Ⅺ 助っ人登場
Ⅺ
[『異能』……だぁあ?]
なにを素っ頓狂なこと言ってんだと思ったぜ。
コーヒーを飲む俺の前で、センコーは話を続ける
[ええ。ここでもう一度、転生システムの仕組みを思い出してほしいんだけど、私達の魂は一度圧縮されていて、この時、100を1位の大きさに縮めるくらい乱暴なことしてるわけ。そこで魂が鍛えられて、解放された後に魂に『余裕』ができたみたいなの]
[『余裕』……それを埋めるのが、『異能』ってやつか?]
[その通り。抑圧された魂が解放された時に生じた副産物。転生者は一人の例外なく、なんらかの『異能』を身に着けて転生されるの]
……なるほどなぁ……
そいつぁ……そそるじゃねぇか……!
[いいねぇ……! ようするに、超能力みてぇなもんだろ? 戦闘の幅が広がるってもんだ。俺はどんな能力なんだ?]
[……さあね。これだけは地道に探すしかないのだけど……能力のきっかけとなるのは、『感情』だってことだけは教えてあげられるわ]
[感情……?]
[ええ。魂と感情は密接な関係にあるらしくてね。それも、その人の人格を代表するような感情が、『異能』のトリガーになりやすいらしいわね]
[? よくわかんねぇな? あれか? 怒りっぽりやつは『怒り』で能力が使えるってのか? そもそも、どんな能力がわからなけりゃ使いようがねぇだろうが]
[……まあ、多くはその人の望んだ能力になるそうだけどね]
ケケケケ……そうかそうか。
いいことづくしだなぁオイ!
[よぉし! そうと決まれば女! 俺の能力探しに付き合え!]
と、勢いよく立ち上がり叫ぶ。
センコーはいけすかねぇが、同じ転生者の協力がありゃあ、すぐ見つかるはずだぜ!
だが、センコーはすかし顔で
[……残念だけど、それは無理ね]
と断りやがる。
なら強硬手段だ。無理やり脅かそうとしていう事聞かせようとする。
その時だった。
[……うぅう!?]
唐突な睡魔が、俺に襲い掛かった。
思わず、机に突っ伏す。
それを見て、センコーは未だすまし顔だ。
……まさか……!?
[……てめぇ……何か仕込みやがった……な……!]
俺の目の前のコーヒー。これに、睡眠薬かなんかを仕込んだにちげぇねぇ……!!
[悪く思わないでね。あんまりあなたを表に出しておくと、やっぱり面倒そうだし。なによりノヴくんが迷惑そうだしね]
ふざけんな!この俺をはめやがって!
せっかく、良い情報仕入れたってのによ!
くそっ……もう意識が……もたねぇ……
畜生……せめて、ボクが俺より先に起きないことを……祈るしか……
■⇒□
はい。残念でした。
オレが寝始めてから三十分もしない内に、僕は目覚めたのだった。
「……ありがとうございます。先生。気を利かせてくれて」
目覚めてすぐ、キッチンで朝食の支度をしているエプロン姿の先生を見つけて言う。
「いえいえ。どういたしまして」
と、先生はパンと目玉焼き、ウィンナー、サラダを二人分。お盆に運びながらやってきた。
うわぁ……なんかいろいろラッキーかも。
特に、目の前の先生の姿がなんかこう……あれだ……へへへ
「? 何にやついているの?」
おっと。顔に出てしまった。
「い、いえ。なんでもありません。いただきます!」
と、ごまかしながら空腹の胃袋に食べ物を流し込む。
実は、いままで僕がオレの中で寝てたのは、この時のためだ。
町中を一晩中逃げ回るわけだから、いくら修羅場に慣れているとはいえオレにも疲れは出るはず。
そうしてオレが眠りについた時、僕が覚醒すれば体の交代権利を得られると思って、眠っていたのだ。
先生がそういう僕の思惑に気付いて、睡眠薬を仕込んでくれるとは思わなかったけど。
何にせよ、初めてオレに一杯食わしてやった!
へへへ。ざまーみろ!
