30話 最終決戦
大軍勢を前にどう戦うか、下手に手出しが出来ず硬直している。
朝日を目の前にして、クロユリが当たり辺り一面黒い霧を発生させた。
ーーさぁ、死にたくなければ奴らを殺しなさいーー
ーーまずいぞ、来るぞーー
ーーセリカ気を引き締めなさいーー
「わかっている、カイト」
「わかっている、セリカ背中預けるよ」
「あぁ任せろ」
帝国の騎馬隊が雪崩の様に押し寄せてくる。
中には鉄砲を持つ者が馬上から一斉に射撃、物凄い銃声音が木霊する。
「皆迂闊に動くな、動いたらやられる」
カイトの号令で、赤き義勇軍は雪崩れ込む敵を鉄砲隊で応戦、カイトとセリカは風と炎で防御壁を展開し、帝国兵を寄せ付けない。
ーーリーシャ、ヒルデ、見てこれ、凄いでしょう?私の作った国よ、これで全てを手に入れるわーー
ーークロユリ、相変わらず欲深いやつじゃーー
ーー本当、うざいわねーー
「姫様ご無事ですか?」
「ベリル、良く無事で、状況は最悪だ」
セリカの身を案じ、ベリルの部隊が合流する。
ーー援軍が来た所で何も変わらないわよ、さて、弟くん、決めたわ貴方の大事な物奪ってあげるーー
「な、何だと」
「カイトーー!!」
「セリカーー!!」
セリカが黒い霧に覆われ、次第にセリカの体が真っ黒に包まれ出す。
ーーあっはっはっ、憎い?憎いわよね?私を殺したい?でも、そうなるとユリウスと戦わざる得ないわよーー
「くっ、卑劣な、セリカ気をしっかり持て」
「カイト、カイト、カ・・」
「ひ、姫様」
次第にセリカの声が薄れ出し、カイトやベリルの声も届かなくなった。
ーーセリカしっかりしなさいーー
ーーそうじゃ、お前達は生きて未来を作るんじゃろーー
神姫達の叫びも届かず、無情にもセリカに覆われた霧が壁の様に立ち塞がる。
ーー早く助けないと、あの子死んじゃうわよでも、この大軍勢を前に助けるなんて出来るかしら?ーー
「セリカ・・今助けるからな、絶対に助けるからな」
「カイト?」
「ベリルさんセリカをお願いします」
「行くぞクロユリ、あの日から誓った・・俺の一撃に迷いはないぞ」
ーーカイトお前・・ーー
「行くぞリーシャ」
ーー全く・・最後まで付き合ってやるかのーー
ゲイボルグを振り回し、ユリウスとクロユリの元へ突撃するカイト、鬼が乗り移ったかの様に帝国の大軍を一人で立ち向かう。
後に、カイトの武勇伝として後世に語られる事となる。
カイトの快進撃も限界が来ていた、50000の大軍を相手に、一人で突っ込むのは流石に無謀だった、大軍の壁が立ち塞がる。
「相手は一人だ、死にたくなければ皆奴を殺せ」
帝国兵が一斉に鉄砲を構えだし、カイトは万事休すに陥るが。
「面白い事しているじゃねぇか、カイト」
「バサラ!」
帝国兵が一斉射撃と同時に、バサラが駆けつけ帝国兵の放つ弾を全て弾き返した。
「あいつがお前の兄か・・」
遠くにいるユリウスを指差しして、カイトに確認を取るバサラ。
「行けっ決着を着けてこい」
ーーリーシャお姉さま、貸し1つですよーー
ーーローズ、お前にはワシに対して貸しがいっぱいあるぞーー
****
「・・・ワタシは何をしているんだ、ここはどこだ?真っ暗だな・・・」
黒い霧に包まれたセリカは、真っ暗な世界にただ一人で佇んでいた。
・・・寂しいか?怖いか?・・・
「誰だ?」
セリカの前にもう一人のセリカが現れた、その表情は憎悪に満ちていた。
・・・ワタシはもう一人のお前だ、お前の怒り、悲しみ全てを背負ったワタシだ・・・
「ワタシの怒り?悲しみ?」
・・・本当は何不自由なく、この世を暮らせたのに、カイトが来てから人生が狂った・・
「違う、ワタシはそんな事思っていない、カイトは・・カイトはワタシには持ってない物を持っている、カイトが居たからワタシはこうして生きている、これからもあいつと共に歩むと誓い合ったんだ」
・・・俺の事、放っておいてくれても良かったのに・・・
「カイト、お前・・」
今度は少年のカイトが現れ、生気のない眼差しでセリカを見つめる。
「あの時、ワタシはお前に何か惹かれていた、放ってなんかおけるか!」
・・・でも、俺はセリカを巻き込んだ、俺の罪・・
「そんな事言うな!」
・・・憎い?憎いよね?カイトが・・・
・・・俺が憎いなら殺せ・・・
殺せ、殺せ、殺せ、殺せ。
「うわぁぁぁーや、やめろーー」
しつこくセリカの頭に、殺せと言う言葉がループし、気が狂いそうになりかかっている。
ーーセリカ!しっかりしなさい!あなたのカイトちゃんへの思いはこんな物?
