第九話 デートじゃないけど一緒に買い物をした
「絶対に許さないからな! 今回ばかりは!」
「何をそんなに怒っているのですか? レイらしくないですわよ」
「うるさい!」
なーにが休憩所だ! 騙された! 屋内に入ったら其処ら中からいかがわしい声が響いてくるじゃないか!
「レイも最終的には同意したじゃないですか」
「諦めたって言うんだ!」
ちょっとおかしいと思ったんだ! あんな町外れにちょうど休憩所があるのがおかしかったんだ!
「まぁまぁ、良い勉強になりましたわね」
「くそっ……!」
スッキリした顔でベアトリスが言う。その顔もそうだが、何よりも腹が立つのは私自身もスッキリしてるということだ。鍵の為でも何でもない行為だというのに、ちょっと癖になっている節がある。良くない傾向だ。気を付けないとな……。
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それからまた町を散策する。当てもなくウロウロとだ。すると私の数少ない趣味の一つである服飾店がある通りに出た。華やかな服から機能性のある服。それが男女問わず並んでいる様は流石ネプタルと言った感じだ。
「……お、これなんかベアトリスに似合うんじゃないか?」
「そうですわね……ちょっと着てみましょうか」
なんてやり取りをしたり。
「ふふ、これはレイには似合わないですわね。可愛らし過ぎますもの」
「なんでだよ。こういうのだって好きだぞ。待ってろ」
「……あら、意外と」
とても楽しい時間を過ごした。勿論それらの服は私とベアトリスの荷物となった。教会のお金ではない、私個人のお金で買った物だ。これは私の趣味なのだから、自分で稼いだお金で払わないと気持ち良く楽しめないからな。ベアトリスも財布を出していた。お互い女なので服は好きだったから和気藹々とした楽しい時間を過ごせた。こういうのも、良いかもしれんな。
「さ、そろそろ宿に戻りましょうか」
「そうだな。新しい服も買えて楽しかったな」
「また一緒にお買い物しましょうね」
「そうだな」
両手に荷物を抱えながら談笑する。此奴に襲われたことなんてすっかり忘れてしまうくらいには穏やかで楽しい時間だった。私って結構ちょろいのかもしれないなぁ……。
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宿に戻り、飯を食って風呂に入った頃にはもう眠くて仕方なかったが、スキル取得の話がまだだった。仕方なく眠い目を擦りながらベッドの中でベアトリスとスキルの相談することにした。その途中、ちょっとずつ距離を縮めてきたので割と本気で脇腹に拳術を叩き込んでおいた事を此処に報告しておく。
「けほっけほっ、酷いですわ、レイ」
「次やったら怒るぞ」
「冗談が通じないのはつまらないですわ」
「いいからスキルの相談しようってば。話が進まないだろう?」
全然効いてないことに内心へこみながら相談を始める。
「とりあえず、私は次元魔法の取得をオススメ致しますわ」
「次元魔法?」
あまり聞かない魔法だ。それだったら雷魔法とかの方が強そうだが……。
「次元魔法は時間と空間に干渉する魔法です。レイが持っている大きな鞄、あれが不必要になりますわ」
「は? どういうことだよ」
「空間に干渉するのですから、別の空間に収納すれば良いのですよ」
「あっ」
目から鱗とはこの事だ。そんな使い方、考えもしなかった。
一応、服屋の元店員として服は色々用意すべきと頭が働いて色々詰めてたら結構な荷物になっていた。それでも最初は辛かったが、《身体操作》のお陰で楽になると思っていた。その鞄をまるごと魔法で異空間に収納してしまうとは……魔法とは奥が深く、便利な物なんだな。
「よし、じゃあ早速……」
「あ、ちょっとお待ち下さいな。取得は朝にしましょう」
「朝?」
ステータスカードを取り出した私を止めるベアトリス。
「朝なら丸一日眠っても、夜には目覚めません。起きても一日がまだ終わっていないので外出も可能ですわ」
「なるほどね。頭良いな」
「ふふ、ありがとうございます」
どうも物事が進行するの時間が夜が多くて何かするなら夜にというのが定着していたが、朝なら何もせずにまた寝るってことにならなくて良いかもしれない。
そうと決まれば、すぐ寝よう。朝になったら次元魔法【天】を取得するんだ。
「よし、じゃあ寝よう。おやすみ、ベアトリス」
「はい、おやすみなさい、レイ……んぅ」
「んっ……!?」
ベアトリスが口付けをして、すぐに布団に潜った。どういうつもりだ……おやすみなさいのチューとでも言いたいのか……!?
顔が赤くなってしまう。妙に気が昂ぶってしまった私は寝付くのに暫く時間が掛かってしまった。
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翌朝。寝惚けた頭でステータスカードを操作する。
「ほらレイ、ちゃんとスキルを見て取得してください」
「んぁ……お前の所為で寝不足なんだ……」
「もう少ししたらたっぷり眠れますわよ」
ぼやけた視界が次元魔法【天】にピントが合ったのでそれを取得。すぐに私の意識はなくなり、枕へと顔からダイブする。
「……はっ!」
「見てて面白いですわ……まるで貴女には枕に顔が落ちて、その瞬間に起き上がった感覚なのですね」
隣でベアトリスが興味深そうに此方を見ている。まったくその通りだ。ぼふんと枕に顔を埋めて、息苦しくなったので起きた。そんな感覚だ。睡眠というよりは気絶という方が近い気がする。
「見世物じゃないんだぞ」
「ふふ、見ていて飽きませんわ」
「見るな、バカ」
「うふふ」
何か腹立つなぁ……はぁ。
いや、そんなことより魔法だ、魔法。ついに私も魔法が使えるようになったのだ。知識は頭に入ってる。先に《身体操作》のスキルを取得しているのでMPも沢山ある。今すぐにでも魔法が使えるぞ!
「じゃあ早速始めようかな」
「レイ、気を付けてくださいね。魔法というのはじゃじゃ馬のようなものですから」
「分かった」
使い慣れているからか、ちょっと先生っぽい。見た目もそんな感じだな……。