「……それで。ノヴくん。一体何があったのかしら?」
と、頬一杯にパンをくわえている僕に対し、先生が怪訝な顔で語りかける。
……やっぱりオレのヤツ。詳しくは話してなかったか。
僕はゴクンとパンを飲み込むと、これまでの経緯を説明し始めた。
警士見習いとして働き始めて、忙しい日々を過ごしていたこと。
そして昨晩。帰ったところで、クロッドさんが死んでいるのを目撃したことを。
何者かに殺されたという事実を。
そして、目撃者である僕が、元々危険人物であったことから、真っ先に犯人として疑われて、逃げ出して現在に至るということを、細かに話した。
「………ノヴくん。今年は本当に厄年ね。可哀そうに」
話を聞き終えてから、先生は憐れむようにそう言った。
……先生。涙が出そうだから、やめて下さい。
「それじゃあ、しばらくは街を出られないわね。いいわ。しばらくここでかくまってあげる。」
と、優しい声色で言う先生。
まさに、期待通りの言葉を投げかけられて、本当に涙が出そうだった。
先生が味方で、本当によかった。
オレがなんて言うかわからんけど、これはもう仕方ないだろ。
保護されてしかるべきでしょ。僕。
「ありがとうございます。すいませんけど、しばらくやっかいにーーー」
これからの先生との甘い生活を脳裏に浮かべながら、下心を隠しつつ深々とお辞儀をした。
その時だった。
「おいおい。マジでそれでいいのかよ?」
と、玄関から声がひとつ。
ガチャリと音がして、扉が開いた。
そこに現れたのは、毎日のように見慣れた姿。
親友。カナタ・クリアラインだった。
「カナタ!」
「カナタくん!」
僕と先生が同時に叫ぶ。
どうしてここに?
「先生のとこに逃げ込んでるだろうなと思って来てみたらビンゴだったな」
と、見透かしたように言うカナタ。やや呆れた様子さながら、家の中へと入ってくる。
「もう町中、大騒ぎだぜ。クロッドさんがおまえに殺されたってよ。警士達は血眼になっておまえを探してるよ。隠れて凌ごうなんて、悠長なこと言ってる段階じゃねぇぜ」
「そ、そんな……!?」
だけど、それも当然だ。
なんせクロッドさんは国の英雄。街ひとつどころか、国を挙げて大騒ぎになってもおかしくないのだ。
もう逃げ道や隠れ場所など、この国に居るかぎりないのかもしれない……
「ど、どうすれば……」
頭を抱えて落ち込む。
桃色の居候生活に、現をぬかしている場合じゃなかった。
そこで、見事に現実に引き戻してくれた親友は、
「どうすればって、ひとつしかねぇだろ」
と、単純明快なひとつの答えを口にする。
「見つけるんだよ。クロッドさんを殺した、真犯人をな」
……真犯人………
確かに、自分の無実を証明するには、それしかないだろうけど、簡単に言ってくれるなぁ……
でも……待てよ?
「……それなら、《獣属》がまず怪しいわね」
僕が思い当たると同時に、先生が指摘する。
もし、あの事件現場に僕が居なかったら、誰しもが思い当たるだろう。
なぜなら、クロッドさんは《獣属》の《章持ち》だからだ。
【火獣】を取り返そうと、日夜クロッドさんの命を狙っている。故に、《獣属》の領域がすぐそこにあるこの街に彼は住んでいる。
彼らの標的を自分だけに仕向け、他の《人属》への侵略から意識を逸らす役割を担っているのだ。
つまり、いつ、彼らに殺されてもおかしくない立場に、クロッドさんは在った。
現在進行形で、彼は英雄だった。
……しごきは最悪だったけど、世話にもなった。
仇討ちなんて、柄じゃないけど
「……そうだな。見つけよう。真犯人。クロッドさんを殺した、《獣属》を」
そう決めつけて、言葉にする。
クロッドさんを恨む者なんて、少なくともこの街には一人も居るはずがない。
探して、晒して、僕の無実を証明してやる。
そして、クロッドさんの無念も晴らす!
