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追放一歩手前なのに追放されない。それどころか好かれてる。  作者: 紙風船


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第三十五話 魔都 -フィラルド-

 目を覚ますとベアトリスの顔が見えた。ぼやーっとした、ふわふわした気持ちで眺めているがベアトリスは私が起きた事に気付かない。正面を向いて、口が動いている。誰かと話しているみたいだが、寝起きの耳は水が入ったように音がぼやけて聞こえない。視線を向けると、ベアトリスから少し離れた場所にアサギさん達が椅子に座っているのが見えた。すぐそばにあるテーブルには少し乱雑に皿が置いてあることから、食後の雑談だと推理出来た。

私が横になっているのはソファだ。頭はベアトリスの膝の上。もうすぐ私が起きるからってわざわざこっちに来たのか……。


「……それでアサギ様とダニエラ様は、魔神とはもう戦えないのですね」

「あぁ、前にも言ったけれど、確かに指輪を身に付ければ《女神の寵愛》は真価を発揮する。体を作り替える程の神気が供給されて、人間は勇者へと変貌する」

「その結果、不老となるのですか?」

「いや、そうでもない。僕は元々、異常進化個体の眷属としてスキルを使う内に体の中が魔物化していたんだ。けど身に付けてる装備は別の魔物の力が備わった物で、体の中のバランスがどんどん崩れてね。だから僕より先に生まれてた神狼に力を貰ってバランスを戻してたんだけど、其処に神気を注入されて一気に神狼に寄りになって神狼になったんだ」

「それは……大丈夫だったのですか?」

「いや、意識が半濁して暴走した。ダニエラは白エルフからオリジン・エルフへと変貌したけど安定してて、助けてもらったよ。もう一度勇者になれば魔神と戦うことは出来ても、多分過剰摂取で死ぬし、そもそも魔神をしっかりと認識出来ない。世界を歪ませる気配だけしか感知出来ない。そんな感じだから僕達は勇者の育成をした方がまだ価値があると判断したんだ」

「だから私とアサギは戦いたい気持ちはあっても指輪を身に付けられないんだ。元々は私達へ送られた結婚指輪なんだけどな」

「あら、そうだったのですか。あぁ、なるほど。だからレイの指輪は少し大きいのですね」

「女神様から直々に祝福された指輪だーなんて喜んだ数秒後に僕は魔物化によって暴走したからね。今でも指輪だけはトラウマで身に付けられないんだよ……いやマジで」

「だから此奴、結婚はしないとか言ってるんだ。どう思う?」

「指輪だけが結婚ではないと思いますわね」

「だろ? もっと言ってやれ」

「いやもうやめてくれよ、ごめんって。……あ、レイ。起きてたのか」


 ボーっと何処を見るともなく見ているとアサギさんが私に気付いたので適当に頷く。すると優しくて少し冷えたベアトリスの手が私の頭を撫でた。ゆっくりと覚醒していく感覚を感じながら身を起こす。


「おはよ。具合はどう?」

「問題ない……かな。女神の声も聞こえてきたりしないし」


 直接脳内に語り掛けられてきたらストレスで胃に穴が開くことになる。


「さて、これで全ての準備は出来たな」


 椅子に座っていたダニエラさんが立ち上がる。それに続いてアサギさんが立ち上がる。私も立ち上がらないとベアトリスが立てないな。


 のそのそと寝起きの体を動かす。若干ふらつくが、完全に立ち上がる頃には意識もはっきりしてきた。


「すまない、アサギさん」

「ん?」

「少しだけ寄り道させてほしい」

「あぁ、いいよ。それくらいの時間はまだある」



  □   □   □   □



 アサギさんに我儘を言って寄り道を終えてから、再び玄関空間まで戻ってきた。与えられている一室で、私は一糸纏わぬ姿で深呼吸を繰り返す。

 それから次元魔法で収納していた装備を取り出し、身に付けていく。いつもこの瞬間から意識がガラリと変わってくる。そうなるように訓練した。この服に袖を通した時、この剣帯を身に付けた時、そして武器を帯に通した時。一つ一つの作業をこなす程に感覚は鋭く研ぎ澄まされていく。

 準備を終え、皆の元へと行くと既にすべての準備を終えた3人が集まっていた。その気迫はこれから行う戦闘の大きさに比例するかのような凄みがあった。


「外の時間は朝。この玄関空間では直接魔神の元までは入れない。魔都フィラルドの入口が精一杯だけど、お前達は何も心配しなくていい。僕達が道を切り開くから」


 かつて魔神が顕現した旧霧ヶ丘。其処から最も近い町は魔神の神気汚染によって魔人の都市となった。そして魔神教の総本山でもある。多くの邪教騎士が守っている都市へこの4人で切り込む。想像しただけで武者震いしてくるね。


