31話 思いは全て
ーー弟くん、わざわざ死にに来たの?ーー
「ユリウスを解放しろ」
ーー何度も言うけど、却下よ、あっそうだ死ぬ前にユリウスと話させてあげるわよーー
そう言うとクロユリは、ユリウスにかけた術を解きユリウスが意識を取り戻す。
「こ、これは一体・・」
「ユリウス!」
「カ、カイトか?久しいな、大きくなりやがって」
「そんな事はどうでもいい、ユリウス剣を捨てろ!」
何の事だか、さっぱりわからない顔をするユリウスだが、ユリウスの頭に頭痛が走りこれまでの事が脳裏に走馬灯の様に駆け巡る。
「そ、そうだった俺は・・・カイトすまない・・俺のせいでお前の人生を狂わした」
「ユリウスあの時言ったな・・お前に兄が殺せるか?と」
「あぁ、あの時はまだ微かに意識はあった、お前と再会した時、俺はお前に俺を殺す覚悟があるかを聞いた、俺が俺でなくなる前に殺して欲しかった」
「・・・ユリウス俺は最初は恨んださあんたを復讐心だけが俺の支えだった、だけど俺にも愛する人が出来た、その人の為に生き抜くと誓った、そしてタバサお姉ちゃんに再会した、タバサお姉ちゃんは泣いていた・・お前を助けて欲しいと」
「・・・タバサはお前に会えたか・・安心した」
お互いの空白の時間を埋める様に、二人は思いの全てをさらけ出した。
ーーさぁて、もう良いかしら?ーー
ーークロユリ、空気読めお前、もういいだろう終わりにしろーー
ーー何言ってるの?リーシャ止めるわけないでしょーー
せっかくの兄弟水入らずの会話に邪魔をするクロユリ、斬鉄剣から禍々しい霧が再びユリウスを包みだす。
「カイト、俺を殺せ!」
「何を言っている?」
「早くしろ、俺が俺でなくなる」
自分がクロユリに再び精神支配される事を察したユリウス、カイトに自分を殺せと促す。
「ユリウス・・」
「クックックッ・・カイト・・邪魔をするならコロス」
ーークロユリ、お前・・カイト構えろ、来るぞーー
「ユリウス・・結局こうなる運命か・・」
カイトもゲイボルグを構え、ユリウスの一撃に備える。
クロユリに支配されたユリウスの一撃がカイトを襲う。
「ぐっ」
凄まじい剣圧に、カイトの体がよろけてしまいバランスを崩してしまった。
ーーカイト大丈夫か?ーー
「あぁ、相変わらず凄いなユリウスの剣は」
感心する余裕はないはずなのに、心のどこかで二人の空白の時間を埋めるかの様なカイトの口振り、カイトも負けじと反撃に出る。
「ユリウス、もう・・戦わなくて良い、俺がお前を呪縛から解き放つ」
ーーやってみなさいな、ユリウスを痛めつける事になっても問題ないのね?どんな結果になっても後悔しないのね?ーー
「何度も言わせるな!俺の一撃に迷いはない」
独学で学んだカイトの槍術、その動きは華麗に蝶の様に舞う機敏な動きを見せていた。
カキーン!!
二人の武器の金属音が激しく木霊し、セリカ達は見守る事しか出来ないでいる。
カイトも槍を旋回させながら、素早い連続突きを浴びせるが、全て防がれては反撃されていた。
ーー素晴らしい、素晴らしいわよ、迷いがないその一撃、ゾクゾクしちゃうわーー
クロユリが操るユリウスの体が徐々にスピードが増し、妙な違和感がカイトの頭に生じ始めた。
「おかしいな・・今当たったと思ったが」
ーークロユリのやつ、いよいよ本気を出してきたぞーー
「何だって?今まで本気じゃなかったのか」
ーーあったりぃーー
カイトの違和感は確信に変わり、殺戮を楽しむかの様に、カイトの背後に回った斬鉄剣を持ったユリウスがカイトを斬りつけた。
「ぐっ・・」
鎧を身につけていたので、間一髪即死は免れた、だがしかし、その一撃は鎧を貫通させる程威力があり、カイトの体から血が滴り落ち始め出す。
「な、何て事だこの白銀の鎧に傷がつくとは」
ーーこれくらいで驚いては困るわね、さぁユリウス弟に引導を渡しなさいーー
「死ね・・・・」
ユリウスの一撃がカイトの心臓をめがけ、切っ先がカイトを襲う。
「くそっなめるな!」
カイトもゲイボルグの切っ先でかろうじて受け止め、ユリウスの剣を凪ぎ払い同時にかまいたちを発生させ、ユリウスに一撃を浴びせた。
ーーあーあ、やっちゃったね・・たった一人の兄に刃を向け、傷つけたねーー
「何度も言わせるな、俺の一撃に迷いはない」
ーーんじゃ迷わせてあげるわよーー
「何!?」
突如斬鉄剣から漆黒の霧が吹き出し始め、カイトの体を覆いだす。
ーーしまった、カイト気をしっかりしろーー
その霧はセリカを襲った霧と同じで、カイトもまたクロユリによって精神を崩壊させられようとしていた。
「・・・こ、これは・・セリカはこれを見せられていたのか・・」
セリカと同じ状況に陥ったカイト、真っ暗闇の世界が覆いだす。
・・・カイト、もう良いだろう、休め・・・
