりも力で敵を粉砕するニイルズ。神に仕える者にだけ許される衣を身にまとい、先端に鉄塊の付いた巨大なメイスを叩きつける。
「神と肩を並べて戦える光栄に身が震えますぞ!」
本来は白いはずの衣が返り血で赤く彩られ、顔に貼り付いている笑顔は血化粧により獰猛さを増している。
体長が一メートルはある蛇がニイルズのメイスに殴られると、重力を無視して面白いぐらいに吹き飛んでいく。一人だけ別次元の怪力だ。
その凶悪な姿に恐れを成して逃げるモンスターたちだったが、後頭部に次々と矢が刺さる。逃走は許さないとばかりにムルス、スディールの矢が容赦なく貫いていく。
「こっちの方が三匹多かったみたいね」
「一本外していたがな」
嫌みに皮肉で返す二人は相変わらず仲が悪い。
「怪我した方は後方に下がってください! 治療します!」
チェムとランとカンは後方に控え、怪我人の治癒とその護衛を担当。
「お前ら、ここで活躍しねえと稼ぎ減らすぞ!」
「そりゃねえっすよ!」
「おらおら、働け働け!」
他にはハンターグループが二組、村人の活躍に負けじと奮闘していた。
味方には犠牲もなく、今のところ順調そのものだ。
「よっし、いける! おっと、村人に手を出すんじゃない!」
『おおっ、大活躍ですね良夫先輩!』
神の像を操っている俺を褒めておだててくれるのは、ボイスチャットを繫いでいる真君だ。あっちもPC画面で戦場を見学している。
今、村人たちは禁断の森にある攻略ポイントの一つを攻めている最中だ。
あの謎の村は今のところ手の出しようがないので保留として、別の攻略ポイントを先に攻め落とすことにした。
一つは巨大なヘビが住む場所で、そこはヘビやは虫類型のモンスターばかりいる一帯だった。そこのボスである巨大なヘビには八つの黄色い目があり、鱗は白く陶磁器のように輝いている。
蠱惑的な美しさのある外見をしていたので、もしかして神獣とかその類いの存在なのでは無いかと危惧したのだけど、村人やハンターの反応はそうでもなかった。
「多目蛇の変異種」
ということらしい。多目蛇というのは異世界では珍しくないモンスターの一種で、別名出世蛇と呼ばれている。
生まれた頃は三つ目なのだが年を経て目が増えていくらしい。目の数が強さの基準になるそうで、八つ目はかなり上位の敵となり、蛇型のモンスターを支配することができる、とのことだった。
ボスの多目蛇以外のモンスターはハンターたちと村人でも充分対応できるという話だったので、俺は神託を使って一つの提案をした。
――軽めの木材で少し小さな神の像を彫ってもらい、怪力自慢のニイルズに背負ってもらってはどうかと。
人がすっぽり隠れられる大きさの鉄の盾を装備しているニイルズなら、神の像ぐらい背負って運べるのではないかと思っての提案したら、あっさりと許諾された。
一番喜んでいたのはニイルズで、
「神の命に従い、神の依り代となる像を運ばせていただける光栄! 私は私は歓喜にこの身が張り裂けそうです!」
滝のように涙を流し感激していた。そういった反応に俺も慣れてきたので、苦笑いでその様子を眺めていた。神様が絡むといつもこんな感じだから。
なので今回の戦いには盾は持たずに神の像を背負い、現場まで移動してから《ゴーレム召喚》を発動。ボスである多目蛇と一対一で戦い、周囲の敵は村人とハンターたちに担当してもらう。
神の像に関しては重さの問題があったので現場までは木の状態で運んでもらったが、今回の戦いに同行させた使い魔でもある銀のバジリスク――ゴチュピチュに現場で石化してもらってから戦闘に挑んだ。
多目蛇は毒の息や麻痺の視線といった凶悪な能力を所有していたが、相手にとって相性が悪すぎたな。こっちは像なのでそういった攻撃は無効。なので、一方的に敵をねじ伏せることが可能だ。
そして今、あっさりと多目蛇の首を切断して神像が返り血を浴びている。
あとは、残りのモンスターを掃討して終了かな。
「もうそろそろ、打ち止めか」
多目蛇がやられた直後は怒り狂ったかのように蛇型のモンスターが襲いかかり、村人たちは苦戦を強いられたが神の像の活躍もあって戦況は一方的になっている。
マップを縮小して上空から眺めるとモンスターのいる場所が赤い点で示される。戦場に残っている赤い点はあと四つで、今残り二つになった。
「けち臭い作戦だったけどポイントの節約は大事だから、仕方ないよな」
拠点から《ゴーレム召喚》で歩くという手段もあったが、それをやるとポイントが湯水のように減るので断念。前に一度やった御神輿状態で神の像を運ぶのも考えはしたけど、異流無神村の存在が気になるので、念のために村に人員を残しておきたかった。
悩んだ末に「だったらニイルズに運んでもらったらいいんじゃないか」という結論に至った。本人も喜んでいるから正しかった、と思い込もう。
自分自身を強引に納得させている間にマップ上から赤い点が消えた。どうやら、攻略ポイントのモンスターを殲滅できたようだ。
《攻略ポイントを制覇。残り二つです》
PC画面に青い文字で表示される。
