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僕と俺の極限戦記  作者: あぎょう
Record1:僕と俺の邂逅記
15/17

ⅩⅤ 覚醒

ⅩⅤ


「いまさら、俺から逃げられっと思ってんのかよ!? ああっ!?」


 カナタは鬼属のような形相で、聞いたことのないような怒声を上げて僕を追ってくる。

 幸い、カナタ自身の身体能力はそれほど高くない。追いつかれることはないだろうけど、それでも怖い。

 いや……追いつかれなくても、あいつにはあの右腕がある……!


「待ちやがれ!」


 と、カナタが右腕を振りかぶって下ろす。同時に特大の火弾が生まれて、階段を駆け上る僕に向かってきた。


「うわああ!!」


 間一髪回避。髪がチリリと焼ける。

 次の瞬間。僕の脇を通り過ぎた火弾は、廊下の壁に穴を開けた。

 穴の淵はドロドロに溶けていて、とんでもない高温だったことがわかる。

 赤の原術。《陽弾》……だっけかな。初歩級の術なのに、とんでもない破壊力だった。

 っと……感心している場合じゃない。

 僕は、掌を広げてカナタに向ける。

 反撃だ。逃げてるだけじゃ倒せない!


「くらえ!《黒玉》!」


 願うように宣言すると、掌の中央にわずかな温かみが生まれ、衝撃と共に見えない何かが打ち出される。

 すると、数秒の時間差があって、カナタの右肩が何かに押されたようにバランスを崩した。

 カナタはやや顔をゆがめて右肩を抑える。それでも追う足を止めないということは、それほどダメージにはなっていないようだ。


「……なるほど。《色玉》か。それならおまえも使えるよな」


 カナタはさほど感心した様子もなくつぶやく。

 《色玉》。

 『色』と名がついているものの、生まれ出るモノに色はない。ただの力の塊のようなものだ。。

 それも、あたったとしても、僕程度の力量では女の子に強く叩かれた程度のモノだ。

 で、これがなんなのかというと、一言でいうと、《間素術》のできそこないだ。

 《間素術》とは、世界を構成する《間素》を操り、形にする術。

 それらは戦闘手段に応じて大別される。スティックを使って、単純に周囲の間素を攻撃手段として使う《魔術》が最もオーソドックスだけど、その他にも、肉体に間素を纏わせて戦う《体術》とか、牙・爪・ブレス攻撃など、獣属に多く見られる原始的な手段を用いた《原術》など、様々ある。

 それらの多くに共通するのは、『形』にする前段階として、周囲の間素をひとつの箇所にまとめあげる必要があるということだ。

 このまとめあげたモノ。その力の塊を、世間一般的には《色玉》と呼ばれている。つまり、《間素術》にする基のようなものと思えばいい。

 で、ぶっちゃけコレ、戦闘に使えるようなものではない。

 《間素術》を習う者が最初に覚えるモノであって、五歳児でも覚えられる。それにどんな熟練者でも、《色玉》をぶつけたところで、せいぜい瓦が一枚割れる程度だ。

 良い所はせいぜい、間素をまとめて放つだけであるため、タイムロスが少ないということと、透明で見えないということくらいだ。


「ふざけんじゃねぇ!そんなんで俺を倒せるとでも思ってんのかよ!!」


 カナタは激昂して、さらに大きな《陽弾》をぶつけてくる。

 廊下の奥の角を曲がって回避。

 もちろん、僕もこんなモノで倒せるなんて微塵も思っちゃいない。

 問題は……『二発目』だ。


<分かってるな? イメージしろよ>


 オレの言葉に従うわけじゃないけど、逃げながら集中を高める。

 イメージ……イメージ……

 ………掌が、温かくなる。


「いいかげんくたばれ!!」


 後を追うカナタが、三発目の《陽弾》をぶつけてきた。

 僕はふりむきざま、二発目の《色玉》をそれに対して当てる。

 相殺はできないものの、衝撃によって《陽弾》は目標をそれて、僕の足元十センチのところに当たった。


<ヒュ~! あっぶねぇなぁ! 死ぬとこだぜ! ケケケ!>


 嬉しそうなオレの声の調子に突っ込むことなく、僕は呆然と自分の掌を見つめる。

 ……できた。

 まさか……本当にそんなことが……!?


