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2 特技のお話


      ◇ ◇ ◇



 エリーには夢物語でしか、馴染みのない魔法。

 異世界ここでは、駄菓子屋さん以上コンビニ未満くらいでポピュラーなもので、ほにゃらら、ほにゃららと呪文を唱え魔物を焼き払うような火の球を放出したり、材料を聞くと遠慮したくなりそうな様々な効果がある不思議な薬などを作ったりできるようです。


 そして、そんな魔法とは別に、特技=スキールと呼ばれる不思議能力による現象が存在します。

 魔法と同じく、勉強したり教えを請うことで習得できるものもあるスキールですが、ある日突然身に宿ったり、修行することで能力を開花させたりするものもあるのも特徴でしょうか。

 あと、一人一つの能力しか持てないのも、魔法との違いかな。


 スキールに関して、私は自分のとラジン達三人のものしか知らないのであまり詳しくはないですけれど。


 ラジンは触れたその手で”衣服を剥ぎ取る”力みたい。

 どんなに身を固くしても、ラジンに掛かればあっという間にお洋服が脱がされてしまいます。


 ミギマガリさんは拳から放つ気合い波? で”衣服の繋目を綻ばせる”力みたいです。

 似た者同士の似た者スキールですが、一度のスキール対象を一人にしか絞れないラジンと比べ、ミギマガリさんのものは有効範囲が広かかったりとやや違いがあります。


 それで、私が神様ありがとう、と祈りを捧げた私の『鋼鉄の乙女』は、”物にカギを掛ける”力だったりします。

 もちろん私はこの力で、ふりふりで可愛いメイドさん服を迷わずロックであります。

 衣服に猛烈な反応を示すラジンたち変質者の魔の手から私が逃れられているのは、ひとえにこの特技スキールのお陰です。

 

 あと、腕試しとかで私は時にミギマガリさんのスキール攻撃を受けたりするのですが、エリーのスキール力が勝っているらしく――えっへん、私の衣服はそよ風で少しなびくだけに留まります。

 ただ困るのが、ミギマガリさんは余程悔しいのか、毎回血反吐を吐いて大仰に悔しがります。

 

 ともあれこの世界には、魔法とは別に様々な特技能力スキールがあるようです。


 さてさて。

 見上げる先にあるのは、高い屋根を持つ石造りのお屋敷。

 この地域を治めるシャルダン伯爵のお城ですね。

 周りはお堀があって、そこを満たす水面は、夕焼けに照らされオレンジに輝く。

 

