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9 始まりのエピローグ②


 どちらかと言えば私は、旅が好きな方です。

 新しい景色、新しい文化との出会いは、私の明日を楽しいものにしてくれます。

 それに何より、そこには新しい人との出会いがあるはず。

 いや~旅の醍醐味はこれですね。


「王都の城下町だし、もしかしたらもしかするよね」


 ぬふふのふ。

 今回の旅先では、エリーの貴公子様との運命的な出逢いが待っていそうな予感なのです。

 揺れる荷台の中、荷馬車が向かう新天地へ期待大なのです。


 そんなエリーのちょこんと座る膝下にぐわしゃ、と大きな布袋が置かれました。


「エリザベス。それを受け取るといい」


「素敵な響きですけど、エリーです。なんですかこれ?」


「そうか。気になるのならば、開けてみるといいっ」


 わざわざ狭い荷台の中で立ち上がり、手をかざすラジン。

 中腰になるくらいなら、やらなきゃいいのに……。

 半分は荷物で、前にこのラジン、隣にマータさん、窮屈そうにL字型のミギマガリさんな荷馬車の状態です。

 ついでにホロの上では、タイツさんが縄で括り付けられています。


「こ、怖いものとか、変な物が飛び出したりしてきたら、泣きますからね」


 恐る恐る口紐を緩めていって、そーと袋の口を開いてゆきます。

 袋の中身は、割りと馴染みのある小さな硬い紙の箱とか小瓶がいっぱい。

 がさがさ、ごそごそ、手を突っ込み幾らか取り挙げ品定め。


「ええとお……頭痛発熱に、優しさ半分……に、虫歯に効くって噂のあれに、これもそうか……全部、薬? かな」


 お薬がたーんとありました。

 しかもそれら全て、『薬草』とか『ポーション』とかではなく、錠剤とかドリンクとかのエリーが元いた世界のそれでした。


「へえ、それ薬なんだ。いったいどんな薬なのかしら」


 マータさんの興味がエリーの手元に注がれています。


「風邪とか、ほとんど病気の時に服用する種類のものばかりみたいです」


 答えてから袋の奥の薬も確認してみれば、生理薬もあったりしてました。

 あと、なんとなく座薬が多いような……気もしなくないです。


「世界は広いわね。薬学も少しは勉強したつもりだったけれど、ワタシが知らないものばかりだわ」


「うう……んと、これ、全部ラジンの異世界通販の物だよね」


 私にはそうとしか考えられないのですが、マータさんにはこの世界の異国の品として映っているかもしれませんので、説明も兼ねてラジンに確認しました。


「クレアの言葉に思うところがあってな。俺の知る異世界の文字からそれらを導き出したっ」


「薬。なるほど、鋼鉄の乙女はこちらとは異なる病を持っている可能性がある故……か。ふむ、いざとなれば我が葉を与えても良かったが。故郷のものが何よりも効果的やも知れぬな」


 どんな万病にも効くと噂の世界樹の葉だろうと、そこにある葉っぱだけはご遠慮したいエリーです。


「それにしても、こんなにたくさん……。まったく、毎日風邪ひいてないと使いきれないくらいあるよお」


 まだポージングを解いていないラジン。

 仮面はあらぬ方向を向いているので、その下の表情は見えません。

 私はそんな召喚主さんへ、笑みをこぼしながらに言いました。


 こっちの住人の彼はたぶん、一度の病にどれだけの薬を必要なのかを知りません。

 そして、大量の薬品の中から発見した胃薬も、エリーの心労を気遣ってのものではなく、ただの偶然なのでしょう。


――原因は君なのにね。


 だからおかしくって、顔が緩んでします。


「あはは。お薬、ありがとう、ラジン」


 エリーの異世界冒険譚。

 私の召還主が脱がせ屋さんですけれど、たまに親切にしてくれるので困ってしまいます。





            了





読んでいただきありがとうございました。

また、ブックマークの読者さんありがとうっ、励みになりましたよ。

何かしら読者さんへ良き時間を贈れたら幸いです。 かえる

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