<おいおいボケボケすんな! 次がくるぞ!>


 オレの声にハッと気づき、カナタが再び【火獣】の腕を振りかぶって襲ってくることに気付く。

 慌てて、再び逃げ出す僕。

 廊下の角を曲がった所で、背中を掠るように《陽弾》が通過した。


<ケケケ! 俺の言った通りだろう!? その調子で『全部』試してみろ!>


 言われるまでもなく、僕は三発目の《色玉》をすでに掌に作り始めていた。

 相変わらず威力はさほどもなく、とても太刀打ちできないけど……

 どこまで作れるか……試してみたい。

 一種の高揚感が、生まれ始めていた。



 それからは、僕とカナタのおいかけっこがしばらく続いた。

 カナタが《陽弾》を打ち出して、僕がそれを回避、または《色玉》をぶつけて照準をずらす。

 隙ができたら《色玉》をカナタにぶつけてみる。

 カナタは未だ【火獣】の力に不慣れなようで、基本的な《間素術》しか使ってこないのが幸いだ。

 それもそうだ。巨大な獣の腕を、いきなり自分の腕のように使いこなすのは、無理があるだろう。

 しかし、忘れてはならないことがある。

 カナタは生粋の《闇の魔術使い》であるということを。


「……? あれ? どこ行った……?」


 突然だった。

 怒涛のような攻撃が止み、そしてカナタの姿も見えなくなったのだ。

 もしかして、あきらめて帰ったのかと暢気な思考に思わず流されていた時だった。


<何してやがるボク! 来てるぞ!!>

「え!? ええ!?」


 焦り叫ぶオレ。

 来てるって……何が……!?


<逃げろ! そこの部屋にとびこめ!!>


 珍しく危機感あるオレの声にただならぬ状況を察し、とにかく言われるがまま、近くに見えている部屋――客室へ飛び込もうとした矢先だった。

 鋭い痛みが、僕の脇腹に奔る。


「いっ……!?」


 痛みに呻き、見ると、

 僕の脇腹にナイフを突き立てるカナタが、そこに居た。

 馬鹿な………いつのまに……!?


「……そうか。『オレ』が邪魔だったか……」


 と、悔し気に言うカナタ。

 僕はカナタをがむしゃらに突き飛ばし、部屋へと逃げる。

 ナイフが外れ、血がドバドバと流れ出る。

 急所じゃないけど……尋常じゃない位痛い。

 苦痛に顔をゆがめ、膝をつく僕の前に、カナタは悠然と姿を現した。

 その腕は元の人間のものに戻っていて、その手にはスティックが握られている。


「重黒ノ魔術。《透幻陰》……カモフラージュ魔術。《転幻陰》の応用だ」


 冷たい視線を、投げかける。


「自分の背後の風景を相手に見せることで、自分の姿を消して見せることができる。極めて高度な魔術だけに、対象は一人に限られるけどな。うっかりしていた。おまえは『二人』居たんだったな」


 ……そんなことまでできるのか……

 そこで


<……もしかして、クロッドのヤローを殺したのも、その術か……?>


 オレが疑問を投げかける。


「……まさか……?」

「気づいたか? そうだ。クロッドのヤツもこの術の犠牲者だ。扉をノックして姿を現したヤツを突き飛ばして、背中から一突き。意外と簡単だったよ」


 ……そういうことか。

 クロッドさん程の熟練者が殺される訳だ。突然現れる透明殺人鬼に対処できる人間なんているものか。 


「そして……急所は外したが、おまえも犠牲者の一人になりそうだな。その出血。放っておくと死ぬぞ」


 カナタの言う通り……床に血だまりができていて、もうすでに頭がクラクラしてきている。

 逃げることも、もうできそうにない。

 だから僕は、

 立ち上がった。


「……おい。いいかげんにしろよ」


 カナタは、再び右腕を獣の腕へと変える。

 獣の腕の掌から、大きな火の弾が作り出される。

 メラメラと燃えて、渦まいて、空気が歪む。


「もうわかってんだろ……おまえは俺に勝てねぇよ。無駄なあがきは見苦しいぜ」


 ……ああそうだ。

 僕はお前に勝てない。勝てるわけがない。

 ……そう思っていただろうな。

 数分前の僕だったら……!


