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4 脱がせ屋VS縛り屋



「ああ、おしいっ」


 絨毯を素早く這い、ラジンを襲うヘビなロープ。

 しかしながら無駄に身体能力の高いラジンは、これを紙一重で躱し続けています。

 ついでに気取った程で躱す様が、見ていてエリーの癪に障る感じです。


「あの動き。ラジンは既に、あの女縄師の攻撃を見切っておるな」


 と、私の側の床からミギマガリさん。

 見下ろしたところにあったその表情は真顔なのですが、ロープでぐるぐる巻きのうつ伏せ状態なのは滑稽です。


「マータさん、ファイトですよ、ファイトおお。諦めないでえ!」


 葉っぱな解説者さん曰く攻撃を見切られているらしいマータさん。

 だからなのか、私の声援も虚しく、マータさんのロープがラジンを捉えることは叶いません。


「縛り屋マータ。お前はあくまでも俺の行く道に立ちはだかるつもりなのだな」


「そうね。貴方にとってはそうなるかしら。ただワタシはワタシの正義の為に縄を使う。それだけよ」


「お前の正義とは」


「語る必要があるかしら」


 動きのある中での二人の会話。

 その動きを停めたのがラジン。

 ピタリと佇み、四、五メートル先へと眼差しを向けます。


「何、俺が乗り越えてゆくものの存在。その大きさを測りたかっただけの気まぐれだ」


 この挑発に、絨毯を這うロープが大人しくなりました。

 も、もしやマータさん、ラジンの戯言を真に受けて語っちゃうおつもりなのでしょうか!?


「そうね……縄の極意は”繋ぎ”。魔王降臨の今の世界は混沌に満ちている。その世界で再び人が結束する為には、必ず縄の力が必要になる。ワタシはそう信じている」


 何やらスケールの大きさは伝わってくるのですが……。

 ごめんなさい。正直エリーには高尚過ぎて、理解が及ばない正義です。


「なるほど。喜ぶがいい、縛り屋マータよ。その正義、俺の導く世界へ踏み込む資格があるっ」


 バッ、とラジンがポージング。

 尚更にエリーには分からんとですたい――失礼、分からないのですが、加速する二人の世界観に変化が訪れました。

 防戦一方だったラジンが攻撃へ転じたのです。


 ぐい、と屈めば、弾丸ようにして前方へダッシュっ。

 いけない。


「うわああ、マータさん逃げて! ラジン、マータさんのお洋服を脱がすつもりです。早く逃げてえええ」


 交差するラジンの影とマータさんの影。

 相手へ触れると同時に脱衣を可能にするラジンの手にはマータさんの、マータさんの、


「あれ?」


 ラジンの手には何も握られておらず、そればかりか「ぐはっ」とか言って右腕を抑え、ラジンは苦しそうな演技でその場にうずくまってしまいました。

 そんなラジンの後方では、眼光に力強さを溢れさせているマータさんが佇みます。

 そのお姿はボンテージ風のお洋服を着衣したままなのですが、マータさんの胸の周りや腰や太ももにはロープが絡みついてます。


「ロープを巻きつかせてお洋服を守ったってこと!?」


 そうなのです、きっと違いないのです。

 

「あの者。ラジンのスキール力を上回るか」


「ミギマガリさん、もう少し詳しくお願いします」


 床で寝転がる葉っぱの解説者さんへリクエストです。


「鋼鉄の乙女の言うよう、女縄師は己の身を縛ることで脱衣に抗おうとした。そしてそれを可能としたのは、あの者が持つ縄スキール力の強さ。スキール同士のぶつかり合いはスキール力で決まる」


「ケケケ……だから忠告してやったのにナ。ラジン奴……反動であのザマだ。愉快だナ」


「タイツさんは黙って死んでてください。って反動? 反動って何なんですか?」


 もちろん上ではなく下へ問いかけます。


「せめぎ合うスキールの摩擦。そこで発生した力は押し負けた方の身へと流れてゆく。ラジンの有り様からして、その力は痛みとしてあの右腕で弾けているのであろう」


 ななな、なんですと!?

 じゃあ、あのラジンのあれって、演技とかじゃなくてマジ敗北の結果……。


「その……変態なのがいけないんだから……自業自得だよ」


 弱々しく立ち上がり、背後の相手と対峙するラジン。

 私からは小さな声。そしてマータさんからは大きな声で言葉を受けることになりそうです。


「諦めなさい、脱がせ屋ラジン。ワタシの縄力スキールの前では貴方の技は歯が立たない。そして、類まれなる身体能力を持っていても人の体力には限界がある。いずれワタシの縄は貴方を捉える」


「だからこそ……俺はこの手で、次の一手で脱衣執行を完遂する」


 突き出す拳がぎゅと力強く握られた。

 その後、ラジンはおもむろにビーチサンダルを抜いで、信じられないことに海パンをも脱ぎます。


「へ?」


 間抜けな声が出てしまう程に、意味不明なラジンの行動。

 すっぽんぽんの身体から生えるその手は顔の仮面へ伸びてゆきます。


「縛り屋マータ。俺の正義、その肌に刻めっ」

 

 白い蝶仮面を脱ぎ捨て、一糸も纏わない変態が素顔でキメ顔です。

 もうほんとーに、意味が分からんエリーですたい。

 まったく、私の心配の返却を求むです。




目を通して頂きありがとうございます。

本日は後ほど、「脱がせ屋VS縛り屋②」を投稿予定です。


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