17話 落ち延びた王子
「こ、国王にお目通り願いたい・・」
傷ついた若者、カイトと戦いユリウスの野望を止めるべく、立ち上がった帝国の王子、バーン。
連れている女性は、婚約者のサウザンド第二王女のセシルだった。
「バーン王子!」
カイトがその姿を確認、兵士に抱えられながら国王に謁見を求めるバーン、かなりの重症を負っていた。
慌ててカイトが駆けつけ、事を兵士に説明し、国王との謁見が始まる。
ユリウスが皇帝の座につき、ユリウスは本気だと言う事、そして、帝国の民を恐怖で押さえつける恐怖政治を始めだした事全てを洗いざらい話し出した。
さらに、バーンは国は違えど人と人が手を取り合って行く世を作りたいと進言する。
「わかった・・それならバーン王子、あなたはこの国で先ずは養生されよ!」
国王の粋な計らいで、バーンとセシル王女はノースディアの滞在を許可され、その間セシルはセリカが面倒を見る事となる。
「カイト・・・ユリウスは本気だ・・自分の障害となる者は容赦なく斬り捨てるぞ・・」
「ユリウス・・・」
カイトの拳が強く握りしめられ、ユリウスを倒さない限り、安寧の世は来ないと、思いに更けてしまう。
疲れ果てたバーンは、兵士の宿舎にて傷を癒す為横になり、直ぐ様眠りについた。
バーンの証言によれば、セシルを救出した後にユリウスと対峙したが、力の差ははっきりとしていた、あくまでもセシルを帝国から脱出する為の時間稼ぎ。
その間にバーンの黒騎士団が、バーンを逃がすまで守りきったとの事、その後黒騎士達はどうなったかはわからず終い。
セリカはと言うとセシルをもてなし、セシルの髪をとかしてあげていた。
「セシル王女は髪サラサラだな!綺麗な髪ですね・・セシル王女は、何歳なのですか?ワタシは18歳だ」
「あら?同じですわ・・セリカ様も、十分くらいお綺麗ですよ」
褒められて、自分の髪を手櫛をするセリカ、照れを隠せないでいる。
「あの・・バーン様についていた方は、セリカ様の恋人ですか?」
「わわわ、わ、ワタシの婚約者であって・・・大切な人だ・・アイツはワタシのモノだから・・・や、やらんぞ」
クスリと笑い、セシルに笑みがこぼれ、セシルとセリカに女の友情が芽生えた。
セリカにとっては、始めて出来た女の子のしかも、同じ歳の友達、二人は秘密の女子トークで盛り上がる。
翌日、これからのバーンとセシルの身の振り方をどうするかの、話し合いが始まった。
同席者は、カイト、セリカ、ベリル、国王と、セシル王女、バーンの6人。
「セシル王女は、サウザンドの王女、サウザンドに書状を送り協力を仰ぐのはいかがですか?」
ベリルが先に進言し、話が始まった。
「サウザンドの女王は、私の姉のアイラ・・かなり用心深い人ですよ・・」
セシルがアイラについて、語り出し、その後バーンが帝国とサウザンドの関係を話し始め出す。
「わたしの亡き父は、わたしと、このサウザンド第二王女セシルと縁談をし、帝国とサウザンドは血縁関係となりました・・しかし、それでも父はサウザンドから権力を奪い、サウザンドも又、やむなく帝国の下についたのです・・表向きは帝国とサウザンドとの架け橋となる為の結婚でした・・しかし、最近になってわたしは知りました、父はサウザンドをどの道制圧する手筈だった事を・・今、思えばわたしは何も出来なかった、ただ、父に従うだけでした・・更にユリウスがあらわれ父を殺し皇帝の座につき、ユリウスの野望も見抜けなかった自分が情けない!」
悔しさを隠しきれないバーン、傷も癒えない体でひたすら、悔しさをあらわしていた。
「それなら私が、サウザウンド宛に書状を書きましょう・・姉は私が書いた字とわかるはずですから」
しばしの沈黙の後、セシルが口を開き自ら姉のアイラ宛に書状を送る事を決意、皆も納得しセシルに賭けて見る事にした。
少し不安気にセリカがカイトの手を握ると、カイトは大丈夫と言わんばかりに、セリカの手を優しく握り返し、その日は解散となった。
「カイト、君の事を教えて欲しい!わたしは君の事を、友としてもっと知りたい!ユリウスとは違い君の瞳は優しい眼差しだ、それに君は戦いには向かなそうなのに、わたしはその強さが知りたい・・」
「いいですよ、でも俺は酒は飲めないので、お茶を飲みながらで」
「カイト!わ、ワタシとセシルもいいか?」
「俺は構わないけど、王子よろしいですか?」
「無論だ!」
こうして4人での雑談が行われ、カイトはこれまでの経緯を話ていく。
それは当然、マーベルランドで起きた悲劇から今に至るまで。
「なるほどな・・これも君の運命かもな・・こうしてセリカ姫と婚約できたのも、君に与えられた運命かもな」
「わたしも必ず生きて、帝国を変えて見せよう!セシルだから必ず生きよう!」
「はいっバーン様」
ーーうぉぉ向こうもカイトとセリカに負けじと熱いのぉーー
ーーそうね・・全く妬けちゃうわね・・・ーー
バーンとセシルに部屋が用意された、しばらくの間はノースディアで身を隠しながらの二人の生活が始まる。
これには、ノースディアが全面バックアップしてくれる事となる。
「カイト・・あの二人上手く行くと良いな・・」
「そうだな・・戦うだけじゃなくても、赤き義勇軍は手を差し伸べてあげられる」
カイトとセリカもお互いを、労うかの様に二人で星空を眺めながら身を寄せ合い語っていた。
以前に、兄への復讐を忘れろとは言わないと、言ったものの、セリカの不安はカイトがユリウスに対する復讐心を持っている事、望むならこれから結婚を控えているので、復讐など忘れて欲しいと願うばかり。
翌朝、セシルが書いた書状をサウザンドに届ける為に、キルを派遣させ、準備は整った。
「キル!どのくらいかかる?」
「恐らく、4日はかかるかと」
「き、キル私はな・・お前からのプロポーズを前向きに、か、考えようと思う・・だから3日で届けてはくれまいか?」
「ね、姉さん・・・わかりました!頑張ります」
ベリルの励みの言葉を糧に、キルは書状を持ち足早にサウザンドに向かった。
その後、二人はめでたく結婚する事になる。
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「妹が、ノースディアにバーン王子と居るみたいですね・・」
「罠かもしれませんぞ」
ノースディアから書状が届き、アイラと側近が会話をしている。
「ノースディアは義に熱い国、侵略などしないはず・・・ガディス皇帝が斬殺され、ユリウスと言う男が皇帝の座につきました、何か波乱がありそうですね・・」
事を冷静に進める為、慎重にならざるを得ないアイラだが、反面妹のセシルが心配でもあった。
「もし、バーン王子と帝国に溝があるなら、我らも帝国に付き従う必要はありませんね・・・ノースディアに行ってみましょう!」
ノースディア行きを決意したアイラ、陸郎では危険とみなし、海路で行く事をノースディアに書状を送り返した。
ノースディア側も、アイラを迎える為港街にて、カイトとセリカを向かわせる事となる。