<ケケケ……さあて、お手並み拝見といこうか。ボク>

<なめるなよ。しっかり見てろオレ!>


 僕は集中する。

 全神経を掌に集中させる。

 繰り出す技は《色玉》

 僕にはそれしかできない。


「だからぁ! そんなんじゃどうにもできねぇって分かってんだろバカ!!」


 カナタの掌の炎が、これ以上ないほど大きく、熱くなる。

 《色玉》なんかじゃ、軌道をずらすことすらできない規模。

 ああ……分かってる。

 そして、その極大の《陽弾》が、カナタの腕の軌道に合わせて動き、繰り出された。

 光と熱を纏って、部屋中の壁と地面と天井を焦がし、まっすぐと殺意を持って、僕の元へと向かってくる。


「あばよ親友! 恨むなら、俺と出会ったおまえの運命を恨め!!」


 ……運命を、恨めだって?

 おまえと出会ったことを、恨めだって?

 バカ言うなよ。

 おまえを恨みたくないから……助けたいから……こうして僕は戦ってるんだって、まだ分からないのかよ!?

 極大の炎が、太陽のような炎が、やってくる。

 それに対して、僕はぶつけた。

 精一杯の、《色玉》を。

 僕の数メートル先で、『弾』と『玉』は衝突する。

 《間素》の力の塊と、炎の塊。

 女の子のパンチ分の威力じゃあ、到底太刀打ちできるわけがない。

 そんなことは分かってる。

 でも、それは、《間素》ひとつだけならばという話。

 ならば、複数ならば……?


間素12種類。全ての《色玉》をぶつけたならば……?


「!?……ば、バカな……!?」


 変化が現れた。

 圧倒的力量差で、僕の《色玉》を押しつぶすだろうと思っていたのだろう。

 だけど、その《色玉》は、《陽弾》をのみこむ程に大きく、球形の玉が歪み始め……


爆発するように、霧散した。


「っ………!? !?」


 声にならない程、カナタは驚いている。

 僕自身も、そうだ。

 まるで嘘みたいだろう?

 こんな荒唐無稽なこと、誰が信じられるものか。

 思いついた所で、そんなまさかと切り捨てる思いつきだ。

 でもこいつは……オレは、勝利に一縷の希望を見出すために、その『まさか』に賭けた。

 信じられない。

 僕の《間型》は、『黒』なんかじゃなかった……!



<いいかボク。おまえの《間型》は、『黒』じゃねえ>


 最初。動けない秋月先生をクローゼットに押し込めて、元の玄関へと戻ろうとした矢先、オレはそう切り出した。


「……は? いきなり何言って」

<いいから訊け>


 真剣味のある口調に、耳を傾ける。


<あくまで可能性の話だ。おまえ、自分の髪色が変な薄い黒色っつったよな。そして、生まれつきまともに《間素術》が扱えないとも>

「……そうだよ。だから何だってーー」


<それは、おまえの間型が、『全て』だからだ>


 …………

 ………は?


<絵具遊びしたことがあれば、分かるだろ? いろんな色を混ぜ合わせたら、変な濁った色になるってやつ。おまえの髪色は、それなんだよ>


 ………いや。確かに、言いたいことは分かる。

 色んな色を混ぜても、黒色が全て塗りつぶして、半端な黒色になるっていうのは、分かる。

 でもおまえ……そんなこと、あるわけないだろ?

 二種類の間型を持つだけでも稀なのに……十二種類『全て』の間型を持つヤツなんて、過去1000年紐解いても、存在しないんじゃないか?


<おまえの言いてえことは分かる。俺だって、最初に《間型》の説明を聞いた時に閃いた、ただの思い付きに過ぎねえ>


 ああ……だからおまえ、あの時、リィネのピンク色の髪の毛について言及したわけか。

 だがひとつ、疑問がある。


「……例え本当にそうだったとして、《闇の間素術》が使えない理由にはならないだろ?」


 少なくとも、黒色に近い髪色というのであるならば、《黒の間型》は僕の中にあるのは確かだ。

 それが使えないのは、どういう理屈だ?


<………そりゃおまえ、『イメージ』の問題なんじゃねぇか?>


 と、オレは返す。

 ……イメージ?


