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追放一歩手前なのに追放されない。それどころか好かれてる。  作者: 紙風船


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第十話 初めての魔法

 鞄の中身をベッドの上に広げる。旅に必要だと感じた道具が少し。乾燥させた肉が少し。教会から渡された路銀の入った革袋。あとは服だ。


「というか荷物の8割が服ですのね……」

「服は大事だからな」


 最近はずっと革のジャケットとパンツを身に着けているが、これは魔物素材の良い物だ。王都を出るまではステータスの低かった私の身を守る防具となっていた。冒険者が革の鎧を身に着けるなら、それが服でも良いんじゃないかと考えた結果だ。

 勿論、本物の装備には敵わないが、素材だけで言えばかなり良い物だ。王都近郊の山。その奥に棲む『スパイダーブル』という魔物の革だ。


 これがまた変わった魔物で、名前の通り、蜘蛛と牛を混ぜたような姿をしている。蜘蛛の特性もあるので、糸で巣を作る。その蜘蛛の糸もまた服の素材になる。魔物本体の革も素材になるし、肉も食える。


 文字通り、素材の塊のような奴だ。だからそれを狙って冒険者達が谷へ向かうが、この魔物は恐ろしく強い。谷を全て巣にして、崖を利用したトリッキーな動きで翻弄して、凄まじい力で人間を引き裂く。


 そんなA級の魔物だ。運良く市場に出回った素材を手に入れ、作ったのがこの服だ。だからその辺の革鎧よりも頑丈で、それでいてしなやかだ。中に来ている白いシャツは高い金を払って買ったスパイダーブルの糸で出来たシャツだ。


 これは教会から支給された金で買った。ゴブリンと戦う為に身に着ける必要があったからだ。だいぶ自分の趣味も入っているが、身に着けられる限界があった当時は他に選択肢がなかったというのもある。これでも戦闘用の服なのだ。その事はちゃんと教会にも話したし、許可ももらったから悪いことはしてない。


 まぁお陰様で今はある程度の鎧なら身に着けられるが、この着慣れた服を脱ぐのは難しい。


「という訳で服は大事だ。分かったか?」

「えぇ、それはもう……たっぷりと理解出来ましたわ……」

「……?」


 変な奴だ。何でぐったりしてるんだ?


「それよりも早く収納しては?」

「そうだな。では……ちょっとドキドキするな?」

「いいからさっさと仕舞いなさい」

「チッ……ちょっとは魔法を使えるようになった感動を分かち合ってくれても罰は当たらないだろう?」


 これまで魔法とは縁遠い暮らしをしてたんだ・お貴族様にはこの気持ちは分からないのかねぇ?


 まぁいいや。さっさと片付けてしまおう。


「『空間収納ディジョン・ストレージ』」


 空間収納の起動文を唱えるとベッドの上に散らかった荷物が掻き消えた。頭の中でそれらが自分の魔法によって収納されたことが理解出来る。荷物がどういう状態でどうやって取り出せばいいかも理解出来た。


「本当に便利だな」

「それが魔法の恩恵ですわ」

「これは利用しない手はないな」


 重かった荷物が一瞬でこれだ。いやぁ、素晴らしいな。ちょっと浮かれてしまう。


 荷物を片付けた後はベアトリスと一緒に宿の食堂で朝食を食べ、再び町の散策に出た。やはり混沌とした街並みは興味を惹かれる物で溢れかえっていた。

 その中でも私が気になったのは武器だった。


「教会から支給された物があるのでは?」

「忘れたのか? その時の私はウサギのようなステータスだったんだぞ。剣なんかぶら下げてみろ。よろけて倒れてしまう。軽くて小さな短剣しか持ってないんだ」

「本当に一般市民のような数値でしたものね」

「やかましい。でも今は勇者と名乗っても問題ない数値になった。今更王都に戻るのも面倒だし、この町なら何か素敵な武器があると思うんだ」


 それでもまぁ、良い剣ではあるが、やはり短いというのは心許ない。私としては剣術【天】を取得して立派に戦いたい。一太刀でゴブリンを仕留める格好良い姿をベアトリスに見せてやりたい。