「よく言った。俺も協力するぜ」
「私もよ。頑張りましょう!」
と、先生と親友が微笑みながらそう言ってくれた。
……最近、最悪なことばかりだと思っていたけど、そう捨てたもんじゃないな。
「ありがとう。二人共」
一言。感謝の言葉を贈る。
この恩は、必ず返そう。
「さて……犯人捜しの前にだ。ノブ。おまえを疑うわけじゃないんだが、ひとつ確認させてくれ」
「? なんだ?」
と訝し気な顔の僕を見ながら、カナタはちゃっかりと朝食の椅子に座って、僕の分のウィンナーをほおばる。
おまえ、少しは遠慮しろよ。
「……もし、お前がクロッドさんを殺したのなら、体のどこかに《章》が刻まれているはずだからな。それが無いことを確認しておくのは、無実の証明にもなるだろう」
おお! なるほど!
「確かに。それは一理あるわね。すぐに調べましょう!」
と、先生も同意。
僕の服のボタンに手をかける。
……って。え!?
「ちょ、ちょっと先生!何するんですか!?」
「何って……自分じゃ見えない部分だってあるでしょ? 手伝ってあげるわ」
当たり前のようにそう言って、躊躇なく僕の服を脱がせようとする先生。
いやそれはそうだけど先生!さすがに心の準備ってものが……!
赤面ながら焦る僕をよそに、テキパキと脱がせる先生。流されるままの僕。
「《章》はどこにできるかわからないからね。隅々まで調べないと……」
至って真面目な顔で、パンツにまで手をかけ始めて……
いや、ちょっ、まっ、あっ、〇×♨▼□……!?
いやあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!
※ ※
………恥ずかしさで、死にそうになった。
股間はなんとか死守したものの、尻の穴までまじまじと観察されてしまった。
狼狽する僕に対して、先生は終始真面目な顔で《章》探し。これが大人の余裕というものだろうか?
隅々まで見られ、《章》が無いことを確認した後、いそいそと服を着る僕を、カナタはニヤニヤと笑いながら見ていた。
この親友め……!!
「まあ、やっておいてなんだけど。この検証はあまり意味なかったかもね」
と、そこで先生がつぶやく
……え? 意味ない?
「無いことを証明するのが一番難しいって言いますしね。その気になれば入れ墨を重ねたりどうにかして隠すこともできるし。世間は納得しないでしょう」
カナタも初めからわかっていたように言う。
「ええ。やっぱり、【火獣】の《章》を持つ真犯人を探す方が賢明ね」
おいちょっと二人共!
じゃあなんだったのさ今の拷問!?
「さて……犯人捜しとなると、やっぱりまずは現場に行くべきですかね?」
むくれる僕を後目に、カナタがそう提案する。
殺害現場。そこに、なんらかの手がかりがあるかもしれない。
「そうね。早速向かいましょう。下手に荒らされていなければいいけれど……」
と、先生が支度を始めた時だった。
頭がクラッとして、視界が揺れる。
まぎれもない、睡眠不足だった。
「大丈夫か? ノブ」
「ああ……ちょっと、きついかもな」
頭をフルフルと揺らして必死に睡魔と戦う。
オレの中で眠ったとはいえ、その間も僕の体は絶えず動いていたわけで、体力的に回復した訳ではない。それに、眠ったとしてもたった2時間程度。毎日8時間睡眠の僕としては辛い所だ。
「……無理もないわね。普段から脳にかかる負荷は大きいはずだし、しっかりとした睡眠をとった方がいいわ」
……脳の負荷?
「? どういうことですか?」
「推論だけどね……今、あなたの体にはノヴ君の魂と転生者の魂。二人分の記憶と人格が刻み込まれているはずよ。当然、脳にかかる負荷は常人の倍。二人同時に睡眠をとらない限り、脳が休まることはないわ」
……確かにその通りだ。
裁判の時に寝てしまったのだって、オレが勝手に僕の体を乗っ取ったから。8時間睡眠をとったはずが実際はもっと短かった。
「脳のキャパシティってかなり余りあるから、二人分の記憶と人格くらい共存しておくのは問題ないとは思うけど、それでも気を付けた方がいいわよ。お互い、なるべく同じ時間に寝て脳に休息を与えるのが無難ね」
というアドバイスを受けて、どうやってそれをオレに言い聞かせようかと考える。
まあ、あいつにとってもデメリットがあるし、この提案は……飲むとは思う……けど……
今はこの睡魔を……どうにかしないと……
また……オレが……出て
「はいコレ。飲みなさい」
僕が立ちながらにして船を漕いでいる時、先生から目の前に差し出されたのは一杯のコーヒーだった。
……今更コーヒーの一杯でどうにかなるとは思わないけど。
とりあえず、再び湯を沸かして作ってくれた一杯なのだから、素直に受け取り口に運ぶ。
まさか、また睡眠薬が入っていてゆっくり休めというわけじゃあるまいなと、そんなことを考えていたその時。
頭の芯を貫くような、凄まじい衝撃が奔った!
