21話 奴隷解放2
出撃の準備が整い、アイラ率いるサウザンド軍は兵を300連れて、敵地へ乗り込むが相手を甘く見すぎて居ないか心配であった。
「アイラ様、相手を甘く見てはいけませんよ」
「あら、カイト様は心配して下さるのですか?」
「一国を担う身なら、当然です」
「まぁ、優しいですのね、でもね神器使いが二人もいるから心配ないですよ」
にこりと笑い、カイトの腕を組むアイラ、その自信はどこから来るのやら。
捕らえられた商人は、死罪は免れた物の自白した事で、終身刑となる。
サウザンドの城を出て、サウザンドの荒れ地を進み、マーベルランド南部に到着、ここから砂漠を目指して、例の抜け穴を探し中央部をめざす。
砂漠地帯に入り、砂漠だけあって、暑さと時間が過ぎていき、体力が奪われていく。
「皆さん、くれぐれも暑さ対策を忘れずに、こまめに水分補給をして下さいね」
アイラの優しい掛け声で、皆の士気は保っているが昼間となると灼熱の地獄が皆を襲う、捕らえた商人達を連れてくれば良かったと、後悔が残り出す。
ーーなんじゃ、苦戦しておるではないかーー
「リーシャ、わかるのか?」
ーーおぉーわかるぞ、風が教えてくれる、だがこの場所をクールダウンせねばのぉーー
急に何を言い出すかと思えば、リーシャが何かを企んでいる口振りだった。
ーーこんな所で、干からびて死ぬのは勘弁じゃ、それに死んだらお主もセリカに会えんじゃろ?ーー
カイトの手首に巻かれている、セリカのリボンを見つめ、こんな所で確かに死ぬわけにはいかない、にっちもさっちも行かずリーシャに全てを委ねてみる。
ーーそれじゃ、キルケお主にも協力してもらうぞーー
ーーわかってるよ、アタシもこんな所で死ぬのはゴメンだからなーー
ーーカイト槍を突き立てろーー
言われるがまま、槍を突き立てるカイト、生あたたかい風が辺りを包み込む、暑さにこの熱風は応える。
ーーキルケ、風の流れわかるか?ーー
ーーあぁわかるぞ、アイラ、風の流れに向かって矢を放て!アタシがフォローするーー
アイラが弓を構えだし、アイラの体に水が螺旋を描き出す。
風の流れをキルケが読み、キルケの合図を待つアイラ。
ーーアイラ、今だそのまま西北に矢を放てーー
キルケの合図で弓矢を放ち、矢が風に乗り一直線に飛び、500mくらい先に矢が地面に落ちた。
落ちた矢は波紋を作り出し、波紋はすぐに消えた。
ーーキルケ、水脈を感じるか?ーー
ーーリーシャ、あんたの風で十分水脈の流れがわかるよ、このまま矢を放った方へ行けーー
リーシャが風を起こし、キルケがその風を頼りに水脈を感じ取る、まさに連携プレイだ。
砂漠を越えるなら、必ずオアシスがあるはずとにらみ、皆の体力回復の為、先ずはオアシスを目指す事にする。
キルケの感じ取る水脈の流れを頼りに、矢を放った先へ歩みを進めると、水辺が見え始めた。
まさに、オアシスだった、周りはいくつか木が生えており、岩肌もむき出しの場所。
「水が気持ちいいですね、カイト様」
「マーベルランドで育ったとは言え、この場所は流石に知らなかった」
知らないのも無理はない、カイトのマーベルランドでの13年は、ほとんど屋敷の範囲内から出た事はなく、南側などカイトにとっては未知の領域だから。
「アイラ様、この木の下辺り地面が固いです」
サーシャが何かに気づき、木の下の辺りを調べ出すと、足で踏んで見ると確かに固い。
砂を払い除けると、そこだけ、四角に切り立った地面があった。
「これ、動かせますよ」
サーシャが兵に指示を出し、四角に切り立った地面をどかすと、階段があらわれた、抜け穴とはこの事に違いない。
用心して先を進むが、暗がりなので松明を灯しながら先を進む。
「リーシャ、これって遺跡?」
ーーじゃな・・何千年前の古代王朝の遺跡じゃな、いつの時代やらワシもわからぬーー
カイトの質問に、リーシャは淡々と答えるが、確かにこの地下は古代の産物おそらく、マーベルランドの古い歴史ではないかと思われる、さらに人が通った形跡が足跡となり残っていた。
用心しながら、先を急ぐと日の光が差し込み出した、出口はもう目の前。