これで残りは二つか。あの異流無神村は後回しだから、もう一つ落としておきたいところだけど。
あれから考えた作戦はこうだ。まず、他の攻略ポイントを先に二つ落としておく。憂いを減らしておくことで、集中して謎の村攻略に挑めるのもあるが《邪神の誘惑》までに片付けておきたいという焦りもある。
『これで一つ目終了ですね。今月中にもう一つ大丈夫でしょうか』
「まだ月の半分だからいけそうだけど、下調べも順調だし」
真君の心配そうな声の問い掛けに、あえて明るく返す。
もう一つの攻略ポイントも既に調べていて、そっちは昆虫型がメインのエリアだった。湿気の多い森で巨大な蜘蛛が森中にうじゃうじゃいた。
……蜘蛛とムカデは正確には昆虫じゃなかった気もするけど、まあいいか。
初めその映像を見たときは、おぞましさに全身を掻きむしりたくなった。真君はかなり苦手らしく『ひいいぃぃぃ』と悲鳴を漏らしていたっけ。
そこら中に蜘蛛の巣があって、子供ぐらいの大きさはある蜘蛛が蠢いている光景はホラー映画のワンシーンのようだ。
ちなみに村人の女性陣は軒並み、あの巨大な蜘蛛が苦手らしく、討伐メンバーに入れないで欲しいと懇願する者が続出していた。
「あそこの襲撃はダークエルフに任せる」
「嫌よ! 嫌なこと押しつけようとするのやめてくんない。あんたが行けばいいじゃん」
「断る。代々、エルフはあの狩猟蜘蛛には手を出さないと決めているのだ。……気持ち悪いから」
「ぼそっと本音漏らしてんじゃないわよ。うちらだって出来るだけ近寄らないようにしていたんだから!」
とムルスとスディールが互いに押し付け合いをしていたのが印象的だった。
チェムは顔面を真っ青にして参加を表明していたが、ガムズが優しくなだめてあきらめさせた。渋々といった感じだったが、そっと胸を撫で下ろしたことについては突っ込まないであげよう。
と次の攻略ポイントについて考えを巡らせている間に、ガムズたちは村に帰り着いていた。
神託で討伐に参加したメンバーを褒めつつ、今日はゆっくり休むように促しておく。特にガムズとニイルズは張り切りすぎるところがあるから、たまにこうやって休むように言い聞かせる必要がある。
神託を使ったから今日は村でやることはないか。ずっと集中していたから目も疲れたし、ちょっと休憩でもするか。
「真君。俺は休むけど、どうする?」
『はい。僕は村を見ておきますので、何かあったら連絡しますね』
「そっか、よろしく。でも、無理はしないように」
『見ているだけだったので元気一杯ですから!』
言葉通り元気に返す真君。若さっていいなー。
俺はPC前から離れると、ベッドに寝転んで大きく息を吐く。
このまま寝たいところだけど、村の運営以外でもやることは山積みだったりする。
五分ぐらいだらだらしてから、布団の魔力に負けずに起き上がると部屋の隅に置いてあるリュックサックのファスナーを開ける。
中に詰め込んでいた荷物を一回出して整理しておくか。
明るいうちに行動するつもりだけど、いざという時の懐中電灯。あんなホラー映画の舞台みたいな場所に行くなら、これは必須だろう。
あと携帯食料も三日分ぐらいは確保してある。万が一の備えとして飲み水と汚い水でも浄化して飲めるポータブル浄水器も持っていく。
雨合羽も入ってるな。他に何かいるものあるかな。
異流無神村に行くことを決めてから準備を怠らないように勉強を続けていた。ホラー映画やパニック映画を鑑賞して、問題点を調べ事前に対策をしている。
あっさりと解決するのが望ましいけど、備えあれば憂いなし。念には念を入れておいて損はない。
護身用にスタンガンを買おうかとも思ったけど、思ったよりいい値段がするのと、家族に見つかるリスクを恐れて今回はスルーさせてもらった。
「これ以上は情報得られないかな」
異流無神村については、あれから個人的にずっと調べてはいたが耳寄りな情報は得られなかった。
ただ、交流広場の方では島の正確な場所を突き止めてくれたので、行こうと思えば今すぐにでも出発できる状況ではある。
「でもなぁ」
異世界と混じり合ったあの場所に行くのか。今更だが他人のためにそこまでの危険を冒す価値があるのかが疑問だ。
正直、動画配信者は自業自得なので助ける義理はない。だけど、あの村をどうにかしないと命運の村に悪い影響を与えるのは間違いないだろう。
とはいえ万全で望みたい。
理想の展開としては、他の攻略ポイントを制圧してから最後に挑む流れだよな。
目標としては……ガムズたちにもう一度、異流無神村を訪れてもらう。俺も同時に村に入る。村人たちと合流して配信者を確保して村から脱出。日本に戻る。
残ったガムズたちには、そのまま攻略してもらって《領地》を確保。
「こうなったら最高なんだけど」
ただ望むだけじゃなくて、そうなるように努力しよう。何もしないで待っているだけじゃ何も手に入らない。
考えることが多すぎて気が散ってしまい村の運営が疎かになったら元も子もない。
まずは運命の神のプレイヤーとして村人を導かないと。




