18話 サウザンド女王アイラ
「ここが、ノースディアですか・・活気があって良い国です」
「アイラ様、ここは我らにとっては未開の地油断は禁物です」
港街に着いたアイラ、お供に頭にサークレットを身につけ、ヴェールを被った女性が船から降り立った。
「わかってますよ・・サーシャ」
このサーシャと言う女性は、アイラの側近でアイラが女王の座についてから、アイラをサポートしている。
先を急ぐ為、港街を後にして足早にノースディアを目指すのだった。
「おかしいわね・・・この街道を真っ直ぐのはずなんだけど」
「ア、アイラ様、街道を行かれたのに・・何故森にいるのですか?」
街道を進めば迷わず、ノースディアにたどり着くはずだったのに、アイラとサーシャは街道から外れ森の中をさ迷い出していた。
アイラを迎えに行く為、カイトとセリカは港街と城の中間地点でアイラを待つが・・。
「カイト、ここに居れば会えるよな?」
「そのはずだが、もう太陽が真上に来ている」
朝からアイラの到着を待つが、太陽が既に真上の位置まで昇っている、時間に換算して四時間は経とうとしている。
ーーこれは、迷ったなーー
リーシャが、喋りだした第一声が迷ったな。
らちがあかないので探しに行く事となる、カイトとセリカだが探すにも手がかりがない。
ーーいちかばちか、風に聞いてみるか・・ワシは神姫じゃからのぉ、このくらいは朝メシ前じゃ。ーー
リーシャの言葉を信じて、アイラ捜索に動き出す二人、行き着いた先は街道から外れた森の中。
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「参りましたね、まさか迷子になるなんて」
「アイラ様、自分の方向音痴に自覚はないのですか?」
一見しっかりしてそうなアイラ、度が付くほどの方向音痴だった。
ガサガサッ!
「な、何者?」
グルルルッ!
物音と同時に、野犬の群れがアイラとサーシャを取り囲み出す。
まさに、獲物を狩る様な威嚇体勢に入る野犬の群れ、アイラも自分の弓を取りだし臨戦体勢に入る。
「サーシャ、気をつけてね」
「アイラ様も気をつけて下さい」
お互いの背中を合わせ、アイラは弓をサーシャは腰に据えてあった曲刀を取り出す。
尻尾を立て唸り声を上げながら、野犬の一匹がアイラに飛びつこうとするが、先にアイラが放った弓の矢が早かった。
その矢は、流れる水の如く真っ直ぐに綺麗な軌道を描き矢が野犬に刺さる、刺さった野犬の体に電気がほとばしる。
アイラの弓は神器なのだろうか。
急所を外したが野犬は感電して、その場を動かなくなった。
少しの間静寂が訪れ、残りの野犬とアイラとサーシャの睨み合いが続く。
「あらあら?わんこ達、わたくしに恐れをなしたのかしら?」
アイラのその一言が理解しているわけではないが、アイラの発した言葉に反応し、野犬が群れで一気に襲いかかりだした。
「アイラ様危ない!」
サーシャがアイラをかばい、野犬の攻撃を回避する。
「サーシャ、殺してはダメよこの子達も必死で生きているのだから」
「アイラ様、しかし・・・」
アイラの動物に対するいたわりが仇となり、何も出来ずただ防戦一方。
そんな事はお構い無しに、野犬が群れとなって更に二人に襲いかかるが。
「リーシャ!」
間一髪カイトが駆けつけ、カイトの周りに風が巻き起こり野犬を寄せ付けない。
諦めたのか野犬の群れは退散した。
「お怪我はありませんか?アイラ様」
「あら、あなたは?」
「カイトーワタシを置いて行くなー全くお前は・・」
カイトを追うように、セリカもやって来た。
「あらあら?どちら様ですか?」
お互い自己紹介を済ませ、アイラを迎えに来た旨を伝えるカイトとセリカ、アイラの不思議な雰囲気に二人は魅了されていた。
「わざわざ助けて頂きまして、ありがとうございます改めてわたくしはサウザンド公国女王アイラです、こちらはサーシャ」
積もる話もあるだろうから、とりあえず歩きながら話をし、ノースディア城を目指す一行。
「セリカ姫、カイト様とはどういう関係かしら?」
「わ、ワタシの婚約者だ!や、やらんぞ」
「あら素敵、でもねわたくしは貴方とは合い入れないかも」
「どういう意味だ?」
「セリカ姫自体じゃないから、安心して」
アイラの言葉にセリカが過剰反応したが、アイラはクスクスと笑い、いずれわかると返答する。
無事に城にたどり着き、早速国王と謁見を済ませ会談が始まろうとしている。
「アイラ姉さん!」
アイラが到着した事を聞き、セシルがバーンと共に駆けつけた。
セシルは泣きじゃくり、アイラの胸に顔を埋め、ひたすら再会を喜んでいた。
「セシル、帝国の事は聞きました、よく生きていてくれました、そして初めましてバーン王子、こうして顔を合わすのは初めてですね、妹を守って頂き感謝します」
「アイラ様、勿体ないお言葉でございます」
「私も、会えて嬉しいです姉さん」
再会の喜びも名残惜しいが、直ぐに会談が始まった。
会談が始まる前に、仕方なかったとは言えノースディアに進軍した事を詫びる。
国王とカイト、セリカ、バーンとセシル、そしてアイラとサーシャの7人で行われた。
今、ここに居る人達の共通の敵はブルガンド帝国皇帝ユリウス、ユリウスを倒さねば多くの人が苦しみ、安寧の世はない。
セシルとバーンをサウザンドに任せたい事と、共に帝国と戦う事に協力を仰ぐ、それはサウザンドがノースディアと東国イーストガンド両国と手を結ぶ事となる。
「さてと・・先ずはセシルとバーン王子、あなた方はとりあえずサウザンドが預かりましょう」
セシルとバーンはサウザンドにかくまってもらう事になるが。
「但し、バーン王子貴方は一度死んだ事にします、その方が動き易いので、帝国にはそう書状を送ります」
セシルとバーンの身の振り方はそれで決まったが、まだ納得が行かないアイラ。
「そちらの願いを聞き入れたのですから、此方の要求を聞いては貰えますか?」
一理あると思い、国王は出来る限りの事はすると答える。
「要求は2つ、マーベルランド南と中央部、そして帝国をマーベルランドから追い払う事を前提でマーベルランドの西部をサウザンドに任せて頂きたいのです」
「それについては、ここにいる、元マーベルランドの国民であるカイトに聞こう・・」
国王とアイラの視線がカイトに向けられる。
「俺は、国を追われ今はノースディアの国民です、愛する人もできました、願わくば亡き父の墓を建て墓前に花を添える事を許可して欲しい」
父の墓も建てられずに、故郷を追われたカイトの願い、マーベルランドを離れた時からの心残りだった。
「わかりました、それで行きましょう、もう1つの要求は」
アイラが立ち上がり、カイトの腕を組み出した。
それを見たセリカが当然黙ってはいない。
「カイト様を少しの間だけ、貸して頂きたいのですよ」