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第十七話

 光を反射して金色が時々黒く見える、そんな不思議な金粉を私のヒヨコが纏っている。

 私はアシェルのベッドの上にヒヨコを置いて、じっとその様子を見ていた。


 ヒヨコは気持ち良さそうにうとうと瞼を落とす。


「お眠さんなの?」


 頬をくすぐりながら声を掛けると、ヒヨコはうっとりと羽をピクピクさせた。


 アシェルの部屋に閉じ込められてから、早一時間。キツイ。

 ベッドに落ちてから、慌てて扉に張り付いてドアノブを回したがびくともしない。ドアノブすら回らない状態。

 無理やり引っ張ったりしていたら壊れてしまった。ちなみに取れたドアノブはそっと元に戻しておいた。


 仕方がないのでヒヨコを外に出して遊んでいたのだが、このヒヨコはのんびりさんなのかすぐに目を閉じてしまう。

 全ての反応が薄いし、撫でさせてくれるけど死んだように動かなくて逆に怖い。


 ヒヨコはそのままに、私はアシェルの部屋を散策することにした。私と部屋の間取りはほとんど変わらないが、やはり男の子の部屋だ。

 例の本くらいあるだろう。


 見つけたら弄ってやろうと探し回ったが見つからなかった。魔法で隠しているに違いない。


 部屋を手当たり次第に散らかしていると(ちょっとした意趣返し)ヒヨコがぴいぴい鳴き出した。

 なんだなんだとベッドに戻ればヒヨコは私の手にすり寄ってきてそのまま眠った。


 その仕草にズキュンッと胸を撃ち抜かれ、ずっとヒヨコを観察している。

 このキラキラは恐らくだけど、アシェルの魔力。匂いを嗅いだらアシェルの匂いがした___気がする。


「お前の名前を決めなきゃね」


 ぽつりと独り言のつもりで話しかければヒヨコはピクリと羽を揺らして目を開いた。きゅるんっとした可愛らしい黒目と視線が交わる。


「気になる? んー、何にしようかなぁ」


 ヒヨコのヒーちゃん。ありきたりかな。

 じゃあピーちゃんとか? いや、そっちの方がよくある名前だ。


「種類が……なんだっけ? ファ……ファル……チーなんとか。あー! 思い出せない!」


 がーっと騒ぐとヒヨコがことりと首を傾げる。やっぱりヒヨコのままはまずいよなぁ。


「緑色になるんだよね? 私の魔力で。うーん。みどり、緑……あ、翠は?」


 同じ"みどり"だけどこっちの方が格好よくていい。この世界に漢字とかないけど、まあいっか。


「ね、どう? 翠。て言うか君はオスなの? メスなの?」


 ヒヨコが反応してくれたのが嬉しくて話しかけるが、ヒヨコ__翠は不思議そうに瞬きしただけだった。


「まぁいいや。これから翠ね。翠ちゃーん」


 名前を呼びながら嘴を指でつつくとぴぃと了承したように鳴く。


「ふふふ。かぁいいなぁ……」

「ただいま。ティナ」


 耳に唐突のイケメンボイスが聞こえて思わず仰け反った。反動でベッドの反対側に転げ落ちる。手元を見れば翠はまたすやすや眠っていた。

 潰さなくてよかった……。


「あはは。ちょっと意地悪しちゃった。ティナが僕以外に可愛いとか言うから……。可愛いって言われるの凄く嫌いなのに不思議だね」

「僕以外って……。魔獣相手に……」


 呆れてアシェルを見ると瞳はすっかり金色に戻っていた。ほっと胸を撫で下ろす。

 アシェルはぐるりと散らかった部屋を見回して困ったように私を見た。


「イイコにしててって言ったのに」


 言われてない!

