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追放一歩手前なのに追放されない。それどころか好かれてる。  作者: 紙風船


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第二十五話 強化月間

 祝福という名の苦痛が終わり、漸く解放された私達は旅の足しにと幾らか貰い、教会を後にした。


「さてと……食いもん買って帰るか」

「レイ……」


 振り向くとベアトリスが半目で私を見ていた。呆れの空気を感じる。


「だって用事はもう終わっただろ? 宿に帰って休みたい」

「そうですけれど……はぁ、もういいですわ。まったく、勇者になると言った傍から貴女は……」


 ぐちぐちと文句を言いながらも私の買い物に付き合ってくれる。そうして色々と買い漁った私達は宿へと戻った。


 適当に食べながらベアトリスと今後の予定を決める。


「アサギの言っていた精霊女王の居る山というのが全く見当もつかないんだが、当てはあるのか?」

「そうですわね……フリュゲルニアを両断する大河、となると一つしかありません」


 名称は『フルスリバーリヴィエール川』だったっけ。長ったらしい名前で逆に覚えてた。


 其処から南部となると確か、樹海が広がっていたはずだ。まさか其処へ行くのか?


「谷底の次は樹海か……」

「まぁその前に色々町を経由する必要があるので、すぐという訳ではありませんわ」


 この国を南下してランブルセン共和国へ入り、神気汚染が酷い人形ヶ丘を迂回してアレクシア山脈を越える。そうすればその先はフリュゲルニア帝国だ。


「帝国に入ったら南東に進みます。そうするとすぐに大河に着きますわ」

「うーん……それってどれくらい掛かるんだ?」

「2ヶ月くらいですわね」

「……」


 げんなりする数字だった。


「それにレイのスキルも解放しなければいけませんし、日数はもっと掛かりますわね……」


 値踏みするように私を上から下まで眺めてペロリと舌なめずりするベアトリス。此奴は山賊の頭領か?


「じゃあ私が寝てる間の買い出しは全部担当してくれよ」

「承りましたわ。役得ですわ!」


 欲望に忠実過ぎるが……まぁ、私は楽出来るから良いと思うことにした。



  □   □   □   □



 暫く滞在することになった宿はこの辺りでも中々高級な宿だったらしく、とても過ごしやすかった。清潔だし、飯も旨い。ただ、やはり値段が高かった。


「ま、教会からお金出てるし関係ないが」

「アサギ様にお金返さなきゃいけませんね」


 金銭のやり取りは発生しているが、結局タダみたいなものだったから、泊まらせてもらった分は返しておかないと気持ちが悪かった。


 滞在している間、旅の為の物資をベアトリスが買い出しに行き、私はスキル解放の為に意識を失っていた。勿論、週2の制約があるから常に寝ているわけではない。動ける時は町の外に出てスキルの確認や、ベアトリスの買い物に付き合ったり、後はやはりでかい国だからと観光もした。


 歩き回って見る分には飽きない場所だ。それなりに歴史があるから、どれを取っても過去がついてまわる。それはただの建物だったり、或いは通りだったり。そんな所にまで歴史を感じさせてくる国は、普段外に出ない私には新鮮で、まぁ、退屈はしなかった。


 町の外は雪景色だ。だけどこれは季節性のものではなく、大地の下を流れる龍脈の属性が氷だからだそうだ。お陰様で町の外も中も寒くてしょうがない。季節外れ丸出しの厚着は違和感しかないが、暖かいことには変わりない。最近はそれにも段々慣れてきつつある。


 ザクザクと雪を踏みながら周囲を確認する。……うん、人は居ない。魔物も居ない。


「《立体起動》!」


 口に出す必要はないだろうが、気持ちの問題だ。何もない空間を踏んで行動出来るスキル。目に見えない部分を踏む感覚がいまいち掴めなく、ちょっとしたフェイント程度にしか思ってなかったスキルだが、あのアサギの動きを見てから、このスキルに底知れない可能性を感じていた。


「《神速移動》!」


 それがこのスキルだ。人間には実現不可能な速度で移動するスキル。出来るのは直線移動だけだが、《立体起動》を使うことで方向転換が可能になる。だけど、超高速で動きながらそれをするのは難しい。


