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7 クレアの脱衣



 クレアちゃんへ、スキールのロックを解く理由を尋ねてしばらくになりますけれども、栗色のミディアムヘアが乗る、エリーの頭の中を整理する為――回想です。

 

『クレアが……ラジン様との、初めての脱衣との出会いはひと月前になります……』


 確かこのような台詞から少女の語りは始まったと記憶しております。


 鈴のような声音が紡ぐのは、過去の”脱衣”経験。

 衝撃的な告白でした。

 クレアちゃんは既に、変人ラジンから一度かれた青い果実だったのです。


 おぞましい事実を知ったエリーは、身を震わせました。

 ラジンはもう……ロリコンのごうまでも背負う、行くところまで行ってしまっていたハイクラスな変態さんだったのです。

 そう……私の慈悲は、最早手遅れのものだったのです。


『突然の事でした。……でも、だとしても、叶うのならクレアの一番を見て頂きたかったのです』


 真摯なクレアちゃんの吐露でした。

 前後の内容を踏まえ、私翻訳で噛み砕きますと、”どうせ裸にされるのだったら、綺麗な姿の自分を見て欲しかった”、との後悔の告発になります。


 これ、おバカな発言ですよね。

 でもですね、エリーにはそんなクレアちゃんの乙女な想いに共感できる部分があるから笑えない。


 やっぱり女の子は、いつでも綺麗な自分であり続けたいですもんね。

 なぜなら、写真とかだと画像編集ツールでちょちょいと加工――語弊です。本来の一番に近づける補正ができますが、他者への視覚へ写り込んだものは編集が利きませんもんね。

 クレアちゃんの後悔の念は、きっとここに起因するのでしょう。

 だからこそ、


『ラジン様とこの日のお約束をしてから、ひと月。クレアはシャルダン家の娘として恥じない身であるべく、鏡台と日々向き合いました。そして、領内一の仕立て職人を召し縫わせた品を纏っております』


 このような斜め思考の話が生まれてくるんでしょうね。


『どうかラジン様。今宵今一度、クレアの、本当のクレアを脱衣して頂けないでしょうか』


 そう言えば、夕陽さんは”もう付き合ってられん”とばかりに沈んでしまったようでした。

 私も呆れながらに見やった窓は、夜の帳を下ろし始めていましたね。


『案ずるなクレア。依頼がなくとも俺は脱衣を望む者があれば、運命さだめに従い脱衣を執行する。こうして再び、裸人はだかびとラジンがここへ訪れたことが何よりの証だ』


 ため息です。とんだ茶番に心底ため息です。

 どういった感情が発露しているのか定かではありませんけれども、クレアちゃんは変人の脱衣を自らが望んでいまして、それに応えようとカッコつけているラジン――そんな構図です。

 しかも、目と目で通じ合う良い感じを醸し出しています。


 納得いきません。


 ただしかし、しかしなのです。

 エリーはいつでも女の子の味方なのです。

 変人共と出遭ってから、そう決意しているのです……。


「うう、ううぐぐぐ、わ~んもうっ」


 エリーはクレアちゃんの想いを尊重して、スキールのロックを解くに至るのでした。







 遠くから、扉をドンドン叩く音と「クレア様っ、クレア様」とお城の騎士さん達と思われる方々の声が微かに聞こえる中、ラジンはなんの躊躇いもなく、クレアちゃんへ脱衣を執行しました。


 お花の香りに包まれるお部屋に、ひときわ綺麗なお花が一輪。

 敢えて言うまでもないばかりか、あまり勘繰りたくもありませんけれど、肌の露出とともにクレアちゃんのお顔は、熱を帯びて恍惚こうこつとしていたように思えます。


 加えて。


「なかなかに、アダルティーなお下着で」


 なんだかエリーのが、子供っぽく思えてきてなりません。

 そんな雑念を経て、結局クレアちゃんの脱衣を許してしまう結末です。

 うう、もどかしい終わりとなってしまいました。


「……それではラジン様、こちらへ」


 クレアちゃんが促す場所――お姫様ベットの側にあった棚がスライドします。

 そこにはポッカリと開いた薄暗い穴。

 石造りの通路が延びていると分かるそこからは、やや冷たい風が吹き込んできました。


 状況としては、”脱出通路です、さあ逃げてください”の流れのようですけれども、ひとまず。


「クレアちゃん、とにかくこれ」


 現状のクレアちゃんは存在自体が大問題の状態なので、私はベッドからブランケットを手にしそれを羽織らせます。


「その、貴方は……」


「はい、なんでしょう?」


「いえ……。ラジン様、最後に一つだけ……よろしいでしょうか。こちらの給仕さんは……ラジン様の……どういった方なのでしょうか」


 気配る隣の私と、脱出通路へ踏み込むラジンの背中を交互に見てのクレアちゃんのこのしどろもどろ。

 些か現実の恋模様に疎い節があるさすがのエリーでも、ピーンのハハーンですよ。


「ないないない。クレアちゃんないから」


 私がラジンへ恋心を抱くことなんて、例えば魔王がボランティア活動に勤しんでいるくらいないから。

 それどころか、逆にエリーは言いたいのです。

 クレアちゃんの胸にある淡いものを否定はしないよ。でもね、応援はできないから。

 だってラジンだもの。


「あんな蝶仮面のどこに、幼気な少女を惑わす要素があるのやら」


 永遠とわに辿り着くことのない答えを囁いた頃、ようやくクレアちゃんの問いかけに応える気になったらしいラジンが振り返ります。

 その”溜め”、要りましたか? カッコよくなる効果なんて特にありませんよ?


「その者の名はヤマダ・エリコ。このラジンの聖碧に導かれて現れた、ただの給仕ではない只者ただものだ」


「お願いです。不意な本名はやめてください。そして聖碧に導かれって、なんか音が卑猥だからよしてください」

 

「ではクレア、いずれ訪れるだろう新しい世界で会おう」


 相変わらずの、エリーにはスループレイなラジンです。てか、強制的に呼びしたのそっちじゃん。


「はい。クレアは毎夜、ラジン様がお導きになられる未来を夢見て待っております。聖碧紋章があるとはいえ、どうか病などにはお気をつけくださいまし」


 ほぼ裸ですからね。

 エリーとしては風邪の一つでもひいて寝込んでくれるとありがたい、そう願います。

 けれどクレアちゃんの心配なんて物ともせず、ラジンの健康は常に万々歳です。

 古来より伝わる、馬鹿と変態は風邪をひかないとの格言は真実のようです。


「ヤマダさん。ラジン様をよろしくお願いします」


「……できれば、エリーでお願いします」


 異世界ここでの名前を告げたのを最後に、クレアちゃんとはお別れです。

 一礼したエリーはラジンと同じく脱出通路へ身を投げ入れ、そこにあった螺旋階段を駆け下りるのでした。


「はっ、はっ、ラジンあんまり先に行かないでっ、エリーのお腹が痛くなるんだってばああああ」


 エリーの異世界冒険譚の一幕。

 召還主が脱がせ屋さんだったのでこんな感じで困っています。




目を通して頂きありがとうございます。

本日の投稿は終了です。

次回は「始まりのエピローグ」を予定しております。

あと少々、作品とお付き合いして頂けましたら幸いです。

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