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0 私の今

ありがとうございます。

愉しんで頂けましたら幸いです。



      ◇ ◇ ◇



 拝啓、どなたか様。


 果たしてどんな故なのでしょうか。

 皆目検討もつかない故を経て、どうやらファンタジーな世界へ召喚されてしまいました。

 旅先で訪れ眺めるここには、私の住んでいた日本とは異なる街並み。

 気分は懐古的情緒を残すどこかの外国へ訪れたそれだけど、この世界に私の知っている外国なんてものはなくて、時代そのものも中世ヨーロッパのような、それっぽい時代へ逆行している――私の知らない昔の現代だったりします。


 私の持っている知識だと、魔法などの不思議な力があるここを異世界だと認識しました。


 明日も昨日と変わりない女子高生生活だったものが、ある日を堺に一変するのでした。

 私は不安と驚きの中、新しき世界に想いを馳せました。


 こちらは剣と魔法の世界なのです。

 魔王が人々を苦しめる世界なのです。


 きっとそこにはいろんな出会いと別れがある私の冒険があって、乗り越えた先には勇者として輝く私がいる。

 たぶんですね、旅先で運命的な出逢いをした貴公子様とは、世界樹の下で希望ある未来の約束を交わすのです。

 それで、数多に舞う淡い蛍の光に濡れる私達の夜には、


『栗色の髪、愛らしい瞳。全てが愛おしいよ』


 音色のような美しい囁きとともに、私の肩に貴公子様の手がそっと添えられます。

 やっぱりお年頃の男女ですから――きゃ。私はそんなこと望んでないんですよ。でもでも、貴公子様の方から迫ってくるから、


「あ、いけない」


 我に返り、私が声を上げた時にはもう、「彼」は第一町人の娘さんへと向かって突進していました。

 低い体勢で軽やかに路地を駆ける青年ラジン。

 ラジンは私をこっちへ召喚した召喚主で、その姿は人でありつつも、人としてこの場にそぐわない姿なのです。


 行きつけの宿では普通に素顔を見せているそこそこ良い面立ちの青年(私より二つ三つ年上だと思う)ですけれど、表では蝶を模した仮面を被りその顔を隠します。

 そして、海水浴が似合うトランクスタイプの水着とビーチサンダルを履きます。

 羽織るものは他になく、スタイルの良い恵まれた体が見た目にも良く分かる半裸以上の七分裸しちぶらです。

 念の為に補足すると、昼下がりの天気は快晴ですが、ここは簡素な町中であって海水浴場ではありません。

 

「町娘さん、逃げてくださいっ」


 給仕服を着る私が叫んだ先では、ラジンが前方宙返りです。

 そのまま高い身体能力で、棒立ちの町娘さんの頭上を越えていきました。

 スタっと綺麗な着地を見せ、両腕を飛行機の翼ようにして伸ばし伏せるラジン。

 その背後では、バーン、と健康的で張りのある小麦色の肌の肢体が、包み隠さず露わになります。

 強いて言えば、バーンからのバイイイんん――です。


「……羨ましいなあ」


 じゃなくて。

 若い女の子の衣服が一瞬にして剥ぎ取られてしまいました。

 弾ける肢体に残るのは下部にあるたった一枚の白い布のみ。


「脱衣執行、本日も異常なしっ」


 特技スキールで奪取した衣服を手にする異常者ラジンが得意気にこんなことを言えば、両腕で胸元を覆い隠す町娘さんは豊かな胸をたゆんたゆん揺らしながらに走り去ります。


 私の目の前で行われた、海パン男が若い女性の衣服を問答無用でく蛮行。

 この変態極まりないこの光景が、私の日常だったりするから本当に涙です。


「脱がせ屋だっ。また脱がせ屋が現れたぞっ」


 どこかのお家から警告が発せられると、瞬く間に辺りの建物がバタン、ガタン、ガチャリと厳重な物音を鳴らしていきます。

 町が息を殺すようにして、静まり返りました。


「もうっ」


 私はラジンの手から、えい、と衣服をもぎ取ります。

 綺麗に畳んで、持ち主が駆け込んだ近くの納屋の前へそっと置きました。

 そんな私には構わず、ラジンは人影が失せた町中をスタコラ歩いて行きます。

 私はその後を、てとてと追います。


 できることなら、こんな変態青年の傍には居たくありません。

 だけど、彼から離れすぎると私のお腹が痛くなるのです。


 『召喚』で呼び出された私は、手違いで私を呼んだ模様の相手だったとしても、召喚契約なるものを結ばないといけませんでした。

 ラジンとのそれには、召喚主と離れすぎるとお腹が痛くなるペナルティが含まれています。

 

「うう、エリーの貴公子様はどこなのおおおおー」


 『エリー』と名乗り送る生活も、もうすぐ一ヶ月くらいになります。

 私の異世界冒険譚は考えていたものよりも、ずーと遠いものから始まっていました。

 涙目のエリーより、敬具です。



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