 其処で手に入れた次のスキルが《並列思考》だ。これは自分の考えていることを分割し、平行して行えるスキルだ。簡単に言えば延々と足し算をしながら引き算を行える感じだ。


 しかしそれだけでは足りなかった。思考に行動が追い付かないのが原因で、その為に取得したスキルが《思考加速》だった。


 お陰様であのアサギのような立体起動が可能にはなったが、その代償は酷い頭痛だった。あまりにも酷い頭痛は四肢が痺れるくらいで、どう考えても体に良くない使い方だった。


「はぁ……はぁ……」


 垂れてきた鼻血を手の甲で拭い、地面に腰を下ろした。


「彼奴は本当に何者なんだろうな……」


 ちょっと奴のスキルを真似たらこれだ。延々と行使し続けるなんてとんでもない……それも涼しい顔で、だ。


「本当に人間か……?」


 疑問は尽きない。《神速移動》と《立体起動》の並列行使は土壇場で使うことにしよう。これを主力にするのは無理だ。



 ということで私は新たに魔法を取得することにした。得た魔法は《無魔法【天】》と《精霊魔法【天】》だ。


 《無魔法【天】》は無属性魔法という特殊な魔法で、基本的に誰でも使える魔法だ。例えば生活魔法。ちょっとした汚れを落とす魔法や、防犯の為の簡単なものがある。


 でも【天】まで極めると誰でも使える魔法は牙を剥くことになる。


 無属性とは誰でも持っている属性だ。生まれた時から体内にある純粋は魔力。生きる為に必要な力だ。それを極めるということはつまり、生き物の魔力を操ることになる。


「《魔素霧散(マジックエラー)》……相手の魔素を散らす魔法、か」


 相手の魔法発動に合わせて使えば究極のカウンターになりえる技だ。


 勿論、相手が同じことをしてくることも予想しないといけない。その為には自身の魔素以外の供給源を用意しなければならない。其処で選んだのが《精霊魔法【天】》である。


 龍脈から生まれた存在、精霊。彼等の力を借りる魔法が精霊魔法……だそうだ。環境に依存する魔法だが、空気中の魔素を集めるよりも高濃度で高威力の魔法を使うことが出来る。


 ただ、精霊は魔素を使い切ることで龍脈へと還っていくらしい。それを思うとこれは切り札だな……ちょっと可哀想だし……。


 他にも《超鑑定》とか《自動回避》、《自動反撃》とか、あとは《透過の神眼》色々仕込んできた。これはまぁ、追々だ。言葉通りの効果しかないので説明のしようがないというのもあるが……。


「レイ、此処に居たのですか」


 風に揺れる黒髪を抑えながらベアトリスがやってきた。私はもう一度鼻血を拭い、天狐を鞘に納めて振り返る。


「遅かったな」

「レイの分も代わりに教会に出立届を出してましたので」


 言葉が刺々しい。まぁ面倒ごとを押し付けたのは私だ。なので肩を竦めてやり過ごす。


「まったく……じゃあ行きましょうか」

「あぁ」


 約1ヶ月に及ぶ自己強化を施した私は漸くこの国を出ることになった。元々はすぐ出るつもりだったが教会のあれこれや、アストレイアに負けたこと、アサギの力の一端を見たことで考える時間が出来た。まぁ、ちょうど良かったんだ。降って湧いたような時間だが、無駄に出来る程私は怠惰ではなかった。



  ◇   ◇   ◇   ◇



名前:レイヴン=スフィアフィールド

種族:人間

職業:勇者

称号:勇者

LV:16

HP:2689/2689

MP:2148/2148

STR:618 VIT:578

AGI:563 DEX:574

INT:582  LUK:94

所持スキル:女神の寵愛(-),破魔の剣(-),剣術【天】,弓術【天】,拳術【天】,状態異常無効(-),環境変化無効,飢餓無効(-),限界突破(-),並列思考,思考加速,神速移動,無詠唱,未来予測(-),運命収束(-),障壁展開,立体機動,千里の神眼(-),透過の神眼,浄化の神眼(-),読解の神眼(-),超鑑定,自動回避,自動反撃,身体操作,寵愛の鍵(0)

所持魔法:光魔法【天】,雷魔法【天】,次元魔法【天】,無魔法【天】,精霊魔法【天】

装備一覧:頭-蒼銀鎖(アニマミスリルチェーン)のピアス

     体-天雷馬(ブリッツホース)のレザージャケット

     腕-雷結晶のブレスレット

       -蒼銀鎖のブレスレット

     脚-天雷馬(ブリッツホース)のレザーパンツ

     足-魔甲牛(ドレッドブル)のブーツ

     武器-白刀(ハクトウ)天狐(テンコ)

        -首切丸(クビキリマル)

        -足切丸(アシキリマル)

     装飾-蒼銀(アニマミスリル)女神鍵鎖(キーチェーン)

備考:スキル解除権限(1)



  ◇   ◇   ◇   ◇



 町で集めた装備と新たに得たスキルで武装した私とベアトリスは聖法国を南に進む。その先にあるのはランブルセン共和国。特に用事はないが……あの人形戦争が起こった地でもある。


 腰の刀をギュッと握る。言い表せない嫌な予感がする。また面倒ごとに巻き込まれるような、そんな嫌な予感だった。

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此方もよろしくお願いします。
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