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前編。俺と喋るチェーンソーと、そして奇妙な幼馴染と。

『続いてのニュースです。本日未明、地球外生物化職員により、ウチュウイワシの捕獲が確認されました』

 淡々と告げられる事実に俺達は、他のニュースと同じくさして興味なくエアコンの効いた部屋でゴロゴロしている。

 

「今日は十匹だと。こないだはウチュウモグラを百匹だったか。大変だなぁ、害獣駆除なんてやらされて」

「オ前、俺ガドウシテ意志ヲ残シテイルノカ分カッテルノカ?」

「グギャー、わかってるよ。俺がお前に人殺しをさせないからだろ?」

 

 

 グギャー。正式名称をローリングギアーズ。スプラッタ映画の小道具が『妖刀』』化した憑き者だ。

 こいつはその映画の性質そのままに、誰かを殺すことが意志を失う条件である、と俺に告げて殺人を強行させようとした。

 

 だから今、こいつは俺の手によって逆さまに床に放置され、うるさく刃を空転させているのみの騒音機と化している。

 いわゆる電ノコのようなかっこうをしてるので、この状況を作り出すのに頭をひねったもんだ。

 

 これまで数多くの妖刀が生まれ、そして役目を終えただの道具に戻ったとグギャーから聞いた。

 同胞たちが役目を終えたことを悟ると、無駄にエネルギーを使いやがって、って吐き捨てるように言ってたんだけど。あれ、どういう意味だったんだろな?

 

 

『きっ緊急ニュースをお伝えします!』

 珍しくキャスターが慌てた様子だ。なにごとかと意識を向ける。

『巨大なウチュウ生物が現れましたっ! 映像が来ていますので、そちらをどうぞっ』

 そして中継の録画映像らしき物が流れる。

 

「これ……なんだ?」

 いやいや、テロップでこれは特撮映像ではありませんとか言われても、信じられるかって。

「兎ダナ」

「たしかに兎の形はしてるけど、これは流石にでかすぎだろ……」

 

 見上げるなんて言う言葉じゃ表せないほど、巨大な兎が まるでこの世の全てを見下ろすように紅に輝く不気味な瞳を大地へ向けている映像。

 これがリアルだとしたらただごとではない。

 直後、俺の脳裏に嫌な予感が。そして、花火にしては少々重い音と衝撃が、我が家を軽く揺らした。

 

「なんだ? っと、ケータイが」

 嫌な予感、当たりそうでいやなので、着信を見たくありません。

「早ク出ロヨ、ピーピー煩クテカナワン」

「いや、バイブレーションだからな。ピーピー鳴ってないからな。わかったよ、回転上げんな、見りゃいいんだろ」

 回転を上げる。それはつまり、さっさとしねえと俺と言う誰かを殺す、と脅しているのである。自分が刃物だからって、妖刀どうぐのくせに駆け引きなんぞ覚えやがって。

 

「やっぱりか、あのバカ」

 吐き捨てるように息を吐く。またドンと地面が揺れた。

 届いたメールは幼馴染、隣の家の女の子。可愛いものには目がない少女、巌流島さやだ。

 

敗道否定まけなどういなさだのサヤノ娘カ」

「その呼び方やめろよ、まるでアイツが道具みてえだろ」

 敗道否定、巌流島家の家宝とされる刀だ。負けず嫌いの権化みたいな名前のこの刀、あろうことかさやを持ち主マスターに選びやがったのだ。

 俺と違って仲は良さそうだが、それでも刃物にいつ行動権を奪われるのか知れない以上、俺は気が気ではない。

 

「デ? メールニハ何ガ書イテアッタノダ?」

「もう我慢できないっ! でっかいうさちゃんの様子見て来るっ! だとよ。不用意に危険地帯に行く宣言は死亡フラグだってのに」

 また、深い溜息が出る。またドンと地面が揺れ、続けてバーンと派手な音。今度はいったいなんだ?