 夕暮れ時ってどこか切ないですよね――と感傷に浸る間もなく、石橋の上、

三人の変態さん達の歩みにとことこついて行く私。

 そして、先にあるご立派な城門。

 馬車も余裕で通れような大きな扉をがっちり閉じたそこには、槍を持った方が左右にいらっしゃいまして。


「わー!? わー!! 私は、私は違うんですっ」


 大声で訴えてみますが、聞く耳持たずで二人の兵士さんが猛突進で迫ってきました。

 ある程度予想はしていたけど、実際に槍を構えられて突撃されるとすんごいビビりまくりなのです。

 ひい、と咄嗟に屈む私。側では平然と佇むラジンとミギマガリさん。

 刹那、兵士さんらはお堀の水面へドボンと投げ込まれました。

 ラジンは相手をいなすようにしてホイっと投げ、ミギマガリさんはガシッと相手の肩を掴みブンっと放り投げていました。

 ついでに、タイツさんはニタニタほくそ笑んでいるばかりでした。


「ええとお……今日は、門兵さんは脱がさないの?」


 対岸へ向かって泳ぐ様子から溺れるようなことにはならないと思った私の口からふと出た一言です。

 期待的な感情とかではないですよ。ただ――ラジンの行動の優先事項は脱衣です。


 変な言い回しになるのですが、こんな時の普通は、無駄に脱がしてから映画のように相手の首に手刀を当てたりなんかして気絶させ、難を逃れたりしてきました。


「オレは男に興味ねーからナ」


「タイツさんには聞いていませんっ」


「鋼鉄の乙女。我らは無駄な脱衣を避けたまでだ」


 ミギマガリさんには、その脱衣自体が無駄100%なんですけれども、の思いを込めて苦笑いを返します。

 そこへラジンが参入。

 蝶々仮面で半分ほど素顔が隠れている状態ですが、目の奥と口元が笑っているのが分かります。

 笑いの種類的には、エリーを小馬鹿にするような笑いですね。ブスリと目潰し食らわせたい。


「エリゴンよ。人は着衣のまま水に浸かるとどうなる?」


「エリーです。怪獣みたくガオーとか言いませんから。ノリ悪いとかそういうのナシですからっ」


「答えは簡単だ。俺が脱衣を執行するまでもなく、濡れし者は自ら服を脱ぐっ」


 人の話をスルーするラジンの背後には、ドヤの文字が見えそうでした。


「ケケケ、それらしい理由なんかつけてまどろっこしいヤツラだナ。要はスキール力を温存したいんだろ」


「ああ、なるほど。確かにスキールも体力みたいに限界が……」


 ニタニタが私へ。

 タイツさんの納得な発言に、ついうっかり相槌を打ってしまいました。くぬう、後悔。


「今回は伯爵家の令嬢だからナ。障害となる近衛兵の数も多い」


 台詞とともに荒縄を手にするタイツさん。

 次に、「もう始まってんだろ。先にイクぜ」と追加の台詞を残し城門へ駆け出して行きました。

 シュバシュバ――みたいな感じで荒縄が伸び、城壁上部の出っ張りに絡みつきます。

 軽快な身のこなしで縄を伝い、壁を上り城内へと消えてしまいました。


「元縄師のサンカクならではの侵入法といったところか。相手を縛る以外に縄スキールを使うとは。今回の脱衣に向けての意気込みがうかがえる」


「その感心、非常に不快なんですけれど」


 ラジンへ吐き捨てるようにして言っていると、私の耳へ異変が届きます。

 ぎぎぎい、ときしみと重さを含んだ音。

 なんと私達の前で通せんぼをしていた大きな扉が開門されてゆくではありませんか。


 なんで開けちゃうの、もうっ――とか腹ただしく思っている中、目に飛び込んできた城内のそこには鉄兜をかぶった騎士装束のお方々。

 うぐぐ……二十人くらいの集団さんで待ち構えていらっしゃいました。

 ななななんだか責め立てられそうなビシバシの雰囲気に、あたふたなエリーです。


「構え!」


「うわわわわ、ごめんなさい――」


 ここは退散だ! 即決して石橋を引き返そうとした時です。

 身体が前へ進みません。

 理由は即座に分かりました。

 掴まれた腕にかかる引き止めるベクトル。


「ちょっと離してよ、離してってばっ」


「よく見ろエリーツェ・ズィレジェヌーヴェ」


「もおおおっ、なんで無駄に滑舌いいんですかっ」


「ミギマガリが何かやるつもりだ。ここは敢えて奴にまかせてみようではないか」


 ラジンの促しに再び城内の方へ顔を向けると、お尻がありました。

 もっと言うと、騎士団さんとエリーやラジンとの間に分け入ったミギマガリさんのお尻がありました。

 さらに細かく言うと、腰を低くし、まるで正拳突きでも放つかのような構えのお尻がありました。


「我の拳は、脱衣に捧げるものなり」


 筋肉質のお尻、いいえ背中がそう述べたのとほぼ同時に、城内から”突撃イイイ”の号令が放たれました。

 それに呼応するかのように、ミギマガリさんもまた放ちます。

 風を唸らせる右拳。


「――脱波だっぱ!!」


 ゴフウッ、と強風が吹き抜けたような轟。

 その後に起きる事象は”綻び”。

 ガシャンガシャンと鉄が城内の石畳へと落ちていきます。

 手にしていた剣や槍は刃と持ち手の部分を別にし、鎧や盾も同じく分解です。

 そしてそれを追い掛けるように、騎士さん達が着込んでいた衣装もはらりはらりと床へ落ちていきます。

 手元と靴下らしき足元を保護する布と、その……股間を保護する布、いわゆるパンツを残し、はらはらりです。


「まだだ、まだ終わらぬ。ラジン、そして鋼鉄の乙女よ。我がわざに刮目せよっ」


 率直に。

 このミギマガリさんの続く意気込みに嫌な予感はしたのです。

 でも間に合いませんでした。

 一歩踏み出す筋肉質の足、唸る左拳。


脱波だっぱ・真打ち!!」


 ゴフウッと再び短い風圧が辺りに巻き起これば、小さな布切れ達が舞っています。


「やるなミギマガリ。二連撃によって完全脱衣を可能にしたわけか」


「ふん。またまだ一撃必脱ひつだつの極みには至っておらぬ」


 目と目で通じ合うラジンとミギマガリさん。

 まったくもって、よく分かりません。

 それよりもおおお、ですっ。


「な、ななななななんてことをおおお、してくれてるんですかっ。騎士さん達のパオーンが、パオーンしちゃってるじゃあないですかっ。きゃー、きゃー、きゃあああ」


 遅ばせながら顔を覆いつつ、エリーは乙女の恥じらいを叫びまくりなのです。




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