 そう言い返そうと思ったが、今私は一週間外に出られるか、否かの運命を背負っている。


「ところでティナ。約束破ったから予定通り一週間外出禁止だからね」

「ま、ちょっと待った!」


 翠を篭に戻して、思わずアシェルの足にしがみついて懇願する。


「ごめん、もうしない! 絶対しないから、今回は見逃して! それに、ネージュもいたのよ!?」

「うん。知ってる」

「ならいいでしょう? 迷子になったわけじゃないし、ネージュも一緒だったし!」

「約束は、約束。違う?」


 にっこりと笑ったアシェルに私は顔色を悪くして首を振った。


「一週間なんて死ぬ。何をして生きていればいいの……」

「なら、僕の部屋にいる? 僕も色々都合がいいし、帰ったらティナがいるって思うと最高」


 アシェルが頬を紅潮させて嬉しそうに微笑んだ。無邪気な、子供の頃そのままの表情だった。

 なんとなく、ドキリとしてしまう。


「で、でもそれじゃ寝る場所がないよ」

「昔みたいに添い寝すればいいじゃない」


 昔みたいに。


「……その、彼女がいるなら……」


 そこまで言って己の失言に気が付いた。そう言えば、アシェルは赤目の美少女が彼女ではないと言っていた。本当かどうかは知らないが、アシェルが否定していたことを蒸し返すような言い方をするべきではない。


 あちゃーと内心頭を抱えた。

 おずおずと目の前に立っているアシェルを見上げると、悲しそうな金色と目が合う。

 え? なんでアシェルがそんな顔するの?


「……違う。違うんだ、ティナ。フレシア様は彼女なんかじゃない。僕は……━━━」


 何かを言いかけて、すぐに口を閉じる。言いたいことがあるけれど言えない、そんな感じだった。

 アシェルの足にしがみついていた腕を放して立つと、だいぶ目線が近くなった。アシェルの表情が不安に揺れている。


「……アシェル? 言いにくいことでもあるの?」

「……」


 金色の星を散りばめたような淡い瞳が私をじっと見つめて、決心したように伏せられた。

 わけが分からず首を傾げていると、アシェルの姿が目の前から消える。


「……え!?」


 気がつけばアシェルは私の前に跪いていた。

 アシェルは私の左手を取り、浅く息を吐く。生暖かい吐息が当たって手が震えた。


「……ティナ」

「は、はい!」


 切羽詰まったように名前を呼ばれて私も体を堅くする。私の手がぎゅっと握られた。


 思いきったようにアシェルが顔を上げた。

 金色の瞳は窓から漏れる光を反射して万華鏡のように美しく揺らめく。


「好き。ティナが好き。ずっと、昔から、僕の隣に居てくれたティナが好きだ。僕と結婚してください」


 アシェルの言葉が信じられなくて、自分の耳を疑った。


「す……き?」


 そう言うのが精一杯で、アシェルの視線から逃れるように目を泳がせた。手を握る力が強くなる。


「ごめん。誤解するようなことをしちゃって。フレシア様は宰相様の娘でそんな関係じゃない。本当だ。昔からずっとティナが好きで、結婚の承諾は領主様に貰ってる。あとはアルメリアのことだけど……」

「ちょっと待って!」


 捲し立てるように話し出すアシェルを止めて頭をフル回転させる。


 フレシア様は……まぁいいや。なんかもう考える余裕がない。父さんに結婚の承諾を貰ってるだって? 嘘でしょう? いつ? え、まって。結婚ってまず親の承諾がいるのかな? 私が間違ってる?


 黙っていた私を不安そうにアシェルが見つめた。


「僕のこと、男として見たことない?」

「それはさすがにない」


 アシェルが不安そうに問いかけるが、私がそれをすっぱりと否定する。


 確かに小さい頃は可愛い程度だったけど、大きくなったアシェルを見て男だと感じられないほど私も枯れていない。

 どれだけ一緒に過ごしても、彼は私の推しなのだ。アシェルが私を知る前から、私は彼を知っているし大好きだった。大好きな推しが成長して、男らしくなっていくのを意識しないわけがない。


 そう思ってキッパリ告げるとアシェルは嬉しそうに破顏した。




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