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第六話 愛の結晶

 目が覚めた。重く伸し掛かる瞼を開くと枕が目に入った。それから窓の外。暗い。体は横向き。少し動かして仰向けになると天井……より先にベアトリスの覗き込む顔が見えた。


「おはようございます、レイヴン」

「おはよう……」


 寝起きからベアトリスの笑顔だ。綺麗だが、襲われたことを思うと素直に綺麗とは思いたくなくなる。私は捻くれているのだ。

 しかし妙だ。さっきまでお互い丸裸だったのに、今はちゃんと服を着ている。時間も朝のままだし。


「何があった……? 一瞬、気絶してたみたいだが……」

「今は昨日から数えて翌日の朝の7時過ぎです。レイヴンが意識を失ってから丸一日が経過してますわ」

「は……?」


 丸一日? 丸一日、私はこのクレイジーでサイコな奴の傍で眠りこけてたのか? 危機感なさすぎだろ! ていうかまだ全裸だし!


「へ、変な事してないだろうな?」

「変な事? 変な事って、何ですか?」

「それは……ほら……その、アレだよ……」

「アレ……?」

「う……あの……せっ……あ!?」


 気拙さに顔を背けていたが、チラリと盗み見るとニヤニヤしているベアトリスが此方を見ている。わざとだ、言わせようとしてた!


「クソッ!」

「冗談です、レイヴン。意地悪してごめんなさい。何もしてないので安心してくださいな」


 部屋に入るなり、いきなり襲ってきた相手に安心など出来るものか。しかしこの膝枕の寝心地は悪くない……。


「実は貴女がお休みになられている間、先程の鍵のスキルについて考えていましたのよ」

「……それは私も気になる。ステータスカードに表示された鍵穴に挿した事で結果的に意識を失ったんだからな。怖い物かもしれない」


 少し不安になり、俯せになってベアトリスの腰に腕を回す。何か良い匂いする……安心する……。


「いえ、それは無いですよ」


 顕になった私の後頭部を撫でながらベアトリスが優しく断言してきた。


「レイヴンが意識を失ったのはスキルを取得したからです。私もそうでした」

「ベアトリスも?」

「はい。女神様に見出され、洗礼を受けると必ず意識を失います。膨大なスキルとステータスの取得から体を守る為ですね」

「私はそんな事は無かったが……」

「それは恐らく、スキルもステータスもロックされていたからかと」


 なるほど、筋の通った説だ。理解も納得も出来る。


「つまりあの鍵は勇者の……女神関連の物と?」

「そう言えるでしょうね。それで鍵のスキルが出現した原因ですが……」


 真面目な顔つきに釣られ、ゴクリと唾を飲み込む。


「恐らく……」

「恐らく……?」

「私と貴女が愛し合ったからですね」


 ……? …………??


「ごめん、待って、ちょっと何言ってるか分からない」

「分からないですか? 貴女が得た『寵愛の鍵』というスキルは私達の愛の結晶なんですよ」


 駄目だ此奴、頭が変になってる。これも勇者の資質に違いない。そもそも愛し合って(・・・)ないし。私()の愛の結晶って馬鹿じゃないのか。


「でもレイヴン。昨日私達は愛し合いましたよね」

「合ってない。一方的だ」

「それで朝起きたらスキルが増えていた。もう決定じゃないですか!」

「お前は1日使ってそんな事を考えていたのか……!?」


 私の為に思ってくれるのは嬉しいが、これ程までに無駄な1日の使い方は聞いたことがなかった。


「でもあの、ほら、一緒に寝たからだけかもしれない。その……あんな事、しなくても鍵は増えるかもしれない」

「じゃあ普通に寝てみます?」

「不本意だが、確証を得る為には致し方ない……」


 此奴と共に寝るなんて嫌だが仕方ない。たった今目が覚めたので眠気は全くないが、どうにか寝るしかない。

 ベアトリスはさっさと布団に潜っている。そのうちスヤスヤと気持ち良さげな寝息が聞こえてきた。


「はぁ……」


 仕方ないので私も横に寝転び、せめてもの抵抗でベアトリスに背を向ける。何でこの部屋はベッドが一つしかないんだ。

 無音の室内に、背中越しにベアトリスの寝息だけが聞こえる。何時しか私もその呼吸に合わせ、眠りの国へと旅立った。



  □   □   □   □



 その日の夜。目が覚めた私はステータスカードを眺める。


「どうですか? レイヴン」

「増えてない……」

「じゃあ次は私の仮説を試しましょう」

「えっ」


 寝起きから押し倒され、マッサージの体すら無く唇を奪われる。両頬に添えられた手が私を撫でる。頬、首筋、鎖骨、肩と流れ、私の輪郭を再確認していく。

 抵抗出来ない。先日の、あの強烈な快楽を体が覚えている。捻くれた私と違い、何処までも正直な体は、与えられる快楽に身を任せていった。



  □   □   □   □



 1回戦後。


「どうですか? レイヴン」

「増えてる……」

「でもまぐれかもしれませんね。もう1回しましょう」

「えっ」



  □   □   □   □



 2回戦後。


「どうですか? レイヴン」

「はぁ、はぁ……増えて、ないね……」

「ん……回数制限……? いや……感度が足りない……?」

「おい……はぁ、嘘でしょ……っ、ちょっと……!」

「もう2、3回試してみましょう」

「待って、ほんとに無理……!」



  □   □   □   □



 3回戦目(濃い目)を終え、息も絶え絶えになりながらステータスカードを確認したところ、鍵の本数は増えてなかった。私は何の為に此奴と……クソッ!


「ふむ……やはり回数制限のようですね。1日1本まで、とか」

「…………えっ、嘘でしょ。明日もやる気?」

「勿論ではありませんか。あ、そろそろ日付が変わりますね……?」


 チラリと時計を見たベアトリスが時間を確認してから私を見て舌舐めずりをする。蛇に睨まれた蛙のように、私は震えて動けない。その震えは恐怖からか、それとも快楽からか。火照った頭では判断が出来なかった。


「では、レイヴン……」

「う、うぁ……もう、好きにしてくれ……」


 そして私は考えることをやめた。もう煮るなり焼くなり好きにしてくれと、ベッドの上に四肢を投げ出して天井の染みを数え……ようとしたが綺麗な宿なのでそんなものは何処にもなかった。



  □   □   □   □



 翌朝。


「どうですか? レイヴン」

「増えてない……」

「やっぱり1日1本じゃないみたいですわね。では何故、昨日今日で2本出たのでしょう? ……ふむ、確認の為にこれから毎日、最低2回はやってみる必要がありますわね」

「そうだな……」


 全くふざけた話だった。やっぱり女神ってクソだ。

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