「か……か……からぁあああああああ!!」
辛い!!
それと、すごく苦い!!
二重の拷問的味覚攻撃が駆け巡る。
とても人間が飲めるものじゃない!
「な、な、なに飲まひゅんでふか!!」
せき込みながら狼狽する僕。先生は得意気な表情だった。
「どう? すっきり目覚めたでしょう?」
……そういえば、もう眠気はどっかに行ってしまった。当たり前だけど。
「私のスペシャルブレンドコーヒーよ。最近開発された新種の野菜。『トトトガラシ』を混ぜたの。あなたの御家の商品なんだけど、知らなかった?」
たしかに、そういうのは耳にしたことあったけど、実際に口にするのは初めてだった。
こんなの、好んで食べる奴がいるのだろうか?商売として成り立つのか?
「滋養強壮効果が抜群でね。これなら、丸一日は不眠不休で動けるわ」
なるほど……そういう効果があるならば、多少の激味にも目をつぶるか。
そこで
「あの……先生。俺にもそれ、一口いいですか?」
カナタがもの欲しそうな目でそのコーヒーを見て言う。
「あら? カナタくんもお疲れ?」
「ええ……最近、【闇人】宛てへの書類作成に時間削られたからですかね……どうも頭がすっきりしなくて」
ちらりと、僕を一瞥しながらそう言う。
わかってますよ!感謝してますってば!
「そういうことなら、はいどうぞ」
と、先生からコーヒーを受け取ったカナタが一口飲むと、僕と同じような反応だった。
その後、お互い口直しに水を飲んだ後、いよいよ話は本題に入る。
クロッドさん殺害の真犯人探しについて。
「さて……まずは、現場に行って何をするかだけど……」
改めて、全員がテーブルに腰かけてから開口一番。先生がそう言う。
カナタはまだ朝飯を食べていなかったようで、先生が余りものを適当に挟んだサンドイッチをご馳走になっていた。
「そうですね。現場に行きさえすれば、俺の闇魔術で痕跡を辿れるかもしれません」
と、サンドイッチをほおばりながら言う。
前にも言ったと思うが、カナタは監察士だ。
事件現場から手がかりを見つける仕事としては一流と言っていい。彼曰く、万物には少なからず魂が宿っており、事件現場にある、その『声』を聞くことで、事件当時の状況を知ることができるという。
頼もしい限りだ。
となると……
「じゃあ、すいませんけど、僕は、ここで留守番してるってことでいいですよね?」
と、進言する。
だって、絶賛指名手配中の僕としては、外に出るのも危険なのに、ましてや警察がひしめく事件現場に戻るなんて自殺行為だ。
だから、二人には悪いけど、ここで大人しくしているのが最善だろう。
……決して、捕まって乱暴されるのが怖いわけではない。
僕は、二人共快く了承してくれると思ったが、
「う~ん。でもなぁ~」
「目撃者も居た方がいいわよね?」
と、苦い顔。二人とも事情は察した所ではあるものの、やはり目撃者は欲しいという同意見だった。
このままではやばい……
「い、いやでもさ……普通に考えて、危険すぎるでしょ」
と、抵抗するも
「まあ、逆に考えれば、現場におまえが現れるはずもないと思うよな」
「裏をかくっていう意味で、いいんじゃないかしら?」
……そう来たか。
「いやいや。実際問題、100%捕まるから! あんだけの人の目をかいくぐれるわけないでしょ!」
必死さを表に出して言う。
おそらく外は100人体制で見回りしていることだろう。『ランディ』に出てくる伝説忍者、シノヴでもない限り、不可能だろう。
勿論、二人ともそれは分かっている。しばらく腕組み、唸る。
たのむからあきらめてほしい……
だけど、先生から一つのアイデアが生まれてしまった。
悪魔的なアイデアが。
「じゃあ……変装しましょう!」