「ヒルデ?」
ーーカイトちゃんの苦しみを半分背負うと誓った、あの言葉は嘘だったの?私と契約した時、貴方から熱く燃えたぎる物を感じたから、私は貴方に力を貸したのよーー
「嘘じゃない、ワタシはあの日から決めた・・決めたんだ、カイトの苦しみを一緒に背負うと」
ーーなら、もう何も言わないわ・・さぁ剣を取りなさいーー
セリカが剣を取り、目の前を凪ぎ払うとセリカを包む霧がが漆黒の色から、燃え盛る炎と化した。
「セリカ様、うかうかしていると、わたくしがカイト様を貰いますよ」
「アイラ殿?」
ーーヒルデ、何を苦戦している?ーー
ーーキルケ、別に助けてくれとは言ってないけどーー
同時に、アイラが駆けつけ、セリカは現実世界に戻ってきた。
「間一髪ね、セリカ様、このまま逝ったら、わたくしがカイト様を奪ってましたわよ」
「何度も言うがあいつは、ワタシのモノだ!そう易々と渡さん」
セリカが我に返ったが、状況は変わらず仕舞い、アイラは先の戦いで膨大な力を使ったため、長くは持たない。
さっきまで朝日が眩しかった戦場が、次第に曇りだし雨が降り始めていた。
ーー不本意だが、ヒルデ力を貸してくれ、アイラがここに来るまで無茶しやがったからなーー
ーーへぇ・・キルケから頼み事?槍でも降るかしら?ーー
「まぁまぁキルケ、わたくしなら平気です、それに雨が降り始めました、恵みの雨ですわ」
「アイラ殿、何か策が?」
「セリカ様はバルムンクで目一杯炎を出してください、何をするかは秘密です」
言われるがまま、セリカはバルムンクを天にかざし、火柱を起こす。
当然、周囲の草木が燃え出しセリカの周辺は火の海となった。
「さて、帝国兵の皆さん死にたくなければ道を開けてくださらないかしら?死にたいならいくらでもどうぞ」
アイラが水雷弓を構えると、降りだした雨を味方に水をかき集め、セリカが放った炎を消し、水蒸気を発生させる。
水蒸気はたちまち、アイラの水雷弓に集められた。
ーーアイラ、わかってんだろうな?これ以上はーー
「わかってますキルケ、これで終わりです」
アイラの警告を無視して突撃する帝国兵、中には恐れを成して硬直する者も。
「もう、しょうがないですね、知りませんよ」
水雷弓から放たれた矢が帝国の向かってくる帝国兵を粉砕、集められた水の力を利用し鉄砲水を発生させ群がっていた帝国兵は一気に飲み込まれ、帝国軍の兵は10000まで絞られた。
「アイラ様」
「カイト様ぁ、お助けに参りましたわ、セリカ様も無事ですわよ」
「カイトー、ワタシはこうして無事だ、だからお前はお前の成すべき事をしろ!全てが終わったら必ずワタシの元へ帰って来い」
「セリカ、良かった・・必ず帰るからな!」
・・・愛しているよ、セリカ・・・
ーーチッ使えないわね・・まぁ良いわ私が自ら引導を渡してあげる、さぁユリウス行くわよーー
カイトに力がみなぎってきた、これまでの思いを胸にユリウスとクロユリに最後の決戦を挑む。
ラスト間近、最後までよろしくお願いいたします