 

「行カナイノカ?」

「誰がここでのんびりしてるって言ったよ?」

 重い腰を上げ、俺は体を軽く動かす。準備運動だ。

 アイツがでかける、そしてこの重い音と揺れ。間違いない。あの巨大兎は、近所にいやがる。

 

「ヨウヤク出番ダナ」

「ついて来るのはかまわない。でも、殺すな」

「バカヲ言ウナ。俺ハ殺ス事ガ指名。殺ス事コソ定メ」

「この、厨二病電ノコめ。いくぞ殺人機」

 カカトを踏んでることも構わず勢いのまま俺は、さやを連れ戻して来るとだけ家に叫んで駆け出した。

 

「バカヲ言ウナ。俺ハマダ誰モ殺シテナドイナイ」

「殺人を存在意義にしてるんなら、それは立派な殺人機だと思うぞ」

 軽口を叩き合いながら、さやの姿を探す。あれだけ巨大な兎だ、それほど遠くに行かなくても見えるはず。

 ーーいや、違う。アイツは間違いなく最高の位置を探し求めて歩き回るに違いない。

 

「おい、殺人機。たしかお前ら妖刀にはテレパシーがあったはずだな? 負けず嫌い刀と交信してどこにいるのか聞いてくれ」

「断ル。アレハエネルギーの消費ガ激シイ、淫ラニ使ウト活動限界ガ早まる」

「みだ『り』だ、この電ノコもどき。お前の活動限界よりさやの命だバカヤロウ、さっさとしろ!」

 回転を上げるグギャー。だが今、俺はひくわけにはいかない。幼馴染がちょっと田んぼ見て来るで死ぬなんてまっぴらだからな。

 

「やれ、やってくれ。でないとさやがどうなるか」

「知ランナ、自業自得ダ」

「殺せるチャンスだー、とか言ってホイホイついてきたのはどこの誰だよ?」

「俺ダガ」

「平然としやがって……頼む、ほら また揺れがっ」

 ちょっとふらついたが、そこまででかい揺れではなかった。けど、バーンって音が二度三度響いて来る。

 

「いったい……なにが起きてる。こら、早くしろ ローリングギアーズ!」

 スイッチをオフにする。こいつの気分など知ったことか。

「……仕方アルマイ」

 しぶしぶだが、どうやら交信してくれるようだ。一息つく。

「たすかる」

 

 銀色の刃が淡く光を放つ。その幻想的な輝きに、思わず見とれてしまった。

「教エルノハ面倒ダ、体ヲ借リルゾ」

「それが早いならかまわない。けど、殺すなよ」

「何度モ言ウナ。貴様ガ殺シタイ奴ガ出ルマデハ何モセン」

 言葉の後、俺は腕が勝手に動いてることを奇妙には感じつつ、その自動操縦に身を任せる。

 

 

 グギャーを手にしたオレは、そのまま走り始める。

「絶対嘘だな。体を操れる時点で、そんな保障はどこにもない」

 口は自分の意志で動いてくれるのが助かる。これで口まで俺の自由にならないとかだったら、ただの地獄だ。

「チッバレタカ」

「なんでバレないと思ったんだよ」

 

 ドンよりもバーンの方が回数が多い。マジでなにが起こってるんだ?

 例の対策課とやらがり合ってるんだろうか?

 

「このビルの屋上か?」

 何分走ったのか。十分か、二十分か。

 目の前に聳えるビルは、この市で最も高い。たしか十階建てぐらいだったか。

「ソウダ、ココカラハオ前デモヨカロウ」

「ああ、助かった」

 

 中から行くのは、サヤ ーー『妖刀』と運命共同体になった俺じゃ問題だな。非常階段を探す必要があるか。

 左の外周を走ってみたら、すぐに非常階段を発見。

 

「な……なあ、これ」

 しかし……閉まってたであろう鉄の扉は、なにかによって綺麗に真っ二つになっていた。

「間違イ無イ。否定ノ仕業ダ」

「あいつ……そうまでして兎がみたいか。超巨大ボーパルバニーを」

 ありがたく非常階段へと走り込み、そのまま駆け上る。

 

 

「しっかし、あの刀。すげー切れ味だな」

 カンカンガシャガシャ。己で出してる音とはいえ、はっきり言ってやかましい。

 

「はぁ……はぁ……けっこう、きついな」

 三階から四階への踊り場で一休み。左手を膝に置いて息を整える。

「情ケ無イ奴ダナ」

「浮いてるお前には言われたくねえよ」

 深い深呼吸を一回、二回。一つ頷いて踏破再開っ!