<前におまえ言ったよな? 《間素術》に大切なのは『イメージ』だって。おまえは、今まで十二種類の《間型》がある前提で、《間素術》を使ったことねぇんだからよ。イメージしてみろよ。世界中にある十二種類の《間素》から、ひとつの《間素》を『選ぶ』イメージをよ>


 ……選ぶ、イメージ……


<もちろん、本当に十二種類全ての《間型》がおまえにあるかもわからねぇ。だからそれは……おまえが戦いの中で見いだせ>

「戦いの……中で……?」

<ああ。なんでもいい。十二種類の《間素術》を全て試してみろ。そして、てめぇの潜在能力を見せてみろ。そうすりゃ、活路も開けるだろ?>


 ……簡単に言ってやがる。

 だけど……ああ、もう、そう言われると、その可能性に賭けるしかないだろうが……!

 そうして僕は、一種の博打を打つような気持ちで、戦場へと赴いた。

 それからは、知っての通り。

 基本中の基本の間素術。《色玉》を使っての、僕の《間型》検証が始まった。

 十二種類、全ての《色玉》を出せるかどうか。

 例えるならば……そう。様々な具材の入ったシチュー。

 自分の手元にあるのは、それぞれの具材を拾うのに最適な十二種類の調理器具。

 僕は今まで、その十二種類の調理器具の正しい使い方を知らなかった。

 『黒』を拾うのに『赤』の器具を使ったり、『青』の器具を使ったり……

 だから、《間素》すらまともに拾えず、《間素術》は発動しない。十回に一回成功するのは、たまたまだったわけだ。

 通常ならば、ひとつしかもたないはずの調理器具を、僕は十二個も持っていたから混乱してしまった。

 そういえば、リィネも言っていた。《間素術》を使いわけるのに、相当苦労したって。

 だから、イメージだ。

 世界に十二種類の『具材』があるイメージ。

 僕の中に、十二種類の『器具』があるイメージ。

 赤なら赤の、青なら青の、自分なりの『拾い方』をイメージする。

 その結果……できてしまった。

 十二種類。全ての《色玉》を作ることに、僕は成功した。



 はじけ飛ぶ光と熱と炎。

 《色玉》とはいえ、十二種類全ての力をぶつければ、この程度の《間素術》ならば相殺することは可能らしい。

 カナタは一瞬。驚きのあまり硬直して、

 直後、表情を一変。

 さらに大きな《陽弾》を作り出す。

 部屋一杯をうめつくす火の弾。


「……いったいどんなトリック使ったが知らねぇが……相殺するのが精いっぱいなら、それ以上の力で……っ!?」


 それ以上の力で、圧倒する。

 理屈は合ってるよ。カナタ。

 じゃあ、僕は、

 さらにそれを超える力をぶつけるまでだ……!


「………なんだ。おまえ……それは……!?」


 驚愕に目を剥けるカナタ。

 今、僕の両手には、ふたつの《色玉》があった。


十二種類の間素を混ぜ合わせた《色玉》を2セット。それが、僕の両手にあった。


 あふれ出る力の奔流に、空間が歪んでいて、通常見えないはずの《色玉》が見えてしまっている。


<ケケケ……ここまでとはな。想像以上だ>


 愉悦そうなオレ。

 自分で言うのもなんだが……初めての試みでここまでうまくいくとは思わなかった。

 複数種類の《間型》を持つものが、それを使い分けるのが大変だというのが、それが嘘のようにあっさりとできたし、それらを複合する術さえ、苦労せずに形を成している。

 導き出せる結論は、ひとつだった。


「悪いなカナタ……どうやら僕は、『天才』だったらしい」


 愉悦さも、皮肉さもなく、ただ単なる事実として淡々と告げると、

 僕は両手を突き出して、極大の《十二色玉》を2つ合わせる。

 ふたつ合わせれば、《陽弾》を貫いて、カナタまで攻撃を与えることができるはず。

 殺す程度のダメージじゃないはず。

 動けない程度のダメージにする。


「……っくっそがああ!!」


 カナタはやけくそのように、《陽弾》を放つ。

 ……元人格がなんだ。

 おまえはおまえだろう! カナタ!

 僕とおまえが過ごした日々は、嘘じゃない!!


「目を覚ませカナタ!! これで終わりーー」


 瞬間。

 視界が暗転する。

 ………おい。

 …………まさか……っ!?


▢⇒■


「―――にして、たまるかよぉ!!」


 ……度々わりいな。ボク。

 交代の時間だぜ……!


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