先に様子を見る為、サーシャが偵察として外の様子を見に行く事になる。
「サーシャが戻るまで少し休みましょう」
アイラの一言で、皆休憩に入り、カイトもまた、壁に卯浸かりながらその場を座り込んだ。
・・・カイト、カイトこっちだ、見てみろカイト、この景色凄いだろ・・・
「カイト様、カイト様」
「ん?あっアイラ様、すいません寝てしまいました」
「よほど、疲れていらしたのですね」
カイトはいつの間にか寝てしまい、セリカと過ごした過去の夢を見ていた、セリカと共に見たノースディアでの高台の夢だ。
セリカは今、何をしているのか・・会いたい・・・そんな思いが強くなり、衝動が抑えられない。
「アイラ様、この先の出口は森林地帯となっており、人が通った形跡もありました」
「では、参りましょう」
遺跡を抜けて、森林地帯に出た、確かに人が通った形跡が残っており、周りは木々に囲まれてはいるが、人が通るには十分だった。
足跡を辿り、ひたすら先へ進むアイラ達、森を抜けると広い場所に出て、周りは木と岩壁に囲まれていた。
「アイラ様、あの岩壁にぽっかりと穴が開いてますね、怪しいです」
サーシャの言う怪しい岩壁に、人がすっぽり入る穴が開いていたおり、おそらく、そこが商人達のアジトとにらみ、突入を試みた。
「サーシャ、何かあった時の為に外で待っていて下さい、わたくしはカイト様と中に参ります」
「わかりました、くれぐれもお気をつけ下さい」
兵を50人程連れて、アイラとカイトの部隊が中に突入し、サーシャの部隊は万が一逃げてきた商人を逃がさない為に、外で待ち伏せをする。
中を進むと、人が手を加えた作りになっており、灯りを灯す為の燭台が設置されていた。
「間違いなくここですね、カイト様準備はよろしいですか?」
「はいっ」
奥まで進み、小部屋を発見した。
中から商人達の笑い声がこだまし、約10人程酒盛りをしている最中だった。
アイラ達が近くにいる事もまだ気づいていないままに。
「サウザンドのスラム街のガキは、奴隷候補多いな何せ貧しいから、旨い話にすぐ食らいつきやがる」
「はははっ女は娼婦として売れるしな」
「な、何てひどいやつらだ・・」
会話が駄々漏れなので、それを聞いていたカイトに怒りが震え上がる。
「カイト様、ここはわたくしにお任せ下さいな」
カイトの気持ちを察したのか、アイラがカイトを制止し、突入の合図を兵に向ける。
「動かないで下さいな、我々はサウザンド軍です、貴方達を人身売買の罪で拘束致します」
突然のアイラ達の登場により、商人達が慌ただしくなり始め、中には武器を持って構えだす人も。
「サ、サウザンド軍だと!?何故、軍がこんな所に」
「サウザンドの地を荒らす、不埒者を成敗する為ですが、後ですね、今日からサウザンドで人身売買をした者は死罪です」
「なっ!ふ、ふざけるな、聞いてねーぞ」
「今話しましたよ、拐われた人達はどこですか?」
アイラのにこやかなる、尋問が始まり、商人達はなす術がなくなってきた。
さらには、逆上し始め武器を持ち構え、アイラ達に襲いかかり始めるが。
「ちょっと待ちな!お前ら、ここはマーベルランドだ」
商人のリーダーが制止をし、戦闘は中断。
「サウザンド外でやった事なら、サウザンドは関与しねーよな?第一、このマーベルランド西部から中央は帝国領だ!お前らサウザンドでは裁けねーはずだ」
確かに一理はあるが、アイラ達もきちんと調べを尽くし、証拠も抑えてある、何て愚かな人だと哀れむ目で商人を見つめ返した。
「貴方達、証拠は抑えてありますよ、それに中央部はどこの管轄でもありませんよ、サウザンドで酒場の店主と貴方達の仲間を捕らえました、もう言い逃れはさせませんよ」
「仕方ねーな、おいっ皆出てこい」
完全に逃げられなくなった商人はついに、アイラ達を始末してしまおうと決意し、隠れていた仲間を呼び寄せ、一斉に襲いかかり出した、その数およそ50人。
商人達とサウザンド軍の一触即発が始まり、アイラも相手の攻撃に備え水雷弓を構えだす。
「たかが、少人数だやっちまえー」
剣の打ち合いと、弓の打ち合いが始まり、一歩間違えば天井が崩れ落ちる状況で洞窟内が怒号で響き渡り出す。
