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07話「会って一日で告白っておかしくない!?」byF

 

 いざ自分の番となり、やはり思い出すのはあの地獄の特訓のことだった―――


『―――You can do it! You can do it! Never give up!!』


『―――喉が………もう………無理………』


『―――Oh nooooo! AyatoooooO!?』



 ………この後の記憶はない。


 この一幕があるまでに、俺は自分の喉が死んで掠れてもずっと歌い続けていた。

 この鬼畜監督が歌の上手い外人だったこともいけなかった。上手い歌声のハードルが自分レベルだったので、くっそ高かったのだ。


 ………うん。あの時と比べたら、ミスっても何十回というやり直しはないし、超イージーモードじゃん。


「天城さん、ゴメンね?」


「ふふ………降参? まあ仕方ないわよね。でもみんな歌ってるし、歌は歌ってもらうわよ」


 勝ち誇っている天城さんは、随分と嬉しそうだ。さすがに、そこまでこだわっていることには驚いた。


「まあ聞いてくれたらわかるよ」


「何の―――」


 天城さんが聞き返す前に、前奏が終わった。


「――〜〜♪」



 ◆



 ―――98点



「………」


「………」


「………」


「………」


 言葉が出ないとはまさにこのことだ。

 歌っている途中から薄々は予想していたが、まさか本当に………


「いや〜、中学の頃より点上がったかも」


 へー、そうですかー………それにしても上がりすぎじゃないですか?


「―――すっっっっごかったねっ!! 赤羽くんってプロなの!?」


「勝てる要素が皆無だった………」


「………」


「どうせ俺なんて………」


 咲はプロ顔負けの歌声に絶賛し、男子二人は床に三角座りで沈んでいた。宮田さんはというと、惚けた顔で赤羽くんに見蕩れている。


「天城さん、どう?」


「凄く上手だったわよ………………ちっ」


 まさかこれ程までに上達しているとは。己はこの春休み中、何やっとったんですか?

 無性に聞いてみたかったけど、中学の時の知り合いだということは何となく周りには隠していたので聞かなかった。


「ありがとう。それじゃあ次は99点目指してみようかな」



 ―――滅びろ!



 この時、私は本気でそう思った。


 ちなみにこの後の二周目で、マジでこの男は99点出しやがった。私が割と本気でこやつの春休みの使い方を知りたくなったのも、仕方の無いことだと思う。


 もしかしてホントに練習してたの……?



 ◆



 夕方の四時過ぎ。


 退室時間になって俺たちはカラオケを出た。

 代金は林藤が割引券を持っていたらしく、二十パーセント引きで、次回の分の割引券も貰えた。


「いや〜、面白かった〜っ! またこの面子でこよーぜ!」


「そうしよーそうしよー! 結衣も赤羽くんもまたこよーね〜!」


「そ、そうね………」


「出来るだけ参加させてもらうよ」


 セットでお呼ばれしていることに顔を引き攣らせながら、俺たちはなんとか答えた。

 さすがに夢川さんの無邪気な笑顔を見ていると断れなかったのだ。

 次回もコイツと一緒にお呼ばれが決まってしまった瞬間である………


「宮田さんは楽しかった?」


「―――ふぇッ!?」


 突然聞こえた声に、宮田さんは驚いて面白い声を上げた。


 先程からあまり喋っていない彼女のことが気になって一応声をかけてみたのだ。午前中に学校で見ていた限りでは、彼女はもう少しお喋りな性格だった気がする。

 もしかしたら俺たちとのカラオケがつまらなかったのかもしれない。


 しかし、その心配は杞憂だった。


「うん、ものすっごく楽しかったよ!!」


「そう、それならよかったよ」


 心底そう思っている顔は、意外にも嘘かどうかわかりやすいものだ。宮田さんが嘘をついているようには俺には見えなかった。


「それでね………赤羽くん、この後時間………あるかな?」


 頬を赤く染め、照れくさそうに右手で髪を弄りながらの上目遣い………



 ――コイツ、できるッ!!



 反射的にそう思ってしまった自分がいる。

 まあ、顔に出なかったからよしとしよう。


「ダメ、かな……?」


「いや、構わないよ。どこか行くの?」


「えっと……ち、近くの公園なんだけど………」


「了解。宮田さんについて行くよ」


 そう言って微笑むと、宮田さんの顔が真っ赤になるので面白かった。


 みんなの方を見ると、向こうも話は一段落したようで、解散の雰囲気になっていた。


「それじゃあ今日はもう解散にしますか〜」


「また明日なーっ!」


 林藤と悟は家が近いらしく、一緒に帰って行った。

 夢川さんは宮田さんを帰りに誘うが、宮田さんは当然それを断っている。あっ、用事聞かれてアタフタしてる………頑張れ!


 二人の方に気を取られていたので、俺はすぐ近くまで人が接近していることに気がつかなかった。そう、すぐ近くの耳元まで……


「………――お似合いですことね」


「―――うぇッッ!?」


 小さな声で喋っていたので大丈夫だと思っていた。だけど大丈夫じゃなかったらしい。


 慌てて弁明しようとしたが、時既に遅し。

 伝える前に天城さんは機嫌悪そうに歩いて行ってしまった。

 追いかけるのも宮田さん達の目があるからなんか嫌だし、そもそも向こうの勝手な勘違いだし………


「はぁ〜っ、面倒くさ………」


「あ、赤羽くんっ! ………お、終わったから公園行こっか………」


 どうやら宮田さんも夢川さんと別れたらしく、何が恥ずかしいのか小さな声でそう言った。


 告白か?

 告白なのか?

 いや、変な期待はよそう。違ってた時にこっちが哀しくなる。


「……そうだね」


 声のトーンが少し低くなってしまったことに気がつき慌てて顔を上げるが、幸い、どうやら宮田さんは気がついていないらしかった。


 ひとまず昔のことは忘れよう。

 今の俺は昔とは違う。


 今の俺は、学校で完璧超人として生きていくのだから―――



 ◆



 さっきの会話、絶対に告白よね………


 止めればよかっただろうか? 

「あの男は宮田さんには釣り合わない」って……

 いや、ダメだ。

 それ、絶対逆の意味にとられる。

 それに、むしろ今の私がそんなこと言ったら完全に嫌味だしね。


 そもそも会って一日で告白っておかしくない!?

 リア充メンバーってそういうもんなの?

 私がおかしいの?


 いや、赤羽くんも賛同するはず………ってまあ、あの男も私と同じようなものだし、当たり前か………


 顔だけで告白されても、正直言ってあまり嬉しくない。

 容姿を褒められるのは素直に嬉しいけど、それで付き合うのは少し違うと思う。


 あの男は何と返事をするのだろうか………?


 ふと立ち止まって、ぼんやりと空を見上げる。

 地上を照らす月は、半月だった。


 昔、あやとくんと行ったデートの帰り道に、一緒に空を見上げたことがあったな………あの時はたしか、綺麗な満月だった………



 ―――っていうか別に私関係ないし!



 あの男が宮田さんの想いに応えようと応えまいようと、私には一切関係ないッッ!



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