・・・カイト、た、助けてくれカイト・・・
「父上!ユリウス」
セリカと同じ状況に立たされたカイト、カイトの前には父ジョシュアとユリウスが現れた。
・・・これ以上抗うな、お前は良くやった、さぁ全てを置いてこっちへ来い・・
・・・カイト苦しい・・頼む助けてくれ・・・
・・カイト、お前が来てからワタシの人生はめちゃくちゃだ・・もう、ワタシに関わるな・・
「セリカ、お前何を共に未来を歩むと誓ったじゃないか」
今度はカイトの前にセリカが現れ、憎悪の感情がカイトを襲う。
「そうか、こうやって人の思考を狂わせたのか」
だがしかし、カイトには強い信念があった、ユリウスに裏切られたあの日から、そして、セリカと共に交わした約束を果たすと。
・・・カイト待っているからな!お前が帰るのを・・・
・・・たくましくなったなカイト、父は嬉しいぞ、さぁ行け、全てを終わらせろ、そして残りの余生を共に過ごす嫁が待っているぞ・・・
・・・カイト俺は大丈夫だ、お前の信念を貫け・・
「父上、幻でも再び会えて嬉しかったです、俺はセリカと幸せを築きます、そして、ユリウス今まで過ごした日々は忘れない」
カイトの信念が勝り、入れ替わりと同時にジョシュアとセリカの幻が憎悪と悲しみの表情から、希望に満ち溢れた顔になりカイトの背中を押してくれた。
ーーカイト、ワシは嬉しいぞ、よくぞクロユリの支配に打ち勝ったなーー
「あぁ、そして、この一撃に全てを込める、リーシャ行くぞ」
ーーおぉ、任せておけ大勝利の風をくれてやるわーー
ゲイボルグを握りしめ直し、一点に集中し体全体に風を集めだす。
まるで、リーシャとカイトがシンクロしたかの様に周りに嵐が吹き荒れ出した。
ーーリーシャ、今さら何を抗うのかしら?所詮この世は、強い者が勝ち、弱きは死ぬのよ!ーー
ーークロユリ、お前はカイトやセリカ、アイラにバサラ、こやつらは・・いや、この世界の全ての人が必死で明日を生きると言うのに、こんな敷かれたレールの上の世界なんてつまらんわ、だからこそこの世界は面白いーー
ーーだから、何だって言うの?今あなたは危機的状況なのは変わりないわよ、このまま引導を渡してあげるーー
ーーやれやれ・・・カイトもう少し頑張れよーー
「あぁ大丈夫、セリカが、父上が背中を押してくれた」
ーーん?ーー
何の事だかわからないリーシャ、カイトの周り吹き荒れていた風がカイトに集まりだした。
「行くぞ、ユリウス」
集まりだした風と共に、ユリウスに向かっていくカイト、当然ユリウスも剣で受け止める。
ーーリーシャ、本当にあなた邪魔ね・・私のユリウスを取らないでくれるかしら?ーー
ーー何を言っているお主は、ユリウスは望んでこうなったわけではないーー
二人の刃が交わりながら、カイトはおもむろに口を開く。
「ユリウス・・何も言わずに聞いてくれ・・俺は、どうしたらお前を助けてやれるか考えた・・・でも、浮かばなかった・・・だから・・こうするしかない・・・タバサお姉ちゃんごめん、俺を恨むなら恨んでくれ・・」
渾身の力を込めたカイトの一撃が、風と共に激しく旋回し斬鉄剣ごとユリウスの腹部を貫き、斬鉄剣は真っ二つに割れた。
ーーう、ウソでしょ?あーあ、負けたわ・・リーシャまた新しい器を見つけたら出てくるわ、だ・か・ら、それまで覚悟しててねーー
ーー二度と来るな、ワシは静かに暮らしたいわーー
クロユリの御霊は一瞬の光を放ち、天に上っていた、まさに一瞬の出来事だった。
「はぁ、はぁ、カイト・・・つ、強くなったな・・」
「ユリウス・・・」
斬鉄剣を失い、正気に戻ったユリウス、腹部と口元から血が流れだし瀕死の状態となっている。
「タバサに伝えてくれ・・お前に何も出来ずにすまないと・・そして、カイトを恨まないでくれと・・」
「ユリウス喋るな」
死期が近いと悟ったユリウスが淡々と喋りだす、まるでカイトとの空白の時を埋めるかの様に。
「カイト、お前は・・お前の道を行け・・ほら、あの赤髪の女・・・お前を迎えに来ているぞ」
「セリカ・・」
「カイトーーーお前は・・お前は、本当にどこまでワタシを泣かせる・・」
駆け寄った時、セリカは大粒の涙を流し、安心したと、同時にその場に座り込んだ。
「セリカ・・もう少し待ってて」
「うん・・」
再びユリウスの元に行き、カイトもまた、ユリウスに伝えたい事があった。
「ユリウス・・兄上、俺はあなたが誇りだった・・だから、やり直そう・・」
「もう、良いんだ・・さぁ新しい時代を歩め」
「ユリウス何を?」
カイトの腰にぶら下げていた鉄砲を取りだし、止める間もなくユリウスのこめかみに銃弾が放たれ、ユリウスはその場を倒れ込み、息を引き取った。
「カイト・・・」
「終わったよ・・・セリカ・・・さぁ帰ろう」
次回はいよいよ最終話です、ここまでありがとうございます