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追放一歩手前なのに追放されない。それどころか好かれてる。  作者: 紙風船


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第十八話 大森林

お久しぶりの更新です。

 鬱蒼として、虫が飛び交い、魔物が飛び出してくるような深い森……を予想していた私は森の手前までやってきて驚いた。


「森っていうとほら、鬱蒼としていてよく分からない鳴き声が四方八方から聞こえるやべー場所を想像していたんだが……」


 森の手前にはちょっとした集落が出来ていた。


「ハイデルンからそう離れた場所でもないのにまた町か?」

「此処はこの森を管理する人達が住んでるのですよ」

「森の管理?」

「言ってませんでしたか? 此処から先は『ナキュレディア大森林』という場所で、王国と聖法国が共同で管理している大森林ですわ」

「言ってないな。初耳だ」


 王都グランベルトから離れたこの森を共同管理か。王都にも女神教会の大きな教会があるから仲が良いのだろうか。戦争には……ならないよな。


「この森にしか生息していない動植物を管理する為……というのが理由の1つですわね」

「1つ? 複数あるのか」

「えぇ。利権と危険と欲が絡んだ大きな理由がありますわ」


 ベアトリスの言い方に首を傾げる。


「そんなドロドロとした理由? 一体この森に何があるんだ?」


 ジッと森を見つめるベアトリスの口が小さく動く。


「迷宮ですわ」

「迷宮?」

「えぇ。この大森林を断つ国境でもある峡谷。その底には『《絶対邪教(アニュス・デイ)》 ナキュレディア大迷宮』が存在しています」


 ナキュレディア大迷宮。そもそも迷宮とは魔力の淀みだ。其処に魔物が発生し、やがて巣となり、巣窟となる。そうして濃い魔力の淀みは地形すら変えていく。変質していく。不思議なことに壁や罠が生成される。その理由は魔力の流れとか、神の意志だとか色々な説があるそうだ。


「……つまり、そうした迷宮には魔物が自然発生するのです。魔物は驚異ですが、資源にもなります。定期的に狩り、素材を市場に流したり、或いは加工したり。迷宮は危険なものですが、利権が絡むのです」

「なるほどな」


 先の説明も全部ベアトリスが教えてくれたものだ。私はそういうのは全然知らないからな。


「それと《絶対邪教(アニュス・デイ)》と言うのは?」

「大迷宮クラスに与えられる二つ名のようなものでしょうか。元々、この谷底には魔神教徒が建てた秘密神殿があったのです。それを飲み込んだ大迷宮……それがナキュレディア大迷宮ですわ」

「二つ名か……」


 私にも二つ名とかあったらな……絶対に格好良いのに。


「しかも、この大迷宮は場所が悪かったのです。谷底で、しかも国境。おまけに魔神教神殿。お互いに良好な関係を築いている王国と聖法国も、これには困ったらしく、当時は静かな争いがあったそうです」

「表向きは仲の良い国同士だからな」

「えぇ。そうしているうちにスタンピードが発生しました」


 魔物の大量発生。スタンピードは規模に拠っては国すら飲み込むと言われている。谷底から溢れんばかりの魔物か……考えただけでゾッとする。


「これを放置する訳にはいかないと、王国と聖法国は共同でスタンピードの鎮圧を行いました。結果的に国同士の結びつきは強くなり、迷宮管理も上手く纏まったそうです」

「ふむ……普通に暮らしていると分からない経緯だな」

「国に仕える仕事や冒険者のような魔物相手の仕事をしていないと中々情報が回ってきませんからね」


 服屋の店員は魔物とは戦わないからな。噂だって何でもかんでも流れてくるわけではない。場所や人で取捨選択が行われる。私は魔物関係の話には疎い。勇者なのにな。


「さて、ナキュレディアに関してはこのくらいにして、早く手続きを済ませましょうか」

「あぁ。色々教えてくれてありがとうな。こういうのには疎くて……」

「仕方ありませんわ。そういう場所で生きていたのですから」


 そう言われてしまうとな……。うん、これから自分で学んでいく必要がありそうだ。迷宮だけではなく、広い世界の事をもっと理解していく必要がある。望んだ訳ではないが今は勇者なのだから。



  □   □   □   □



 ハイデルンへ入る時よりはマシな手続きを行い、森へと入った。煉瓦路とは先程の施設でお別れだ。此処からは土と葉っぱの上を歩くことになる。お気に入りの靴が汚れるのは最悪の一言に尽きるが、野外活動用の靴に履き替えたので歩き辛いということはないはずだ。こういう靴だと汚れても平気になるから不思議だな。


「しかし結構整備されているな」

「騎士達が通る必要がありますからね。ある程度は通れるようにしておかないと、いざという時は危険ですのよ」


 確かにそうだ。見れば騎士が隊列を組んで歩ける程度には切り開かれている。これなら件の峡谷まではすぐに着きそうだ。




 しかし此処は大森林。そう甘くはなく、その日は踏み固められた道を外れての野営となった。天幕を組み立てるのもなれたもので、すぐに準備を終えて先日取得した《障壁展開》を使うことにした。


「よし……《障壁展開》」


 スキルを行使する感覚は一晩で身に付いている。行使するのに何の問題もなく、透明な壁が私を中心に広がっていく。私が拒む物だけを通さない障壁だ。天幕も焚き火も、勿論ベアトリスも弾かれることはない。


「便利ですわね」

「しかし何時までも使える訳ではない。スキルとは言え、維持するのに多少の魔力を消費する」

「そういうものですか。まぁ、何事も良いことばかりではないということですわね」


 突き詰めればこの《障壁展開》というスキルも魔法由来ということなのだろう。そう考えると使い所というのも分かってくる。


「便利だとは思ったが、いざ使ってみると不便な部分もあるな。一晩中展開するには魔力が足りない」

「やはり暫くは交代で見張るしかないですわね」

「起きてる間は使って慣らすよ」


 ということで2人で起きてる時は使わず、私1人で見張る時に使って慣らすことにした。ベアトリス1人の時は障壁無しで負担を掛けてしまうので、其処はまた別の場面で手助け出来たらなと思う。



  □   □   □   □



 翌朝、交代で寝たベアトリスを起こして朝食を食べる。


「……今度から見張りは私が後半を担当しますわ」


 差し出された串焼きの魚と焼き麺の入った皿を持ったベアトリスが嫌そうな顔で言う。そんなに嫌か……屋台飯。旨いのにな。


 何だかんだ言いながらも腹が減っていたのか、残さず食べたベアトリス。私も全部平らげ、空になった皿を軽く拭いて鞄にしまう。川とかあったら一気に洗うしかないな。


 それからは魔物と時々遭遇しながら道を進み、大森林に入って2日目の夜を迎えた。


 3日目も代わり映えしない木々を横目にひたすら歩いた。


 そして4日目。私達は国境であり大迷宮の存在する峡谷、『ナキュレディア峡谷』へとやってきた。

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