プロローグ
「おいおい、キャロルもチェムも仲良くしろよ。ガムズも黙ってないで何とかしろっての」
薄暗い部屋の中、唯一の光源であるPCのディスプレイに向かって呟く男。
怒っているわけではなく、あきれながらも笑っているようだった。
ブラシを長年通していないぼさぼさの髪に、何日も着替えていないスウェットの上下。風呂には毎日入って下着は着替えているので臭くはないが、悪臭がしたとしても彼は気にしないだろう。
部屋の中にはPCと机。それに漫画とラノベで埋まった本棚。年中敷きっぱなしの布団。あとはダンベルが部屋の隅に置いてある。
男は日が昇ると眠り、日が沈み始めると活動を開始していたのだが、最近は早起きが習慣になっていた。
それもすべて彼が夢中になっているゲーム『命運の村』が原因だ。
このゲームを始めてからというもの彼はどっぷりとハマり、日常の殆どがゲーム時間に費やされている。
ディスプレイには自然豊かな森を切り開いて村を作る人々の姿が映っている。
やけにリアルなゲーム画面には懸命に働く何人ものキャラたち。かなり高性能なAIらしく会話パターンも豊富で、挨拶以外で同じセリフを男はほとんど見たことがなかった。
「皆さん、今日も神託が下りました」
神官服を着た美しい女性が輝く聖書を開くと、村人が彼女のもとに集まってくる。
「みんな、今日も一日頑張ろうな」
自分の声が届かないとわかっていながらも、彼らに微笑みかける男の顔は幸せそうだった。