わらわない猫
彼を見たのは、私が一歳の誕生日を迎えて猫の集会に初めて招かれたときでした。その猫は鉱物のような青い顔をして、楽しくなさそうに端の方へ座っておりました。
私は彼のそばへ行き、こう尋ねました。
「気分が悪いのですか」
「いいえ」
彼は青い顔のまま首を横に振りました。
「それでは楽しくないのですか」
「いいえ」
「ならばなぜ笑わないのですか」
「皆が笑え笑えと言うから、笑えんのです」
ほどなくして、彼は車にひかれて死んでしまいました。私たちはお葬式に行きました。壇上の写真の彼は笑顔で、青い顔をしておりませんでした。それで皆は他の猫の写真じゃないかと疑いました。
お葬式が終わった後、皆はさかんに噂話をしました。彼は自殺したのに違いないと口を揃えて言いました。
私は何も言いませんでした。ただ彼が死んでしまったのが残念でならなかったのです。
それで私だけ見なかったのでしょう。その日の晩、自殺だと噂したすべての猫たちの夢に現れて、
「いいえ、自分で死んだんじゃありません。私は運悪く車にひかれて死んでしまったのです。私はもっと生きたかったのです」
とだけ言って、消えてしまったのだそうです。
完
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May 27,2016 すずき やすはる