「アイラ様、ここでの戦闘は危ない、外へ誘いだしサーシャ様と合流しましょう」
「あら?カイト様、わたくし達は何の為の神器使いですの・・・ね?リーシャ様」
ーー全く、神姫使いの粗いヤツじゃのぉ・・ーー
ーーリーシャ、どうでも良いがアイラを守れよ!弓を構えている間は無防備なんだからさーー
ーーうるさいのぉ・・わかっているわ!ほれ、カイト死にたくなければ手を動かせーー
カイトの心配を余所に、アイラの自信はどこから来るのやら、商人の一人がアイラに斬りかかろうとしたが、カイトがゲイボルグで相手を薙ぎ払いアイラを守った。
「まぁ、カイト様素敵ですわ」
「アイラ様、楽しんでませんか?」
カイトの言葉にアイラがにっこりと笑い、その場をはぐらかす。
だが、まだ安心は出来ない商人の弓矢隊が一斉に矢を放ち、雨の様に矢がカイトとアイラに降り注ぐ。
ーーこらっカイトやばいぞ、これーー
「わかってるよ・・全く」
ゲイボルグを旋回させ、カイトの周りに風が宿り、降り注ぐ矢を全て弾き返した。
「ば、化け物だーーに、逃げるぞー」
カイトの力に恐れを成して、商人の半数が逃走、当然出口にてサーシャに捕縛されたのは言うまでもない。
「カイト様、流石ですわ、後はお任せ下さいな、キルケ行きますよ」
ーーチッめんどくせーなーー
「このアマァ、調子に乗るなー」
商人のリーダーがアイラに斬りかかり出すが・・・。
ビュン!
ブシュッ!
アイラの放った矢が速く、近づく事も許されず、矢が商人の胸に突き刺さり、やがて矢は水を生み出し、雷を放ち出し商人のリーダーは生き絶えた。
「罪人は天に帰りなさい・・」
残された商人の仲間が、アイラに恐れを成して降伏した。
捕らえた人達は、商人の証言で洞窟の奥の牢屋に集められており、手枷と足枷を付けられた状態で発見され、アイラの姿を見るなり泣きじゃくり、安堵の表情を浮かべるのであった。
「みんな辛かったね、もう大丈夫ですよ」
「アイラ様、うわぁああん」
何て優しい人なんだと、この人の様な人がこの戦乱の世になくてはならないと思いにふけるカイト。
「さて、カイト様これで奴隷商人は壊滅しました、ご協力感謝しますわ、それでね、この中央部もサウザンドに任せてもらえないかしら?」
「あなたの様な心優しい人が、これからも必要になりましょう、是非ともアイラ様、あなたにお任せしたいです」
これにより、カイトはノースディアに帰還する事になり、サウザンドはマーベルランドの南と中央部を手にした事になる。
この貧しい人達の為に、恵まれた環境を提供したい思いがあるアイラ、その為にはマーベルランドの土地が必要だったのだ、そして、帝国が支配している西部も。
サウザンドに帰還し、アイラが見送る中、カイトは港から船でノースディアに帰還する。
「ではカイト様、ノースディアに戻ったら帝国からマーベルランド西部を解放致しましょう、その折りには、イーストガンドにも書状を送ります」
「はいっお世話になりました」
やっとセリカに会える、早くセリカに会いたい、そんな期待を胸に船がサウザンドを後にした。
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帝国では、不穏な動きがあった。
プシュープシューと音を立てる乗り物がずっしりと並んでいる。
「ユリウス様、ガンドルフ将軍が謁見を望んでいます」
「通せ」
ガンドルフがユリウスの前にあらわれる。
小太りの体型でガシャガシャと甲冑の音をたてながら。
「ユリウス様、あちらをご覧ください」
城のテラスから、中庭に戦車に似た作りの乗り物を指すと、砲台部に見立てた部分には、矢を放つ作り言わばボウガン、人力で走行する形式だが、操縦士の役目は自転車と同じ形式、そこに砲術士と指揮者が乗る仕組みだ。
「サウザンドが、帝国を裏切ったと聞き及びました、これで他国の見せしめにサウザンドを落として見せましょう」
「ほぉ・・」
サウザンド進行を任されたガンドルフ、アロー戦車と名付け100機程用意し、兵を3000引き連れサウザンドに進行し、サウザンドに今、帝国の脅威が迫ろうとしている。