「準備はいいか?」

「はい!」

「あぁ、問題ない」

「よーし、行くぞ!」


 アサギさんがパン! と両の手を合わせると目の前の空間が縦に裂けて、広がっていく。裂けた空間の向こうからはムッとする神気が押し寄せてくる。空気自体に圧がある。以前、人形ヶ丘を通った時とは大違いだった。


 目の前には大きな門が聳え立っていた。まるで全てを拒絶するかのような巨大な黒い門は微かに神気を帯びているのが分かる。


「ほう、漆黒金鋼(アニマ・オリハルコン)製か。神気を帯びて変異したオリハルコンをこれだけ集めるとはね」

「私達には何の意味もないがな」


 一歩前に出たダニエラさんが腰に下げた細剣を抜き放つ。あの細剣はただの細剣じゃない事はよく知っている。


 刃は瞬時に厚く長く変化し、大剣へとなり、それを細腕で下方から振り上げる。


 たったそれだけで堅牢で巨大な門は薄紙のように裂け、吹き飛んだ。刃も届かない離れた場所からの斬撃なのにこれだ。オリジン=エルフの……いや、ダニエラさんの剣圧の恐ろしさを改めて実感する。


 突然の轟音。魔人と言えど都市の中では普通に生活しているのは人間と同じだ。当然、防衛機構としての兵、教会騎士達が大慌てでやってきた。


 そう見ると私達が行ってるのは侵略とも言える、か。


「レイ。これは戦争なのですよ。余計な思考は戦闘の妨げにしかなりません」

「……あぁ、分かってるよ」


 顔に出ていたのか、ベアトリスに叱咤された。頭を振り、余計な思考を散らした私は腰に下げた《白刀・天狐》をゆっくりと引き抜き、前へ出る。


「私は女神教勇者、レイヴン=スフィアフィールド!! 魔神ハイデラ討伐の為にこの地へやってきた!!」

「同じく、ベアトリス=フォンブラッド=エンハンスソード!! 邪魔するのであれば容赦無く斬る!!」


 名を叫び、刃の切っ先を向けての宣戦布告。ビリビリとした大気の振動に背筋が震えた。私達の前に立ちはだかる黒衣の騎士達は剣を抜いて応戦の態勢を取った。


「退かないのであれば覚悟しろ!!」


 白雷がバチリと爆ぜた。その瞬間、私は教会騎士の頭上から雷を纏った天狐を振り下ろしていた。雷音と爆発音を轟かせ、騎士達が弾け飛ぶ。その影響で門枠までガラガラと崩れ落ちた。後に残ったのは倒れ、呻く騎士と門の残骸のみだった。


 舞う土煙をダニエラさんの風魔法が吹き散らし、3人が私の元へと追い付いてきた。


「突然飛び出すんだもん、ビックリしたぜ……」

「力の誇示は基本って言ったの、アサギさんだろ?」

「確かに。うーん、よくやった!」

「ふふん」


 アサギさんが突き出した拳に此方も拳をぶつける。


「じゃあ此処からは僕が先頭に立つ。殿はダニエラだ。目的地は魔神教の総本山であるミストマリア大神殿。その地下にある魔神顕現施設『マリグナント・ノヴァ』だ」


 神の顕現を機に侵攻をするつもりだったであろう魔人側に此方から攻撃したことで向こうは防衛戦になった。となれば死守するべきはその地下施設の入口のはずだ。


「其処に勇者……アストレイアも居るだろう」

「あの子なら僕が相手する。生意気なメスガキに格の違いってのを見せてやるとしよう」


 アサギさんが悪い顔しているがこれが安っぽい演技なのは流石に私でも分かる。敵に対しての容赦の無さはダニエラさんには負けるが、それでも油断のない戦いはそれだけで尊敬に

値する。


「私は有象無象の相手をしよう。何、数秒あれば鎮圧出来る」


 大剣から変化した細剣を手にしたダニエラさんは表情を変えずに此方に向かってきた騎士の一団に翡翠の風散弾を放つ。弾き飛ばされた騎士達はピクリとも動かない。この人はこの人で一切の油断をしない。手なんて緩めない。殺すと言えば殺すのだ。


 この二人だから安心して背中を預けられる。私とベアトリスは教会へ向かって走り出した。

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此方もよろしくお願いします。
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