「なら武器屋か……掘り出し物を狙うなら露店という手段もありますわね」

「ふむ……じゃあまずはオーソドックスな武器屋を訪ねてみるとするか」

「了解ですわ」


 ということで今日は町の武器屋に行くことになった。身支度を軽く済ませて宿を出る。


 今日の朝食は先日の夕霧亭で食べることにした。ベアトリスが甚く気に入ったらしい。まぁ彼処は私も好きだ。雰囲気が良い。


「では行きますわよ」

「あぁ、行くか」


 これもまたベアトリスが気に入ってしまったのだが、ずっと私の隣で腕を絡めてくる。ちょっとした気紛れだったのだが、歩き難くて仕方ない。やらなければよかったと後悔しているところだ。だがベアトリスは離してくれない。ずっと絡めたまま、時々嬉しそうに微笑むのだ。


 それがどうにも嫌いになれず、溜息を吐きながら私はまた腕を差し出すのだった。



  □   □   □   □



 夕霧亭で素敵な朝食を食べ終えた私達は再び町に繰り出す。目的地は武器屋。だが場所が分からない。何か看板のような物はないだろうか……。


「レイ、彼処に」

「ん?」


 ベアトリスが指差した場所には少し大きくて目立つ建物があった。掲げられた看板には『ネプタル商工会』と書かれていた。


「商工会か。なら中で聞けば少しは分かるかもしれないな」

「早速行ってみましょう」


 彼処ならこの町の店に詳しい人間が居るはずだ。ベアトリスと連れ立って開けっ放しの扉から中へと入る。

 中は朝だというのに賑やかだ。騒がしいともいうか。この町の賑やかさがこのフロアに凝縮された感じがする。右に左にと行きかう人。大きな荷物の受け取りや、何かの書類を片手に指示を飛ばす人。


 そんな人達の合間を縫って、設置されたカウンターへと向かう。


「おはようございます。何か御用でしょうか?」

「おはよう。武器屋を探してるんだが、教えてはもらえないだろうか?」


 受付の場所に座っている少し派手な化粧の女性に店の位置を訪ねる。すると机の引き出しを開けて大きな筒を取り出す。何事かと思いながら見ていると、女性はそれを机の上に広げた。なるほど、それはネプタルの地図だった。


「当商工会の位置が此処になります。それで武器屋が此処から道を真っ直ぐに進み、交差路を左に。其処から二つ目の道を入ってもらうと鍛冶工房街になります。武器屋は多数ございますので、お客様のお眼鏡に適う物を選ばれるとよいでしょう」

「ありがとう、凄く助かった」


 思った以上に詳しく教えてくれて大助かりだ。鍛冶の音は聞こえても反響してしまって正確な位置なんて分からなかったからな。こうして地図を見せてもらって、この町が如何に入り組んでいるかもよく分かった。本当に混沌とした町だ。


「ではネプタルを楽しんでください」

「ふふ、もう楽しんでる」

「あら、それは嬉しいですわ」


 お世辞と受け取ったのか、口元を隠しながら上品に笑う。こう見えてこの町は結構楽しんでいるのだがな……ベアトリスの悪戯がなければ心の底から楽しんでいると思うが。


「じゃあ早速行ってみるよ。本当にありがとう」

「いえ、また何かありましたら、どうぞネプタル商工会へ」


 別れの挨拶に片手を上げると深々と頭を下げられる。うん、来てよかった。鍛冶街の位置も分かったし、迷わずに済みそうだ。




「……で? お前は何を怒ってるんだ?」

「はい? 何も怒ってませんが」

「めっちゃ腕痛いんだけど。あの受付の人と話し始めてからずっと絞めてるだろ」

「あら」


 自分でも気付いていなかったのか、本当に不思議そうな顔をしながら腕を離すベアトリス。


「ふふ、なんだ? 私が女性と話すと怒るのか?」

「べ、別にそういうのではありませんわ。何も気にしていませんよ」

「……それ、気にしてる人間が言うやつだけど」

「くっ……」


 ちょっとからかってやるつもりで言ってみたが、結構図星だったらしい。頬を赤く染めて恥ずかしそうに俯いているベアトリス。珍しいものを見たかもしれないな。


「ほら、機嫌直せよ。今日一日がつまらなくなるだろ」

「ふん……これに懲りたら迂闊に私を放置しないでくださいな」


 勇者のステータスのお陰ですぐに痛みが引いた腕を差し出すとすぐに絡めてくる。何だかんだ言っても年下の女の子だ。大人である私がしっかりしてやらないとな……。


 そんなことを思いながら商工会を出て私達は鍛冶街へと向かった。

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此方もよろしくお願いします。
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