 

「けどよ、こんなとこからほんとに巨大兎、見えんのかね?」

 空を見上げて疑問を発する。今はもう夜のとばりはしっかり降りているのだ、いくら巨大兎が白いって言っても限度がある。

 おそらく今見えたとすれば、あの不気味に紅に輝く目ぐらいのものだろう。そんな物でアイツは満足できるのか?

 

 まるで花火のように、バーン バーン ドン ドンと鳴り響く気味の悪い轟音。気持ちが、動きが焦る。

「転ンデクレルナヨ。刃ガ欠ケタラ死活問題ダ」

「むしろ折れてくれりゃ俺としては万々歳なんだけど?」

「元気ナ奴ダナ」

 後二階。一階。ついた!

 

「って……また扉ぶった切ってやがるよ」

 呆れる。硬い物を見たら切らずにいられないのか、巌流島家家宝は……そんな性格で、よくアイツともめずにやってられるな。

 忍耐力高すぎだろ、負けず嫌いブレード。

 

「ヨホド物ヲ切リタカッタノダロウナ、俺ニハヨクヨク分カル」

「お前の場合は物じゃなくて人を斬りたいんだろうが、まったく物騒な奴だぜ」

 ゼェハァしながら悪態をついて、屋上へと足を踏み入れる俺達。

 

 

「さや、帰るぞ」

 ぶしつけだなぁと思いつつ、それでも見つけた影にかける言葉は、これがベストだろう。

「やだ」

 即答だった。予想通りと言えば予想通りの答え。

 

「お前、あれがなんなのかわかってるのか?」

「うん。でーっかいうさちゃん」

 右手に刀を持ったまま、幼馴染は黒いくりくりした瞳をこちらに向けて、平然と言い放ちやがった。

「あのなぁ」

 頭を抱える。本気であれを、規格外の巨大兎だとしか思ってないらしい。

 こいつの見境の無さというか、かわいいものへの盲目っぷりは凄まじいと言う他ない。

 

あるじめいトアラバ危険ナ地ニモ御身ヲ運ブ。ソレガ我ガ誓イ」

 と、巌流島家の家宝様は仰せである。

「危険認識はあったんだな、刀の側は」

 一筋頬を汗が伝った。「イカニモ」とあたりまえだろと言わんばかりの返答が。

 

「で、さや。帰りたくないんだな」

「うん。まだうさちゃん見足りないもん」

「そうかい」

 こうなったさやは、たとえ今この足場がだるま落としのように崩れるとしても動かない。

 

「で、その兎様は見られてるのか? こんな暗くて」

「うん。ほら、あれ」

 指差されたのは正面。視線を向けたら、

「っ」

 声にならない悲鳴が出た。そこにあった物。それは紅に輝く二つの瞳だった。

 

「な……なあさや?」

「ん?」

 ご機嫌ですね。

「俺達さ」

「うん」

 え? なに? なんで期待したような顔してんの?

「……めちゃくちゃ見られてね?」

 体中から冷や汗が吹き出した。

 

「そうだね。おーい!」

 なんで今一瞬、残念そうな顔したの?

「バカこら! 刺激すんな呼びかけるな手を振るなっ!」

 左手でさやの右腕を抑える。

 

「手ならまだしも刀を振る奴があるかっ!」

 

「だってー、右手あいてないんだもん。しかたないじゃない」

「しかたなくねーよ! 帰るぞほら! 兎にぶっころされてえのかお前は!」

「殺される? うさちゃんに? そんなまさか」

「まさかじゃねーよ! あの巨大生物を、ただの兎と同列に扱えるお前の神経が信じられねえ」

 むりやり腕を引いて俺は屋上を後にする。

 

「……わかったよ。君がそう言うんだったら」

 言うことを素直に聞いてくれたか。がっっくりと肩を落としてらっしゃるけどな。

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