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追放一歩手前なのに追放されない。それどころか好かれてる。  作者: 紙風船


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第二十七話 口先勇者

「無事ですか?」

「あぁ、うん。大丈夫」

「……それは?」


 男を風魔法で運びながら此方側へやってきたベアトリスが私が手にしている紙を覗き込む。


「……独特な絵ですわね」

「無理矢理褒めなくてもいいだろ……」

「……ですわね」


 どうせ描いたのはアストレイアだろう。魔人で私達の顔を知っていて、尚且つ勇者と知ってるのは彼奴しか居ない。


 しっかし下手だなぁ……!


「こんな絵でよく私達だって分かったな……」

「アストレイア様の絵を馬鹿にするな!」

「いや……うん、其処はごめん」


 怒る箇所が違う気もするが、怒ろうが抵抗しようが私は此奴をねじ伏せるだけだ。


 その後は男二人も交えて色々聞き出した。不意打ちなら倒せると踏んだようだが、返り討ちにあった挙句、拘束されては知らぬ存ぜぬでは通せないと判断したらしく、ある程度の会話はしてくれた。


 アストレイアがフィラルドに戻ってきたのが1ヶ月前。彼女は女神側の勇者の情報を持ち帰り、人相書きとしてこの下手くそな絵を用意したらしい。ご丁寧に名前も書いてあるのは名乗ったからか……やっぱり名乗らなければ良かった。


 そしてフィラルド中に私達が指名手配され、捕まえた者には金貨1000枚の報酬が貰えるそうだ。


「それで私達を襲ったと」

「愚かですわね」

「ふん……元々不意打ち狙いだ。それが失敗したのであればもうどうしようもない」

「こうして情報も吐き、アストレイア様を裏切ったのだ。さぁ殺せ」

「いや殺さないけど……」


 物騒な流れになってきた。けど此方としては殺す気はない。勿論、殺そうとしてくるなら考えるが。


 結局、魔人も人も人間だ。魔人を否定することはエルフやドワーフ、獣人といった亜人族全てを否定することになる。勿論、エルフやドワーフ、獣人、人間、魔人が私を殺そうとしてくるなら等しく抵抗する。


「つまり、これ以上やるなら私も腹を括るが?」

「……」


 三人は俯き、黙る。忠義か金銭か……理由は分からないが、自分の命よりも重い理由ではなかったようだ。


 ふぅ、と小さく息を吐いて天弧の柄から手を離した。実際、少し手が震えた。もう少しで私は人殺しになるところだった。勿論、命を奪わずして生きていけるとは思っていない。仕事や身の危険で人は人を殺す。いずれ私もそうなるだろう。この1ヶ月間、私はそればかり考えていた。勇者として生きると決めた。それは人や神を殺すことを決意したことと同じだ。命を救うということは、命を奪うことなのだから。


 でも、種族や思想が違うからと言って何でもかんでも殺すような人間にはなりたくないな……。



  □   □   □   □



 私達は魔人組と別れた。甘いと思われるかもしれないが、無駄な殺しはしたくないと思った結果、ベアトリスの魔法による拘束を施してその場を後にした。魔法は魔素が尽きれば解ける時限式になっている。その間、 殺戮人機(キリングドール)に襲われない可能性はゼロではないが、其処はそれ、私達には関係ない。……とか言いつつ、安全な場所に移動させたのだからお人好しと言われても仕方ない。


「私は殺しても良かったのですが」

「……」

「今後、ずっとこうするのですか?」

「……まだその答えは出せないよ。私は女神教徒でもないし、異教徒だからって殺せない」

「でも勇者でしょう?」


 その言葉がグサリと心に突き刺さった。口だけとはまさにこのことだろう。勇者になると決めたと言い、いざ自分の手を汚す場面となったら尻込みする。彼等は私達を殺す気で襲い、私達はそれを殺す理由が出来ていた。


 でもこれだ。相対すれば相手は同じヒトという生き物で、私はそれの息の根を止めることが出来なかった。


「……覚悟というのは一朝一夕で身に付くものではありませんから」

「うん……」


 ギュッとベアトリスが私の手を握る。握られ、初めて自分の手が震えていたことに気付いた。……全く、情けない話だった。


 草も生えない土を踏み締め、歩く足に力が入らずフラフラと視界が揺れる。それがまるで自分の人としての軸がぶれているような気がして、溜息交じりにハッと笑った。


「口だけだって、笑ってくれていいんだよ」

「笑いませんわ。私はレイの事が好きですから」

「……」


 いっそ、笑って欲しかった。そうして自身を惨めで情けない生き物と認識して欲しかった。そうやってベアトリスに甘える事が恥だと分かっていても、自己嫌悪は止まらない。


「……最近、レイの口調が柔らかくなってきているんです。心を許してくれているんだって、そう思うと愛しさが止まりませんわ」

「確かに、ちょっとツンツンし過ぎたかなとは思ってるよ」

「ふふ、初めて会った頃はまるで野犬のようでしたよ? 威嚇しっぱなしで、目はこんなに吊り目で!」


 グイっと形の良い目の端を指で持ち上げてわざとらしく私を睨む。その様に思わず吹き出してしまう。


「そんな顔してないし!」

「いいえ、してましたわ。ガルルル……って唸りながらしてましたもの」

「してないって!」

「でもそんなレイも素敵でしたわ。今の可愛らしく柔らかな眼差しのレイも好きですけれど」


 真正面からの愛の囁きにカッと顔が熱くなるのが分かる。何で此奴はこうも正面から照れずに言えるのだろう……。


「ふふ、どんな顔をしても、汚れても、折れても、それでも立ち上がる貴女が好きですよ」

「む、ぅ……」


 慈愛に満ちた顔で言うベアトリスに自分の顔を見られるのが嫌で口元を手で覆って顔を背けた。


 だって、私の口が勝手ににやけるんだ。こんなの、見せられる訳がなかった。

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此方もよろしくお願いします。
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